【リウマチ治療に用いられるセレコキシブの製剤特許に関し、「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり」との発明特定事項の明確性が争われ、特に「プロダクトバイプロセス」に該当するか、また「不可能・非実際的事情」が認められるかが問題とされた事例】

 

投稿日:2026年5月20日

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著者:弁理士 梅田 慎介
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

明確性(特許法第36条第6項第2号)/プロダクトバイプロセス/不可能・非実際的事情

 

ポイント

※セレコキシブは未粉砕では長い針状の結晶形態をとり凝集しやすい。本発明はセレコキシブを所定の粒子サイズにまで粉砕することで凝集性の問題を解決するものであり、訂正請求項1は「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が30μmである粒子サイズの分布を有し」と規定する。
※「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり」との発明特定事項について、審決は「プロダクトバイプロセス(PBP)」に該当し、「不可能・非実際的事情」もあるから不明確ではないとした。しかし、裁判所は、PBPに該当するが、そもそも製造方法として不明確であり、「不可能・非実際的事情」の判断にまで及ばないとした。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第4部
判決言渡日 令和6年3月18日
事件番号 令和4年(行ケ)第10127号(第1事件)、
同第10128号(第2事件)、
同第10129号(第3事件)、
同第10130号(第4事件)、
令和5年(行ケ)第10027号(第5事件)
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
宮坂 昌利
本吉 弘行
岩井 直幸
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

本件発明(訂正発明1)
【請求項1】
 一つ以上の薬剤的に許容な賦形剤と密に混合させた10mg乃至1000mgの量の微粒子セレコキシブを含み、一つ以上の個別な固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物であって、
 セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり
 粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が30μmである粒子サイズの分布を有し、
 ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤を含む
 製薬組成物。

争点

「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり」(発明特定事項b・ピンミル構成)の明確性(取消事由3)。

審決の判断

明確性要件充足
(1)PBP

 本件出願日当時の技術常識からすれば、「ピンミルのような衝撃式ミル」は、いわゆる衝撃式粉砕機であり、粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する装置であることを理解できるから明確である
 「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕された」「セレコキシブ粒子」については、本件明細書の記載や技術常識からすれば、ピンミルのような衝撃式粉砕機により粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機により粉砕された粉体と異なる粒度分布の粉体となり、セレコキシブの生物学的利用能の改善の観点で重要なセレコキシブ結晶の凝集性及びブレンド均一性の改善に寄与しており、「他のタイプのミルとは異なる粒度分布」を有する粒子といえる。
 しかし、上記の「他のタイプのミルとは異なる粒度分布」は単に「構造又は特性を特定しているに過ぎない場合」に該当するとまではいえないから、発明特定事項bの記載は、「物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合」に該当すると解され、訂正発明1は、PBPクレームである。

(2)不可能・非実際的事情
 そして、ピンミルのような衝撃式ミルによって粉砕したセレコキシブ粒子の構造又は特性によって直接特定することは、ピンミルのような衝撃式ミルとは異なる多数の粉砕方法とその粉砕粒子の構造又は特性との関係についての理論・原理を全て明らかとし、ピンミルのような衝撃式ミルによって粉砕したセレコキシブ粒子と当該多数の粉砕方法によって粉砕したセレコキシブ粒子の構造又は特性を、比較・検証していく膨大な作業が必要となり、不可能・非実際的事情が存在するといえる

判旨

裁判所の判断‐明確性要件非充足
(1)PBP

 本件ピンミル構成がPBPクレームに当たるかについて検討するに、本件ピンミル構成に関する本件明細書の【0024】、【0190】の記載が、セレコキシブ粒子を粉砕する製造工程、製造方法を開示していることは明らかであり、したがって、本件訂正によって特許請求の範囲の発明特定事項とされるに至った本件ピンミル構成についても、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕」するという製造方法をもって物の構造又は特性を特定しようとするもの(その意図が成功しているかどうかはともかく)と理解される。

(中略)

(2)不可能・非実際的事情

 衝撃式粉砕機に分類される粉砕機としては、本件審決も認定しているとおり、多種多様なものがあるところ、…衝撃式粉砕機によって粉砕されたセレコキシブ粒子を含む薬剤組成物であっても、本件特許の技術的範囲に属するものと属しないものがあることになるが、本件明細書に接した当業者において、「ピンミルで粉砕されたセレコキシブ粒子に見られるのと同様の、長い針状からより均一な結晶形へと変質されて、凝集力が低下し、ブレンド均一性が向上した構造、特性を有するセレコキシブ粒子」を製造できる衝撃式粉砕機がいかなるものかを理解できるとは到底認められない。すなわち、一般に、明細書に製造方法の逐一が記載されていなくても、当業者であれば、明細書の開示に技術常識を参照して当該製造方法の意味するところを認識できる場合も少なくないと解されるが、本件の場合、本件明細書には、「ピンミルで粉砕されたセレコキシブ粒子」の凝集力の小ささ、改善されたというブレンド均一性が、ピンミルのいかなる作用によって実現されるものかの記載がないため、衝撃式ミル一般によって実現されるものなのか、衝撃式ミルのうち、ピンミルと何らかの特性を共通にするものについてのみ達成されるものなのかも明らかとなっていない。そのため、技術常識を適用しようとしても、いかなる特性に着目して、ある衝撃式ミルが本件ピンミル構成にいう「ピンミルのような衝撃式ミル」に当たるか否かを判断すればよいのかといった手掛かりさえない状況といわざるを得ない。
 そうすると、本件明細書等に加え本件出願日(明確性要件の判断の基準時)当時の技術常識を考慮しても、「ピンミルのような衝撃式ミル」の範囲が明らかでなく、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕」するというセレコキシブ粒子の製造方法は、当業者が理解できるように本件明細書等に記載されているとはいえないから、本件訂正発明は明確であるとはいえない。
 ところで、PBPクレームは、物自体の構造又は特性を直接特定することに代えて、物の製造方法を記載するものであり、そのような特許請求の範囲が明確性要件を充足するためには、不可能・非実際的事情の存在が要求されるのであるが、本件においては、不可能・非実際的事情を検討する以前の問題として、(そもそも※筆者追加)…特許請求の範囲に記載された製造方法自体が明確性を欠くものである。

解説/検討

 「ピンミルのような衝撃式ミル」について、特許庁は「いわゆる衝撃式粉砕機」であるとし、ピンミルは単なる例示であって衝撃式ミル全般を意味すると判断したと考えられる。一方、裁判所は、衝撃式ミルに含まれるミルのうち、ピンミルと類似又は同等の特性を有する(特定の)衝撃式ミルを意味すると判断した。この判断の相違が異なる結論を導いたものである。明細書には「衝撃粉砕により長い針状からより均一な結晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質させ、ブレンド目的により適するようになるが、長い針状の結晶はエアージェットミルでは残存する傾向が高いと仮定される」(段落0024)と記載され、気流式粉砕機ではなく衝撃式粉砕機を用いる点が技術的特徴となり得ることが説明されている。「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり」との訂正は単に「衝撃式ミルで粉砕されたものであり」とすることも考えられたであろう。
 

 

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