【製造方法発明における工程要件の解釈と当てはめ】
投稿日:2026年9月11日 |
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著者:弁理士 今野 智介
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参照条文/キーワード/論点 |
特許発明の技術的範囲、構成要件充足性、製造方法発明、嫌気処理、好気処理 製造工程の処理を、特許請求の範囲・明細書・技術常識からどのように解釈し、被告 方法に当てはめるか。 |
ポイント本事例では、商品「GABA抹茶」(被告製品)の製造方法(被告方法)が、 「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後」との構成要件Bを充足するかが争われた。裁判所は、字義、本件明細書の記載および証拠に示された技術常識に基づいて構成要件Bを解釈した上で、被告方法では嫌気処理が1回にとどまり、好気処理に当たる工程も認められないため、構成要件Bを充足せず、被告方法は本件特許の技術的範囲に属しないと判断した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 東京地方裁判所民事第29部 |
| 判決言渡日 | 令和8年3月18日 |
| 事件番号 | 令和5年(ワ)第70445号 |
| 事件名 | 特許権に基づく差止等請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
澁谷 勝海
本井 修平 塚田 久美子 |
事案の概要
原告は、「γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法」に係る特許第6778931号の特許権者であり、被告が製造販売する「GABA抹茶」の製造方法が本件発明の技術的範囲に属すると主張して、製造方法の使用の差止め、ならびに被告製品の製造、使用、譲渡等の差止めおよび廃棄を求めるとともに、損害賠償の支払いを求めた。
なお、本件特許については、訴訟係属中に訂正審判が請求され、「一番茶の茶葉」及び「ギャバ臭味1のない」との限定を加える訂正が認められ、確定していた。
本件発明(訂正後請求項1)
「茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した一番茶の茶葉を嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後、嫌気処理を行った前記茶葉を原料として碾茶又は抹茶又は玉露に製造することを特徴とするギャバ臭味のないγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法。」
<参考>訂正前請求項1(出願当初の請求項2)
「茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した茶葉を嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後、嫌気処理を行った前記茶葉を原料として碾茶又は抹茶又は玉露に製造することを特徴とするγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法。」
本件発明の分説
| 符号 | 構成要件 |
| A | 茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した一番茶の茶葉を |
| B | 嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後、 |
| C | 嫌気処理を行った前記茶葉を原料として碾茶又は抹茶2又は玉露に製造することを特徴とする |
| D | ギャバ臭味のないγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法。 |
被告方法の分説
| 符号 | 構成 |
| a | 茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した一番茶の茶葉を使用する |
| b-1 | 嫌気処理を行う (袋詰めをして窒素ガスで充填し、これを約8時間静置する) |
| b-2 | 大気雰囲気にて処理を行う (窒素ガスで充填された袋を開封し、生葉をコンベアに投入し、計量した後、篩、蒸熱、散茶、乾燥(碾茶炉)、つる切り、風力選別、乾燥、切断、風力選別の各作業を行う) |
