【基準の策定に際する協議の状況、基準の開示状況、従業者等からの意見聴取状況等が総合考慮され、職務発明規程の合理性が肯定された事例】

 

投稿日:2026年5月14日

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著者:弁護士 盛田 真智子
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

特許法35条5項/職務発明、相当の利益、職務発明規程、報奨金規程/不合理性判断

 

ポイント

 退職済みの従業員である原告は、被告会社に対し、雇用期間中の本件各発明に関して、特許法35条4項に基づく相当の利益の支払請求をした。
 被告の本件規定、本件細則により対価を支払うことが不合理なものであるかどうか(特許法35条5項)が争われた。
 本判決は、本件規定の制定に際し労働組合の代表者との協議が行われ、説明、質疑が行われたこと、本件細則の改訂に当たって全従業員から意見募集・回答を行ったこと、本件規定・本件細則が社内システムで常時開示されていること、これらについて新人研修で説明していること、本件規定が発明者からの報告を端緒として実績報奨金の審査をすべきことを定め、特許権の実施状況を発明者等から確認することとされ、特許実績評価シートを発明者らが確認できる仕組みになっていること、報奨金の支払時に意見聴取の窓口を案内していること等を総合考慮し、「本件規定及び本件細則は、基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、当該基準の開示の状況、相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見聴取の状況のいずれの観点からみても、その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であるということはできず、むしろ合理的なものというべきである。」と判示した。
 

 

判決概要

裁判所 大阪地方裁判所第26民事部
判決言渡日 令和7年9月18日
事件番号 令和6年(ワ)第7193号
事件名 職務発明対価請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
松阿彌 隆
阿波野 右起
西尾 太一
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

(1) 当事者
ア 原告は、平成30年4月1日被告に雇用された者であり、同年9月1日から、物品搬送設備のシステム開発業務に従事し、雇用期間中に、本件各発明を他者と共同して発明した。
 原告は、令和5年4月30日、被告を退職した。
イ 被告は、各種システム、ソフトウェア、無形商材、物品等の制作、製造、販売、その他サービスの提供等を目的とする株式会社である。

(2) 被告からの本件規定に基づく支払
 被告は、原告に対し、本件規定に基づき、令和4年8月から令和5年5月までに、それぞれ本件発明1ないし4の出願報奨金を支払った。
 また、被告は、令和7年1月23日、原告に対し、本件発明3に関する登録報奨金を支払うことを通知し、その内容に関する質問や不服等があれば被告まで連絡をされたい旨、及び振込先口座を通知されたい旨、連絡をした。本件口頭弁論終結時点で、原告はこれに回答をしておらず、支払自体は未了である。

(3) 原告の請求
 原告の被告に対する、本件各発明に関する特許法35条4項に基づく相当の利益として5775万円の支払請求及びこれに対する遅延損害金を請求した。

(4) 本件規定:原告が被告に雇用された当時の被告の「発明考案に関する規定」(平成28年8月1日施行)。
 本件規定は、令和5年(同年9月1日施行)、令和6年(同年12月1日施行)にそれぞれ改定されており、改定の前後を区別するときは、順に「本件規定1」、「本件規定2」、「本件規定3」という。

(5) 本件細則:本件規定9条2項に基づき定められた「実績報奨制度に関する実施細則」
 原告が被告に雇用された当時の本件細則(平成28年3月1日施行。以下「本件細則1」という。)は、平成29年(同年4月1日施行)、令和4年(同年6月1日施行)、令和5年(同年9月1日施行)にそれぞれ改定されており、改定の前後を区別するときは、順に「本件細則2」、「本件細則3」、「本件細則4」という。

(6) 本件指針:特許法第35条第6項の規定に基づく発明を奨励するための相当の金銭その他の経済上の利益について定める場合に考慮すべき使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況等に関する指針(経済産業省告示第131号)

争点

1 本件規定により対価を支払うことが不合理なものであるかどうか(争点1)
2 本件規定によらない場合の特許法35条7項の「相当の利益」の額(争点2)
 判決では、争点1のみに関して判断が示された。

