【引用例に化合物名が記載されていたものの、その製造方法に関する記載は見当たらないとして新規化学物質の発明の新規性が認められた事例】

 

投稿日:2026年5月20日

ohno&partners

著者:弁理士 大木 信人
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

特許法100条1項2項、29条1項/新規な化学物質の発明/刊行物に記載された発明

 

ポイント

 本件は、発明の名称を「5-アミノレブリン酸リン酸塩、その製造方法及びその用途」とする特許第4417865号の特許権者である原告が、被告に対し、被告の製品が本件特許発明の技術的範囲に属し、被告による被告製品の製造等が本件特許権の侵害に該当すると主張して、被告製品の製造等の差止め及び廃棄を求めた事案である。
 被告は、本件発明は5-アミノレブリン酸リン酸塩そのものであるのに対して、被告製品は、5-アミノレブリン酸リン酸塩を原材料として含むものであるが、アミノ酸含有加工食品であり、5-アミノレブリン酸リン酸塩そのものではないこと、被告製品は、5-アミノレブリン酸リン酸塩を含んでいるものの、単離されておらず、かつその濃度は高純度のものではないことから、各被告製品は、本件発明を充足しないこと、ならびに、本件特許の優先日以前に公開された引用例には、「5-ALAホスフェート」が記載されており、引用発明は、本件発明と同一であり、新規性を欠く旨主張した。
 裁判所は、本件発明は、新規な化学物質の発明であるとして、各被告製品には、新規な化学物質である本件発明のアミノレブリン酸リン酸塩そのものが含まれていることから、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属すると判断すると共に、引用例に接した本件優先日当時の当業者が、本件優先日当時の技術常識に基づいて、5-ALAホスフェートの製造方法その他の入手方法を見出すことができたとはいえないとして、引用例から5-ALAホスフェートを引用発明として認定せず、本件発明は新規性を欠くものとはいえないと判断した。

 

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第46部
判決言渡日 令和5年7月28日
事件番号 令和4年(ワ)第9716号
事件名 特許権侵害差止請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
柴田 義明
杉田 時基
仲田 憲史
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

(1) 本件発明
 本件特許(特許第4417865号)の請求項1には以下の発明が記載される。
「【請求項1】
下記一般式(1)
HOCOCH2CH2COCH2NH2・HOP(O)(OR1)n(OH)2-n(1)
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示し;nは0~2の整数を示す。)で表される5-アミノレブリン酸リン酸塩。」

(2) 被告の行為等について
 被告は、遅くとも令和3年3月より、アミノ酸含有加工食品(以下「イ号製品」という。)等を日本国内で製造し、譲渡し、譲渡の申出をしていた。
 被告製品中のアミノ酸粉末の5-ALAホスフェートの化学式は、上記一般式⑴のうちR1を水素原子とし、nを1としたものであり、また、5-ALAホスフェートは、5-アミノレブリン酸リン酸塩である。
 イ号製品は、原材料としてデキストリン及び5-ALAホスフェート(5-アミノレブリン酸リン酸塩)が含まれるアミノ酸粉末(ただし、当該5-アミノレブリン酸リン酸塩の純度には争いがある。)を含み、また、添加物としてHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、クエン酸第一鉄Na、微粒二酸化ケイ素及び二酸化チタンを含むアミノ酸含有加工食品である。

争点

(1) 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか(争点①)
(2) 本件発明の新規性(争点②)

争点に関する当事者の主張

(被告の主張)
(1) 争点①について
 本件発明は5-アミノレブリン酸リン酸塩そのものである。各被告製品は、5-ALAホスフェート(5-アミノレブリン酸リン酸塩)を原材料として含むものであるが、いずれも、アミノ酸含有加工食品であり、5-アミノレブリン酸リン酸塩そのものではないから、各被告製品は、本件発明を充足しない。
 本件明細書において、5-アミノレブリン酸リン酸塩の製造の実施例1の記載(【0034】)においては、5-アミノレブリン酸塩酸塩をリン酸に加え、濃縮し、析出させることで5-アミノレブリン酸リン酸塩を単離している。また、単離された5-アミノレブリン酸リン酸塩は核磁気共鳴装置(NMR)による実測値と理論値がほぼ一致しており(【0035】)、極めて高純度の5-アミノレブリン酸リン酸塩が得られている。「単離」の意義としては、「化合物や混合物から純粋な化学物質を分離すること。たとえば,蒸留,沈殿,吸収など。」、「混合物中から一つの物質だけを純粋な形で取り出すこと。」、「混合物から、ある化合物を純粋な物質として取り出すこと。」、「混合物中から目的物質だけを、純粋な物質として分離し、取り出すこと。」などとされている。これらによれば、本件発明の「5-アミノレブリン酸リン酸塩」とは、単離した高純度のものをさすと解すべきである。
 また、被告は、本件審判請求において、本件引用例や乙1文献を引用例とする無効の主張について、本件引用例や乙1文献には、5-ALAのリン酸塩を製造し単離する方法は記載されていないと主張するなどし、繰り返し「5-アミノレブリン酸リン酸塩」は「単離」したものであると主張して乙1文献や本件引用例との相違点を強調していた。加えて、本件審決取消訴訟においても、「5-ALA(5-アミノレブリン酸)は化学的に不安定で単体として取り出すことはできない」とか、本件引用例についても「ALA」を物質として取り出しているわけではない等と主張しており、リン酸塩になる前の「5-ALA」について「単体として取り出す」とか「物質として取り出す」などといった処理が必要である旨主張していて、これを前提として知的財産高等裁判所において判断がされている。したがって、原告が、本件発明の「5-アミノレブリン酸リン酸塩」が単離された高純度のものに限られないと主張することは信義則に反し、許されない。
 各被告製品は、5-アミノレブリン酸リン酸塩を含んでいるものの、単離されておらず、かつその濃度も6%であって高純度のものではないから、本件発明を充足しない。

