【親出願の設定登録後にされた分割出願について、親出願の係属継続を要するとして不適法とされた事例】
投稿日:2026年6月29日 |
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著者:弁護士 盛田 真智子
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参照条文/キーワード/論点 |
特許法44条1項/分割出願/親出願/設定登録/特許庁係属/特許査定後の分割/出願係属性/特許査定謄本送達後30日/特許料納付/却下処分 |
ポイント
※ 本判決は、特許法44条1項の分割出願は、もとの特許出願が特許庁に係属していることを前提とするものであり、親出願の設定登録後は、特許査定謄本送達後30日以内であっても分割出願をすることはできないと判示した事例である。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第4部 |
| 判決言渡日 | 令和5年9月28日 |
| 事件番号 | 令和5年(行コ)第10001号 |
| 事件名 | 特許分割出願却下処分取消請求控訴事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
宮坂 昌利
本吉 弘行 岩井 直幸 |
事案の概要
1 経緯
控訴人(一審原告)のした本件出願は、本件親出願の分割出願としてされたものであるが、当該出願に先立って、本件親出願に係る特許料納付を経て本件設定登録がされていた。特許庁は、特許出願の分割を規定した特許法44条柱書に「特許出願人」「特許出願」と記載されており、同項の規定は親出願が特許出願として特許庁に係属していることを前提とするところ、本件出願は、親出願について設定登録がされた後にされたものであり、特許出願として特許庁に係属していない出願をもとの出願として行われたものであるから、同項所定の要件を満たしていない不適法な手続であるとして本件却下処分をした。
控訴人(一審原告)は本件却下処分の取消しを求めて訴訟を提起したが、原審は原告の請求を棄却した。本件訴訟はその控訴審であるが、原審と同様に特許庁の解釈を支持し、控訴を棄却した。
| 令和元年10月29日 | 控訴人(一審原告)が特許出願(本件親出願) |
| 令和2年6月30日 | 本件特許査定 |
| 令和2年7月7日 | 本件特許査定の謄本が控訴人に送達された |
| 令和2年7月20日 | 控訴人(一審原告)が特許料を納付 |
| 令和2年7月29日 | 本件特許権の設定登録 |
| 令和2年8月 5日 | 控訴人が本件親出願をもとの特許出願とする分割出願(本件出願) |
| 令和2年9月25日 | 特許庁の却下理由通知書(特許出願を分割できる時又は期間内にされた分割出願ではない。法44条1項2号所定の期間内であっても、特許出願について特許権の設定登録がされた後は、その特許出願は特許庁にjしなくなるため、その特許出願をもとの出願として新たな特許出願をすることはできない) |
| 令和2年11月21日 | 控訴人が弁明書提出(本件出願をした時点では特許証を受領しておらず、本件設定登録がされたことは了知していなかった旨)) |
| 令和3年3月30日 | 特許庁が本件却下処分 |
| 令和3年6月10日 | 控訴人が本件却下処分の取消しを求める本件審査請求 |
| 令和4年2月22日 | 特許庁が本件審査請求を棄却する旨の裁決 |
| 令和4年8月5日 | 控訴人が本件却下処分の取消しを求めて訴訟提起 |
| 令和5年3月23日 | 原審が控訴人の請求を棄却 |
争点
親出願の設定登録後の分割出願の可否(特許法44条柱書の「特許出願人」「特許出願」の解釈)
争点に関する当事者の主張
控訴人(一審原告)の主張
・取消事由1
特許法44条1項には、「特許査定謄本の送達の日から30日以内であっても、もとの特許出願につき特許権の設定登録がされた後はすることができない」旨を定めた規定は存在しない。特許庁は同法の解釈を誤っており、本件却下処分は違法である。
ア 法44条1項柱書の「特許出願人」との文言は分割出願に係る出願人と特許査定を受けた出願人とは同一でなければならないとする主体的要件を、「特許出願の一部」の文言は分割出願に係る発明がもとの特許出願に係る発明に包含されていなければならないとする客体的要件を定めたものであって、分割出願の際にもとの出願が係属していなければならないとすること(時期的要件)を定めたものではない。
イ 法44条1項2号は平成18年法律第55号(以下「改正法」という。)により新設されたものであるところ、30日以内であっても設定登録後は分割できないという議論は立法の過程では何らされておらず、処分行政庁による解釈は改正法の立法趣旨に反する。
ウ 「特許出願人」と規定されていても「特許権者」と解釈すべき条文があり(法65条1項1)、法44条1項柱書に「特許出願人」と規定されているからといって、直ちに特許出願が特許庁に係属していることを要件とすると解することはできない。
エ 特許査定を起算日とした期間で分割出願を認めている中国や台湾においては、特許登録がいつされたかによって当該期間が影響を受けることがないという運用を行っている。
・取消事由2
仮に、特許査定謄本送達から30日以内であっても特許権の設定登録後は分割出願できないと解されるとしても、本件却下処分は違法である。本件出願は、本件特許権に係る特許証の受領日より前に行われたものであるため、分割出願をすることができる期間内にされた適法なものである。
特許出願人は、特許証を受領するまでは特許権が設定登録された事実を知ることができないところ、上記解釈によれば、その間は特許権を享受できず、分割出願をすることができる時期の制限という不利益のみを受けることになり、不合理である。このため、少なくとも特許出願人との関係では、特許権の効果が発生するのは特許証を受領した日と解すべきである。
特許を含め、名宛人のある行政処分については、その行政処分がその名宛人に対して告知されて初めて効果を生じるとの通説・判例として確立している解釈に反する。
1「第六十五条 特許出願人は、出願公開があつた後に特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をしたときは、その警告後特許権の設定の登録前に業としてその発明を実施した者に対し、その発明が特許発明である場合にその実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の補償金の支払を請求することができる。・・・」
判旨
