【均等侵害の成否(発明の本質的部分)が争われた事例】

 

投稿日:2026年4月22日

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著者:弁理士 津田 理 *本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。


参照条文/キーワード/論点

均等/発明の本質的部分

 

ポイント

※ 本件では、予約管理システムにおいて、店舗端末の操作を契機として、処方箋の画像データが予約管理装置から画像印刷装置に送信される構成が、発明の本質的部分であるか否かが争われた。
※ 控訴人は、本件発明における課題解決手段は、処方箋の画像データを画像印刷装置に送信するタイミングを、当該画像データが表示された店舗端末に対する操作がされたタイミングとすることであるから、このタイミングこそが本件各発明の本質的部分であると主張したが、本判決では、店舗端末の操作を契機として画像データが予約管理装置から画像印刷装置に送信されるという構成が本件各発明の本質的部分であるから、控訴人が主張するタイミングのみが本件発明の本質的部分であるということはできないと判示した。
※ 本件発明の解決課題を考慮すれば、処方箋の画像データが予約管理装置から画像印刷装置に送信されることによって、画像印刷装置で当該画像データが印刷されることが、発明の本質的部分と捉えることもでき、クレームの記載次第では、結論が異なった可能性も考えられる。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 令和8年3月24日
事件番号 令和7年(ネ)第10074号
事件名 特許権侵害差止請求控訴事件(第1事件)、特許権侵害損害賠償請求控訴事件(第2事件)
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
増田 稔
伊藤 清隆
天野 研司
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

(1) 当事者
・控訴人(原審の原告)は、薬局・医療向けソリューションを提供する会社であり、患者向けサービスである「EPARK くすりの窓口」及び「EPARK お薬手帳アプリ」並びに医療機関向けサービスである「みんなのお薬箱」及び「みんなの共同仕入サービス」を提供している。(甲1)
・被控訴人(原審の被告)は、医療関連サービスの開発、提供を行う会社である。

(2) 本件特許に至る経緯
・(ア) SGS株式会社は、平成25年11月13日、本件特許に係る出願をした。これに対し、特許庁審査官は、平成27年9月17日起案に係る拒絶理由通知書(乙1の9)により、特開2011-180859号公報(乙4。以下「乙4文献」という。)を引用文献1とする新規性及び進歩性欠如等を理由とする拒絶理由通をした。
・これを受け、株式会社EPARK(以下「EPARK社」という。)は、平成27年11月5日提出に係る手続補正書(乙1の10)により、出願当初の請求項7及び8を現在のものにすることなどを内容とする手続補正をした(以下「本件補正」という。上記請求項の記載の下線部が本件補正に係る部分である。)。また、同社は、同日提出に係る意見書(乙1の11。以下「本件意見書」という。)において、上記新規性及び進歩性欠如に係る拒絶理由の解消につき、以下のとおり説明した。
 「本願発明は、利用者端末から受信された処方箋の画像データを店舗端末に表示し、当該画像データが表示された店舗端末を利用する利用者の当該店舗端末に対する操作に応じて画像データを画像印刷装置に送信する構成により、処方箋を店舗に持参することなく調剤の予約を行うことができるとともに、画像データを画像印刷装置に送信した後に店舗端末の利用者(店舗スタッフ)が処方箋の内容を確認することができず、調整作業を行うことができないといった事態を回避することができるという顕著な効果を達成することを特徴とする。/これに対して、…引用文献1にはサーバが携帯端末から受信した処方箋全体画像をファクシミリ装置に送信することについては記載されているものの、本願発明の「利用者端末から受信された処方箋の画像データを店舗端末に表示し、当該画像データが表示された店舗端末を利用する利用者の当該店舗端末に対する操作に応じて画像データを画像印刷装置に送信する」旨の技術思想については引用文献1には記載も示唆もされていない。」
・これを受け、平成28年3月25日、本件特許に係る特許査定がされ(甲3、乙1の12)、同年5月13日、本件特許権の設定登録がされた(特許第5931837号)。なお、本件特許権については、令和6年2月28日、EPARK社から原告に対する特定承継による移転登録がされた(甲3)。