争点に関する当事者の主張

争点1(本件規定により対価を支払うことが不合理なものであるかどうか)について
【原告の主張】
本件規定は、以下のとおり、原告を含む被告従業者に周知されておらず、かつ、内容も合理性を欠くものであるから、同規定によって対価を支払うことは不合理である。
 したがって、本件各発明に対する対価は、特許法35条7項により、本件各発明により被告が受けるべき利益の額、これらの発明に関連して被告が行う負担、貢献及び原告の処遇その他の事情を考慮して定められる。
(1) 周知性を欠くこと
 原告は、社内システムで本件規定1を閲覧することができた。しかし、被告は、原告が退職後に開示を求めてもこれに応じなかった。
 また、本件規定1は、実績報奨金の金額がそれ自体では明らかではなく、その具体的な基準である本件細則は何ら開示されていなかった。加えて、本件規定の内容は複雑なものであり、従業者が一見して理解できるようなものではないにもかかわらず、被告は、原告を含む従業者に対し、適切な説明・情報提供を行うことで、その内容を理解させることを怠っていた。
 このように、本件規定は、いずれも、原告の意見を聴取することなく、また、具体的な審査基準が開示されることもなく定められたものであるから、周知性を欠く。
(2) 内容が不合理であること
 後記2のとおり、本件規定がなければ、原告は、本件発明の対価として年5775万円を受け取ることができた。しかし、本件規定は、仮に最も高額な実績報奨金が認定されたとしても((●)万円しか支払われないものであり、本来受け取るべき対価の額とかけ離れている。
 また、本件規定では、実績報酬等級を定める主体が、被告の知的財産部と事 業部門とされ、その評価項目が●以下省略以上省略●等とされている。このように、本件規定は、被告を退職した発明者が点数評価に全く関与し得ない評価基準を定めており、報奨金の決定について原告の意見を聴取する機会が確保されていないものであるから、特許法35条5項に照らし、不合理なものとなっている。実際、被告は、本件発明2が米国において特許登録されたにもかかわらず、その後、原告に対し、何らの意見聴取も行っていない。
 このように、本件規定の内容は、対価的均衡を著しく欠く結果を招くものであり、かつ、原告が報奨金の決定にあたって意見を述べる機会が与えられない、 著しく不合理なものである。
(3) 原告を拘束しないこと
 原告が被告に在籍していたときに適用されていた本件規定1は、原告が被告に就職する前に定められたものであり、原告の意見を聴取したうえで定められたものではない。
 また、本件規定は、原告の就業規則の一部を構成するところ、原告は令和5年4月30日に被告を退職しているので、被告の就業規則及びこれを構成する本件規定の適用を受けない。そして、被告は、原告が退職した後、本件規定を適用するために、同規定の内容を原告に周知していない。
 このように、本件規定は、少なくとも原告を拘束するものではない。

