【進歩性判断における課題の共通性・動機付けの否定(リーン車両・ドローンへの適用困難)】
投稿日:2026年5月12日 |
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著者:弁護士 大野 浩之
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参照条文/キーワード/論点 |
進歩性判断/課題の共通性/動機付け欠如 |
ポイント
※引用発明の課題は「バッテリ温度低下時の電力不足」であり、「エネルギー貯蔵量」低下とは異なるため、課題の共通性は否定された。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第3部 |
| 判決言渡日 | 令和7年3月24日 |
| 事件番号 | 令和6年(行ケ)第10049号 |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
中平 健
今井 弘晃 水野 正則 |
事案の概要
ヤマハ発動機株式会社が「ビークル」とする発明(特願2021-534025号)に対して、拒絶審決を受けたことから、審決取消訴訟を提起した事案である。
知財高裁では、特許庁での拒絶審決が誤っているものとして、当該審決を取り消した。
(本願)https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/WO-A-2021-015164/50/ja
1 本件補正発明(下線部は補正部分である。)
「ビークルであって、
前記ビークルは、リーン姿勢で旋回可能に構成された車両又はドローンであり、
前記ビークルは、
回転するクランク軸を有し、燃焼によって生じるパワーを前記クランク軸のトルク及び回転速度として出力するエンジンと、
前記クランク軸と連動するよう設けられ前記エンジンに駆動され発電する発電用電動機と、
前記発電用電動機で発電された電力をエネルギーとして貯蔵するエネルギー貯蔵装置と、
前記発電用電動機とは異なる、前記エネルギー貯蔵装置及び/又は前記発電用電動機からの電力の供給を受けてパワーを出力する、推進用電動機と、
前記推進用電動機から出力されたパワーによって駆動される推進器と、
前記エンジンと、前記推進用電動機と、前記発電用電動機とを制御する制御装置であって、加速指示に応じて前記推進用電動機に供給される電力を増大するよう前記エンジン及び前記発電用電動機を制御し、
前記推進器が前記推進用電動機から出力されたパワーのみによって駆動される場合、前記エネルギー貯蔵装置のエネルギー貯蔵量に関わらずに、前記加速指示を契機として、前記エネルギー貯蔵装置及び/又は前記発電用電動機から供給される電力で駆動される前記推進用電動機により前記加速指示に応じた目標パワーを出力するように、前記加速指示よりも前に、少なくとも前記発電用電動機で発電された電力の供給の受け及び前記推進用電動機に対し電力の供給を行なう前記エネルギー貯蔵装置のエネルギー貯蔵量に応じて前記発電用電動機の負荷トルクを減少することによりエンジンの回転速度を増速する制御装置と、を備える。」


判旨
2 一致点及び相違点
【一致点】
「ビークルであって、
ビークルは、車両であり、
ビークルは、
回転するクランク軸を有し、燃焼によって生じるパワーをクランク軸のトルク及び回転速度として出力するエンジンと、
クランク軸と連動するよう設けられエンジンに駆動され発電する発電用電動機と、
発電用電動機で発電された電力をエネルギーとして貯蔵するエネルギー貯蔵装置と、
発電用電動機とは異なる、エネルギー貯蔵装置及び/又は発電用電動機からの電力の供給を受けてパワーを出力する、推進用電動機と、
推進用電動機から出力されたパワーによって駆動される推進器と、
エンジンと、推進用電動機と、発電用電動機とを制御する制御装置であって、加速指示に応じて推進用電動機に供給される電力を増大するようエンジン及び発電用電動機を制御し、推進器が推進用電動機から出力されたパワーのみによって駆動される場合、エネルギー貯蔵装置の供給可能な電力に関わらずに、加速指示を契機として、エネルギー貯蔵装置及び/又は発電用電動機から供給される電力で駆動される推進用電動機により加速指示に応じた目標パワーを出力するように、加速指示よりも前に、少なくとも発電用電動機で発電された電力の供給の受け及び推進用電動機に対し電力の供給を行なうエネルギー貯蔵装置の供給可能な電力に応じて発電用電動機の負荷トルクを減少することによりエンジンの回転速度を増速する制御装置と、を備える。」
「【相違点】