(3) 本件特許
(本件発明7)
7A 利用者によって利用される利用者端末と、当該利用者端末及び画像データを用紙に印刷することが可能な画像印刷装置と通信可能に接続される予約管理装置とを備える予約管理システムにおいて、
7B 前記利用者端末は、前記利用者に対して発行された処方箋の画像データを前記予約管理装置に送信する送信手段を含み
7C 前記予約管理装置は、
7C-1 前記送信された画像データを受信する受信手段と、
7C-2 前記受信された画像データを店舗に設置された店舗端末に送信することによって当該画像データを前記店舗端末に表示する表示処理手段と、
7C-3 前記画像データが表示された前記店舗端末を利用する利用者の前記店舗端末に対する操作に応じて、前記受信された画像データを前記画像印刷装置に送信する送信手段と
7D を含むことを特徴とする予約管理システム。

(本件発明8)
8A 利用者によって利用される利用者端末及び画像データを印刷することが可能な画像印刷装置と通信可能に接続される予約管理装置が実行する予約管理方法であって、
8B 前記利用者に対して発行された処方箋の画像データを前記利用者端末から受信するステップと、
8C 前記受信された画像データを店舗に設置された店舗端末に送信することによって当該画像データを前記店舗端末に表示するステップと、
8D 前記画像データが表示された前記店舗端末を利用する利用者の前記店舗端末に対する操作に応じて、前記受信された画像データを前記画像印刷装置に送信するステップと
8E を具備することを特徴とする予約管理方法。
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争点

(1) 構成要件7C-3及び8Dの充足性
(2) 均等の第1要件(発明の本質的部分)

原審の判断

(1) 被告システムの構成
ア 全体像
被告システムは、被告が管理するサーバ、患者端末、薬局端末及び広域通信網からなり、サーバは、広域通信網を介して、患者端末及び薬局端末にそれぞれ通信接続される。薬局端末は、ローカルネットワークによりプリンタに通信接続されるが、サーバはプリンタとは通信接続されていない。

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イ 利用者端末による処方箋画像データの送信
 利用者(患者)は、患者端末にインストールされたLINEアプリ内で動作する「LIFF」(LINE Front-end Framework)を通じて、ウェブブラウザを通じてアクセス及び実行されるアプリケーションである被告システムに係るウェブアプリケーション(被告ウェブアプリケーション)にアクセスする。
 処方箋を送信しようとする利用者は、被告ウェブアプリケーション上で、まず予約先薬局を選択した後、患者端末のカメラを用いて処方箋を撮影し、画像データに変換された処方箋画像を、被告ウェブアプリケーションを通じてサーバに対して送信する。

ウ サーバによる処方箋画像データの受信及び薬局端末への送信
 サーバは、患者端末により送信された処方箋画像を受信すると、その画像をリサイズした上でストレージに保存すると共にその画像に関する情報をデータベースに記録し、また、保存した処方箋画像を薬局端末に対して送信する。

エ 薬局端末における表示及び保存
 薬局端末は、サーバにより送信された処方箋画像データを受信する。
 もっとも、処方箋画像データを受信したことにより直ちにその画像が薬局端末の画面上に表示されることはなく、薬局端末の利用者が薬局端末のブラウザ上に表示される印刷プレビュー表示のアイコンを押下すると、薬局端末上に処方箋画像のプレビュー画面が表示されると共に、受信した処方箋画像が薬局端末のメインメモリ内に保存される。

オ 薬局端末における印刷
 薬局端末においてサーバから受信した処方箋画像を印刷する場合には、薬局端末の利用者(店舗スタッフ)は、薬局端末に設定された被告ウェブアプリケーション上の印刷実行ボタン(印刷プレビュー表示のアイコンとは別のもの)を押下する。これにより、薬局端末のメインメモリに保存された処方箋画像が薬局端末からこれにローカルネットワークにより接続されたプリンタに送信され、プリンタから処方箋画像が紙媒体として出力される。

(2) 構成要件7C-3及び8Dの充足性について
・本件明細書には、本件各発明に係る予約管理システム及び予約管理方法において、予約管理装置から処方箋画像データを送信され、当該画像データが表示された店舗端末において、判読可能指示等を予約管理装置に送信することなく、利用者の店舗端末に対する操作により店舗端末から直接的に画像印刷装置により画像データを印刷する構成が含まれることを具体的に開示する記載はなく、また、これを示唆する記載も見当たらないというべきである。
 以上より、「利用者の店舗端末に対する操作に応じて、前記受信された画像データを前記画像印刷装置に送信する」(構成要件7C-3、8D)とは、「予約管理装置」が「利用者端末」から送信されて受信した画像データである「前記受信された画像データを前記画像印刷装置に送信する」ことを意味するところ、画像印刷装置に送信される画像データは、「予約管理装置」が「利用者端末」から受信したものと解される。

