【請求項に関する訂正が、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるか否かが争われた事例】
投稿日:2026年6月29日 |
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著者:弁理士 津田 理
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参照条文/キーワード/論点 |
訂正/明細書等に記載した事項の範囲内/請求項における「ための」との文言 |
ポイント
※ 本件では、請求項に記載された事項「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」に関する訂正が、本明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるか否かが争われた。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第4部 |
| 判決言渡日 | 令和6年9月11日 |
| 事件番号 | 令和5年(行ケ)第10124号 |
| 事件名 | 特許取消決定取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
宮坂 昌利
本吉 弘行 岩井 直幸 |
事案の概要
1.事実関係
・本件特許(請求項1、2に係るもの)について、令和3年4月13日、特許異議の申し立てがされた(異議2021-700336号事件)。
・原特許権者である三菱電機株式会社は、令和3年5月19日、本件特許に係る特許権を原告に譲渡した。
・原告は、令和4年5月13日付けで取消理由通知(決定の予告)を受けたことから、その意見書提出期間内である同年6月24日、本件特許の特許請求の範囲及び明細書を訂正(本件訂正)する旨の訂正請求をした。
・特許庁は、令和5年6月19日、「特許第6768017号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。」との本件決定をした。
・本件訴訟は、その本件決定の取消しを求めるものである。
[請求項1]
A1-1 最大ブロックサイズと階層数の上限値により入力画像を階層的に分割することで得られる符号化ブロックに係わる圧縮データ、
A1-2 符号化ブロックに係わる符号化モード及び動きベクトルを指定するための符号化ブロックに係わるインデックス情報、
A1-3 および当該インデックス情報に基づき選択される動きベクトル候補の数を変更するための制御情報
A1 が含まれるビットストリームに多重化されている符号化データに可変長復号処理を行う可変長復号部と、
B1-1 上記インデックス情報に基づいて、1以上の動きベクトル候補の中から動きベクトルを選択し、
B1 選択された動きベクトルを用いて上記符号化ブロックに対し、動き補償予測処理を実施して予測画像を生成する動き補償予測手段と、を備え、
B1-2 上記動き補償予測部は、上記インデックス情報に基づいて、
B1-2-1 上記符号化ブロックの周囲に位置する複数の復号済みブロックの動きベクトル候補から得られる空間動きベクトル、
B1-2-2 または上記符号化ブロックが参照可能な復号済みピクチャの動きベクトルから得られる時間動きベクトル
B1-2 を選択し、
B1-3 上記動き補償予測部は、上記制御情報に基づいて、
B1-3-1 上記符号化ブロックの周囲に位置する複数の復号済みブロックから得られる空間動きベクトル、
B1-3-2 および上記符号化ブロックが参照可能な復号化済みピクチャの動きベクトルから得られる時間動きベクトル
B1-3 の少なくともいずれかを含む上記動きベクトル候補のリストを用意し、
C1-1 上記動きベクトル候補は所定の順番でリスト化され、
C1-2 上記動きベクトル候補の数はスライス単位で変更可能であり、
A1-2-1 上記インデックス情報は、上記リスト内の動きベクトル候補の位置を示す
D1 ことを特徴とする動画像復号装置。
本件訂正のうち、取消事由2において問題とされている請求項1の構成A1-3に関する訂正(訂正事項2の前段)
本件決定の理由(抜粋)
(1) 訂正事項2について
変更フラグは、動きベクトル候補を示すリストを変更するための制御情報であり、変更フラグによって、動きベクトル候補が変更される場合に、動きベクトル候補の数が変更される場合はあるが、本件明細書には、空間動きベクトル候補だけが変更される場合、空間動きベクトル候補の数が必ず変更されること、空間動きベクトル候補と時間動きベクトル候補の両者が変わる場合、必ず動きベクトル候補の数が変更されることについての記載も示唆もない。
本件明細書には、変更フラグから「空間動きベクトルの増減と時間動きベクトルの増減とにより空間動きベクトルの数と時間動きベクトルとの数とを足した合計が不変となる場合」を除くこと、あるいは、変更フラグによって動きベクトル侯補を変更する際に、「空間動きベクトルの増減と時間動きベクトルの増減とにより空間動きベクトルの数と時間動きベクトルとの数とを足した合計が不変となる場合を除」くこと、あるいは、「空間動きベクトルの増減と時間動きベクトルの増減とにより空間動きベクトルの数と時間動きベクトルとの数とを足した合計が不変となる場合」に、変更フラグをビットストリームに含めないことが記載されておらず、本件明細書には、「変更フラグ」が「インデックス情報に基づき選択される動きベクトル侯補の数を変更するための制御情報」であるということは、記載も示唆もされていない。
争点
・取消事由2(本件訂正の適否に関する判断の誤り)
争点に関する当事者の主張
[原告の主張]
被告が問題とする「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」が本件明細書等に記載されていることは、以下のとおりである。