ビークルについて、本件補正発明は、『リーン姿勢で旋回可能に構成された』車両又は『ドローン』であるのに対し、引用発明は、そのようなものであるか明らかでなく、また、制御装置が、推進器が推進用電動機から出力されたパワーのみによって駆動される場合、エネルギー貯蔵装置の供給可能な電力に関わらずに、加速指示を契機として、エネルギー貯蔵装置及び/又は発電用電動機から供給される電力で駆動される推進用電動機により加速指示に応じた目標パワーを出力するように、加速指示よりも前に、少なくとも発電用電動機で発電された電力の供給の受け及び推進用電動機に対し電力の供給を行なうエネルギー貯蔵装置の供給可能な電力に応じて発電用電動機の負荷トルクを減少することによりエンジンの回転速度を増速することについて、本件補正発明は、エネルギー貯蔵装置の『エネルギー貯蔵量に関わらずに』、加速指示を契機として、エネルギー貯蔵装置及び/又は発電用電動機から供給される電力で駆動される推進用電動機により加速指示に応じた目標パワーを出力するように、エネルギー貯蔵装置の『エネルギー貯蔵量に応じて』発電用電動機の負荷トルクを減少することによりエンジンの回転速度を増速するものであるのに対し、引用発明は、バッテリ9(エネルギー貯蔵装置)の『バッテリ温度が低く供給可能な電力が低下する場合でも』、アクセルペダルの操作量が増大され(加速指示を契機として)、バッテリ9(エネルギー貯蔵装置)及び/又は発電機2(発電用電動機)から供給される電力(供給される電力)で駆動される電動機4(推進用電動機)によりアクセル操作量APS(加速指示)に応じた駆動出力が得られる(目標パワーを出力する)ように、バッテリ9(エネルギー貯蔵装置)の『バッテリ温度が低く供給可能な電力が低下する場合にはバッテリ温度が低いほど』同じ出力を保ちつつエンジン1及び発電機2の動作点が高回転速度且つ低トルク側へと変更しエンジン1の余裕トルクを増大させる(発電用電動機の負荷トルクを減少することによりエンジンの回転速度を増速する)ものである点。」
3 リーン姿勢で旋回可能に構成された車両
「ア 本件補正発明の『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』の意味について
本願明細書等に『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』の定義はないが、本願明細書等の段落【0022】には、『リーン姿勢で旋回可能に構成されたビークルとしては、例えば、リーン姿勢で旋回可能に構成された鞍乗型車両(例えば、自動二輪車、自動三輪車)が挙げられる。』との記載が、段落【0020】には、『ビークルは、例えば車輪を有する車両である。』との記載が、段落【0021】には、『鞍乗型車両(straddled vehicle)とは、運転者がサドルに跨って着座する形式のビークルをいう。鞍乗型車両としては、例えば、スクータ型、モペット型、オフロード型、オンロード型の自動二輪車が挙げられる。また、鞍乗型車両としては、自動二輪車に限定されず、例えば、自動三輪車、ATV(All-Terrain Vehicle)等であってもよい。自動三輪車は、2つの前輪と1つの後輪とを備えていてもよく、1つの前輪と2つの後輪とを備えていてもよい。』との記載が、それぞれ存在しており、これらの本願明細書等の記載によれば、本件補正発明の『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』は、車輪を有し、この車輪が回転することによって陸上を走行する車であって、リーン姿勢で旋回可能に構成されたものであると認められる。」
「イ 引用発明の車両が『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』を除外するかについて
本件審決は、本件容易想到性判断部分において、『エンジンと発電用電動機とエネルギー貯蔵装置と推進用電動機とを備えたビークルが、リーン姿勢で旋回可能に構成された車両であること。』が周知技術(本件周知技術)であると認定しているところ、証拠(甲4、5)及び弁論の全趣旨によれば、『エンジンと発電用電動機とエネルギー貯蔵装置と推進用電動機とを備えたビークル』として『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』が存在することは周知技術であると認められる。
引用発明は、駆動力制御装置を備える車両であるが、この駆動力制御装置は、『アクセルペダルの操作量が増大されるのに応じて電動機4に供給される電力が増大していくようエンジン1及び発電機2の制御を行』うものであって(前記第2の3(1))、引用発明の車両はアクセルペダルを備えるものであると認められる。しかし、証拠(乙1~3)によれば、アクセルペダルが『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』にも採用され得るものであることは、本件優先日より前に当業者に周知であったものと認められる。
以上によれば、当業者が引用文献の記載に触れた場合に、『アクセルペダル』との記載があることをもって、引用発明の『車両』から、直ちに、『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』を除外するとはいえない。」
