【均等論の第2要件が認められなかった事案。別の請求項記載の発明に係る本許権侵害を理由とする請求原因の追加主張が訴えの追加的変更に当たるとされた事案】
投稿日:2026年5月20日 |
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著者:弁理士 松野 知紘
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参照条文/キーワード/論点 |
特許法68条/民事訴訟法143条1項ただし書き、同条4項、157条1項/均等論(第2要件)/従属項の追加 |
ポイント均等第2要件につき、対象製品等が特許発明の構成要件の一部を欠く場合であっても、均等侵害が成立し得るとされた。また、本件発明2に係る本件特許権侵害を理由とする請求原因を追加主張したことは、訴えの追加的変更に当たるとされた。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 大阪地方裁判所第21民事部 |
| 判決言渡日 | 令和5年6月15日 |
| 事件番号 | 令和3年(ワ)第10032号 |
| 事件名 | 特許権侵害差止等請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
武宮 英子
阿波野 右起 峯 健一郎 |
事案の概要
本件は、原告が、被告が本件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(本件発明)の技術的範囲に属する被告製品を販売等することは本件特許権の侵害に当たると主張し、さらに準備書面5において同請求項2記載の発明(本件発明2)に係る本件特許権侵害を理由とする請求原因を追加主張した事案である。
1 経緯
| 提訴 | |
| … | … |
| 令和4年11月28日 | 非充足の心証開示、和解協議 |
| 令和5年1月27日 | 和解協議打ち切り |
| 令和5年2月27日 | 本件発明2(従属請求項3)の追加 |
2 本件発明
A 基板への取り付け用端子の2つの平板状部を間隔をあけて同一水平面上に有し、当該水平面とは異なる高さにある水平面における前記2 つの平板状部間に位置するヒューズが、前記2つの平板状部と一体に形成されている端子一体型ヒューズと、
B 一方の面が閉じられ、前記一方の面と異なる水平面に位置する他方の面が開口され、前記開口の周縁から前記一方の面に向かう周壁部を有し、前記ヒューズが前記開口から前記一方の面側に向かう中途の位置に位置し、前記2つの平板状部が前記周壁部にそれぞれ接触しているケースと、
C 前記ケース内において前記ヒューズに設けられた消弧材部とを、
D 具備するチップ型ヒューズ。
(消弧とは、アーク放電を消滅させることを言います。ヒューズが切れたなどで回路が遮断された場合、回路に誘導性負荷があれば、電流が流れ続けようとします、ヒューズが切れたのに、瞬間的に高電圧がかかり放電します、そのままアーク放電に移行し電流が流れ続けてしまえば、ヒューズが切れた意味が無くなってしまいます。このアークをすぱっと切るのが消弧剤ではないでしょうか。
(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1011669810?__ysp=5raI5byn))
3 被告製品
争点に関する当事者の主張
(1)均等侵害の成否
ア 原告の主張
(第2要件に関し)「現行の特許法の下では、特許請求の範囲の構成要件の一部を他の構成に置換した場合と欠落した場合とで、特別に区別をしなければならない理由はない。また、出願当初にあらゆる侵害態様を予想して特許請求の範囲を作成することは困難であるから、限定された要件の下で権利者を救済するという均等論の趣旨からすれば、特許請求の範囲に記載されている構成の一部が欠落している実施(不完全利用)についても、その趣旨を及ぼすべきである。」
イ 被告の主張
(第2要件に関し)「均等論は、特許請求の範囲に記載された構成の一部を他の技術等に置き換えた置換構成を有する場合に適用される法理であり、構成の一部が欠落した場合において、特許請求の範囲に含まれるものとして解釈することは、単なる特許請求の範囲の拡張の主張であって許されない。」
(2)本件追加(本件発明2に係る本件特許権侵害を理由とする請求原因を追加主張)の可否
ア 原告の主張
「一方、侵害訴訟における第一審手続の充実という民事訴訟の目的と訴訟全体の審理期間の短縮にも資することになるので、第一審において、本件追加を行う必要性がある。
したがって、本件追加は時機に後れたものでなく、訴訟の完結を遅延させ、あるいは著しく訴訟手続を遅滞させるものでもない。」
イ 被告の主張
「本件追加につき、これが攻撃方法に該当する場合は民訴法157条1項に基づく却下を求め、訴えの追加的変更に該当する場合は同法143条4項に基づく訴えの変更を許さない旨の決定を求める。」
