【分割出願を繰り返した特許において、搬送トレイの非記載を理由にサポート要件違反が認定された事例】
投稿日:2026年8月30日 |
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著者:弁護士 大野 浩之
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参照条文/キーワード/論点 |
分割出願/サポート要件 |
ポイント
※本件では、「積層鉄心の取り出し作業の作業性改善」という課題を解決する構成として、明細書上は搬送トレイが実質的に不可欠であると認定された。他方、請求項では搬送トレイを限定していなかったため、「搬送トレイを用いない態様」までクレームが及び、課題解決を裏付ける記載が不足すると判断された。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第1部 |
| 判決言渡日 | 令和5年9月20日 |
| 事件番号 | 令和3年(行ケ)第10152号 |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
本多 知成
遠山 敦士 天野 研司 |
事案の概要
本件は、特許庁が審判請求は成り立たないとして判断した審決に関し、サポート要件に適合するとした本件審決の判断には誤りがあるとして、当該審決を取り消した事案である。
本件は、分割を繰り返ししている案件であり、本件特許(特許第6180569号)は第7世代の特許になる。

1 本件発明(請求項2)
(1)最初の親出願における、当初の請求項1の記載は、次のとおりである(符号は当方で付した。)。
【請求項1】
複数の鉄心片が積層され中央に軸孔を備えた回転子積層鉄心12に形成された複数の磁石挿入孔13に挿入された永久磁石14を、樹脂部材を前記磁石挿入孔13に注入して固定する永久磁石14の樹脂封止装置であって、
前記回転子積層鉄心12を搭載する搬送トレイ16と、
前記搬送トレイ16に搭載された前記回転子積層鉄心12を載置し、該回転子積層鉄心12を下から加熱すると共に昇降する第1の加熱手段が設けられた下型17と、
前記回転子積層鉄心12の上に搭載されて該回転子積層鉄心12を上から加熱する第2の加熱手段及び前記樹脂部材の原料を入れる複数のポット19を有し、更に底部には前記ポット19からの樹脂部材を前記磁石挿入孔13に導く流路を備え、前記下型17の上昇に伴って上昇する上型21と、
前記上型21の上方にあって下降限位置にある前記上型21との間に作業空間となる隙間を有して固定配置される固定架台22と、
前記固定架台22を貫通し、上昇した前記上型21のポット19に投入された前記樹脂部材を加圧する複数のプランジャー23と、
前記上型21を上昇限位置に保持するストッパー24とを有することを特徴とする永久磁石14の樹脂封止装置。
【図1】