「ウ(ア)本件審決が、引用発明の車両を『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』とすることに格別の困難性が認められないと判断した根拠となる理由(課題の共通性)について
本件審決は、本件容易想到性判断部分において、『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両及びそのエネルギー貯蔵装置は一般的に小型であってそれに伴うエネルギー貯蔵装置から供給可能な電力が低いという状態は引用発明のバッテリ温度が低下した場合と共通する課題を内在するものともいえ、さらには、エネルギー貯蔵装置に限らず小型化及び軽量化はごく一般的な課題であって引用発明にも当然に要請される内在する課題でもあって(例えば、引用文献1の【従来の技術】に関する段落【0003】の『バッテリの容量及び重量を低減できる』なる記載を参照。)、一般的にエネルギー貯蔵装置が小型である周知技術のリーン姿勢で旋回可能に構成された車両における課題とも共通するともいえる』と説示し、この説示内容を、引用発明の車両をリーン姿勢で旋回可能に構成された車両とすることに格別の困難性が認められないとの判断の根拠の一つとしている。
上記説示内容が、引用発明の車両をリーン姿勢で旋回可能に構成された車両とすることに格別の困難性が認められないとの判断の根拠となる理由について、本件審決は明確に示していないが、上記の説示によれば、引用発明が解決する課題と、リーン姿勢で旋回可能に構成された車両が一般的に有する課題が共通することから、当業者において、引用発明の車両をリーン姿勢で旋回可能に構成された車両とする動機付けがあるとの趣旨であると解される。
(イ)引用発明の課題について
引用文献には、『エンジンを低回転かつ高負荷で運転すると、エンジンの余裕トルクが小さくなるため、エンジンの応答性、更には発電機の応答性が低下し、車両の急加速時や補機負荷の急増時に必要な電力を発電機から電動機に供給できない状況が生じる』(段落【0006】)、『このような状況であっても、不足電力分をバッテリから供給できれば加速応答性を損なわない良好な運転性を実現できるのであるが、バッテリ温度が低いとバッテリから供給可能な電力が小さくなって上記加速に必要な電力を供給できず、加速不良を生じてしまう。』(段落【0007】)、『本発明は、上記技術的課題を鑑みてなされたものであり、バッテリの温度が低いときに、バッテリから加速に必要な電力を供給できなくなるのを防止し、良好な加速応答性を確保することである。』(段落【0008】)、『蓄電装置の最大出力は蓄電装置の温度によって決まり、上記不足電力がこの最大出力を上回ると蓄電装置より十分な電力が供給できず、加速不良の原因となってしまうが、本発明を適用することにより、蓄電装置温度が低く最大出力が小さいときは発電出力の応答が早められ、発電出力の応答遅れによる不足電力が常に蓄電装置の最大出力以下に抑えられる。これにより、加速に必要な電力を蓄電装置から十分に補うことができないことによる加速不良が防止され良好な加速応答性を確保することができる。(段落【0014】)との記載がある(別紙『引用文献の記載』)。
引用文献の上記各記載によれば、引用発明は、バッテリの温度が低いときに、バッテリから供給できる電力が小さいという課題を解決するものであると認められる。
(ウ)『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』が有する課題、及び引用発明の課題との共通性の有無について
本件審決における上記(ア)の説示内容のうち、まず、『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両及びそのエネルギー貯蔵装置は一般的に小型』であることについては、その根拠が示されておらず、これを裏付ける証拠が本件で提出されていることもない。
また、仮に、『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両及びそのエネルギー貯蔵装置は一般的に小型』であるといえるとしても、車両に備わるエネルギー貯蔵装置(バッテリ)が小さい場合に、当該エネルギー貯蔵装置から供給可能な電力が低いと認めるに足りる証拠はない。電力とは『電流による単位時間当たりの仕事』を意味するところ(広辞苑第七版)、バッテリが小さい場合に、当該バッテリから供給可能な電力の総量が小さいといえたとしても、このことは、当該バッテリがある時点において供給する電力が低いことを直ちに意味するものではない。
