【持株会社による特許法102条2項の適用(肯定)】

 

投稿日:2026年5月14日

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著者:弁護士 亀山 和輝
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

特許法102条2項/持株会社

 

ポイント

本判決は、持株会社であり、自身は事業活動を実施していない原告について、特許法102条2項の適用を認めた事案である。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 令和6年7月4日
事件番号 令和5年(ネ)第10053号
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
本多 知成
遠山 敦士
天野 研司
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

第1 事案の概要
 本件は、発明の名称を「金融商品取引管理装置、金融商品取引管理システム、金融商品取引管理システムにおける金融商品取引管理方法」とする発明に係る特許(特許第6154978号。以下「本件特許」という。)の特許権者である1審原告が、1審被告に対し、1審被告が「iサイクル注文」との名称の外国為替取引管理方法に係るサービス(以下「被告サービス」という。)を原判決別紙被告サーバ目録記載のサーバ(以下「被告サーバ」という。)からインターネット回線等を通じて顧客に提供したことにつき、被告サーバが本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属するものであり、被告サーバの使用が本件発明の実施に当たると主張して、不法行為に基づき、11億9000万円(特許法102条1項、2項又は3項による損害金並びに弁護士費用及び弁理士費用。なお、同条1項又は3項による損害金との関係では、一部請求である。)及びこれに対する不法行為後の日である平成31年3月4日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原判決は、1審原告の1審被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を認め、その損害につき、特許法102条1項及び2項に基づく算定を否定し、同条3項に基づく算定をした上で、2014万9093円及びこれに対する平成31年3月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で請求を認容した。これに対し、1審原告は棄却された敗訴部分のうち4億円(1審における上記の認容元本額2014万9093円との合計額は4億2014万9093円となる。)及びこれに対する遅延損害金の部分についてのみ不服を申し立てて控訴を提起し、1審被告は敗訴部分につき不服であるとして控訴をした。

第2 原告と原告子会社について
1 原告
 原告は、外国為替取引業、外国為替取次業務等の事業を営む会社等の株式等を保有することにより、当該会社等の事業活動を支配又は管理すること等を目的とする株式会社である。
 なお、原告は、本件特許が登録された日である平成29年6月9日から、後記⑶のとおり、被告が被告サーバの使用を終了した日である平成31年3月2日までの期間(以下「本件期間」という。)を通じて、金融商品取引業者としての登録を受けておらず、外国為替証拠金取引(以下「FX取引」という。)業を営んでいなかった。

2 原告子会社
 株式会社マネースクエア(以下「原告子会社」という。)は、外国為替証拠金取引(FX取引)等を事業内容とする株式会社であり、1審原告の完全子会社である。原告子会社は、金融商品取引業者としての登録を受け、FX取引業を営んでいた。

争点

⑴ 本件特許の無効理由の有無(争点1)
ア 乙5発明を主引例、乙6発明を副引例とする進歩性の欠如(無効理由1)
イ 乙5発明を主引例、乙7発明又は乙8を副引例とする進歩性の欠如(無効理由2)
⑵ 損害額等(争点2)
ア 特許法102条1項に基づく損害額等(争点2-1)
(ア) 特許法102条1項の類推適用の可否(争点2-1-1)
(イ) 特許法102条1項に基づく損害額(争点2-1-2)
イ 特許法102条2項に基づく損害額等(争点2-2)
(ア) 特許法102条2項の適用の可否(争点2-2-1)
(イ) 特許法102条2項に基づく損害額(争点2-2-2)
ウ 特許法102条3項に基づく損害額等(争点2-3)
⑶ 消滅時効の成否(争点3)

