【本件明細書等から認められる本件各発明の目的、課題の解決手段を考慮して、構成要件の解釈において、所定の構成は含まれないと解釈した事例】
投稿日:2026年5月14日 |
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著者:弁護士 木村 広行
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参照条文/キーワード/論点 |
特許法70条/限定解釈 |
ポイント※本判決は、本件明細書等から認められる本件各発明の目的、課題の解決手段を考慮して、「第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」(構成要件D)は、マイクロナノバブルにはオゾンが積極的に加えられているものではなく、その供給手段には、オゾンが積極的に加えられたマイクロナノバブルを供給する供給手段を含まないというべきであるとして、被告システムが有する第2の収容槽に当たる曝気槽内に、酸素及びオゾンを含むマイクロナノバブルを供給する被告装置は、構成要件Dを充足しないと判断した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 東京地方裁判所民事第46部 |
| 判決言渡日 | 令和6年4月17日 |
| 事件番号 | 令和5年(ワ)第70001号 |
| 事件名 | 特許専用実施権侵害差止請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
柴田 義明
杉田 時基 仲田 憲史 |
事案の概要
(強調は筆者)
1.事実関係(本判決による)
⑴本件特許権
登録番号 第7061473号
発明の名称 廃水処理装置
出願日 平成30年2月5日
登録日 令和4年4月20日
⑵本件各発明
本件発明1
A 処理対象となる被処理水を収容する第1の収容槽と、
B 該第1の収容槽内にオゾンを含むマイクロナノバブルを供給するオゾン供給手段と、
C 前記オゾンによって処理された被処理水を残オゾンとともに収容する第2の収容槽と、
D 該第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段と、
E 前記第2の収容槽内に収容され、微小径の粉末状に生成され個々の粉末にオゾン分子を集めるポーラスを有する活性炭が担持される、多数の空孔が形成された複数の担体と、から少なくとも構成されており、
F 前記担体の空孔は、前記マイクロナノバブルよりも大径に形成され、前記空孔内に好気性微生物及び通性嫌気性微生物のいずれもが担持されている、
G ことを特徴とする廃水処理装置。
本件発明2
H 前記担体は長辺と短辺とを備えた略直方体に形成されている
I ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の廃水処理装置。
⑶被告システムの構成
a 原水を収容する調整槽と、
b 該調整槽内にオゾンを含むマイクロナノバブルを供給するマイクロ・ナノバブル発生装置と、
c 前記オゾンによって処理された被処理水を残オゾンとともに収容する曝気槽と、
d 該曝気槽内に酸素及びオゾンを含むマイクロナノバブルを供給するマイクロ・ナノバブル発生装置(以下「被告装置」という。)と、
e 前記曝気槽内に収容され、微小径の粉末状に生成され個々の粉末にオゾン分子を集めるポーラスを有する活性炭が含有される、多数のマイクロポーラスが形成された複数のスポンジからなる活性炭含有担体(以下「被告担体」という。)と、から少なくとも構成されており、
f 被告担体に通性嫌気性微生物が存するほか、被告担体のマイクロポーラスは、前記マイクロナノバブルよりも大径に形成され、少なくとも前記マイクロポーラス内の被告担体表層に好気性微生物が担持される、
g 排水処理システムであり、
h 被告担体は長辺と短辺とを備えた略直方体に形成されている。
争点
構成要件Dの充足性(その他の争点は省略)
判旨
争点1(構成要件Dの充足性)について
⑴前記1⑵のとおり、本件明細書によれば、従来の廃水処理装置には、オゾンの強力な酸化作用によって、処理槽内の汚水に含まれる細菌類の殺菌、脱臭及び有機物や油脂分を分解し除去する等の効果を得るようにしたものがあるが、その効果を高めるためにバブルの径の微小化を目指した結果、オゾンを含有するバブルが容易に圧壊することなく長時間にわたり処理後の廃水に含まれた状態で滞留する問題があった。なお、オゾンを含有するバブルが滞留する問題に関し、本件特許の特許出願手続において先行発明に基づき進歩性欠如の理由があるとしてされた拒絶理由通知に対して原告が作成して提出した意見書(乙1。以下「本件意見書」という。)には、従来の技術に関して「本件各発明と異なり残オゾンを効果的に酸素に化学変化させることができずに、結果として微生物を滅菌させてしまい、生物処理能力を低減させる原因とな」る旨記載されており、残オゾンが効果的に酸素に変化しないと、微生物を滅菌させてしまい、生物処理能力を低減させる原因となることが記載されている。