・被告システムにおいて薬局端末(店舗端末)の操作によりプリンタ(画像印刷装置)に送信される画像データは、サーバ(予約管理装置)が患者端末(利用者端末)から受信したデータではなく、サーバから薬局端末が受信したデータである。
 したがって、被告システムの構成7c’-3及び8d’は、本件各発明の構成要件7C-3及び8Dを充足しない。

 これに対し、原告は、被告システムが被告主張に係る構成のものであるとしても、本件各発明の構成要件7C-3及び8Dは、予約管理装置が別の装置を介して画像データを画像印刷装置に送信することをも含むから、被告システムは本件各発明の構成要件7C-3及び8Dを充足すると主張する。
 しかし、上記各構成要件につき、特許請求の範囲の記載によれば、予約管理装置が別の装置を介して画像データを画像印刷装置に送信することをも含むことをうかがわせる記載はない。また、本件明細書を見ても、前記のとおり、予約管理装置から処方箋画像データを送信され、当該画像データが表示された店舗端末において、判読可能指示等を予約管理装置に送信することなく、利用者の店舗端末に対する操作により店舗端末から直接的に画像印刷装置により画像データを印刷する構成が含まれることを開示又は示唆する記載も見当たらない。
 したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。

(3) 均等侵害の成否(均等の第1要件)について
・本件明細書の記載のほか、本件特許の審査に当たり拒絶理由通知において引用文献として引用された乙4文献を従来技術に係るものとして考慮すると、本件各発明は、従来技術によれば、病院において処方された薬剤を店舗で購入するには、利用者は、当該病院が発行した処方箋を店舗に持参する必要があるところ、この場合、利用者が処方箋を店舗に持参した後に調剤作業が開始されることになるため、利用者は、調剤作業が完了するまで数十分から小一時間店舗で待たなければならないこと、及びスマートフォン等の端末を利用して調剤の受付(予約)を行う仕組みは知られていないことを踏まえ、処方箋を店舗に持参することなく調剤の予約を行うことが可能な予約管理装置、予約管理システム等を提供することを解決すべき課題とする(本件明細書【0002】、【0004】~【0006】)。また、その解決手段である本件各発明は、予約管理装置から受信して店舗端末に表示された画像データを店舗端末の利用者が目視で確認し、判読可能であると判断される場合には、店舗端末が、その利用者の操作に応じて、その旨の指示を予約管理装置に送信することなどの当該店舗に設置されている画像印刷装置による処方箋の画像データの印刷に至るプロセスが進められ、判読不能の場合には、店舗端末が、その利用者の操作に応じて、その旨の指示を予約管理装置に送信し、これを受信した予約管理装置は、その指示に基づき、処方箋の画像データの再送信が必要なことを通知するメールを利用者端末に送信することによって、新たな処方箋の画像データが取得され、その後は判読可能であった場合と同様のプロセスが進められることで(【0034】~【0039】)、利用者が処方箋を店舗に持参することなく調剤作業が開始されるため、当該利用者は、例えば店舗に到着してすぐに薬剤を受け取るといったことが可能となる(【0041】)という作用効果を奏するというものである。

・以上によれば、本件各発明については、店舗端末に表示された処方箋画像データを確認し、判読可能であれば、利用者が店舗端末を操作して予約管理装置に対し画像データの画像印刷装置に対する送信指示をし、判読不能であれば、利用者が店舗端末を操作して予約管理装置に対し判読不能である旨の指示をし、この指示を受けた予約管理装置が利用者端末に再送が必要なことを通知することで、患者が店舗に来るのを待って調剤を始めなければならないという従来技術の課題を解決する点に意義があるものと理解される。このことは、本件意見書において出願人がこのような点を本件各発明の特徴としていたことからもうかがわれる。