そうすると、上記(イ)のとおり、引用発明は、バッテリの温度が低いときに、バッテリから供給できる電力が小さいという課題を解決するものであるところ、『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』について、エネルギー貯蔵装置(バッテリ)から供給可能な電力が低いとの課題が一般的に存在すると認めるに足りないから、引用発明が解決する課題と、『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』が一般的に有する課題が共通するとはいえない。したがって、引用発明の課題と、『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』が一般的に有する課題が共通するために、当業者において、引用発明の車両を『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』とする動機付けがあると認めることもできない。」
「(オ)被告の主張の検討
被告は、前記第3の〔被告の主張〕4のとおり、引用文献の記載に接した当業者は、引用発明の課題として、加速に必要な不足電力分をバッテリから供給できないことによる加速不良を解消し、良好な加速応答性を確保することを認識するものといえ、本件審決における引用発明の課題の認定に誤りはないと主張する。
しかし、引用文献の段落【0006】ないし【0008】及び【0014】の記載によれば、引用発明は、バッテリの温度が低いときに、バッテリから供給できる電力が小さいという課題を解決するものであると認められることは、前記(イ)のとおりである。
引用文献の段落【0039】ないし【0042】は、駆動力制御装置が適用される車両において、発電機2から電動機4に供給される電力が不足すると、バッテリ9から電動機4に不足分の電力が供給されるが、この不足分がその時点におけるバッテリ9の最大出力を超えてしまうと、電動機4へ供給できる電力が不足して駆動に使用できる電力が減少し、加速応答性が低下し、かつ、発電出力の応答はエンジン1の余裕トルクが小さいほど遅くなるという一般的な問題を挙げている。しかし、引用文献は、これに次いで、段落【0043】において、『更に、バッテリ温度が低い時にはバッテリ9の最大出力が低下するため、電動機4へ供給される電力が不足しやすくなる。』とあり、上記のバッテリ温度が低い場合には、前記の一般的な問題に加えて、バッテリ温度が低い場合の特有の問題も生じることを指摘しており、『そこで、本発明に係る駆動力制御装置では、バッテリ9の温度を検出し、検出された温度が低いときは同じ出力を保ちつつエンジン1及び電動機2の動作点を高回転速度且つ低トルク側へと変更し、エンジン1の余裕トルクを増大させている。』(段落【0045】)としており、これらの引用文献の記載からも、引用文献はバッテリの温度が低い場合の構成を示すものであると認められる。したがって、引用文献の段落【0040】ないし【0042】及び【0044】の記載や、段落【0043】に『更に』との文言が用いられていることをもって、引用発明の課題が被告の上記主張のとおりの内容であると認めることはできない。」

「そして、本件審決は、『エネルギー貯蔵装置の温度が低下した場合やエネルギー貯蔵量(SOC)が低下した場合に、エネルギー貯蔵装置の供給可能電力が低下すること。』が周知の技術的事項であると認定しているが(本件周知事項)、上記内容が周知の技術的事項であるのであれば、当業者は、エネルギー貯蔵装置の温度が低下した場合、エネルギー貯蔵量が十分(例えば100%)であっても供給可能電力が低下することを認識するといえる。そうすると、当業者は、エネルギー貯蔵装置の温度が低下した場合と、エネルギー貯蔵量が低下した場合とでは、状況が異なると理解するといえ、エネルギー貯蔵装置の温度が低下した場合に対応した構成を、エネルギー貯蔵量が低下した場合に採用する理由があると直ちに認めることはできず、上記構成をエネルギー貯蔵量が低下した場合に採用する理由があることの根拠を本件審決が示しているとも解されない。
以上によれば、引用文献の記載に接した当業者が、引用発明の課題として、『バッテリ温度が低い時に』という前提を捨象して、加速に必要な不足電力分をバッテリから供給できないことによる加速不良を解消し、良好な加速応答性を確保することを認識するとは認められず、被告の上記主張は採用することができない。」
4 ドローン
「本件補正発明のドローンにつき、本願明細書等に定義は示されていないが、本願明細書等の段落【0020】には、『航空機としては、特に限定されず、例えば、回転翼機、固定翼機などが挙げられる。回転翼機としては、ヘリコプター、マルチコプター、ドローンが挙げられる。』と記載されており、ドローンは航空機のうち回転翼を有するものであり、回転翼を回転させて大気中を飛行するものであると認められる。
これに対し、引用発明は車両の発明である(前記第2の3(1)ア)。そして、引用発明の車両は駆動輪を有するものであり、この駆動輪は電動機4の駆動出力によって駆動されるものである(前記第2の3(1)ア)。このように、引用発明の車両は、電動機4の駆動出力によって、駆動輪が動力を路面に伝えて走行するものであるから、車輪を有し、この車輪が回転して陸上を走行する車であると認められる。
そうすると、車輪が回転して陸上を走行するものである引用発明の車両と、回転翼を回転させ大気中を飛行するものである本件補正発明のドローンとは、構造・移動形態が本質的に異なるといえる。そして、車両をドローンとすることが当業者の技術常識であるとも認められない。
