【木質ボード事件】
投稿日:2026年4月30日 |
![]()
著者:弁理士 榊間 城作
|
参照条文/キーワード/論点 |
特許法29条2項/数値限定発明/進歩性/阻害要因 |
ポイント
※本件は、木質ボードを構成する木質小薄片の寸法等を数値範囲で特定した発明の進歩性が争点となった事案である。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第2部 |
| 判決言渡日 | 令和7年2月20日 |
| 事件番号 | 令和6年(行ケ)第10053号 |
| 事件名 | 特許取消決定取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
清水 響
菊池 絵理 頼 晋一 |
事案の概要
木質ボードを構成する素材の機械的パラメータの数値範囲で特定された発明の容易想到性が争点となった事案である。
原告(特許権者)は、出願段階で複数回の審査官面接を経て特許を取得した。その後、異議申立てを受け、審判官面接、複数回の訂正請求をするものの、クレームの数値範囲外の数値範囲が開示された主引例から容易想到と判断され、取消決定となった。原告は、本件決定の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
知財高裁は、主引例から木質板の技術常識を認定し、当該技術常識に照らし主引例の数値範囲を相違点に係る数値範囲とすることは当業者が有する通常の創作能力の発揮とし、取消決定を維持した。
争点
主引用例に開示された数値範囲を、本件発明の数値範囲に変更(最適化)することの容易想到性
特許庁の判断
「本件発明1において、長さを『10mm~35mm以下』と限定したことによる特段の効果が認められないから、本件発明1が、長さを『10mm~35mm以下』とした点で、甲1発明と比較して、進歩性を推認できる顕著な効果を持つとはいえない。」
「相違点1に係る本件発明1の構成による作用効果は、格別顕著なものとはいえず、甲1発明において、長さを変更することを阻害する要因があるともいえないから、甲1発明において、木質小薄片の長さのバラツキを小さくするにあたって、相違点1の本件発明1の数値範囲とした点は、適宜なし得る設計事項程度のものである。」
判旨
「木質板における木質薄片の寸法と、これを使用して得られる木質板の均質性、平滑性、強度、剛性及び密度の定性的な関係や、床材への応用における必要な特性は、木質板の技術分野に属する当業者であれば当然認識している技術常識であると認められる。
このような技術常識に照らせば、甲1発明において、木質薄片の寸法を木質板の用途に応じて調整、最適化し、その『繊維方向に沿った長さ』を甲1発明の寸法よりも小さくし、相違点1に係る本件発明1の構成である『10㎜以上35㎜以下』とすることは、当業者が有する通常の創作能力の発揮といえるから、当業者が容易に想到することができたものである。
なお、本件明細書の記載をみても、『寸法に係る構成』の数値範囲が臨界的意義を有するとは認められない。」
解説/検討
本件は、主引例に記載された数値範囲が本件発明の数値範囲外であったにもかかわらず、進歩性が否定された点に実務上の示唆がある。
機械系分野の発明では、数値範囲により発明を特定し、補正又は訂正に備えて複数の引き下がり値を明細書に記載することが少なくない。しかし、その数値範囲について、臨界的意義や顕著な効果が明細書上十分に裏付けられていない場合、当該数値範囲は「設計事項」又は「通常の創作能力の発揮」と評価されやすい。
本件でも、訂正により限定された数値範囲について、明細書中に十分な効果の記載がなく、訴訟段階で提出された実験成績証明書によっても相乗効果までは認められなかった。そのため、数値限定発明を権利化する場合には、出願時から、数値範囲の技術的意義、範囲内外での効果の差異、臨界的意義を明細書に具体的に記載しておくことが重要である。
