【ガラス外貼り用ハードコートフィルム事件
進歩性判断における動機付けの認定】

 

投稿日:2026年8月14日

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著者:弁護士 曽我 響
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

進歩性/動機づけ/パラメータ/数値限定

ポイント

※本件は、特許異議申立てに係る特許の取消決定の取消訴訟において、主引用発明が発明の必須の構成として一定の数値範囲を明示している場合に、副引用発明の記載からその数値範囲を満たすかどうかが不明であるときは、当該副引用発明を主引用発明に組み合わせる動機付けは認められないと判示した事案である。


判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 令和8年1月15日
事件番号 令和7年(行ケ)第10039号
事件名 特許取消決定取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
増田 稔
伊藤 清隆
天野 研司
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)


前提事実

1 本件特許権
(1) 本件特許権1の概要
登録番号  :特許第7353441号
原出願出願日:平成30年4月24日
本願出願日 :令和4年8月8日
登録日   :令和5年9月21日
優先日   :平成29年5月30日
発明の名称 :活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、ハードコート積層フィルム、及びガラス外貼り用フィルム

(2)本件特許権の出願経緯
令和6年3月28日 :本件特許(全ての請求項に係るもの)について、特許異議の申立て(異議2024-700281号事件)。
令和6年12月10日:本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1~10)を訂正する旨の訂正請求。
令和7年3月21日 :本件訂正を認めた上で、「特許第7353441号の請求項1~7、9、10に係る特許を取り消す。特許第7353441号の請求項8に係る特許を維持する。」との決定
令和7年4月24日 :上記異議の決定(以下、「本件決定」という。)に対する訴えの提起(令和7年(行ケ)第10039号)

争点

本件訂正発明1の進歩性判断に関する誤りの有無(本件訂正発明1と引用発明(甲2発明)の相違点2に関する判断の誤りの有無)
※判決では、相違点2についてのみ判断し、相違点2に関する誤りは、「本件決定の結論に影響を及ぼすものであるから、本件訂正発明1と甲2発明との相違点1について検討するまでもなく、本件決定には取り消されるべき違法がある」としました。

本件決定の判断

争点となっている相違点2に関する部分のみ抜粋する。
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(1) 甲2発明
 本件優先日前に出願公開された甲2(特開2013-216774号公報。以下、同公報中の段落番号等を〔〕で示す。)には、次の発明(本件決定中の表現は「引用発明2」。以下、本判決では「甲2発明」という。)が記載されている。
 「屋外側の硝子表面に貼着する硝子外貼り用フィルムであって、紫外線吸収剤を含むポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面に、最大吸収波長が360nm以上400nm以下である紫外線吸収剤を含むアンカーコート層と、最大吸収波長が200nm以上360nm未満である紫外線吸収剤および樹脂成分を含むハードコート層とがこの順で積層され、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの他方の面に、熱線吸収剤を含む裏面コート層および粘着層がこの順で積層されてなり、前記ハードコート層における紫外線吸収剤が、前記樹脂成分と結合してなる硝子外貼り用フィルム。」

ア 一致点
「実使用状態において太陽光が入射する側の表面から順に、ハードコート、アンカーコート、及び樹脂フィルムの層を有し;上記ハードコートは、実使用状態において太陽光が入射する側の表面を形成する、ハードコート積層フィルム。」

ウ 相違点2
 本件訂正発明1は「上記アンカーコートは、1分子中にベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨格からなる群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、1モル%以上の量で含む(P)重合体を含む第2の塗料からなり;ここで、上記(P)重合体から、反応性シリル基を有するモノマーを、全モノマー成分を100質量%として、50~90質量%の量で重合してなるものを除くものとする」のに対して、甲2発明は「アンカーコート層」が「最大吸収波長が360nm以上400nm以下である紫外線吸収剤を含む」点。

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相違点2に関する対比(筆者挿入)

本件(訂正)発明1 甲2発明
上記アンカーコートは、
1分子中にベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨格からなる群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位(骨格の限定)を、
全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、1モル%以上の量で含む(量的限定)(P)重合体を含む第2の塗料からなり;
ここで、上記(P)重合体から、反応性シリル基を有するモノマーを、全モノマー成分を100質量%として、50~90質量%の量で重合してなるものを除くものとする(除外)
アンカーコート層が
最大吸収波長が360nm以上400nm以下である紫外線吸収剤を含む(吸収波長による特定)