ア 変更フラグ
本件発明1を構成する「インデックス情報に基づき選択される動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」が解決する課題は、インデックス情報に基づき選択される動きベクトル候補の数を変更したいという課題である。
本件決定は、本件明細書には、パンするような映像では時間ベクトルの効果が低いため、選択候補から外すようにする一方、カメラが固定な映像では時間ベクトルの効果が大きいため候補に加えること、ブロックサイズが小さくなると空間的な相関が弱くなるため、メディアン予測で決定されるベクトルの予測精度が悪くなると考えられ、メディアン予測で決定される動きベクトルを候補から外すこと(技術事項A)、符号化ブロックであるパーティションのブロックサイズが大きい場合、周囲のブロックとの相関が高く、逆にパーティションのブロックサイズが小さい場合、周囲のブロックとの相関が低いことから、パーティションのブロックサイズが小さい程、選択可能な動きベクトルの候補数を減らすことができること(技術事項B)が記載されていることを認めており、これは上記課題を示すものである。
一方で、本件決定は、空間動きベクトル候補だけが変更される場合、必ず動きベクトル候補の数が変更されること(①)、空間動きベクトル候補と時間動きベクトル候補の両者が変わる場合、必ず動きベクトル候補の数が変更されること(②)を認めていない。しかし、いずれも、必ず動きベクトルの候補の数が変更されることを要する理由は説明されていないし、仮にこれが要件であるとしても、当業者が出願時の技術常識に照らし、①については動きベクトル候補だけが変更される場合に、必ず動きベクトル候補の数が変更されるようにプログラムすればよいと認識し、それを容易に実現できる程度のことであるし、②については空間動きベクトル候補と時間動きベクトル候補の両者が変わる場合に、必ず動きベクトル候補の数が変更されるように候補リストを準備すればよいと認識し、それを容易に実現できる程度のことである。
イ 閾値
本件明細書の【0111】、【0139】には閾値について記載されているところ、閾値Thの値を大きくとれば、評価SADkが閾値Th以下である動きベクトルの数は増え、閾値Thの値を小さくとれば、評価値SADkが閾値Th以下である動きベクトルの数は減る。したがって、当業者は、本件明細書の上記記載及び出願時の技術常識に基づき、閾値Thが「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」であると認識することができる。
ウ 最大ベクトル数
本件明細書の【0111】、【0139】には、「また、閾値Th以下の候補の全てを使用するのではなく、スライスヘッダなどに、予め使用する最大ベクトル数を定めておき、評価値の小さい候補から最大ベクトル数分用いて予測画像を生成するようにしてもよい。」との記載があり、「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」という技術的思想の一例として、スライスヘッダなどに「(予め使用する)最大ベクトル数」を定めておくことが記載されている。
被告は、上記記載は、最大ベクトル数を送受信することで「インデックス情報」を不要とする実施の形態2、3に対応する技術であり、「インデックス情報」を送受信することで最大ベクトル数を不要とする、実施の形態6、7に対応する本件特許に関するものではない旨主張するが、本件特許は、実施の形態2、3にも対応可能ないわば上位互換の技術であるから、失当である。
[被告の主張]
(1) 「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」は本件明細書等に記載されていない。したがって、訂正事項2によって限定された「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」もまた本件明細書等に記載されていないものである。そうすると、訂正事項2は、当業者にとって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではない。
同様の理由により、訂正事項3、5、7についても、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではない。
(2) 原告が、「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」に当たるとするものについて検討する。
ア 変更フラグ
本件明細書等における変更フラグは、実施の形態7にみられるように、選択可能な1つ以上の動きベクトルを示すリストが変更された場合に限り、変更後のリストを示すリスト情報を符号化して符号化データを生成するように構成し、符号量の大幅な増加を招くことなく、リストの変更を受け付ける機能を実装することができる効果を奏するというものである(【02000】~【0207】)。
これに対し、「動きベクトル候補の数を変更する」「変更フラグ」という形態とすると、実施の形態7の処理を変更して、選択可能な1つ以上の動きベクトルを示すリスト中の動きベクトル候補の数が変更された場合に限り、変更後のリストを示すリスト情報を符号化して符号化データを生成することになるが、このような形態は本件明細書等に記載されていない。また、リストが変更されても動きベクトル候補の「数」が変更されていなければ、変更後のリストが符号化装置から復号装置に伝送されないことになる。
そうすると、復号装置において、本来、符号化時に使用された変更後のリスト中の動きベクトル候補に基づき復号するところ、当該リストが伝送されず、フラグも“オフ”であるから、前回のリスト中の動きベクトル候補を使用して復号するため、符号化時の動きベクトル候補が復号時に利用できず、符号化した際の意図どおり正しく復号できないことになる。この結果、復号装置が満たすべき当然の前提である、動画像を正しく復号するという処理が実現できないため、発明の課題を解決しないといえる。
