【SEPのFRAND料率に関するパンテック対ASUS事件】

 

投稿日:2026年5月8日

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著者:弁護士 多田 宏文
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

標準必須特許(SEP)/FRAND料率

 

ポイント

 本判決は、標準必須特許(SEP)に基づく損害額算定において、サムソンアップル大合議判決後の国際的な動向も意識したうえで、FRAND料率の算定方式を判示した。

 

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第40部
判決言渡日 令和7年4月10日
事件番号 令和4年(ワ)第7976号
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
中島 基至
武富 可南
古賀 千尋
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 本件は、原告が、被告に対して、2件の標準必須特許(特許第4982653号及び5694479号)に基づく差止等請求及び損害賠償請求を行ったものである。裁判所は、差止請求は棄却し、損害賠償請求を一部認容した。

争点

標準必須特許(SEP)における損害額ないしFRAND料率の算定方法

判旨

 標準必須特許(SEP)における損害額ないしFRAND料率の算定方法に係る判示内容は、以下のとおりである。

 「第7 損害額の算定(FRAND条件によるライセンス料相当額〔争点5〕)
 本件請求のうち、FRAND条件によるライセンスに係る実施料相当額の範囲内の損害賠償に関する部分は、被告は権利の濫用を主張するものではなく、前記において説示したところによれば、理由がある。以下、算定基準を示した上、上記実施料相当額を算定する。

1 算定基準
 特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり、「特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」と規定している。そうすると、同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。そして、実施に対し受けるべき料率は、①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきであり(知的財産高等裁判所平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日特別部判決〔令和元年大合議判決〕)、上記の理は、FRAND条件による標準必須特許の実施に対し受けるべき料率(以下「FRAND料率」という。)についても異なるところはない。
 そして、FRFRAND料率については、標準規格に準拠した製品の製造等に実施される標準必須特許のグローバルな性質及び膨大な特許数に鑑みると、①当該標準必須特許の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料のグローバルな相場等も考慮に入れつつ、②膨大な特許数の個別価値をそれぞれ認定するのは実務上困難であるから、各標準必須特許の価値が全て同一であるものと推認し、全標準必須特許の価値を全標準必須特許の数で割ることによって一標準必須特許の価値を算定する一方、当該標準必須特許の実施料率を累積した実施料の合計額が合理的な範囲にとどまるようにすべきであり、③この場合において、全標準必須特許を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献を考慮するほか、④FRAND料率は、文字どおり公正かつ合理的で非差別的な条件をもって、本来的には必須宣言特許権者と必須特許実施者との間で誠実交渉し可及的速やかにグローバルで合意されるべきものであるから、当該合意を後押しする観点から、当事者間の交渉経過、必須特許実施者におけるFRAND条件によるライセンスを受ける意思その他訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきである。

2 本件への当てはめ
⑴ 基本的枠組み
 前記認定に係る交渉経過等及び弁論の全趣旨によれば、侵害品である被告製品の売上高を基準とし、そこに、FRAND条件による本件特許の実施に対し受けるべき料率(以下「本件FRAND料率」という。)を乗じて算定することとし、本件FRAND料率については、LTE規格に係る全標準必須特許の実施料率(以下「LTE規格全実施料率」という。)をLTE規格に係る全標準必須特許の数(以下「LTE規格全特許数」という。)で割り、これに本件特許の数を乗ずることによって算定するのが相当である。
 もっとも、LTE規格全実施料率について、原告は、●(省略)●を直接の根拠として27%であると主張するのに対し、被告は、LTE規格に準拠していることが売上げに寄与したと認められる割合(以下「LTE規格寄与率」という。)を25%とした上、Unwired Planet v. Huawei判決、TCL v. Ericsson判決、Huawei v. Samsung判決(乙41ないし43)が示したLTE規格の累積ロイヤリティ料率(以下、単に「累積ロイヤリティ料率」という。)の各中間値の平均値7.9%を、上記25%(LTE規格寄与率)に乗じた0.0198%とすべきであるとし、当事者双方提示に係る本件FRAND料率が余りにも大きくかけ離れていたため、当事者間において合意に至らなかったものである。
 このような交渉経過等を踏まえ、本件においては、FRAND料率の算定方法、売上高、LTE規格全実施料率及びLTE規格全特許数の順で、以下検討する。