そして、本件各発明は、前記1⑵のとおり、廃水処理後の被処理水に含まれる残オゾンの低減と、被処理水の生物処理の促進とを両立させることができる廃水処理装置及び廃水処理方法を提供することを目的としたものであり、本件各発明の廃水処理装置は、その特許請求の範囲の記載からも、処理対象となる被処理水を収容する第1の収容槽と、該第1の収容槽内にオゾンを含むマイクロナノバブルを供給するオゾン供給手段と、前記オゾンによって処理された被処理水を残オゾンとともに収容する第2の収容槽と、該第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段と、前記第2の収容槽内に収容され、多数の空孔が形成された複数の担体とから少なくとも構成されていることを特徴とする。
本件明細書には、第2の収容槽内に本件各発明の担体を収容することに関して「被処理水中を漂う残オゾンのバブルを担体に吸着させる結果、オゾン分子同士を積極的に酸素分子に化学変化させて残オゾンを低減できると同時に、水酸基ラジカルを豊富に生成させることで有機物の分解を促進し、当該酸素分子及び同じく担体に吸着した酸素バブルにより生物処理を活性化させることができる」(【0009】)ことが記載され、第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段を有することに関して「第1の収容槽にて、オゾン供給工程でオゾンによって殺菌処理された被処理水と残オゾンに対し、好気性微生物を担持した担体を収容した第2の収容槽にて、生物処理工程で酸素を含むマイクロナノバブルを供給することで、この酸素で活性化した好気性微生物による被処理水の生物処理を効果的に行うとともに、残オゾンに付加された酸素により水酸基ラジカル及び酸素に積極的に化学変化させることで、この残オゾンを早期に低減させることができる。」(【0017】)ことが記載されている。すなわち、【0017】では、本件各発明においては、第1の収容槽での工程に基づく「残オゾン」について、第2の収容槽において、酸素を含むマイクロナノバブルを供給することで、この「残オゾン」を早期に低減させることが記載されている。
そして、本件各発明は、第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段を有するところ、そのマイクロナノバブルの供給について、本件明細書には、上記【0017】のとおりの記載があるほか、その実施例においては、そのマイクロナノバブルについて「酸素(空気)マイクロナノバブル」(【0033】等)、その発生装置について「酸素(空気)バブル発生装置」(【0040】)などと説明されることがあり、また、大気中から吸気された酸素を含む空気を用いる構成(【0042】)や、「外気(空気)が酸素(空気)バブル発生装置40により超微細な気泡として液体中に混合されるため、この空気を汚水中に長時間滞留させることができるようになり、酸素(空気)バブル発生装置40にて混合された空気(溶存酸素)を汚水中にとどまらせて、・・」(【0054】)などの記載がある。これらでは、第2の収容槽内に、酸素を含む空気のマイクロナノバブルが供給されることがあることが記載されている。他方、本件明細書には、第2の収容槽内に供給されるマイクロナノバブルとなる「酸素」又は「酸素を含む空気」について、オゾン発生装置に通して、オゾンを発生(酸素の一部をオゾンに変換)させた後、得られたオゾンを含む酸素(空気)をマイクロナノバブル発生ノズルの枝管から圧縮部内に吸引させてもよい旨の記載や示唆は一切ない。
また、本件意見書には、「本発明に係る排水処理装置は、オゾン処理を行った後の被処理水を収容した第2の収容槽内に、好気性微生物、通性嫌気性微生物、及び微小な粉末状の活性炭をいずれも担持した複数の担体が収容されており、更に第2の収容槽にマイクロナノバブルに含まれる酸素に加え、オゾン処理に用いたオゾンを除くマイクロナノバブルに含まれる残オゾンが供給されております。この第2の収容槽に収容された複数の担体にて生じる作用について説明しますと、各担体の表面に形成された空孔内に、この空孔の径よりも微小なマイクロナノバブルに含まれる酸素が付着し、同様に担体の空孔内に付着した残オゾンが活性炭の触媒機能により積極的に酸素に化学変化させることで、これら豊富な酸素によって、好気微生物を活発化させて有機物分解を促進するばかりか、残オゾンを早期に低減させるという効果を奏します。」との記載がある。ここでも、原告は、本件各発明について、第2の収容槽においては、第1の収容槽でのオゾン処理によるものである「残オゾン」があるところ、第2の収容槽においてその低減が実現されること、その実現のための構成として、第2の収容槽に、所定の担体が収容されることに併せ、酸素を含むマイクロナノバブルが供給されることを説明しているといえる。
⑵ 以上のような本件明細書等から認められる本件各発明の目的、課題の解決手段からすれば、本件各発明は、オゾンによる殺菌等を行った処理後の被処理水に含まれる残オゾンの低減と、被処理水の生物処理の促進とを両立させることができる廃水処理装置及び廃水処理方法を提供することを目的としており、その解決手段としては、第1の収容槽内にオゾンを含むマイクロナノバブルを供給するオゾン供給手段を有するとともに、第1の収容槽とは別に、被処理水の生物処理を行う第2の収容槽を設けることとした上で、そこに第1の収容槽においてオゾンによって処理された被処理水を残オゾンとともに収容し、生物処理能力を低減させる原因となる残オゾンを積極的に酸素分子に化学変化させるために、第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段と、所定の担体を有するというものである。