一方で、「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」としての「変更フラグ」は、復号装置に動きベクトルの候補の数が変更されたという有意義な情報を与えることになり、本件明細書等には記載のない、新たな技術的意義を奏することになる。
イ 閾値
本件特許1は「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報が含まれるビットストリーム」という事項を、本件特許2は「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報とを含むビットストリーム」という事項を、それぞれ発明特定事項として含む。一方、本件明細書【0111】、【0139】、【0162】~【0164】における閾値Thについての記載からみると、本件明細書等は、使用するベクトルの本数や最大数をビットストリーム中のヘッダ情報に含めることを示しているにすぎず、閾値Thをビットストリーム中に含めることは上記記載から把握することはできないし、本件明細書等の他の記載から把握することもできない。さらに、当該「閾値」は予測画像の生成に用いる情報のうち、符号化時にだけ必要なものであり、復号時には使用しない情報であるから、ビットストリームに当該「閾値」を含めて復号装置に伝送することは、本件明細書【0011】の「符号量を削減する」という技術的意義と矛盾する。
そうすると、閾値は、「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報が含まれるビットストリーム」に該当しない。
ウ 最大ベクトル数
最大ベクトル数は、本件明細書のうち、実施の形態2に関する【0111】(実施の形態3に関する【0139】も同様)に記載されたものであるところ、これによれば、スライスヘッダに予め使用する最大ベクトル数を定めておくことから、最大ベクトル数は符号化装置から復号装置に送信されて復号されるとともに、復号装置において予測画像を生成する場合に用いられるといえる。そして、本件明細書の【0034】、【0068】、【0089】、【0100】、【0112】、図17を踏まえた当業者にとっては、動きベクトルを符号化または復号する場合には、符号化時又は復号時に動きベクトル候補をすべて得た後、それらの評価値SADを得て、評価の小さい候補から最大ベクトル数(例えば2)分用いて予測画像を作るものであることが理解できる。この場合、ブロックサイズによらず予め決められた候補ベクトルをすべて復号してから最大ベクトル数を用いて候補を絞り、最終的に所望の動きベクトルを決定して復号を行う以上、「インデックス情報」を送受信することは不要である。
一方、実施の形態4(【0143】)を踏まえた実施の形態6(【0182】)や、実施の形態6を踏まえた実施の形態7(【0200】)では、最大ベクトル数を符号化装置から復号装置に送信せず、その代わりに、図31に記載されるように、どの動きベクトル候補が選択されたかを示すインデックス情報を送信する。これにより、復号装置では、図32や図45の記載から理解されるように、所定の順番でリスト化された動きベクトルリスト又はリスト情報を元にして、この中から受信したインデックス情報に基づいて復号に必要な所望の動きベクトルを選択する。
最大ベクトル数を送受信することで「インデックス情報」を不要とする、実施の形態2、3の一部分である【0111】、【0139】の記載事項と、「インデックス情報」を送受信することで最大ベクトル数を不要とする、実施の形態6、7(ビットストリームに含まれるものとして、少なくとも「インデックス情報」が特定されている本件発明はこれに該当する。)とは互いに相容れないものである。
判旨
(ア) 訂正前後に共通する「当該インデックス情報に基づき選択される動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」との事項について
上記事項のうち「動きベクトル候補」が「当該インデックス情報に基づき選択される」ことは、実施の形態4に関する【0143】、【0145】の記載及び図32、実施の形態6に関する【0182】の記載に記載されているといえる。
一方、「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」の意義については、本件明細書等に特段記載はないが、その「ための」との文言に基づく理解として、当該「制御情報」の技術的意義に照らし、「動きベクトル候補の数の変更」との間に目的・手段の関係があることを要し、単に結果的、間接的に動きベクトルの数に影響する場合があるというのでは足りないと解するのが相当である。これを前提に、本件明細書等に「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」が記載されているかについて検討する。
a 変更フラグについて
変更フラグは、動きベクトル候補を示すリストを変更するための制御情報であり(【0203】、【0205】、【0207】)、変更フラグによって動きベクトル候補が変更される場合に、結果として動きベクトル候補の数が変更される場合があること自体は認められる(図46~図48)。また、時間動きベクトル候補はtemporal1つしか存在しないため、時間動きベクトル候補だけが変更されると、必ず動きベクトル候補の数が変更されるといえる(図46、図47)。