【被告の主張】
(1) 本件規定と本件細則が周知されていたこと
 本件規定及び本件細則は、いずれも、被告の社内システムで閲覧が可能であり、従業者に周知されていた。そして本件細則には、実績報酬金の等級基準や考慮要素が具体的に記載されており、相当の利益の具体的内容が開示されていた。
 なお、被告が、当初、原告に対し、本件規定や本件細則を開示しなかったのは、原告が既に被告を退職しており、社外秘に該当するこれらの規定を開示することができなかったためである。
(2) 本件規定の制定経緯
 本件規定1は、平成28年6月30日、被告と被告の労働組合代表者との間 で、本件指針が公表されたことに伴う協議を行った結果策定されたものである。
 本件指針によると、特許法35条5項の協議は、必ずしも従業者等一人一人と個別に行う必要はなく、従業者等の代表者を通じて話し合いを行うことでもよい。このように、被告は、本件規定1を策定する際に、従業者との間で協議を行った。
 また、原告は、平成30年4月1日、被告に雇用されたが、同年6月8日に行われた新人研修の中で、当時施行されていた本件規定1及び本件細則2の内容について説明を受け、そのときには、質疑応答の時間も設けられていた。このように、被告は、既に被告において適用されている基準について、原告に対し、十分な説明を行った。
(3) 本件規定等の改定の経緯
本件規定2は、実質的には本件規定1から実績報酬金の金額のみを増額したものであるところ、被告は、改定に際し、従業者に対し意見聴取を行った。原告は、退職前に、改定内容に関する質問をしており、被告はメールで回答をした。その際、原告は、本件規定2への改定について好意的な意見を寄せていた。
 このように、原告と被告は、本件規定1から本件規定2へ改定するときにも、実質的な協議を行った。
 なお、本件規定3は、原告が退職した後に改定されたものであるが、これは、退職者に対しても報奨金を支払ってきたこれまでの慣行を明文化したものであり、従業者にとって何ら不利益なものではない。
(4) 原告の主張について
 原告は、実績報奨金について、何ら具体的な金額等が開示されておらず、意見聴取も行われていないと主張するが、実績報奨金については、本件細則に具体的な審査基準が示されている。なお、実績報奨金の等級基準や考慮要素については、細則1から4までの改定において実質的に変更されていない。また、本件各発明に関する実績報奨金は、本件口頭弁論終結時点において審査できる だけの実施実績がないため、意見聴取を行うこと自体が不可能である。
 被告は、原告に対し、本件発明3に関する登録報奨金を支払う旨を通知した際、質問や意見があれば連絡をするよう伝えているが、今後、原告に対し、実績報奨金等が支払われるようになれば、同様の意見聴取を行う意向である。
(5) 小括
 以上のとおり、本件規定及びこれに附属する本件細則は、被告の従業者との間で、具体的な内容を開示し、十分に協議を行い、原告からも意見を聴取し、又はその機会を与えたうえで定めたものであるから、本件各発明についての相当の利益は本件規定及び本件細則(なお、被告は、原告に最も有利になる規定を適用する考えである。)に基づいて算定すべきである。

判旨

1 争点1(本件規定により対価を支払うことが不合理なものであるかどうか)について
(1) 認定事実
 掲記の証拠、前提事実及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認める ことができる。

ア 本件規定等の制定経緯(原告が雇用される以前)
 本件規定は、被告の就業規則を根拠とし、平成15年に従前の規定を廃止して新たに制定されたものを基礎として順次改定を経てきたものであり、また、本件細則は、平成28年3月1日に制定されたものである(乙11)。

イ 平成28年6月の協議の状況(乙17)
 被告は、平成28年4月1日に特許法35条が改正され、また同年4月22日に本件指針が公表されたことから、本件指針に基づき、同年6月30日、被告の労働組合代表者との間で「相当の利益」(報奨金)を決定するルールに関する協議を行った。
 同協議には、労働組合側から幹部10人が出席し、会社側は、本部長等、知的財産権を担当する部署の6人が出席して行われ、特許法35条4項にいう「相当の利益」に相当する被告の最新の報奨金制度について、各報奨項目及び報奨フロー、各報奨項目の推移、実績報奨の等級別比率、対象件数の推移につき説明し、また、特級の報奨金については、これまで計算式が用意されていなかったが、判例に基づいた計算式が採用された点、事例を交えて製品における特許が寄与する営業利益等についても説明がされた。
 議事においては、労働者側から、特級以外にも基準があるのか、営業利益がマイナスでは報奨金が出ないのか、発明者の寄与率が固定でよいのか、退職者にも支払われるのか、等の質問があり、それぞれ会社から、特級以外は● (((省略)( ●を点数化して算出すること、営業利益がマイナスの場合でも売上に貢献していれば報奨金が支払われる場合があること、退職者(死亡していた場合はその遺族)にも支払われること、寄与率は●(省略)●を基本としつつ、個別に決定するうえで発明者から意見を聴取する機会をもつことなどを回答した。
 被告は、本件規定について改定を行い(本件規定1)、同年8月1日これを施行した。また、本件細則については、文言を適切にするなどの修正をする改定を行った(本件細則1)。