判旨
(1)均等侵害の成否
特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、①同部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件)、②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって(第2要件)、③上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件)、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件)、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(第5要件)は、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
そして、対象製品等が特許発明の構成要件の一部を欠く場合であっても、当該一部が特許発明の本質的部分ではなく、かつ前記均等の他の要件を充足するときは、均等侵害が成立し得るものと解される。
これに対し、被告は、対象製品等が構成要件の一部を欠く場合に均等論を適用することは、特許請求の範囲の拡張の主張であって許されない旨を主張するが、構成要件の一部を他の構成に置換した場合と構成要件の一部を欠く場合とで区別すべき合理的理由はないし、本件において、原告は、被告製品には構成要件Cの「消弧材部」に対応する消弧作用を有する部分が存在し、置換構成を有する旨主張していると解されるから、被告の前記主張を採用することはできない。
第2要件及び第3要件に関し、原告は、被告製品の構成cの「接着剤で接着することにより形成された密閉された空間26」が本件発明の構成要件 Cの「消弧材部」と同一の作用効果(消弧作用)を有することを示す実験報告書等(甲13、14、32)を証拠提出する。これらは、被告製品と同じ構造を有する製品につき、ヒューズエレメント部が密閉構造である場合と、非密閉構造である場合又は端子一体型ヒューズ素子を取り出して遮断試験用基板に実装して遮断試験を行った場合の、各アーク放電の持続時間を対比した結果、密閉構造のものは、非密閉構造等のものに比べ、同持続時間が2分の1ないし3分の1になったというものである。しかし、これらは、被告製品の「密閉された空間」と本件発明の「消弧材部」の各作用効果の対比自体を行うものではないことに加え、被告が証拠提出する試験報告書(乙16)によれば、被告製品、被告製品に消弧材部を設けたヒューズ及び被告製品のヒューズ素子のみを対象として、アーク放電の持続時間を記録したところ、被告製品が最も同時間が長かったという結果であったことが認められ、被告製品とヒューズ素子の各アーク放電の持続時間について、原告が提出する実験報告書(甲14)と相反する結果となっている。そうすると、原告が提出する前記証拠その他の事情等から、被告製品の構成cが本件発明の構成要件Cと同様の作用効果を有するとまでは認め難いから、少なくとも第2要件が満たされるとはいえない。
(2)本件追加の可否
本件追加は、被告製品が、本件発明に係る請求項とは別の請求項記載の本件発明2の技術的範囲に属するとして請求原因を主張し、本件特許権の侵害に基づく各請求を追加するものであるから、訴えの追加的変更に当たると解するのが相当であるところ、当裁判所は、本件追加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなると認め、これを許さないこととする(民訴法143条1項ただし書、同条4項)。
解説/検討
原告は、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、請求又は請求の原因を変更することができる。ただし、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときは、この限りでない。
(民事訴訟法143条4項)
裁判所は、請求又は請求の原因の変更を不当であると認めるときは、申立てにより又は職権で、その変更を許さない旨の決定をしなければならない。
(民事訴訟法157条1項)
当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
(1)均等論
ア 対象製品が特許発明の構成要件の一部を欠く場合でも均等侵害が成立し得ると判断された。しかし、構成要件を欠いても同一の作用効果を奏するというケースは少ないと思われる 1。
1 「特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる」という均等論の趣旨を鑑みれば、あってもなくてもよい構成要件をクレームに入れたのは特許権者の非であり、それを救済する必要があるのか疑問。