 以下では、特許法102条2項の適用の可否(争点2-2-1)についてのみ、取り上げる。

争点に関する当事者の主張

⑴ 1審原告の主張
ア グループ会社における知的財産権管理を一元化するなどの目的で、グループ全体の知的財産権を、持株会社やグループ内の知的財産権の保有・管理を専門に行う会社に集中的に保有・管理させる例は多く、特許権を含む知的財産権はその保有している会社自身だけのために保有し、活用しているという理解はもはや時代に即しておらず、グループ全体の利益のために保有し活用しているのが実情である。
 特許発明を自己実施する場合でいえば、形式的に見れば自己実施をしているのは事業会社であるが、事業会社は自身の利益だけのために特許発明を実施しているのではなく、グループ全体の利益を最大化するという目的の下、いわばそのグループの手足として、特許発明を実施して事業を営んでいるものである。
 本件の1審原告のように、ホールディングス制をとる会社は多く(令和4年6月時点で600社以上の上場会社が持株会社であり、上場企業のうち15%以上を占めている。)、これによって、グループ全体としての利益の最大化を目的とした、グループにとって最適な意思決定を行うことができる。そして、1審原告と原告子会社とは、100%子会社の関係に立ち、本訴における損害賠償対象期間の当時、1審原告グループにおいて事業で売上げを立てていたのはほぼ原告子会社のみであった。また、1審原告自身に生じる売上げも全て、原告子会社から1審原告に支払われる配当金、ロイヤリティ収入等で賄われており、原告子会社以外から生じる売上げはゼロであった。そうすると、1審原告と原告子会社は、経済的に一体の関係に立ち、原告子会社の売上げを最大化することが、1審原告グループとしての利益を最大化することになるという関係に立ち、親会社の社員26名のうち21名が原告子会社の業務を兼務しており、1審原告と原告子会社とは実質一体の関係にある。
 このような実情に照らすと、特許法102条1項及び2項の適用場面においても、形式的な法人格の違いに着目するのは妥当ではなく、グループ全体として特許を保有・管理し、グループ全体として特許を活用した事業を展開しているという実態を捉えて、その適用を肯定すべきである。
 本件において、FX事業を行っているのは、原告子会社であって特許権者である1審原告ではないものの、1審原告は、原告子会社の株式の100%を保有する持株会社として本件特許権の管理及び権利行使をしており、原告子会社が1審原告の管理及び指示の下で、本件特許発明の競合サービスである原告サービス(FX事業)を実施しているのであるから、1審原告グループは、本件特許権の侵害が問題とされている期間、1審原告の管理及び指示の下でグループ全体として本件特許発明の競合サービスである事業を遂行していると評価することができるのであって、特許法102条1項及び2項の適用が認められるべきである。
イ 1審原告が特許法102条1項及び2項の適用において主張している逸失利益は、1審原告グループとして、被告サービスが提供されなかったとすれば、1審原告グループに属する原告子会社が競合するFX事業を通じて得ることができたであろうという利益であって、1審原告の得られた実施料収入ではない。
ウ 特許法102条2項は、立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定で、その効果も推定にすぎないのであるから、同項を適用するための要件を殊更厳格にする合理的な理由はない。
エ 1審被告は、事業会社に専用実施権又は独占的通常実施権を設定すれば、専用実施権者又は独占的通常実施権者には固有の損害賠償請求権が認められるから、専用実施権者又は独占的通常実施権者がその固有の損害賠償請求権を行使すれば足り、そのような方法で不都合を回避可能であると主張するが、特許権者が事業会社をして、特許発明を実施した事業を行わせるとともに、第三者にも特許権の通常許諾をした場合、事業会社に対する実施許諾はもはや独占的なものではなく、事業会社には固有の損害賠償請求権が認められないとの不都合が生じることになる。

⑵ 1審被告の主張
ア 1審原告が主張する「グループ全体として特許を保有・管理し、グループ全体として特許を活用した事業を展開しているという実態」の内容は不明瞭である。
 1審原告は、ホールディングス化により別会社とすることのメリットを享受しておきながら、他方で、別会社であることによるデメリットについては受けたくないというのは、余りにも身勝手な主張である。
イ いわゆる持株会社が特許権者であっても、事業会社も共有者として特許権者となって損害賠償請求をすれば1審原告が主張するような不都合は回避可能であるし、特許権を共有しなくても、事業会社に対し、専用実施権を設定したり、いわゆる独占的通常実施権を許諾したりすることによって、当該事業会社自身が損害賠償請求の主体として、損害賠償を請求することができるから、1審原告が主張するような不都合は回避可能である。1審原告はそれすらも行っていない以上、保護に値しない。
ウ 1審原告は、特許法102条2項の効果が推定にすぎないことを理由として挙げるが、1審原告が「実施の能力」を一切有していなかったことは法的に明らかであり、仮に本件に同条2項を適用したとしても、結局、推定が全て覆滅されるというべきである。  