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(3) 甲1記載事項
 本件優先日前に出願公開された甲1(特開2001-246687号公報)には、次の事項(本件決定中の表現は「引用文献1記載事項」。以下、本判決で は「甲1記載事項」という。)が記載されている。
 「二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの太陽光が入射する側に、紫外線吸収層(A)層を形成し、紫外線吸収層を兼ねた耐候性表面硬度化層(B)層を形成した光触媒コート用積層フィルムにおいて、(A)層の塗料組成物が、 2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメタクリレート95部、変性飽和ポリエステル樹脂4部、メチル化メラミン樹脂1部を含有すること。」

(5) 相違点2について
 甲1記載事項の「(A)層の塗料組成物が、2-(2’-ヒドロキシ-5’メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメタクリレート95部、変性飽和ポリエステル樹脂4部、メチル化メラミン樹脂1部を含有すること」と、本件訂正発明1の「上記アンカーコートは(中略)ものとする」こととは、「上記アンカーコートは、1分子中にベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨格からなる群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を(P)重合体を含む第2の塗料からなり;ここで、上記(P)重合体から、反応性シリル基を有するモノマーを、全モノマー成分を100質量%として、50~90質量%の量で重合してなるものを除くものとする」ことで共通する。そうすると、甲1記載事項は、本件訂正発明1の用語を用いて表現すると、「実使用状態において太陽光が入射する側から順に、ハードコート、アンカーコート、及び樹脂フィルムの層を有し;上記アンカーコートは、1分子中にベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨格からなる群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を(P)重合体を含む第2の塗料からなり;ここで、上記(P)重合体から、反応性シリル基を有するモノマーを、全モノマー成分を100質量%として、50~90質量%の量で重合してなるものを除くものとする」ことといえる。
 甲2発明と甲1記載事項とは、実使用状態において太陽光が入射する側から順に、ハードコート、アンカーコート及び樹脂フィルムの層を有するハードコート積層フィルムにおいて、アンカーコートが紫外線吸収の機能を有するものであるから、甲2発明におけるアンカーコートとして甲1記載事項のものを採用することは、当業者が容易に想到できたものである。
 その際、当該構成単位を相違点2に係る本件訂正発明1の量で含むとすることは、当事者が適宜なし得たことである。
 相違点2に係る本件訂正発明1において除かれた構成を除くとすることにも格別の困難性はない。

(6) 本件訂正発明1についての小括
 よって、本件訂正発明1は、甲2発明及び甲1記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(7) 本件訂正発明2から7まで、9及び10について
 本件訂正発明2から7まで、9及び10も、甲2発明、甲1記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

