【クレーム文言削除による“見かけ上の拡張”でも減縮補正と判断された事案】

 

投稿日:2026年5月14日

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著者:弁理士 榊間 城作
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

特許請求の範囲の減縮(特許法17条の2第5項2号)

 

ポイント

 拒絶査定不服審判時に行ったクレーム文言の削除補正が、「特許請求の範囲の減縮」に当たるかが争われた。知財高裁は、明細書の記載を踏まえてクレームを解釈し、当該削除によって新たな技術的範囲が追加されたものではないと判断した。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和6年11月13日
事件番号 令和6年(行ケ)第10023号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
清水 響
菊池 絵理
頼 晋一
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 原告は、「情報処理端末」に関する特許出願について拒絶査定を受けたため、拒絶査定不服審判を請求するとともに、請求項1を補正した。
 本件補正では、「決済に関する情報の入力の有無に関係なく」という文言が削除されたが、特許庁は、この削除により「決済情報入力時のみ待受状態となる態様」が新たに含まれる可能性があり、特許請求の範囲を減縮するものではないとして補正を却下した。
 これに対し原告は、当該補正は、特許請求の範囲の減縮に当たるとして、審決取消訴訟を提起した。

争点

本件補正が「特許請求の範囲の減縮」に当たるか(その他の争点に関しては省略)

争点に関する当事者の主張

原告の主張
 原告は、補正事項1及び3により、本件補正発明は「決済以外の用途」に用いられる非決済用媒体を対象とすることが明確化されていると主張した。
 そのため、「決済に関する情報の入力の有無に関係なく」という記載は不要であり、その削除(補正事項4)は、決済用媒体を対象としないことを明らかにする趣旨の補正であるから、特許請求の範囲の減縮に当たると主張した。

被告(特許庁)の主張
 被告(特許庁)は、「決済に関する情報の入力の有無に関係なく」という条件を削除したことで、従前は含まれていなかった「決済情報入力時のみ待受状態となる端末」が補正後発明に含まれることになり、技術的範囲が拡張されていると主張した。

判旨

…本願発明及び本件補正発明の技術的範囲の内容について、本願明細書の内容を考慮して解釈するならば、本件補正の前後を通じ、本件態様となるために「決済に関する情報の入力」が不要であることに変わりはなく、本願発明の「決済に関する情報の入力の有無に関係なく、」との文言は、決済以外の用途において適用可能であることを特定していたにすぎないものと解するのが相当であるから、補正事項4により、本件補正発明に本願発明に含まれていなかった事項が含まれることにはならない。
(中略)
 …補正事項4が新たな事項を追加するものではない以上、結局、本件補正は、全体として特許請求の範囲を減縮するものに当たる。これに反する被告の主張は、以上述べた理由により、採用することができない。

解説/検討

 本判決は、補正後クレームの文言のみを形式的に比較するのではなく、明細書の内容を踏まえて、補正が実質的に技術的範囲を拡張するものか否かを判断した点に特徴がある。
 特に、「一見すると拡張に見える削除補正」であっても、発明の技術的思想や合理的解釈を踏まえれば、新たな技術的事項を追加するものではないとして減縮補正に該当し得ることを示した点は、実務上重要である。
 また、本判決は、補正要件の判断においても、クレーム文言の字義的解釈に終始するのではなく、明細書の記載を踏まえた合理的解釈が重視されることを改めて示したものといえる。

 

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