(2) 争点②について
ア 本件引用例には、作用物質の特に有利な例として「5-アミノレブリン酸またはその塩またはエステル」とあり、複数列挙されている5-アミノレブリン酸の塩の「有利な例」の一つに「5-ALAホスフェート」が明記されている。そうすると、引用発明は、本件発明と同一であり、新規性を欠く。
イ 原告は、新規な化学物質については、大前提として、①物質の構成が開示されていること、とりわけ、刊行物に多数の選択肢が列挙されている場合には、特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情が存在することが必要であるところ、本件引用例に記載の「5-ALAホスフェート」は、【0012】に塩及びエステルとして多数列挙された物質の一例に過ぎず、この多数の物質の中から、5-ALAホスフェートを積極的あるいは優先的に選択すべき事情は存在しない旨、②-A当該刊行物において、当業者が当該物質の製造方法を理解し得る程度の記載があること、又は②-B製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には、刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見いだすことができることも必要であるところ、5-アミノレブリン酸リン酸塩の製造方法は、本件優先日前に知られていなかったのであるから、本件引用例に接した当業者が、本件優先日の技術常識に基づいて、「HOCOCH2CH2COCH2NH2・HOP(O)(OH)2で表される5-アミノレブリン酸リン酸塩」の製造方法その他の入手方法を見いだすことができると認められる事情もない旨主張する。
 しかしながら、当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され、当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合に優先的に選択すべき事情が要求されるにすぎず、一義的に確定できる唯一の化合物である5-ALAホスフェートが記載されている本件では、刊行物に多数の選択肢が列挙されている場合には、特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情は必要とされない。
 また、乙16文献から乙18文献には、5-ALA(5-アミノレブリン酸)単体は特定の菌を用いて量産できることが明示されており、5-ALAの単体の製造方法は本件特許の優先日においても周知である。加えて、5-ALA(5-アミノレブリン酸)をリン酸溶液に溶解すれば、弱塩基と強酸の組合せとなり、5-アミノレブリン酸リン酸塩(ホスフェート)が得られることも技術常識である。
 そうすると、本件発明が、単離されておらず、高純度でもなく、「物質として取り出された」ものでもない「5-ALAホスフェート」を含むという主張を前提とする限り、本件引用例には「5-ALAホスフェート」という発明は、明示的に記載されているもので、製造も極めて容易である。
 なお、原告は、乙17文献についても、発酵液中に培地成分と混合した状態で存在する「ALA」の濃度を示すものにすぎず、「ALA」を物質として取り出しているわけではない旨主張するが、発酵液中に培地成分と混合した状態で存在していても5-ALAであることに変わりはなく、培地成分と混合した状態であってもよい。

判旨

2 争点①(各被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか。)について
(1) 本件発明は、特許請求の範囲の記載及び前記1(2)のとおりの本件明細書記載の技術的意義からしても、従前知られていた5-アミノレブリン酸に比べて有利な効果を有する新規な化学物質の発明である。

(2) 各被告製品は、原材料として5-ALAホスフェート(5-アミノレブリン酸リン酸塩)が含まれるアミノ酸粉末を用いるアミノ酸含有食品であり(第2の1の(4))、各被告製品には、本件発明の一般式⑴のうちR1を水素原子とし、nを1とした5-アミノレブリン酸リン酸塩が含まれていると認められる(甲5)。すなわち、各被告製品には、新規な化学物質である本件発明のアミノレブリン酸リン酸塩そのものが含まれている。
 以上によれば、各被告製品は、本件発明の技術的範囲に属する