ウ 本件規定等の周知状況等
 本件規定及び本件細則は、被告の社内システムの「ダイフク諸規定集」に収録され、被告の従業員は、いつでも最新のものを閲覧することができた(乙16)。
 また、被告においては、新入社員に、報奨金制度や表彰制度の存在を理解してもらう趣旨で、毎年行われる新人研修において、本件規定及び本件細則について簡単に説明し、質問に応答することとしていた。

エ 本件細則4への改定に際しての意見聴取の状況
 令和4年1月に、本件細則の改廃手続について承認者を「知的財産担当役員」とする旨のみの改定(本件細則3)がされた(乙13)のち、令和5年3月には、被告は、発明奨励のため、実績報奨金の増額を行うための本件細則の改正を発案し、社内システムを通じて、全従業員にこのことに関する意見募集を行った。この意見募集においては、従業員からの意見を集約して、これに対する被告の回答を示すとともに、再度の意見をさらに受け付けることとしていた(乙18)。
 原告は、この意見募集に対し、賛同の意を示すとともに、実績報奨金に加え、昇給等で使える「特許ポイント」を導入するなどの提案を含む意見を提出し、これに対し、被告は、同年4月4日、原告の意見部分に対し、被告としての原告の意見の理解とそれに基づく検討結果を回答した(乙19)。

オ 本件規定3への改定(乙10)
 被告は、令和6年11月5日に、従業員に意見募集を行った上、同年12月1日に、本件規定を本件規定3とする改定をした。

(2) 検討
 前記前提事実及び上記認定事実によれば、次のとおりいうことができ、これ らのことからすると、本件規定及び本件細則は、基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、当該基準の開示の状況、相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見聴取の状況のいずれの観点からみても、その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であるということはできず、むしろ合理的なものというべきである。

ア 被告は、本件規定1及び本件細則1の改定にあたり、新たに公表された本 件指針をふまえ、これに忠実な手続をとるべく、労働者の代表としての労働組合に対し、規定の内容を説明するとともに、質問にも応じていた。また、本件細則4への改定に当たっても、社内システムを通じて全従業員からの意見を募ったうえでこれを集約し再度の意見を募り、原告からの本件規定2の改定自体には関わらない個別の意見にも会社としてのスタンスを説明していた。このように、被告は、本件規定及び本件細則の内容説明、運用、改定等について、従業員への意見聴取及びこれに対する応答に関し、慎重かつ真摯、丁寧に当たっていた。
 また、本件規定及び本件細則の改定の内容は、特段発明者に不利な内容は含まれておらず、むしろ有利に働くものである。

本件規定及び本件細則は、常時被告の社内システムに掲載されており、毎年の新人研修においても、報奨制度について説明をしていたものであって、また、改定にあっては全従業員に意見を聴取していることと相まって、会社として、開示、周知のために合理的な手段を講じている

本件規定は、発明者からの報告を端緒として実績報奨金の審査をすべきこ とを定めているうえ、本件細則は、実績報奨に関し、事業部及び知的財産部が、当該特許の実績を客観的な指標をもとに数値化して評価し、特許発明の価値を段階的に把握してその等級を決するものであるところ(特級については、別途特級審査委員会の手続において発明者の意見が徴収される。)、事業部は、当該対象特許権の実施状況について発明者等から確認するなどとされており、その内容(特許実績評価シート)についても、発明者又は担当者において確認できる仕組みになっていること(乙11ないし14)、各種報奨金の支払時においても、問い合わせないし意見聴取の窓口を案内していることからすると、発明者の意見を聴取する機会は相応に確保されている