さらに、本件審決は、本件容易想到性判断部分において、『エンジンと発電用電動機とエネルギー貯蔵装置と推進用電動機とを備えたビークルが、リーン姿勢で旋回可能に構成された車両であること』を周知の技術(本件周知技術)と認定するが、ドローンが『エンジンと発電用電動機とエネルギー貯蔵装置と推進用電動機とを備えた』ものであることを認めるに足りる証拠を示していないし、本件容易想到性判断部分において、引用発明の車両をドローンとすることにつき格別の困難性は認められないと判断する根拠として、ドローンについて『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両と同様に一般的に小型でエネルギー貯蔵装置も小型であること』を挙げるが、これを認めるに足りる証拠を示していない。
そうであるとすれば、引用発明の車両をドローンにすることに格別の困難性は認められないとする本件審決の判断は、その根拠を欠くものであり、判断の理由を示しておらず、誤りがあるというべきである。
イ 被告の主張の検討
被告は、前記第3の〔被告の主張〕1のとおり、引用発明の車両の対象としては、任意の車両を対象とし得るものであって、四輪自動車に限られず、リーン姿勢で旋回可能に構成された車両又はドローンを特段排除するものではないと主張する。
しかし、上記アのとおり、引用文献の記載によれば、引用発明の『車両』は車輪が回転して陸上を走行する車であると認められ、ドローンは含まれないものであるから、仮に引用発明の車両が任意の車両を対象とし得るものであるとしても、引用発明がドローンを排除しないとはいえず、被告の上記主張は採用することができない。」
5 結論
「以上のとおり、引用発明の車両を、『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』とすることに格別の困難性は認められないとする本件審決の判断は、その根拠を欠くものであり、判断の理由を示しておらず、誤りがあるというべきであり(前記⑵ウ(エ))、引用発明の車両をドローンにすることに格別の困難性は認められないとする本件審決の判断は、その根拠を欠くものであり、判断の理由を示しておらず、誤りがあるというべきである(前記⑶ア)。したがって、引用発明の車両を、『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』又はドローンとすることに格別の困難性は認められないとの本件審決の判断は、誤りである。」
解説/検討
引用文献1における「車両」を「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両又はドローン」とすることができないとして、容易想到性を否定した裁判例である。
本件審決では、本件容易想到性判断部分において、「エンジンと発電用電動機とエネルギー貯蔵装置と推進用電動機とを備えたビークルが、リーン姿勢で旋回可能に構成された車両であること。」が周知技術(本件周知技術)であると認定している。
本件判決でも、「エンジンと発電用電動機とエネルギー貯蔵装置と推進用電動機とを備えたビークル」として「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両」が存在することは周知技術であると認められると判断している。
さらに、本件判決では、引用発明は、駆動力制御装置を備える車両であるが、この駆動力制御装置は、「アクセルペダルの操作量が増大されるのに応じて電動機4に供給される電力が増大していくようエンジン1及び発電機2の制御を行」うものであって、引用発明の車両はアクセルペダルを備えるものであると認められる。しかし、証拠(乙1~3)によれば、アクセルペダルが『リーン姿勢で旋回可能に構成された車両』にも採用され得るものであることは、本件優先日より前に当業者に周知であったものと認められるとし、当業者が引用文献の記載に触れた場合に、「アクセルペダル」との記載があることをもって、引用発明の「車両」から、直ちに、「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両」を除外するとはいえないとまで判断している。
そうであれば、引用文献1における「車両」を「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両又はドローン」とすることで進歩性を認めることにはならないようにも思われるが、引用発明の課題が「バッテリ温度低下による電力不足」であるのに対し、リーン車両について同様の課題が一般的に存在するとは認められず、課題の共通性を否定している点、また、バッテリの「温度低下」と「エネルギー貯蔵量低下」は異なる状況であり、温度低下への対策をそのまま貯蔵量低下に適用する動機付けも認められないとしている点では、踏み込んだ判断をしており、中間処理の応答の際に利用できる可能性があり、興味深いものとはなっている。