(3) 被告は、各被告製品が、アミノ酸含有食品であること、5-アミノレブリン酸リン酸塩が単離されておらず、その純度が低いことを挙げて、各被告製品が本件発明の技術的範囲に属さない旨主張する。
 しかし、本件発明は新規な化学物質の発明であり、本件発明の目的は、新規な化学物質としての5-アミノレブリン酸リン酸塩を提供することであって、5-アミノレブリン酸リン酸塩の純度を向上させることにあるのではない。本件発明の5-アミノレブリン酸リン酸塩であれば、それが単離されていなくとも、また、それを含む製品においてそれが高い濃度でなくとも、発明の効果を奏するといえる。本件明細書には、実施例として、5-アミノレブリン酸リン酸塩の製造例が具体的に記載され、また、製造された物質の融点、1 H-NMR、13C-NMR、元素分析値、イオンクロマトグラフィーによる PO4 3- の含有率が同定データとして記載されているが(【0034】、【0035】)、これらの記載は、新規な化学物質の発明が特許されるために必要とされる化学物質の同定データとして記載されたものであって、そこに記載の数値等が本件発明の技術的範囲を限定する根拠となるものとは解されない。
 各被告製品に本件発明の5-アミノレブリン酸リン酸塩が含まれている本件において、被告の上記主張には理由がない。

(4) 被告は、本件審判請求や本件審決取消訴訟においてされた特許無効の主張に対し、原告が乙1文献や本件引用例には、5-ALAのリン酸塩を製造し単離する方法は記載されていないと主張するなどしたことなどをもって、原告が、本件発明の「5-アミノレブリン酸リン酸塩」が単離された高純度のものに限られないと主張することは信義則に反し、許されない旨主張する。
 しかしながら、原告が提出した本件審判上申書や本件審判口頭審理陳述要旨書の記載は上記第2の1⑹(別紙4)のとおりであり、それらにおいて、原告は、本件引用例や乙1文献には、5-アミノレブリン酸リン酸塩の製造方法や入手方法が記載されていない旨を述べる趣旨で、それを単離することについて記載がないと述べているか、本件特許の請求項3の「水溶液」の解釈に関連する主張をしたにすぎない。そして、原告の上記主張は引用例の記載に対するものであり、本件明細書の記載や本件発明の構成要件に言及したものではないから、原告が、上記において、本件発明の構成要件を限定する趣旨の主張をしたとは認められず、信義則違反の主張はその前提を欠く。
⑸ 以上によれば、各被告製品は本件発明の技術的範囲に属し、被告による各 被告製品の製造並びに譲渡及び譲渡の申出は、特許法2条3項1号の生産並びに譲渡及び譲渡の申出に当たる。

3 争点②(本件発明の新規性)について
(1) 引用発明について
ア 本件引用例における5-ALAホスフェートの記載
 第2の1⑸ア(別紙2の1)によれば、本件引用例には「非水性液体中に溶解または分散した5-アミノレブリン酸および/またはその誘導体から選択される作用物質を含有する組成物」及び「誘導体が5-ALAの塩およびエステルから選択される請求項1記載の組成物」の発明が記載されている。
 また、第2の1⑸ア(別紙2の2)によれば、本件引用例の【0012】には、本件引用例の組成物が5-アミノレブリン酸の誘導体を作用物質として含有する旨、この作用物質として特に有利には「5-アミノレブリン酸またはその塩またはエステルである」旨が記載され、この「塩またはエステル」の有利な例として22種類の化合物が列挙され、その列挙された化合物の中には、5-ALAホスフェートが含まれている。

イ 5-ALAホスフェートを引用発明として認定できるか
(ア) 特許法29条1項は、同項3号の「特許出願前に」「頒布された刊行物」については特許を受けることができない旨規定する。当該規定の 「刊行物」に物の発明が記載されているというためには、同刊行物に発明の構成が開示されているだけでなく、発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項参照)にかんがみれば、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術的思想が開示されていることを要するというべきである。
 特に、当該物が新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから、刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に、当該物質の構成が開示されていることにとどまらず、その製造方法を理解し得る程度の記載があることを要するというべきである。そして、刊行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見出すことができることが必要であるというべきである。
 ここで、5-ALAホスフェートは、新規の化合物であり、上記アのとおり、本件引用例には、列挙された化合物の中に5-ALAホスフェートが含まれているものの、本件引用例にその製造方法に関する記載は見当たらない(乙2)。
 したがって、5-ALAホスフェートを引用発明として認定するためには、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、思考や試行錯誤 等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技術常識に基づいて、5-ALAホスフェートの製造方法その他の入手方法を見出すことができたといえることが必要である。
・・・(中略)・・・