 

原審の判断

1 原審における当事者の主張
⑴ 原告の主張
 事業会社として被告サービスと市場において競合するFX取引業を営む原告子会社には、被告による特許権侵害行為がなかったならば利益を得ることができたという事情が認められる。そして、完全子会社が得る利益は、そのまま完全親会社の利益ということができるから、原告にも上記事情が認められる。
 また、原告と原告子会社との間では、●(省略)●(筆者注:原告と原告子会社間でのライセンス契約に係る事情、売上げとライセンス料の関係に係るものと推察される。)被告と原告とで利益を食い合う関係にあることから、102条2項の適用が認められるべきである。
 したがって、本件においては、同項の適用又は類推適用が認められる。

⑵被告の主張
ア 特許法102条2項の適用に際し、知的財産高等裁判所平成24年(ネ)第10015号平成25年2月1日特別部判決(以下「平成25年判決」という。)は、「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情」が必要であると判示している。そして、同項が推定の対象とする損害の種類は、特許権者等の販売利益等の減少による逸失利益であるから、同項適用の前提事情が存在するというためには、原告自身に販売利益等の減少による逸失利益が生じたことを主張立証する必要がある。
 本件についてみると、原告は、本件期間において、本件発明を実施していなかったというにとどまらず、FX取引業自体を営んでいなかった上、金融商品取引業者としての登録を受けておらず、FX取引を業として行うことができなかった。そのため、平成25年判決にいう「特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情」は存在しない。
 したがって、同項は、本件に適用されないから、同項に係る原告の主張は、失当である。

⑵原告の主張について
ア 原告は、完全子会社が得る利益は、そのまま完全親会社の利益といえるとして、被告による特許権侵害行為がなければ利益を得ることができたという事情が認められると主張する。
 しかしながら、…仮に原告子会社において特許法102条2項の「特許権侵害行為がなかったならば利益を得ることができたという事情」が認められたとしても、原告と原告子会社は別の法人格を有する以上、両者の資産を一体視することはできないし、原告子会社の逸失利益がそのまま原告の逸失利益になるわけではない。とりわけ、金融商品取引業を行うことを禁止されていた原告において、FX取引業による売上げの減少による逸失利益があったと評価する余地はない。
 そのため、仮に原告子会社に何らかの逸失利益が生じていたとしても、原告自身について「特許権侵害行為がなかったならば利益を得ることができたという事情」が存在していることにはならない。
イ 原告による上記主張は、●(省略)●のであるから、特許権者等の販売利益等の減少による逸失利益に係る損害額の算定方法を定める同項が、本件において類推適用も含めて適用されることを何ら基礎付ける事情とはなり得ない。
 そうすると、原告ライセンス契約の存在は、同項を適用する根拠とはならない。仮に、原告ライセンス契約に基づいて原告に逸失利益が存在するとしても、同項に基づく損害額が認められるべき理由はない。

2 裁判所(原審)の判断(下線付加)
⑴ 原告と原告子会社との間では、原告ライセンス契約が締結されており、●(省略)●として、特許法102条2項の適用が認められるべきであると主張する。しかしながら、上記3⑴及び⑵において説示したとおり、証拠(甲24、27)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件期間を通じて金融商品取引業者としての登録を受けていないため実施の能力すらなく、FX取引業を営んでいなかったのであり、また、●(省略)●が認められる。そうすると、●(省略)●原告の主張は、前提を欠く。

⑵ 仮に、●(省略)●としても、原告の主張を採用することができない理由は、次のとおりである。
 特許法102条2項は、特許権の排他的独占的効力に鑑み、特許権者等においてその侵害の行為により売上げが減少した逸失利益の額と、侵害者が侵害行為により受ける利益の額とが等しくなるとの経験則に基づき、当該利益の額を特許者等の売上げ減少による逸失利益の額と推定するものである。しかしながら、●(省略)●場合には、上記の推定をする前提を欠くことになる。
 そうすると、●(省略)●場合には、特許法102条2項の規定は適用又は類推適用されないと解するのが相当である。
 したがって、仮に●(省略)●特許法102条2項の規定は適用又は類推適用されないものといえる。
 これに対し、原告は、上記のとおり、特許法102条2項の適用が認められるべきであると主張するものの、特許法102条2項が特許権者等の売上げ減少による逸失利益の額を推定する規定であることからすると、●(省略)●売上げ減少による逸失利益の額まで推定するのは、特許法102条の趣旨目的に鑑み、相当ではない。
 以上によれば、原告の主張は、採用することができない。