しかし、変更フラグをオンにすることは、変更後の動きベクトル候補を示すリストを符号化して送信することにとどまるのであり(【0203】、【0205】)、動きベクトルの数を制御情報として送信することは本件明細書等に記載されていない。また、本件明細書等においてリスト変更の具体的態様を制限する記載はなく、空間動きベクトル候補はMV_A、MV_B、MV_C、medianの4つがある(【0183】、【0184】、【0193】)ため、各々が候補に加わる、又は候補から外れることにより、空間動きベクトル候補だけが変更される場合には、空間動きベクトル候補の数は変更される場合と変更されない場合があるから、「変更フラグ」オンは、候補ベクトル数が変わる場合と変わらない場合を含んでいることになる。そうすると、「変更フラグ」に係る制御情報は、動きベクトル候補の数の変更を目的とするものと理解することはできず、変更フラグは、「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」に当たらない。
b 閾値Th及び最大ベクトル数について
閾値は、本件明細書【0111】、【0139】によれば、「この場合、例えば、複数のベクトル候補のうち、閾値Th以下の評価値SADになる候補の全てを使用して予測画像を生成する方法が考えられる。」とあることから、予測画像の生成に使用する動きベクトル候補を選定するための設定値である。予測に用いるベクトルの本数は、評価値SADが閾値Th以下となる候補ベクトルの本数となるが、評価値は符号化対象となるブロックの各候補ベクトルについて算出されるものであるから(【0068】、【0076】、【0077】、【0079】~【0081】、【0089】)、閾値を定めても、符号化対象となるブロックが具体的に特定されなければ、「動きベクトル候補の数」が変更されたか否かは特定できない。そうすると、「閾値Th」に係る制御情報は、ベクトル数の変更に関与する情報ではあるが、変更に結果的、間接的に寄与するものにすぎず、動きベクトル候補の数の変更を目的とするものと解することはできないから、「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」に該当しない。
また、本件明細書【0111】、【0139】によれば、最大ベクトル数についても、「閾値Th以下の候補の全てを使用するのではなく、スライスヘッダなどに、予め使用する最大ベクトル数を定めておき、評価値の小さい候補から最大ベクトル数分用いて予測画像を生成するように」するというもので、予測画像の生成に使用する動きベクトル候補を選定するための設定値という点で閾値Thと同様であるから、「最大ベクトル数」を定めても、符号化対象となるブロックが具体的に特定され評価値が計算されない限り「動きベクトル候補の数」が変更されたか否かは特定できない。そうすると、「最大ベクトル数」に係る制御情報は、ベクトル数の変更に関与する情報ではあるが、変更に結果的、間接的に寄与するものにすぎず、動きベクトル候補の数の変更を目的とするものと解することはできないから、「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」に該当しない。
さらに、最大ベクトル数について言及する本件明細書【0111】、【0139】は、実施の形態1における画像符号化及び復号処理の変形例である実施の形態2、3について記載したものである。実施の形態1における復号処理(本件明細書【0086】~【0093】、特に【0089】)に【0111】、【0139】の「最大ベクトル数」を定めておく方法を適用した場合、予め定められた候補ベクトルを全て復号し、評価値の小さい候補から最大ベクトル数分を用いて予測画像を生成することになる。その場合、動きベクトルの選択のために、インデックス情報を用いる(【0143】)のではなく、評価値と最大ベクトル数をもとに選択した候補ベクトルを用いることになる。他方、本件明細書中、インデックス情報を用いる実施の形態4、その変形例である実施の形態6、7に関し、最大ベクトル数に関する記載はない。そうすると、最大ベクトル数の使用に関する本件明細書の記載は、「動きベクトル候補」が「当該インデックス情報に基づき選択される」ことを発明特定事項とする本件発明に関わるものではないというほかない。原告は、実施の形態6、7が実施の形態2、3の上位互換の関係に当たる旨主張するが、両者は別個の技術というべきであり、採用できない。
(イ) 以上によれば、本件明細書における「変更フラグ」、「閾値Th」及び「最大ベクトル数」は、いずれも「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」に該当せず、本件明細書等において、他に上記情報に該当する情報に関する記載は見当たらない。
したがって、「当該インデックス情報に基づき選択される動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」との事項は、本件明細書等に記載された事項ではない。訂正事項2による訂正は、本件明細書等に記載のない事項を更に限定する訂正事項を含むものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
解説/検討
・本判決で、裁判所は、「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」の意義について、「ための」との文言に基づいた解釈をし、本件明細書等に記載された事項ではないと判示した。
・結論として変わるところはないが、被告が主張したように、「変更フラグ」は「動きベクトル候補の数を変更する」ものではない、「閾値」は「ビットストリームに含まれる、(動きベクトル候補の数を変更するための)制御情報」に該当しない、「最大ベクトル数」と「インデックス情報」とは互いに相容れないものであるとして、訂正事項2による訂正が本件明細書等に記載された事項ではない、と判断する余地もあるように思われる。