| b-3 | 窒素ガス充填・冷凍3保存を行う |
| c | 窒素ガス充填・冷凍保存された茶葉を原料選定し、抹茶に製造する |
1本件特許に係る拒絶査定不服審判の「請求の理由」に記載された官能評価(味覚テスト)では、γ-アミノ酪 酸含量の高い茶(ギャバロン茶)特有の匂いを「チーズ、牛乳を拭いた雑巾、腋臭等と表現されることがある」 と記載している。
2「碾茶」を石臼などで粉末にすることにより「抹茶」となる。
3判決文では「冷凍」と記載されており、そのとおり引用しているが、「冷蔵」の誤記と思われる。本資料 「(3)構成要件Bの充足性の有無」参照。
争点
本事例では、被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか(争点1:構成要件B、C、Dの充足性)、無効の抗弁の成否(争点2:乙2発明、乙6発明または甲6発明に基づく進歩性欠如、発明未完成、実施可能要件違反、サポート要件違反)、原告の損害(争点3)が争点とされた。
裁判所は、構成要件Bの充足性(争点1-1)についてのみ判断し、その他の争点については判断しなかった。
判旨
裁判所は、被告方法は本件発明の構成要件Bを充足せず、被告方法の使用および被告方法により製造される被告製品の譲渡等は本件特許権を侵害しないから、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないと判断して、原告の請求を棄却した。
(1)「嫌気処理した後、好気処理をする操作を交互に繰り返」すことの意味
裁判所は、字義および本件明細書の記載から、構成要件Bは、少なくとも、嫌気処理の後に、好気処理を行った上で、さらに嫌気処理および好気処理という一連の操作を行うことを意味するものと解するのが相当であり、構成要件Bを充足するというためには、嫌気処理および好気処理を、最低2回以上行わなければならないというべきであると判断した。
また、本件明細書の記載を見ても、前記(1)ア(キ)のとおり、発明を実施するための形態として、【0012】で1回目の嫌気処理が、【0014】で1回目の好気処理が、【0015】で2回目の嫌気処理が、【0017】で2回目の好気処理が行われており、これを踏まえて、【0020】では、「上記実施例においては、・・・嫌気と好気を繰り返した」として、嫌気処理と好気処理という一連の操作の繰返しを明らかにしている。さらに、同段落では、「本願発明にあっては、繰り返さなくても、少なくとも、茶葉(生葉)を嫌気的な環境下で処理した後、好気的な環境下で処理すれば良い。」として、少なくとも嫌気処理と好気処理を各1回行うだけの場合は、「繰り返さなくても」に該当する、すなわち、構成要件Bにおける「繰り返し」には当たらないことを明らかにしているといえる(なお、本件発明が明確に一連の操作の「繰り返し」を行うことを規定しているにもかかわらず、これに齟齬する本件明細書【0020】後段の記載をもって「繰り返さなくても…良い」と解することの根拠とすることは、記載要件上の疑義がないとはいえないが、ここではその点はひとまずおく。)。
そうすると、構成要件Bにおける「嫌気処理した後、好気処理をする操作を交互に繰り返」すことというのは、嫌気処理した後、好気処理をするだけ(嫌気処理と好気処理を各1回すること)では足りず、少なくとも、これに加えて、引き続き嫌気処理及び好気処理という一連の操作を行うことを要請するものと解するのが相当といえる。
なお、構成要件Bに続く構成要件Cは、構成要件Bにおける操作を交互に繰り返した後、「嫌気処理を行った前記茶葉を原料として碾茶又は抹茶又は玉露に製造する」としているところ、本件明細書における【0007】、【0011】の記載に照らせば、構成要件Cは、構成要件Bの操作の後、更に嫌気処理を行うことを意味するものと解することができるから、構成要件Bにおける最後の操作が「好気処理」であることは、引き続き構成要件Cにおいて嫌気処理が行われることとも整合するものといえる。
以上を総合すれば、構成要件Bは、少なくとも、「嫌気処理の後に、好気処理を」行った上で、更に嫌気処理及び好気処理という一連の操作を行うことを意味するものと解するのが相当であり、構成要件Bを充足するというためには、嫌気処理及び好気処理を、最低2回以上行う場合でなければならないというべきである。
(判決文15頁22行~17頁16行)
裁判所は、好気処理に関連する事項が記載されている本件明細書の記載、ならびに証拠 (本件明細書で挙げられた先行技術文献)から認められる技術常識に基づき、本件発明における好気処理、すなわち、酸素が存在する状態での茶葉の静置時間は、10分から3時間の幅の中で行うことを意味するものと解するのが相当であると判断した。