⑶ これに対し、原告は、原告の完全子会社である原告子会社が原告サービスを提供し、原告子会社には、被告による特許権侵害行為がなかったならば利益を得ることができたという事情が認められ、完全子会社が得られる利益は、そのまま完全親会社の利益ということができるから、特許法102条2項の適用が認められるべきであると主張する。
 しかしながら、上記3⑵(筆者注:102条1項に関する判示)において説示したところと同様に、原告と原告子会社は、飽くまで別法人であるから、完全子会社が得られる利益がそのまま完全親会社の利益とするのは相当ではない。
 したがって、原告の主張は、採用することができない。
⑷ 以上によれば、その余について判断するまでもなく、特許法102条2項の規定は適用又は類推適用されるものではない。
 

判旨

⑴ 特許法102条2項は、「特許権者…が故意又は過失により自己の特許権…を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者…が受けた損害の額と推定する。」と規定する。同項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、同項の適用が認められると解すべきである(知財高裁平成24年(ネ)第10015号同25年2月1日特別部判決、知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日特別部判決)。
⑵ これを本件についてみると、1審原告の完全子会社(株式会社マネースクエア)はFX事業を提供しており、「トラリピ」という名称の原告サービスを提供しているところ、証拠(甲30)によると、トラリピとは、イフダン(新規と決済を同時に発注する注文)に、リピート(注文を繰り返す機能)とトラップ(一度にまとめて発注できる仕組み)を搭載したFXの発注管理機能をいい、トラリピの専用機能として「決済トレール」(決済価格が値動きのトレンドを追いかけることで、利益の極大化を狙う機能)があることが認められ、被告サービスと競合するものであるといえる。そして、原告サービスを提供しているのは1審原告の完全子会社であって、特許権者である1審原告とは別法人であるものの、1審原告は、原告子会社の株式の100%を保有し、会社の目的や主たる業務が子会社の支配・統括管理をすることにあり、その利益の源泉が子会社の事業活動に依存するいわゆる純粋持株会社である(甲33。以下、持株会社である1審原告と原告子会社を併せて「1審原告グループ」ともいう。)。そうすると、原告子会社は、1審原告のグループ会社として持株会社の保有する多数の特許権を前提として原告サービスを提供しているのであり(甲24、27)、本件特許は原告ライセンス契約に含まれていないものの、これは国際出願に伴う不都合を回避するためにそのような体裁とすべきであったことによるものにとどまり、1審原告が原告子会社に本件発明の実施許諾をしていないことを意味するものとはいえないことも踏まえると、原告子会社が本件発明を実施しているものといえ、1審原告グループは、本件特許権の侵害が問題とされている平成29年7月から平成31年3月までの期間、持株会社である1審原告の管理及び指示の下で、グループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していたと評価することができる
 したがって、1審原告グループにおいては、本件特許権の侵害行為である被告サービスの提供がなかったならば利益が得られたであろう事情があるといえる
 そして、1審原告の利益の源泉が子会社の事業活動に依存していること、1審原告は1審原告グループにおいて、同グループのために、本件特許権の管理及び権利行使につき、独立して権利を行使することができる立場にあるものといえ、そのような立場から、同グループにおける利益を追求するために本件特許権について権利行使をしているということができ、1審原告グループにおいて1審原告のほかに本件特許権に係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件について、特許権者に侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在するものといえるから、特許法102条2項を適用することができるというべきである

