【先行した政令処分の後発医薬品である被告製品に対して、後行の政令処分を理由とした特許権延長登録の効力を否定した事例】

 

投稿日:2026年4月22日

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著者:弁護士 亀山 和輝 *本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。


参照条文/キーワード/論点

特許法第68条の2/医薬品として実質同一なもの/政令で定める処分の対象となった物

 

ポイント

※ 本判決は、特許権の延長登録の理由として先行する政令で定める処分と後行した政令で定める処分が存在し、被告製品が先行処分に係る医薬品の後発医薬品であって、後行処分に係る医薬品と用量が異なる場合において、後行処分を理由とする延長登録された特許権の効力が及ぶかが問題となった事案である。
※ 本判決は、被告製品が先行処分に係る医薬品と同一であるとの一事をもって、後行処分に係る医薬品と被告製品は実質同一ではなく、後行処分を理由として延長登録のされた本件特許権の効力は及ばないと判示した。
※ 先行する政令処分を理由とした延長登録をしていない場合に、後行する政令処分を理由とする延長登録によって延長された特許権の効力範囲をどのように解するかという点についても、「本件のように、先行する政令処分を理由とした延長登録をしている場合との均衡を損ねることのないような解釈が検討されるべきではある」として、本件同様の解決が図られるべきことを示唆している。

 

判決概要

裁判所 大阪地方裁判所第21民事部
判決言渡日 令和8年3月3日
事件番号 令和7年(ワ)第10786号、同第10790号
事件名 特許権侵害差止請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
松川 充康
阿波野 右起
西尾 太一
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

1 本件特許権1

⑴ 本件特許権1の概要 登録番号: 特許第4889219号
出願日: 平成15年12月26日
登録日: 平成23年12月22日
発明の名称: 腹部不快感の処置のためのプロスタグランジン誘導体

⑵ 本件特許権1の存続期間の延長登録
ア 本件延長登録1-1
出願日: 平成24年9月26日
延長の期間 : 6月6日(令和6年7月2日まで)
延長登録日: 平成25年1月30日
政令処分の内容:
-特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分:
薬事法14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認(本件24μg処分)
-処分の対象となった物
 販売名:アミティーザカプセル24μg(原告製品24μg)
有効成分:ルビプロストン
-処分の対象となった物について特定された用途
慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)

イ 本件延長登録1-2
出願日: 平成30年12月20日
延長の期間 : 5年(令和10年12月26日まで)
延長登録日: 令和元年10月16日
政令処分の内容:
-特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分:
薬事法14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認(本件12μg処分)
-処分の対象となった物
 販売名:アミティーザカプセル12μg(原告製品12μg)
有効成分:ルビプロストン
-処分の対象となった物について特定された用途
慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)

争点

1 被告製品は本件各発明1及び同2の技術的範囲に属するか
2 本件延長登録1-2及び同2-2により存続期間が延長された本件特許権1及び同2の効力は被告製品の生産・譲渡等に及ぶか
3 本件延長登録1-2及び同2-2に無効理由があるか
4 差止め等の必要性

 以下では、争点「2」に関する点について記載する。

   

判旨

1 問題の所在
 本件特許権1の存続期間が、2つの政令処分を理由として個々に延長される中で、被告は、原告製品24μgの後発医薬品として、被告製品(分量は原告製品24μgと同じく24μg)の製造販売等を行うべく、厚生労働省に対する製造販売承認の申請を行っている。これに対し、原告が、本件24μg処分を理由とする本件延長登録1-1による延長期間は既に終了していることを前提としつつ、本件12μg処分を理由とする本件延長登録1-2によって延長された本件特許権1の効力が、分量を24μgとする被告製品にも及ぶとして、その生産・譲渡等の差止め等を求めている。
 分量を24μgとする被告製品が、本件12μg処分の対象となった物である原告製品12μgと同一であるとして特許権の効力が及ぶといえるかをめぐる争点である。しかも、本件では、これらの分量の差異をどう評価するかの問題のみならず、本件24μg処分を理由とする本件延長登録1-1の延長期間は既に終了している中で、これと分量を同じくする被告製品に対し、本件12μg処分という別の理由で延長登録された本件特許権1の効力が及ぶのかという問題もあわせ検討する必要がある。

2 規範
 …存続期間を延長された特許権の効力は、その範囲を画する「物」の特定要素を上記と同じくするものではありながらも、その形式的な適用が第三者による回避を過度に容易とし、特許権者の権利行使を困難とし、ひいては延長登録制度の趣旨である両者間の衡平を失することになるとの観点から、物として実質同一といえる範囲にまで広げて解するものである。…
 しかしながら、延長登録の範囲・単位とその結果存続期間が延長された特許権の効力範囲は、存続期間の延長登録制度全体の中で、整合的に解釈運用され、相互に調和することで、初めて特許権者と第三者との衡平という同制度の目的の実を果たすことができるというべきであるところ、特許権の効力範囲については、前記イ及びウで検討したところを総合考慮し、実質同一といえる範囲で広がりを有するとはいえ、その広がりは、存続期間の延長登録の範囲・単位と抵触しないという制約の中で解釈されるべきものといえる。すなわち、医薬品に係る同一の特許権について、複数の政令処分を理由とする延長登録がされている場合、後れて延長登録された特許権の効力範囲は、前記ウで説示の規範のもと一定の広がりを有するものではあるものの、少なくとも、先行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物は、後行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と実質同一ではなく、その生産・譲渡等にまでは効力が及ばないものとして解されるべきである(さらにいえば、後行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物を基準としたときに、①先行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物との数量的差異よりも、数量的差異が大きい物〔例えば、分量の違いがより大きい物〕や、②先行する政令処分の対象とする物と同じだけの数量的差異に加えて別の質的な差異も存在する物〔例えば、同じだけの分量の差異に加えて成分にも一定の差異がある物〕は、物としての遠近がより離れることになるため、やはり実質同一といえないと解するのが、一貫した解釈として相当である。)。
 仮に、後れて延長登録された特許権の効力が、前記ウの規範のもと、先行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物の生産・譲渡等にまで及ぶとすれば、先行する存続期間の延長の方が短かった場合において、その対象とする物の第三者による実施が、存続期間延長制度が規律する以上の期間にわたって禁じられることになる。このような帰結は、延長登録出願段階での範囲・単位を成分、分量、用法、用量、効能及び効果で短冊的に区分けし、特許権者と第三者との衡平を、その範囲・単位できめ細やかに調整しようとする存続期間延長制度の趣旨を大きく損なうものであるとともに、既に延長期間が終了した延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物に対して特許権の行使を受けるということは、第三者の予期を期待できるものではなく、特許権の効力を及ぼす実質的正当性に欠けるものともいえる。