また、証拠(甲6-1)4によれば、本件明細書に先行文献として挙げられている甲6公報の【0011】には、好気処理について、「好気処理は、茶葉を好気的状態におくことを意味し、具体的には、容器に充填した茶葉を前記の如く嫌気処理した後、空気を送り込んで好気的条件に切り替えたり、前述の嫌気処理の段階で不活性ガス雰囲気下に密封されていた容器を開放し、茶葉を外気にふれるようにすればよい。好気処理を行うことにより、GABAの一部がGluに戻る他、茶葉中のGABA以外の成分がGluに変換されるため、Gluの蓄積量が増える。通常、好気処理は10分~3時間程度行えばよい。好気処理時間が下限未満であると、Gluの蓄積量が十分でなく、その後に行う嫌気処理によるGABAの十分量の生成を期待できない。一方、上限を超える長時間の処理を行うと、嫌気処理で生成したGABAの減少量が増す上に、長時間の処理に見合う効果が得られず好ましくない。(後略)」との記載があり、このような認識は、本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)における技術常識であると認めることができる。
そうすると、好気処理とは、一般に、嫌気処理下の茶葉に空気を送り込んで好気的条件に切り替えることや、密封されていた容器を開放し、茶葉を外気に触れるようにするなどして、茶葉を好気的状態に置くことを意味し、その処理の時間が10分未満であると、GABAの十分な量の生成が期待できず、3時間を超える長時間の処理を行うと、嫌気処理で生成したGABAの減少量が増す上に、長時間の処理に見合う効果が得られず好ましくないことが技術常識であると認めることができ、本件発明における好気処理、すなわち、酸素が存在する状態での茶葉の静置時間についても、10分から3時間の幅の中で行うことを意味するものと解するのが相当である。
(判決文18頁8行~19頁14行)
4本件明細書中で「特許文献1」として記載されている、特許第3038373号公報(明細書本件明細書【0003】の先行技術文献「特許第30383736号公報」との記載は誤記)
(3)構成要件Bの充足性の有無
裁判所は、訂正後請求項1(構成要件B・C)の文言より、構成要件Bにおける嫌気処理および好気処理は、構成要件Cの碾茶等製造工程(蒸熱から始まり、乾燥等を含む工程)の前に行われる処理と解するのが相当であると認定した。そして、被告方法における具体的な作業との対比より、被告方法において構成要件Bの嫌気処理に該当する工程は1回のみであること(前記構成b-1)、また好気処理に該当する工程があるとは認められないこと(前記構成b-2に相当する処理における、開封から蒸熱までの時間は、上記(2)の解釈による好気処理のための時間より短い)から、被告方法は構成要件Bを充足するとは認められないと判断した。
(ア) 被告方法は、工場に搬入された生葉を計量した後、嫌気処理として、袋詰めをして窒素ガスで充填し、これを約8時間静置する。
(イ) 静置後の具体的な作業内容は次のとおりである。
① 窒素ガスで充填された袋を開封し、生葉をコンベアに投入し、計量する
② 切り葉等を除去する【篩】
③ 蒸し機で30秒程度蒸す【蒸熱】
④ 散茶機において、強い風で蒸し葉を吹き上げ、拡散させながら冷却する【散茶】
⑤ 碾茶炉で乾燥させる【乾燥(碾茶炉)】
⑥ 葉と茎(葉脈を含む)を分ける【つる切り】
⑦ 風力により、茎と葉を選別して分離する【風力選別】
⑧ 乾燥させる【乾燥】
⑨ 葉を切断して細かくする【切断】
⑩ 再度風力により、茎と葉を分離する【風力選別】
⑪ 袋詰めして窒素ガスで充填する
⑫ 冷蔵保存
イ ところで、特許請求の範囲における「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後、嫌気処理を行った前記茶葉を原料として碾茶又は抹茶又は玉露に製造することを特徴とする」(構成要件B及びC)との文言からすれば、構成要件Bにおける嫌気処理及び好気処理は、構成要件Cの「碾茶又は抹茶又は玉露に製造する」工程(以下「碾茶等製造工程」という。)の前に行われる工程であると認められる。
そこで、碾茶等製造工程がどのようなものであるかについてみると、証拠(乙4)によれば、一般的な製茶の工程は、収穫された茶葉について、
① 蒸す(蒸して酵素の働きを止める。「殺青」と呼ばれる。)
② 粗揉機で熱風を送りながら揉む
③ 揉捻機で茶葉に圧力を加え、全体の水分量を均一にする
