【サプリメントに含まれる2成分の用量範囲を組み合わせて特定した発明について、当該用量範囲の組み合わせに関する課題と効果が明細書に開示されたものであるか否かが争われた事例】

 

投稿日:2026年5月12日

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著者:弁理士 梅田 慎介
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

進歩性(特許法第29条第2項)

 

ポイント

※栄養処方物(サプリメント)に関する発明の拒絶審決取消請求事件。請求項1は、ω-6脂肪酸の用量範囲と抗酸化剤(ポリフェノール)の用量範囲とを組み合わせて特定する。
※審決では、両用量範囲は引用文献2及び周知例に基づき設計事項の範疇とされた。
※原告は、明細書中の一応の「課題」及び「作用」に関する記載から両用量範囲の組み合わせに関する課題を捻り出して非容易想到性及び効果顕著性を争った。裁判所は、明細書にはそのような具体的な発明の課題は開示されていないとして進歩性欠如の判断を維持した。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第4部
判決言渡日 令和7年1月21日
事件番号 令和6年(行ケ)第10017号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
宮坂 昌利
本吉 弘行
岩井 直幸
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

本件発明(拒絶査定時の請求項1)
【請求項1】
 1以上の栄養処方物、並びに前記1以上の栄養処方物を使用するためのパッケージ、ラベルおよび指示を含む、包装された製品であって、
前記1以上の栄養処方物のうちの少なくとも1つは、異なる供給源からの、ω-6脂肪酸および抗酸化剤の混合物を含み;
前記1以上の栄養処方物は、平均1日量で1~40gのω-6脂肪酸および1日当たり25mg~10gの抗酸化剤の用量を集合的に提供し、前記抗酸化剤の用量は、少なくとも1日当たり5mgの1以上のポリフェノールを含む、前記製品。

争点

 自社先願(国際公開第2009/131939号)である引用発明2に対する次の相違点(相違点2-4)の進歩性(取消事由4)。

引用発明2との相違点
 本願発明は、1以上の栄養処方物は「平均1日量で1~40gのω-6脂肪酸および1日当たり25mg~10gの抗酸化剤の用量を集合的に提供し、前記抗酸化剤の用量は少なくとも1日当たり5mgの1以上のポリフェノールを含む」のに対し、引用発明2は、そのような特定を有さない点

原審(原々審)の判断

審決での判断‐設計事項で進歩性なし
(1)ω-6脂肪酸用量
 引用文献2には、ω-6脂肪酸の用量範囲として、1~35gの範囲内がふさわしい旨が示されているから、1日最適量の脂肪酸を含む引用発明2の組成物について、ω-6脂肪酸の用量を1~40gとすることは、当業者が普通になし得たことである。

(2)抗酸化剤・ポリフェノール用量
 また、ポリフェノールが抗酸化作用を有することは周知であるから、引用発明2の組成物に、抗酸化物質としてポリフェノールを含ませることは当業者が容易に想到し得たことである。
 引用文献2には、抗酸化物質を含めて均衡のとれた組成物とすべき旨が示唆され、また、栄養成分や有効成分の含有量を適量に設定すべきことは当然ともいえるから、引用発明2の組成物に含ませるポリフェノールの含有量を適量に設定することは、当業者が普通に考慮すべき設計事項である。
 その際の具体的な含有量を25mg~10gとすることも、通常の範囲内の設計事項にすぎない(一例として、引用文献3)。

(3)効果
 請求人は、本願発明は、ω-6脂肪酸と、ポリフェノールを含む抗酸化剤の合計の量とを具体的に制限する点で引用文献2とは異なる等の主張をするが、ポリフェノールや抗酸化剤も含め、いかなる栄養成分であれ、過剰に摂取すれば有害であることは、周知例1、周知例2にも示されるように技術常識であり、ω-6脂肪酸及びポリフェノールを含む抗酸化剤の用量を適量に限定し、所望の効果を得ることは、当業者が普通に予測することである。

判旨

1 原告の主張
(1)課題

 抗酸化剤、特にポリフェノール(これはファイトケミカルでもある。)は、脂質であるω-6脂肪酸の必要量に影響し、抗酸化剤自体が強力な性質を有していることから、その摂取量に注意を要する栄養素であり、それらの栄養素については、健康上有益な効果が得られる範囲が狭いため、その摂取する用量を適切に管理する必要がある。本願発明が解決しようとする課題は、過剰な摂取が健康に害を与える可能性を有しているポリフェノールを含む抗酸化剤と、ω-6脂肪酸の摂取量の合計を、有益な効果が得られる適切な摂取用量を設定するために具体的に制限するという技術的思想に基づくものである。
 引用発明2は、あくまで栄養素として脂質であるω-3脂肪酸とω-6脂肪酸に着目し、それらの用量や比率を調整して最適な組成物を製造しようとするものであり、引用文献2中には、ポリフェノールの適切な摂取用量に関する記載や具体的なω-6脂肪酸、抗酸化剤、及びポリフェノール混合物における各成分の用量に関する記載は存在しないし、ポリフェノールを含む抗酸化物質の過剰摂取を懸念することは何ら開示されておらず、抗酸化剤の摂取量に上限を設けることも開示されていない。
 そうすると、引用発明2と本願発明とはその課題も解決手段も異なるものである。

(2) ω-6脂肪酸用量
 主張なし

(3) 抗酸化剤・ポリフェノール用量
 引用文献3の表1は、単にポリフェノールを一定量含有する組成物を開示しているのみであって、当該組成物に含有される他の抗酸化剤の量や他の組成物由来のポリフェノール量については何ら開示していない。また、引用文献3には、ポリフェノールを含む抗酸化物質の過剰摂取を懸念すること、抗酸化剤の摂取量に上限を設けることも開示されていない。