⑵ FRAND料率の算定方法
ア 被告の算定方法の当否
 被告は、LTE規格寄与率25%に対し、Unwired Planet v. Huawei判決、TCL v. Ericsson判決、Huawei v. Samsung判決で示された累積ロイヤリティ料率の各中間値の平均値7.9%を乗じた0.0198%とすべきであると主張する。
 そこで検討するに、Unwired Planet v. Huawei判決は、「累積ロイヤリティ料率」を8.9%としているところ、同判決は、4Gの売上高に対し、4Gの全標準必須特許に係る実施料率として「累積ロイヤリティ料率」を乗じていると解されることからすると、同判決にいう「累積ロイヤリティ料率」とは、本件にいう「LTE規格全実施料率」と同義をいうものであり、この理は、被告指摘に係るTCL v. Ericsson判決、Huawei v. Samsung判決についても異なるところはない。そうすると、被告の主張は、本判決にいう「LTE規格全実施料」に対し、更に「LTE規格寄与率」を重ねて乗ずるものであるから、極めて過小な実施料率を算定するものであり、実施料のグローバルな相場等に照らしても、合理的なものといえないことは明らかである。
 これに対し、被告は、本判決にいう算定方法について、アップルサムソン大合議判決にいう「規格に準拠していることの貢献割合」を考慮していないため、同大合議判決に反する旨主張する。しかしながら、本判決にいう「LTE規格全実施料率」は、いわゆるロイヤリティ・スタッキングの防止という観点から、当該標準必須特許の実施料率を累積した実施料の合計額が合理的な範囲にとどまるように算定されるべきものであり、かつ、全標準必須特許を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献を考慮して算定されるべきものであることは、上記において説示したとおりである。そうすると、被告の主張は、アップルサムソン大合議判決でいえば、「規格に準拠していることの貢献割合」を実質的には2回重ねて乗ずることになるから、極めて過小な実施料率を算定するものである。
 したがって、被告の主張は、アップルサムソン大合議判決にいう「累積ロイヤリティ」と、Unwired Planet v. Huawei判決にいう「累積ロイヤリティ」について、その文言を形式的に捉えてこれらを同義の概念であると誤解するものであり、両判決の趣旨目的を正解するものとはいえない。
 そもそも、損害額の算定は、当事者の主張立証の限度において裁判所の総合的かつ裁量的な判断で定められるべきところ、アップルサムソン大合議判決においては、当事者双方において「累積ロイヤリティ料率」を5%とすることを前提として主張がされていたのに対し、本件においては、アップルサムソン大合議判決にいう「累積ロイヤリティ料率」なる概念が具体的かつ正確に主張立証されていないのであるから、当該概念を前提とする算定方法は、少なくとも本件に適切なものとはいえず、また、当事者双方の主張立証及び標準規格の内容が異なる以上、アップルサムソン大合議判決が示したFRAND料率と本件FRAND料率を比較するのも、当を得たものとはいえない。
 のみならず、アップルサムソン大合議判決の後においては、令和元年大合議判決が、特許法102条3項の算定方式全般の重要な指針を改めて示しているのであるから、FRAND料率については、標準必須特許のグローバルな性質に鑑みても、令和元年大合議判決が説示する判断枠組みに基づき、裁判例の国際的な展開をも踏まえ、日本においてもグローバルな変化に対応し、FRAND料率を認定するのが相当である。」

 

解説/検討

 本判決は、サムソンアップル大合議判決を意識しつつも、その後の国際的な動向も考慮して、標準必須特許に基づく損害額算定式を示したものである。

 具体的には、本判決は、標準必須特許に基づく損害賠償請求について、特許法102条3項を適用の上、以下の式で損害賠償額を算定している。

①対象製品売上×②対象規格全実施料率×③原告主張の特許ファミリー数/規格の全特許ファミリー数

 これに対して、サムソンアップル大合議判決の算定式は以下のとおりである。
(1)対象製品売上×(2)売上に標準規格への準拠が貢献した割合(5%)×(3)累積ロイヤリティ料率(標準必須特許全てあわせた場合の料率)×(4)1/標準必須特許総数

 両者を比較すると、本判決では、「売上に標準規格への準拠が貢献した割合(5%)」を乗じていない点が大きな相違であり、その分、本判決の算定方法で算定される損害額は大きくなる。なお、本判決は、本件の事情の下でこれを乗じると二重評価になると判示している。

 もっとも、本判決は一部認容判決であるから、認容された損害賠償額は請求額である1000万円以下と思われ、事案としては、インパクトのある金額にはなっていない。

 しかしながら、算定方法としては、サムソンアップル大合議判決後の国際的な動向を意識し、より大きな損害額が認定されうるものとなっている。
 
 

 

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