⑶ 1審被告の主張について
ア 1審被告は、1審原告が主張する「グループ全体として特許を保有・管理し、グループ全体として特許を活用した事業を展開しているという実態」の内容は不明瞭であると主張する。
 しかしながら、上記イで説示するとおり、1審原告と原告子会社は、いわゆる純粋持株会社と完全子会社の関係にあるところ、実際に持株会社制を採用する企業が多数存在する実情にあること(甲32)、純粋持株会社と完全子会社は法人格が別であるものの、グループ法人の一体的運営が進展している状況を踏まえ、実態に即した課税の実現を目的としたグループ法人税制や支配従属関係にある二つ以上の企業からなる企業集団を単一の組織体とみなして親会社が企業集団の財政状態、経営成績、キャッシュフローの状況を総合的に報告するための連結財務諸表など、企業グループを、親会社を中心とした経済的一体性に着目して捉える制度が採用されている実情があることも踏まえると、本件事実関係の下においては、1審原告の管理及び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価することができるから、1審被告の上記主張は理由がない。
イ 1審被告は、持株会社が特許権者であっても、事業会社も共有者として特許権者となるか、又は専用実施権を設定したり、いわゆる独占的通常実施権を許諾することにより、当該事業会社自身が損害賠償請求の主体として、損害賠償を請求することによって、事業会社の損害賠償請求が認められないとする不都合は回避可能であるから、特許法102条2項の適用を認める必要はない旨を主張する。
 しかしながら、前記のとおり、本件においては1審原告の管理及び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価することができる以上、1審被告の上記主張に係る事情は特許法102条2項の適用の妨げにはなるといえず、実施能力を有しないことにより得べかりし利益が存在しない等の個別の事情から生じるところは、推定覆滅の問題として考えるのが相当である。
 そもそも1審被告の上記主張は、1審原告のほかに原告子会社が本件特許権の侵害に係る損害賠償請求の主体として認めるべきかどうかの問題に関わる事情であって、本件における1審原告の本件特許権の侵害に係る損害賠償請求における特許法102条2項の適用を否定すべきものとはいえない。
 したがって、1審被告の上記主張は理由がない。
 

解説/検討

1 問題の所在
 特許権者等から許諾を受けた通常実施権者が実施している場合で、特許権者が個人・通常実施権者が個人会社のとき、特許権者が特許管理会社・通常実施権者が事業会社のとき等、102条2項による特許権者等の損害賠償請求の可否が問題である。

2 裁判例・学説の状況
 地裁レベルの裁判例上は、否定例が多数あり、学説上も否定説と肯定説の両論が存在している 1
 なお、知財高判令和3年(ネ)第10091号は、本件同様に、1審原告が株式の100%を間接的に保有しているグループ会社が事業を実施していた事案において、1審原告の特許法102条2項に基づく請求を認めた(同事件の原審は、102条2項の適用を否定)。

3 検討
 原審は、原告と原告子会社が、あくまで別法人である点から、完全子会社が得られる利益がそのまま完全親会社の利益とするのは相当ではないと考え、他方で、控訴審は、グループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していたと評価することができると考えたことによって、結論が異なっている。
 そのうえで、控訴審は、「①1審原告の利益の源泉が子会社の事業活動に依存していること、②1審原告は1審原告グループにおいて、同グループのために、本件特許権の管理及び権利行使につき、独立して権利を行使することができる立場にあるものといえ、そのような立場から、同グループにおける利益を追求するために本件特許権について権利行使をしているということができ、③1審原告グループにおいて1審原告のほかに本件特許権に係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件について、特許権者に侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する」(番号付加)として、3つの事情を考慮している。
 これらの3つの事情相互の関係や各事情の考慮の軽重は、明らかでないように思われるが、これらの事情の軽重により、射程が異なるものと思われる。((例)①が必須の事情と解する場合には、親会社も事業会社であるが、子会社の事業に係る特許権を集中管理しているというような場合には、本判決の射程は及ばない可能性があると思われる。)
 なお、前掲知財高判令和3年(ネ)第10091号と本判決の裁判長はいずれも本多知成判事であり、両判決が、本多判事の裁判体における傾向なのか、知財高裁の裁判例としての傾向であるかについては、今後の裁判例の蓄積に注目する必要がある。


1 中山・小泉編『新・注解 特許法[第2版]【中巻】』(2017、青林書院) 1913頁、1914頁参照

 

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