判旨

(4) 相違点2についての検討
ア 甲2の記載
 甲2には、要旨、次の記載がある。
(ア) 本発明は、屋外側のガラス表面に貼着するガラス外貼り用フィルムに関する。(〔0001〕)
(イ) 従来、紫外線や赤外線の屋内への侵入を防ぐために、ガラス表面に紫外線や赤外線を遮へいする機能を持たせたフィルムを施工する方法が採用されている。このようなフィルムは、直接太陽光を受けて劣化が早まることを防ぐため、屋内側のガラス表面に貼着するのが一般的である。施工作業の都合上、屋外側のガラス表面に貼着するフィルムの要望が高まっているが、期待するほどの紫外線吸収効果、熱吸収効果がみられず、耐傷付き性、飛散防止性、透明性、耐候性、塗膜密着性にも改善の余地があった。(〔0002〕~〔0005〕)
(ウ) 本発明の目的は、上記の従来の課題を解決し、紫外線の吸収特性、熱線の吸収特性、耐傷付き性、透明性、耐候性、塗膜密着性に優れるガラス外貼り用フィルム及びその製造方法を提供することにある。(〔0007〕)
(エ) 課題を解決するための手段として、本発明の発明者は、ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面にアンカーコート層及びハードコート層を積層し、他方の面に熱線吸収剤を含む裏面コート層及び粘着層を積層し、該ポリエチレンテレフタレートフィルム、アンカーコート層及びハードコート層の全てに紫外線吸収剤を配合するとともに、該アンカーコート層及びハードコート層の紫外線吸収剤の最大吸収波長を各層で特定範囲に設定し、かつ該ハードコート層における紫外線吸収剤を樹脂成分と結合させることによって、上記課題を解決できることを見いだした。
 本発明は、屋外側のガラス表面に貼着するガラス外貼り用フィルムであって、紫外線吸収剤を含むポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面に、最大吸収波長が360nm以上400nm以下である紫外線吸収剤を含むアンカーコート層と、最大吸収波長が200nm以上360nm未満である紫外線吸収剤及び樹脂成分を含むハードコート層とがこの順で積層され、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの他方の面に、熱線吸収剤を含む裏面コート層及び粘着層がこの順で積層されてなり、前記ハードコート層における紫外線吸収剤が、前記樹脂成分と結合してなることを特徴とするガラス外貼り用フィルムである。(〔0008〕~〔0009〕)
(オ) 本発明によれば、紫外線の吸収特性、熱線の吸収特性、耐傷付き性、飛散防止性、透明性、耐候性、塗膜密着性に優れるガラス外貼り用フィルムを得ることができる。(〔0010〕)
(カ) 発明を実施するための形態のうち、アンカーコート層は、最大吸収波長が360nm以上400nm以下である紫外線吸収剤を含むコート層である。
 アンカーコート層に用いる紫外線吸収剤としては、最大吸収波長が360nm以上400nm以下であるものの中から適宜選択すればよいが、ベンゾフェノン系が好ましく、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,4-ジヒドロキシ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシロキシ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ4-オクタデシロキシ-ベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4メトキシ-ベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシ-ベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシ-ベンゾフェノン等が挙げられる。(〔0015〕)
イ 検討
 原告は、相違点2について、甲2発明においてアンカーコート層に含ませる紫外線吸収剤の最大吸収波長が「360nm以上400nm以下」であることは必須の構成であり、これを失わせることは甲2発明の目的を失わせるものであるから、当業者は、最大吸収波長の数値範囲を必須の構成とする甲2発明に、最大吸収波長の記載がない甲1吸収剤を採用しようと試みることはないから、甲2発明に甲1記載事項を適用する動機付けはないと主張する。
 そこで検討すると、上記アに認定した甲2の記載によると、次の点を指摘することができる。
 すなわち、甲2発明は、紫外線の吸収特性、熱線の吸収特性、耐傷付き性、透明性、耐候性、塗膜密着性に優れるガラス外貼り用フィルムを提供することを課題とし、これを解決するため、ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面にアンカーコート層及びハードコート層を積層し、他方の面に熱線吸収剤を含む裏面コート層及び粘着層を積層したガラス外貼り用フィルムにおいて、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アンカーコート層及びハードコート層の全てに紫外線吸収剤を配合するとともに、紫外線吸収剤の最大吸収波長を各層で特定範囲、具体的には、アンカーコート層において360nm以上400nm以下、ハードコート層において200nm以上360nm未満に設定し、かつ、ハードコート層において紫外線吸収剤が樹脂成分と結合してなる構成としたものである。ここで、甲2には、アンカーコートに用いる紫外線吸収剤としては、最大吸収波長が360nm以上400nm以下であるものの中から適宜選択すればよいが、ベンゾフェノン系が好ましい旨が記載されている。
 他方、甲1には、実施例として、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にA層(紫外線吸収層)及びB層(耐候性表面硬度化層)を順に積層し、A層の塗料組成物として「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメタクリレート」(これは、相違点2に係る本件訂正発明1の「ベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨格からなる群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位」に当たる。)が含まれる構成の光触媒コート用積層フィルムが記載されているが、甲1には、紫外線吸収剤に相当する「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール」(甲1吸収剤)の最大吸収波長を読み取ることができる記載はない。
 そうすると、アンカーコートに用いる紫外線吸収剤として、最大吸収波長が360nm以上400nm以下であるものの中から適宜選択すればよいとされる甲2発明に接した当業者が甲1の記載に接したとしても、最大吸収波長が明らかではない甲1吸収剤を、甲2発明のアンカーコートに用いる紫外線吸収剤として採用する動機付けがあるとはいえず、これを左右する技術常識等も認められない。
 よって、当業者が、本件優先日当時、甲2発明及び甲1の記載に基づいて、相違点2に係る本件訂正発明1の構成に容易に想到できたということはできず、これを容易に想到できるとした本件決定には誤りがある。