したがって、本件各発明においては、オゾンによる殺菌等を行った後の被処理水に含まれる残オゾンの低減をも目的として第2の収容槽とそれに関する構成を設けているのであり、残オゾンを低減させるための構成ともいえる第2の収容槽内に、少なくとも積極的にオゾンを供給することは、課題の解決に至らず、本件各発明において第2の収容槽とそれに関する構成を有することとしたことと相容れないものといえる。
そして、オゾン発生装置で製造されるオゾンは、純度100%のオゾンガスが製造されるものでないことは技術常識である上、本件明細書【0031】において、オゾン発生装置29によって発生し、このオゾン発生装置29に接続され吸気管を介し吸気されたオゾンは、複数分岐した枝管24を通って圧縮部22内に噴出されるようになっていて、この圧縮部22内に噴出された気泡がオゾンを含むマイクロナノバブルとされていることからしても、第1収容槽内に供給される「オゾンを含むマイクロナノバブル」については、当然に酸素(空気)を含むものも想定されていたといえる。
以上に照らせば、本件各発明の特許請求の範囲の「第1の収容槽内にオゾンを含むマイクロナノバブルを供給するオゾン供給手段」と、「第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」の記載は、特にオゾン供給の有無という点において上記課題の解決のための対照的なマイクロナノバブルの供給手段として記載されているものと解するのが相当であり、「第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」は、第1の収容槽への供給手段と異なり、そのマイクロナノバブルにはオゾンが積極的に加えられているものではなく、その供給手段には、オゾンが積極的に加えられたマイクロナノバブルを供給する供給手段を含まないというべきである。したがって、第2の収容槽内にオゾンが積極的に加えられたマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段を有する装置は、構成要件Dを充足しないと解される。
⑶ 被告システムは、前記第2の1⑹のとおり、構成要件Dの第2の収容槽に当たる曝気槽内に、酸素及びオゾンを含むマイクロナノバブルを供給する被告装置を有しており、そのマイクロナノバブルには、オゾン発生装置から得られたオゾンガス、すなわちオゾンと酸素の混合ガスが用いられていて、オゾンが意図的、積極的に加えられていると認められるから(甲16、18、21、弁論の 全趣旨)、構成要件Dを充足しない。
⑷ 原告は、被告装置は、オゾンよりも多くの酸素が残存して含まれている上、当該オゾン自体も活性炭により化学変化させて酸素となることにより、好気性微生物及び通性嫌気性微生物を活性化させており、十分効果的である旨主張する。
しかし、本件明細書に記載された本件各発明の目的、課題の解決手段等からすれば、本件各発明における「酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」は、前記⑵のとおり解するのが相当である。
また、原告は、オゾンは微量であるが、大気中に存在するし、「オゾン発生装置」で生成されたオゾンは自然に消滅して酸素に置き換わるものなので、「第2収容槽内においてはオゾンの量を早期に低減」させることは、2次的な効果にすぎない旨主張するが、前記⑴及び⑵で述べたところによれば、残オゾンを早期に低減させることが本件各発明の2次的な効果にすぎないといえない。
⑸以上によれば、被告システムは構成要件Dを充足せず、本件発明1の技術的範囲に属しない。
解説/検討
本件発明1の構成要件Dと被告システムの構成dを対比すると次のとおりとなる。
構成要件D 「該第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段と、」
構成d 「該曝気槽内に酸素及びオゾンを含むマイクロナノバブルを供給するマイクロ・ナノバブル発生装置・・・と、」
この点、本判決は、本件各発明の目的、課題、解決手段等から、本件各発明においては、オゾンによる殺菌等を行った後の被処理水に含まれる残オゾンの低減をも目的として第2の収容槽とそれに関する構成を設けており、残オゾンを低減させるための構成ともいえる第2の収容槽内に、少なくとも積極的にオゾンを供給することは、課題の解決に至らない旨指摘して、「『第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段』は、第1の収容槽への供給手段と異なり、そのマイクロナノバブルにはオゾンが積極的に加えられているものではなく、その供給手段には、オゾンが積極的に加えられたマイクロナノバブルを供給する供給手段を含まない」と限定的な解釈をしたうえ、構成要件Dの第2の収容槽に当たる曝気槽内に、酸素及びオゾンを含むマイクロナノバブルを供給する被告装置はこれを充足しないものと判断したものであって、クレーム解釈として理解できるところである。
ただ、被告装置は、オゾンを含むとはいえ、酸素を含むマイクロバブルを供給するものであるから、酸素を含むことによって、全く酸素を含まない場合よりも「残オゾンの低減」等の作用効果を奏し、本件各発明の課題を一定程度解決しているのではないか、という観点からの検討もなされたうえで結論が導かれていれば、より説得的なものになったと考えられる。