(4)効果
 周知例1の記載は抗酸化成分に関して「一度にたくさん摂り過ぎると…可能性があるので注意を要する」といった漠然としたものであり、抗酸化成分を過剰に摂取した場合に有害となるといった具体的な記載内容やそのような内容を示唆する記載は認められない。
 周知例2の記載も・・・。
 また、本件審決のいう技術常識を前提としても、各栄養成分について、過剰な摂取量ではない、健康上有効な摂取量を認識するということは別問題であり、「ω-6脂肪酸及びポリフェノールを含む抗酸化剤の用量を適量に限定し、所望の効果を得ること」を「当業者が普通に予測する」ことが可能であったとはいえない。

2 裁判所の判断
(1)課題

 本願翻訳文等の【0008】~【0010】によれば、本願発明の課題は、「脂質、抗酸化剤等の栄養素の不均衡または過剰な送達を抑制し、系内の生成物を消費者が利用できるような最適範囲で栄養素を送達させるためにデザインされ、相互作用、量、および消費者の見解での好みを保持するように適合された天然に存在する食品を消費者が消費するように導かれる目的に合わせた製品の提供」であると認められる。本願翻訳文等全体をみても、1日あたりの摂取量について、ω-6脂肪酸について【0172】に、抗酸化剤について【0159】に、ポリフェノールについて【0158】に個別の記載があるにとどまり、ポリフェノールを含む抗酸化剤と、ω-6脂肪酸の摂取量の合計を具体的に制限することについては記載も示唆もない。
 したがって、本願発明と引用発明2とは、脂質及び抗酸化物質等の栄養素を最適な範囲で送達する方法や組成物を提供するという共通の課題を有する。

(2)抗酸化剤・ポリフェノール用量
 本願翻訳文等には、ω-6脂肪酸、抗酸化剤、ポリフェノールの1日当たりの摂取量が具体的に関連付けられずに個別に記載されているだけであり、ポリフェノールを含む抗酸化剤と、ω-6脂肪酸の摂取量の合計を具体的に制限することについては記載も示唆もないという状況のもとでは、相違点2-4に係る本願発明の構成が、ω-6脂肪酸と、ポリフェノールを含む抗酸化剤の適切な投与量を示しているものともいえず、原告の主張は前提を欠くものであって、当業者がω-6脂肪酸、抗酸化剤及び抗酸化剤に含まれるポリフェノールの用量を適宜調整することで相違点2-4に係る本願発明の構成に想到することは容易であったものというほかはない。

(3)効果
 本願翻訳文等には、ファイトケミカルは抗酸化剤の性質を有し、ファイトケミカルや抗酸化剤の中には、ポリフェノールが含まれること、ポリフェノールは、ω-6等の脂肪酸の所要量を増加させ、その形成を妨げる反面、ω-3の所要量又は耐性を軽減し、その合成を増強すること(例えば、一定のポリフェノールはその前駆体からの長鎖ω-3の合成を増強するが、長鎖ω-6形成を妨害し得る)までは記載されているが(【0025】、【0059】、【0080】)、本願発明で特定する量的関係によって課題に係る有利な効果がもたらされることを当業者が予見できることは記載されていない。

解説/検討

 明細書には一応の「課題」に関する記載として以下のような記載があった。
・「ヒトの健康のためのファイトケミカル、脂質、およびいくつかの他の栄養素の所要量は、非常に繊細である。多数の栄養素の相互作用が存在し、その健康上の有効範囲は狭く」(【0003】)
・「現在のアプローチは不適切に管理された送達および/または過剰な送達の危険性があり、特に一定の脂質、抗酸化剤、ファイトケミカル、ビタミン、ミネラル、および微生物と共にパッケージングした天然の「栄養価が高い食品」(堅果、種子、油、穀物、マメ科植物、果物、野菜、魚介類、ハーブ、およびスパイスなどの食品が含まれる)と組み合わせて有害であり得る。」(【0004】)
・「特にファイトケミカルおよび脂質の相互作用および量に関して考案が困難であった。」(【0006】)
・「本発明は、最適化されたレベルの栄養素(ファイトケミカル、抗酸化剤、ビタミン、ミネラル、脂質、他ンパク質、炭水化物、プロバイオティクス(probiotics)、プレバイオティクス(prebiotics)、微生物、および繊維など)を含む組成物を提供する」(【0002】)

 また、明細書には一応の「作用」に関する記載として以下のような記載もあった。
・「ファイトケミカルは、・・・、(l)脂質およびその代謝産物の代謝および活性を変化させることができ、(m)ω-6およびいくつかの他の脂肪酸の所要量を増加させることができ、(n)ω-3の所要量または耐性を軽減することができる(例えば、一定のポリフェノールはその前駆体からの長鎖ω-3の合成を増強するが、長鎖ω-6形成を妨害し得る)」(【0059】)

 これらの一応の「課題」及び「作用」に関する記載から、原告は、発明の課題として「過剰な摂取が健康に害を与える可能性を有しているポリフェノールを含む抗酸化剤と、ω-6脂肪酸の摂取量の合計を、有益な効果が得られる適切な摂取用量を設定するために具体的に制限する」を主張した。
 審決は引用文献2との関係での本件発明の課題の認定を行っていないが、裁判所はこのような具体的な発明の課題は明細書に記載も示唆もされていないと厳格に判断した。

 

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