 確かに、上記第2の1⑸イ及びエのとおり、乙16文献及び乙18文献には、甲13の1文献を引用しつつ、「ALA生産が確立されている」、「ALAの産生に成功した」、「発酵の下流では、イオン交換樹脂を使用するALA精製プロセスも確立されて」いるなどと記載されている。しかしながら、甲13の1文献には、同オのとおり、「発酵液からのALAの精製」の項において、ALAが塩基性水溶液中では非常に不安定であり、種々の検討の結果、5-アミノレブリン酸塩酸塩結晶を得るプロセスを確立することに成功した旨が記載されているにすぎない。そうすると、乙16文献及び乙18文献においては、細菌を培養して発酵液中にALA(5-アミノレブリン酸)を産生させる技術は開示されているものの、5-アミノレブリン酸単体を得る技術は開示されていないといえる。
・・・(中略)・・・
 以上のとおり、乙16文献から乙18文献までにおいて、5-アミノレブリン酸単体を得る技術が開示されているとはいえない。これに加え、上記第2の1⑸アのとおり、本件引用例においても「5-ALAは・・ ・化学的にきわめて不安定な物質である」、「5-ALAHClの酸性水溶液のみが充分に安定であると示される」と記載されていて(【0007】)、これらの事項が本件優先日当時の技術常識であったと認められることも考慮すると、本件優先日当時において、5-アミノレブリン酸単体を得る技術が周知であったとは認められない。
 この点に関し、原告は、5-アミノレブリン酸リン酸塩を製造する上で、5-ALAが物質として取り出されている必要はなく、発酵液中に培地成分等と混合した状態であってもよい旨主張する。
 しかしながら、本件優先日当時、種々の成分を含む混合液に酸又は塩基を添加するという方法が、化合物である塩の製造方法として技術常識であったとは認められないことからすれば、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、化合物である5-アミノレブリン酸リン酸塩を製造する方法として、培地成分等と混合した状態で5-アミノレブリン酸が存在する発酵液にリン酸を添加する方法(又はこの発酵液をリン酸溶液に添加する方法)を、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮することなく見出すことができたとはいえない。
・・・(中略)・・・

(ウ) 以上によれば、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技術常識に基づいて、5-ALAホスフェートの製造方法その他の入手方法を見出すことができたとはいえない。
 したがって、本件引用例から5-ALAホスフェートを引用発明として認定することはできない。

ウ 本件引用例から認定することができる引用発明の内容
・・・(中略)・・・
(イ) 以上によれば、本件引用例から、「1、2-プロピレングリコールおよびグリセリン中の5-ALAの10%(質量%/容積%)溶液」を引用発明として認定することができる。

⑵ 本件発明の引用発明に対する新規性の有無
ア 本件発明と引用発明との対比
・・・(中略)・・・
 他方、引用発明は、「1、2-プロピレングリコールおよびグリセリン中の5-ALAの10%(質量%/容積%)溶液」であり、本件発明のように化合物である5-アミノレブリン酸リン酸塩ではないから、・・・(中略)・・・本件発明と引用発明とを対比すると、両発明には相違する点があるところ、この相違点は、実質的な相違点であるというべきである。したがって、本件発明は、引用発明と一致するものとはいえないから、引用発明に対して新規性を欠くものとはいえず、本件発明に係る特許 が特許無効審判により無効にされるべきものとはいえない。

解説/検討

 本件発明は、新規な化学物質の発明であり、本件発明の目的は、新規な化学物質としての5-アミノレブリン酸リン酸塩を提供することにあり、当該化学物質が単離されていなくとも、また、高い濃度でなくとも発明の効果を奏することから、被告製品において5-アミノレブリン酸リン酸塩が含まれている以上は、本件発明の技術的範囲に属することは明らかであると思われる。
 無効論においては、新規性のみが争われ、本件特許の無効理由を争った審決取消訴訟(令和4年(行ケ)第10091号)と同趣旨の判断が示されている。
 一方で、本件においては、進歩性の有無については争われていない。一般的に、化合物の塩酸塩の引例に対し、当該化合物のリン酸塩が進歩性を得ることは容易ではない場合が多いと思われる。本件において、「5-ALAホスフェートの製造方法その他の入手方法を見出すことができたとはいえない」と判断された根拠は、細菌における生合成の方法において、発酵液からALAを精製することが容易ではないと判断されたことにあると思われるが、ALAの生産は、収率は低いものの化学的に合成することは可能であったし、ALAを強酸(HCl、H3PO4等)に溶解すると顕著な劣化は見られないことも公知であった。異なる証拠によっては、5-アミノレブリン酸リン酸塩の進歩性は否定される可能性があったのではないかと思われる。

 

PAGE TOP