(5) 被告の主張について
ア 被告は、本件決定が、甲2発明におけるアンカーコートの紫外線吸収剤として、甲1記載事項の「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメタクリレート」のようなベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合アクリル樹脂を採用することは容易に想到できたと判断したものである旨を主張し、原告の主張の前提を争うほか、甲2発明と甲1記載事項から、相違点2に係る本件訂正発明1の構成に容易に想到し得た旨を主張する。
 しかし、相違点2に係る本件決定の判断は、前記第2の3(5)のとおり、「甲2発明におけるアンカーコートとして甲1記載事項のものを採用することは、当業者が容易に想到できた」というものである。そして、ここで甲1記載事項とは、前記第2の3(3)のとおり、ポリエチレンテレフタレートフィルムの外面に紫外線吸収層(A)層と紫外線吸収層を兼ねた耐候性表面硬度化層(B)層を形成した積層フィルムにおける(A)層の塗料組成物に関する事項であり、当該塗料組成物が、「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメタクリレート95部、変性飽和ポリエステル樹脂4部、メチル化メラミン樹脂1部を含有すること」を述べるものである。しかるところ、本件決定には、甲2発明における「紫外線吸収剤」として、甲1記載事項のうち紫外線吸収剤に相当する「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール」(甲1吸収剤)のようなものを採用するとか、「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合アクリル樹脂」を採用するなどの記載は見られないのであって、このような理由の記載のみから、本件決定が、甲2発明におけるアンカーコートの紫外線吸収剤として、「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメタクリレート」のようなベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合アクリル樹脂を採用することは容易に想到できた旨の理由が記載されていると読み取ることは困難である。
 この点を措くとしても、甲2には、アンカーコート層に用いる紫外線吸収剤としては、最大吸収波長が360nm以上400nm以下であるものの中から適宜選択すればよいが、ベンゾフェノン系が好ましい旨が記載されているところ、そのような甲2発明につき、最大吸収波長が甲1の記載からは明らかではなく、かつ、ベンゾフェノン系でもないベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合アクリル樹脂を採用する動機付けがいかなる理由により認められるのかに関して、本件決定の論理は不明瞭というほかない。
 したがって、被告の上記主張は採用することができない。

(6) 小括
 以上によると、本件決定には相違点2に係る容易想到性の判断に誤りがあって、この誤りは本件決定の結論に影響を及ぼすものであるから、本件訂正発明1と甲2発明との相違点1について検討するまでもなく、本件決定には取り消されるべき違法がある。原告の主張する取消事由1には理由がある。

解説/検討

 本件において、主引用発明(甲2発明)は、紫外線の吸収特性、熱線の吸収特性等に優れるガラス外貼り用フィルムを提供することを課題とし、この課題を解決するために、紫外線吸収剤の最大吸収波長を、アンカーコート層において360nm以上400nm以下、ハードコート層において200nm以上360nm未満に限定している。
 そのため、主引用発明(甲2発明)において、紫外線吸収剤の最大吸収波長のパラメータ要件は、甲2発明の中核をなす部分であるから、副引用例(甲1)に記載された紫外線吸収剤を甲2発明と組み合わせる動機づけがあるといえるためには、副引用例(甲1)に記載された紫外線吸収剤の最大吸収波長が甲2のパラメータの範囲内にあることを確認できるか、主引例に対し、その数値範囲を充足するか不明である副引例の構成をあえて採用することができる論理的な理由が必要であると判断したものと考察される。

 本判決を受け、特許庁は、令和8年6月26日に、「特許第7353441号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。特許第7353441号の請求項1~10に係る特許を維持する。」という意義の決定を出している。
 特許庁は、相違点2に関する判断の中で、相違点2につき以下のように判示する。
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(イ)相違点2について
 引用文献1(※甲1)記載事項の「光触媒コート用積層フィルム」は、「二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム」、「紫外線吸収層(A)層」、「耐候性表面硬化層(B)層」を積層したものであるところ、引用文献1の【0021】には、「基材の熱可塑性フィルムと紫外線吸収層との接着性を向上させる目的」のもとに「熱可塑性フィルム表面に・・・アンカーコート処理などを施すこと」が記載されている。そうすると、「二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム」に積層されている「紫外線吸収層(A)層」は、いわゆるアンカーコート層ではないと理解される。
 してみれば、引用文献1記載事項には、アンカーコート層を紫外線吸収層として機能させることは、そもそも記載されていない。
 よって、引用発明2に引用文献1記載事項を適用したとしても、当該相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることはできない。
 加えて、引用文献2の【0015】には、「アンカーコート層104に用いる紫外線吸収剤としては、最大吸収波長が360nm以上400nm以下であるものの中から適宜選択すればよいが、ベンゾフェノン系が好ましく」と記載されている中で、最大吸収波長が不明であり、かつ、ベンゾフェノン系でもない引用文献1記載事項を引用発明2に適用することは、当業者にとって動機づけがない。

 上記決定においては、上記判決の理由付けに加えて、新たな理由も付加されている点が注目できる。かかる理由付けは、訴訟における原告の主張を採用したものであり、原告の主張が全面的に認められる形の決定がなされた。

 

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