(3) 原告の主張について
ア 本件規定及び本件細則の周知の状況について
 原告は、新人研修における説明の存在を争うほか、退職者が本件規定及び本件細則を知り得ず、問い合わせに対しても応答を拒んだこと、本件規定が複雑であることから、使用者が労働者の求めに応じて適切な説明・情報提供を行い、労働者が規則内容を認識できる状況を提供すべきだが、これがされてないことなどを指摘する。
 しかし、新人研修において本件規定及び本件細則の概要の説明があったと認められること、その他被告のとった周知の措置が合理的なものといえることは前記認定判断のとおりであるし、就業規則に由来する本件規定の性質からして、個々の従業者に対し個別に説明し同意を得なければならない性質のものでもない。その上、原告は、その雇用期間中、本件規定に基づく報奨金を受領していたのであるから、これが何等かの根拠に基づく支給であることは当然に理解しうる立場にあったのであって、この点を考慮しても、原告の主張は採用できない。
 また、退職者にどの程度被告の内規に当たる本件規則等を説明するかは、従業者とは異なり得るものであって、本件における被告の対応は、前記判断を左右しない。

イ 内容の不合理性をいう点について
 原告は、本件各発明に対する相当な対価が年間5775万円であることを前提に、本件規定に基づいて対価を算定すると、著しい不均衡が生じるなどと主張する。
 しかし、原告主張の相当対価に根拠があるかは疑問であるが、その点を措いても、特許法35条5項において定める不合理性の判断の観点に、それ自体私的自治に委ねられるとも考えられる対価の額の妥当性が当然に含まれるかは疑問であるし、仮に考慮要素の一要素となり得るとしても、例えば出願報奨、登録報奨の低廉な一時金のみを支払い、その後特許権の実施によって会社が得た利益を分配しないような規定であれば格別、本件細則は、実施に係る特許権等の経済的価値を、利益貢献や競合の排除といった様々な観点から評価して段階的に相応の実績報奨金を支払うものであって、不合理とする点は見出しがたい。

ウ まとめ
 以上のほか、原告が本件において縷々主張する点を考慮しても、本件規定及び本件細則の不合理性が基礎づけられることはない。

2 争点1の判断のとおり、本件規定により対価を支払うことが不合理であるとは認められないところ、原告の、本件規定が適用されないことを前提とする特許法35条7項の適用による相当の利益の請求は、理由がない。

解説/検討

特許法35条5項
「契約、勤務規則その他の定めにおいて相当の利益について定める場合には、相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況策定された当該基準の開示の状況相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であると認められるものであつてはならない。」

 本判決は、特許法35条5項にいう「その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であると認められる」か否かの判断に関し、規定の内容のみならず、規定策定や運用の過程を重視した事例である。

裁判所は、
① 労働組合代表者との協議・説明・質疑応答
② 社内システムによる常時開示
③ 新人研修での説明・質疑応答(開示の観点)
④ 制度改定時の全従業員向け意見募集・回答(協議・開示の両方の観点)
⑤ 実績報奨金の審査過程における、発明者からの報告を端緒とする仕組み(意見聴取の観点)
⑥ 特級審査で発明者意見を徴収する運用(意見聴取の観点)
⑦ 発明者が実績評価シートを確認することが可能であること(意見聴取の観点)
⑧ 支払時における発明者の問い合わせ窓口の存在(意見聴取の観点)
等を詳細に認定し、使用者側が相応に丁寧な運用をしていた点を重視した。

 企業としては、単に規程を整備するだけでなく、制定・改定時の手続や、周知方法、評価方法、支払時の案内等にも気を配ることが重要であることが示唆され、実務上参考になると思われる。

 これに対し、原告は、報奨額が本来受けるべき利益額と比較して著しく低額であること等を主張したが、裁判所は、「不合理性の判断の観点に、私的自治に委ねられるとも考えられる対価の額の妥当性が当然に含まれるかは疑問である」と述べ、「仮に考慮要素の一要素となり得るとしても、例えば出願報奨、登録報奨の低廉な一時金のみを支払い、その後特許権の実施によって会社が得た利益を分配しないような規定であれば格別、本件細則は、・・・段階的に相応の実績報奨金を支払うもの」であるとして、不合理とはいえないと判断した。

 

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