1 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。・・・
2 当審における控訴人の補充的主張に対する判断
(1) 取消事由1について
特許出願の分割は、もとの特許出願の一部について行うものであるから、分割の際にもとの特許出願が特許庁に係属していることが必要であり、法44条1項の「特許出願人」及び「特許出願」との文言は、このことを示すものである。同項1号から3号は、これを前提に、分割の時的要件を定めるものであり、これに反する控訴人の主張は、同項所定の「特許出願」、「特許出願人」との文言を無視する独自の議論といわざるを得ず、採用できない。なお、控訴人は、法65条1項を「特許出願人」と記載されていても「特許権者」と解釈すべき例として挙げるが、同項の「特許出願人」は「警告をした」の主語でもあるところ、これが出願公開後、設定登録前の特許出願人を指すことは明らかである。
また、控訴人は、設定登録後は分割出願できないとの処分行政庁の解釈は法44条1項に関する改正法の立法趣旨に反する旨主張する。しかし、同項2号が、特許料納付期限(法108条1項2)と平仄(ひょうそく)を合わせる形で、特許査定の謄本送達日から「30日以内」を分割出願の期限と定めたのは、同期限内であれば、特許査定を受けた特許出願人の意思によって「特許出願人」たる地位を継続することが可能であることを踏まえて、当該特許出願人が、特許査定を受け入れてそのまま特許料の納付に進むのか、分割出願という選択肢を行使するのかという表裏一体の判断を検討するための猶予期間を付与したものと理解することができる。したがって、改正法の内容は、特許出願が特許庁に係属していることを分割出願の要件とするとの解釈と何ら矛盾するものではなく、むしろこれと整合するものといえる。
また、中国、台湾における取扱いを述べる控訴人の主張は、各国工業所有権独立の原則、工業所有権の保護に関するパリ条約4条G(2)第3文に照らして、本件の判断に影響を及ぼすものとはいえない。
(2) 取消事由2について
控訴人は、特許登録について独占権発生という効果のほかに分割不可化という効果が生じるのであれば、当該効果の部分については特許出願人に通知されて初めて効果が生じる旨主張する。しかし、設定登録は分割不可化という効果を目的とする行政処分ではなく、設定登録によりもとの出願が特許庁に係属しなくなることの派生的効果として、結果的に適法な分割ができなくなるというにすぎないのであって、控訴人の主張は、前提を欠くというべきである。
第4 結論
以上によれば、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
2第百八条 前条第一項の規定による第一年から第三年までの各年分の特許料は、特許をすべき旨の査定又は審決の謄本の送達があつた日から三十日以内に一時に納付しなければならない。
解説/検討
一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。
二 特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。
三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。
これは特許庁の従来の運用を支持するものである。特許庁は、HPで公開されている「出願の手続Q&A」で、「問11 特許査定の謄本の送達があった日から30日以内であれば、特許権の設定の登録後であっても分割出願をすることができますか」との質問に対して以下のように回答し、注意喚起をしていた。
「特許法44条1項本文において「特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる」と規定されていることから、もとの特許出願を分割するには、分割する時にもとの特許出願が特許庁に係属していることが必要になります。したがって、特許査定の謄本の送達があった日から30日以内・・・であっても、特許権の設定の登録があったときは、当該特許出願が特許庁に係属していないことになるため、当該特許出願を分割することができません。そして、この設定の登録は、特許料の納付書の提出後順次行われていくため、納付書の提出と同日以前に当該特許出願を分割することが推奨されます。」
また、特許庁は「平成18年特許法改正の解説」の第3章2の「(1)特許査定後及び拒絶査定後の分割可能期間」においても、同様の見解を記載している。本判決は、従来の特許庁実務を支持するとともに、法44条1項柱書の「特許出願」「特許出願人」という文言から、分割時に親出願がなお特許庁に係属していることを要求する解釈を正面から示したものといえる。
ただ、平成18年に44条が改正される前は、分割出願ができる時期は補正をすることができる時期に限られていたので、分割出願時にはその出願が特許庁に係属していることが当然の前提であった。改正によって、特許査定の謄本送達から30日以内にも分割出願ができる旨の同条2号の内容が加えられた。改正に当たって特許庁が上記のような注意喚起をおこなっていることから、多くの特許事務所が特許庁の運用に沿って、「親出願の設定登録後は分割出願ができないため、特許料納付のタイミングには注意すべき」といった旨をHPで周知しているようである。しかし、「特許査定の謄本送達から30日以内であっても設定登録後には分割出願できない」旨は条文に明記されておらず、出願人にとって分かりやすい規定ぶりであったとは言い難いようにも思われる。
特許査定の謄本送達から「30日以内」という分割出願期間について、特許庁の「平成18年特許法改正の解説」では「特許査定後の特許料納付期限(権利を発生させるか否かの判断を行う期間)及び拒絶査定不服審判の請求可能期間(審判請求の要否についての判断を行う期間)はいずれも30日に設定されており、出願を分割するか否かを判断するための期間についても、30日に設定することが適切と考えられる」と述べられている。
上記判決は「同項2号が、特許料納付期限と平仄を合わせる形で、特許査定の謄本送達日から『30日以内』を分割出願の期限と定めたのは、・・・特許出願人が、特許査定を受け入れてそのまま特許料の納付に進むのか、分割出願という選択肢を行使するのかという表裏一体の判断を検討するための猶予期間を付与したもの」「したがって、改正法の内容は、特許出願が特許庁に係属していることを分割出願の要件とするとの解釈と・・・整合する」と判示した。実務上は、特許査定後に分割出願の可能性が残る案件については、特許料納付・設定登録の前に分割要否を十分検討する必要があることを改めて示した裁判例といえる。