・そうすると、店舗端末の操作を契機として画像データが予約管理装置から画像印刷装置に送信されるという構成は、本件各発明の本質的部分といえる。しかるに、被告システムは、この本質的部分をその要素とする本件各発明の構成要件7C-3及び8Dの発明特定事項を備えていない。すなわち、本件各発明に係る特許請求の範囲に記載された構成中の被告システムと異なる部分は、本件各発明の本質的部分であるから、本件においては均等の第1要件を欠くこととなる。

   

判旨

・当審も、原審と同様の理由により、被告システムが本件各発明の技術的範囲に属さず、控訴人の請求は理由がないと判断する。

・当審における控訴人の補充主張に対する判断
⑴ 控訴人(原審の原告)は、本件各発明における課題解決手段は、処方箋の画像データを画像印刷装置に送信するタイミングを、当該画像データが表示された店舗端末に対する操作がされたタイミングとすることであるから、このタイミングこそが本件各発明の本質的部分であると主張する。
 しかし、引用に係る原判決の「事実及び理由」中の第3の5⑵に判示したとおり、 店舗端末の操作を契機として画像データが予約管理装置から画像印刷装置に送信されるという構成が本件各発明の本質的部分であるから、控訴人が主張するタイミングのみが本件各発明の本質的部分であるということはできない。
⑵ 控訴人は、本件各発明の本質的部分が上記のタイミングであることを根拠として、「利用者の前記店舗端末に対する操作に応じて、前記受信された画像データを前記画像印刷装置に送信する」(構成要件7C-3、8D)ことは、「利用者の前記店舗端末に対する操作に応じて、前記受信された画像データを予約管理装置とは異なる装置から前記画像印刷装置に送信する」ことを含むと主張する。
 しかし、控訴人が主張するタイミングのみが本件各発明の本質的部分であるということはできないことは上記説示のとおりである。また、「利用者の前記店舗端末に対する操作に応じて、前記受信された画像データを前記画像印刷装置に送信する」主体が予約管理装置であることは、本件各発明の構成要件の記載から明らかであるから、予約管理装置からの送信という点を捨象して、前記構成要件(構成要件7C-3、8D)が「受信された画像データを予約管理装置とは異なる装置から画像印刷装置に送信する」ことを含むと解することはできない。
⑶ 控訴人は、本件各発明と被告システムとの異なる部分は、本件各発明の本質的部分ではないから、均等の第1要件を充足すると主張する。しかし、上記⑴に判示したとおり、店舗端末の操作を契機として画像データが予約管理装置から画像印刷装置に送信されるという構成が本件各発明の本質的部分であるところ、被告システムは、この本質的部分をその要素とする本件各発明の構成要件7C-3及び8Dの発明特定事項を備えていないから、均等の第1要件を充足するとはいえない。

解説/検討

 本判決では、店舗端末の操作を契機として画像データが予約管理装置から画像印刷装置に送信されるという構成が本件各発明の本質的部分であるから、控訴人が主張するタイミングのみが本件発明の本質的部分であるということはできないと判示された。
 本件発明と被告システムの異なる部分は、本件発明では、画像印刷装置がファクシミリであり、処方箋の画像データが予約管理端末からファクシミリに送信されることによって、ファクシミリで当該画像データが印刷されるのに対し、被告システムでは、画像印刷装置がプリンタ(薬局端末にローカルネットワークを介して接続されている)であり、処方箋の画像データがサーバから薬局端末を介してプリンタに送信されることによって、プリンタで当該画像データが印刷されることである。
 本判決でも「本件各発明は、従来技術によれば、病院において処方された薬剤を店舗で購入するには、利用者は、当該病院が発行した処方箋を店舗に持参する必要があるところ、この場合、利用者が処方箋を店舗に持参した後に調剤作業が開始されることになるため、利用者は、調剤作業が完了するまで数十分から小一時間店舗で待たなければならないこと、及びスマートフォン等の端末を利用して調剤の受付(予約)を行う仕組みは知られていないことを踏まえ、処方箋を店舗に持参することなく調剤の予約を行うことが可能な予約管理装置、予約管理システム等を提供することを解決すべき課題とする」と認定されている。
 このような本件発明の解決課題を考慮すれば、処方箋の画像データが予約管理装置から画像印刷装置に送信されることによって、画像印刷装置で当該画像データが印刷されることが、発明の本質的部分と捉えることもでき、クレームの記載次第では、結論が異なった可能性も考えられる。

 

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