3 あてはめ
 原告及び補助参加人は、本件12μg処分を理由とする本件延長登録1-2によって延長された本件特許権1の効力が、分量を24μgとする被告製品の生産・譲渡等にも及ぶ旨主張するところ、証拠(甲A3の2、甲A4、乙A1)及び弁論の全趣旨によれば、本件12μg処分の対象となった原告製品12μgと被告製品は、分量こそ12μgと24μgという違いがあるものの、成分、用法、用量、効能及び効果は同一である上、本件各発明1の内容に照らせば、上記分量の差異が技術的特徴や作用効果に違いをもたらすとはいい難いと考えられるところ、上記差異そのものの評価としては、前記ウの規範でいうところの僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異と見る余地があることは否定できない。
 しかしながら、証拠(甲A3の2、甲A4、乙A1)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、まさに先行する本件延長登録1-1の理由とされた本件24μg処分の対象となった原告製品24μgと成分、分量、用法、用量、効能及び効果が同一の物であるところ、上記延長登録に係る延長期間は既に終了したものである。後行する本件延長登録1-2によって存続期間を延長された本件特許権1の効力は、その延長登録の理由となった本件12μg処分の対象である原告製品12μgと分量のみを異にする医薬品を実質同一の範囲に含むものとして一定の広がりを有するとまではいえるものの、前記エでの説示に照らせば、原告製品24μgとの同一性に係る上記一事をもって、少なくとも、被告製品は原告製品12μgと実質同一ではなく、その生産・譲渡等にまで効力は及ばないというべきである(被告製品と原告製品24μgとの間で、仮に添加剤の違いがあり、これをもって「成分」に一定の差異があると評価されるのであれば、実質同一をより否定する要素といえる。)。

解説/検討

特許法第68条の2
第六十七条第四項の規定により同条第一項に規定する存続期間が延長された場合…(略)…の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第四項の政令で定める処分の対象となつた物…(略)…についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない。

本判決は、「本件12μg処分の対象となった原告製品12μgと被告製品は、…前記ウの規範(オキサリプラチン知財高裁判決参照)でいうところの僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異と見る余地があることは否定できない。」や、原告が提出した「オキサリプラチン知財高裁判決の定立した規範のもと、専ら技術的観点からの考察に基づき、本件12μg処分の対象となった原告製品12μgと被告製品との実質同一性を結論づけている」意見書につき、「上記意見書の述べるところは、技術的な考察の限りにおいて、当裁判所の見解と特段抵触、矛盾するものではないが、前提とする法解釈において相違するものであり、その意味において、当裁判所の採用するところとはいえない。」と述べており、オキサリプラチン知財高裁判決に照らした際に、実質同一であるということは、否定していない(むしろ、積極に解しているとも思われる。)にも関わらず、被告製品が先行処分に係る医薬品と同一であるとの一事をもって、後行処分に係る医薬品と実質同一ではなく、延長登録のされた特許権の効力は及ばないと判示した点が特徴的である。
 原告代理人でもある大渕哲也先生は、大渕哲也「医薬特許権存続期間延長基礎理論序説(1)-(4)」NBL1297号~1300号(2025年)において、行政(存続期間延長登録)と民事(延長特許権の効力範囲)を独立のものという前提に立って、延長特許権の効力範囲につき検討しておられると解される。
 このような考え方によれば、本件では、先行処分を理由とする延長登録は、後行処分を理由として延長登録された延長特許権の効力範囲とは無関係であり、実質同一であれば後行処分を理由として延長登録された延長特許権の効力が及ぶとの帰結になると思われる。しかるに、本判決は、「延長登録の範囲・単位とその結果存続期間が延長された特許権の効力範囲は、存続期間の延長登録制度全体の中で、整合的に解釈運用され、相互に調和することで、初めて特許権者と第三者との衡平という同制度の目的の実を果たすことができるというべき」として、存続期間延長登録と延長特許権の効力範囲の両者をリンクさせていることから、上記と異なる帰結になったものであると解される。

 なお、本判決自身が述べるとおり、「先行する政令処分(本件でいえば、本件24μg処分)を理由とした延長登録をしていない場合に、後行する政令処分(本件でいえば、本件12μg処分)を理由とする延長登録によって延長された特許権の効力範囲をどのように解するかという法的問題が残されている」。この点、本判決は、「本件のように、先行する政令処分を理由とした延長登録をしている場合との均衡を損ねることのないような解釈が検討されるべきではある」としており、本件同様の解決が図られるべきことを示唆していると解される。

 

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