④ 中揉機で再度乾燥させる
⑤ 精揉機で茶の形を作る
⑥ 乾燥機で乾燥させる
という過程を経るものであると認められるほか、上記(1)のとおり、本件明細書の【0019】にも、最後の嫌気処理後の工程として「通常の茶の製造、蒸煮、粗揉、揉捻、中捻、精捻、乾燥して」として同旨の記載があり、実施例においても、嫌気処理及び好気処理の後の工程として、「通常の玉露の加工(蒸し→粗揉→中揉→精揉→乾燥)」として同旨の記載があることが認められる。そして、被告方法は、玉露ではなく抹茶の製造に係る方法であるところ、証拠(甲13、21、乙7、14)及び弁論の全趣旨によれば、碾茶(これを石臼などで粉末にすることにより抹茶となる)の製造工程も、上記一般的な製茶の工程で見られる茶葉を揉む作業が行われないだけで、茶葉を蒸すことから始まり、その後乾燥する工程は同じであると認められる。
以上によれば、構成要件Bにおける嫌気処理及び好気処理については、碾茶等の製造工程における茶葉を蒸す作業以前の段階において行われるものを指すものと解するのが相当である。
そこで、これを被告方法についてみると、被告方法においては、上記アのとおり、嫌気処理を行い8時間静置した後、蒸熱、散茶、碾茶炉での乾燥の工程を経て、仕上げ加工の工程が行われており、原告が嫌気処理であると主張する上記ア(イ)⑪の窒素ガス充填は、茶葉を蒸す作業に相当する「蒸熱」(本件明細書【0019】における「蒸煮」)の工程よりも後に行われていることが認められる。
そうすると、上記窒素ガス充填の処理は構成要件Bの嫌気処理に該当するものとはいえず、被告方法において、構成要件Bの嫌気処理に相当するものは、工場搬入後に、茶葉を袋詰し、窒素ガスで充填し、約8時間静置する工程の1回のみであるから、被告方法が構成要件Bを充足すると認めることはできない。
ウ また、被告方法において、嫌気処理を施され8時間静置された茶葉は、上記ア(イ)①のとおり、その後開封され大気に晒されるものの、証拠(甲46)によれば、開封後、特段静置されることなく次の作業が開始され、最も早いもので、開封から5分以内に蒸熱の工程が行われていることが認められるから、被告方法には、構成要件Bの好気処理に該当する工程があると認めることもできない。
(判決文19 頁17 行~22 頁2 行)
解説/検討
「嫌気処理した後、好気処理をする操作を交互に繰り返」すことの意味を、字義および本件明細書の記載に基づき、嫌気処理および好気処理 (のセット)を最低2回以上行わなければならないことと解釈した、裁判所の判断は妥当である。また、被告方法に含まれている、窒素ガスで充填された袋を開封して生葉をコンベアに投入し、蒸熱に至るまでの作業が、「好気処理」に該当するとは認められないという裁判所の判断も妥当である。
本件明細書【0020】の「本願発明にあっては、繰り返さなくても、少なくとも、茶葉(生葉)を嫌気的な環境下で処理した後、好気的な環境下で処理すれば良い。」という記載により所望される技術的範囲を確保するためには、構成要件Bに対応する箇所を、例えば「 嫌気処理した後、好気処理する操作を少なくとも1回行った後、」と記載し、発明の詳細な説明も、そのような操作(嫌気処理と好気処理のセット)を1回行う場合、2回以上行う場合、どちらもサポート要件および実施可能要件を充足するよう記載しておくことが友情であったと考えられる。当該段落の「 繰り返さなくても」という語句が、結果として、上記操作を1回行うことは構成要件Bを充足しないという解釈を導く一因となったといえる。
なお、本件明細書に特許文献1として記載され、判決文の甲6-1 (甲6公報)として用いられている特許第3038373号には、下記の特許発明が記載されている。
【請求項2】 嫌気処理と好気処理を交互に1~12回繰り返す請求項1記載の方法。
【請求項3】 茶葉を容器に充填し、嫌気条件と好気条件を交互に切り替える操作を1~12回繰り返した後、最後に嫌気処理を行う請求項1記載の方法。
【請求項4】 茶葉を充填した容器を密封し、容器内を不活性ガスで置換して10分~12時間嫌気処理を行った後、該容器を開封して茶生葉を10分~3時間好気処理する操作を1~12回行った後、再び前記の嫌気処理を10分~12時間行う請求項1記載の方法。
このように、請求項の規定や用語の解釈においては、明細書における定義や実施形態の記載の充実度が決定的な役割を果たすことが、甲6公報との対比からも示唆される。実務上、請求項の文言が意図せず限定的に解釈されるリスクを低減するためには、明細書全体で周到に記載しておくことが不可欠であるといえる。