【図2】

(2)明細書の記載は以下のとおりであった。
「【背景技術】
【0002】
従来、永久磁石を積層鉄心に樹脂封止により固定する方法として、例えば、特許文献1に記載の形態のものが知られている。
特許文献1に記載された永久磁石の樹脂封止方法においては、複数枚の鉄心片が打抜きかしめ等により固着一体化して積層され、永久磁石を挿入するための磁石挿入孔が外周部に複数形成されると共に、封止樹脂を注入するための注入用穴部が複数形成された積層鉄心を、下型の有底穴部に嵌挿し、磁石挿入孔に永久磁石を挿入した後、注入用穴部に符合する位置に注入穴部が形成された上型を、注入穴部が注入用穴部に一致するように下型の上端に載置し、下型と上型を締結手段により固定した状態で、上型の注入穴部に連通する樹脂供給穴部から所定の圧力で樹脂部材を供給して樹脂部材を磁石挿入孔に充填して、その後、加熱手段により積層鉄心を加熱することにより、樹脂部材を硬化させて永久磁石を積層鉄心に固定するようになっている。」
「【0004】
しかしながら、前記従来の永久磁石の樹脂封止方法は未だ解決すべき以下のような問題があった。
また、樹脂部材を磁石挿入孔に充填する際、上型に形成された樹脂供給穴部及び該樹脂供給穴部より分岐した複数の注入穴部を介して、積層鉄心の注入用穴部を経由して磁石挿入孔に注入されるので、樹脂部材を各磁石挿入孔に均等に充填することが困難であり、信頼性に劣っていた。しかも、樹脂部材を供給するポンプは大きな供給圧力を必要とし、装置が高価なものとなった。
更に、積層鉄心を下型の有底穴部に嵌挿し、加熱後、積層鉄心を下型の有底穴部から取り出す作業は、人手又は機械によっても、時間を要するもので、作業性が極めて悪い。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、生産性及び作業性に優れており、安価に作業ができる永久磁石の樹脂封止方法を提供することを目的とする。」
(3)本件特許の出願時の特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりであった。
【請求項1】
複数枚の鉄心片が積層された回転子積層鉄心12の複数の磁石挿入孔13にそれぞれ永久磁石14を挿入し、前記各磁石挿入孔13に前記永久磁石14を樹脂封止する方法において、
前記回転子積層鉄心12を、上型21及び下型17の間に配置して、前記下型17及び前記上型21で前記回転子積層鉄心12を押圧し、前記回転子積層鉄心12の前記磁石挿入孔13に前記永久磁石14を樹脂封止することを特徴とする回転子積層鉄心12への永久磁石14の樹脂封止方法。
(4)本件特許の請求項1は、次のとおりである。
【請求項1】
複数枚の鉄心片が積層された回転子積層鉄心12の複数の磁石挿入孔13にそれぞれ永久磁石14を挿入し、前記各磁石挿入孔13に前記永久磁石14を樹脂封止する方法において、
前記回転子積層鉄心12を、上型21及び下型17の間に配置して、前記上型21及び前記下型17同士が当接することなく、前記下型17及び前記上型21で前記回転子積層鉄心12を押圧し、前記回転子積層鉄心12の前記磁石挿入孔13に前記永久磁石14を樹脂封止することを特徴とする回転子積層鉄心12への永久磁石14の樹脂封止方法。
判旨
「本件発明は、複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心に形成された複数の磁石挿入孔に挿入された永久磁石を、樹脂部材を磁石挿入孔に注入して固定する永久磁石の樹脂封止方法に関するものであり(【0001】)、従来、永久磁石を積層鉄心に樹脂封止により固定する方法として、複数枚の鉄心片が打抜きかしめ等により固着一体化して積層され、永久磁石を挿入するための磁石挿入孔が外周部に複数形成されると共に、封止樹脂を注入するための注入用穴部が複数形成された積層鉄心を、下型の有底穴部に嵌挿し、磁石挿入孔に永久磁石を挿入した後、注入用穴部に符合する位置に注入穴部が形成された上型を、注入穴部が注入用穴部に一致するように下型の上端に載置し、下型と上型を締結手段により固定した状態で、上型の注入穴部に連通する樹脂供給穴部から所定の圧力で樹脂部材を供給して樹脂部材を磁石挿入孔に充填して、その後、加熱手段により積層鉄心を加熱することにより、樹脂部材を硬化させて永久磁石を積層鉄心に固定するようになっている方法が知られていた(【0002】)が、樹脂部材を磁石挿入孔に充填する際、上型に形成された樹脂供給穴部及び該樹脂供給穴部より分岐した複数の注入穴部を介して、積層鉄心の注入用穴部を経由して磁石挿入孔に注入されるので、樹脂部材を各磁石挿入孔に均等に充填することが困難であり、信頼性に劣り、しかも、樹脂部材を供給するポンプは大きな供給圧力を必要とし、装置が高価なものとなったこと(以下「従来技術の問題1」という。)、また、積層鉄心を下型の有底穴部に嵌挿し、加熱後、積層鉄心を下型の有底穴部から取り出す作業は、人手又は機械によっても、時間を要するもので、作業性が極めて悪いこと(以下「従来技術の問題2」という。)という2つの問題があり(【0004】【0005】)、本件発明は、生産性及び作業性に優れ、安価に作業ができる永久磁石の樹脂封止方法を提供することを課題とするものと認められる。」
(規範)
「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。」
「(3) 本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明が解決しようとする課題及びその課題の解決手段について
ア 前記1(2)のとおり、従来技術の問題1及び2があったことを前提に、本件発明は「生産性及び作業性に優れており、安価に作業ができる永久磁石の樹脂封止方法を提供することを目的とする」ことを発明が解決しようとする課題(本件発明の課題)とするものと認められる。
イ ここで、『生産性』は『生産過程に投入された労働力その他の生産要素が生産性の産出に貢献する程度。』(広辞苑第六版)を意味し、また『安価に作業ができる』とは、作業に対する対価の程度をいうものと理解でき、この作業に対する対価の原因としては、従来技術の問題1の『高価なポンプ』や従来技術の問題2の『機械』のような物から、従来技術の問題2の『人手』まで様々な要素が考えられるから、本件発明の課題は、従来技術の問題1及び2の双方を解決することはもとより、前記従来技術の問題1又は2のいずれか一方を解決することにより、本件発明の課題を解決するものであるとも解されるから、本件発明の課題を解決することは、少なくとも従来技術の問題1又は2のいずれか一方を解決することでも足りるものと理解される。
そうすると、本件審決は、サポート要件の判断において、本件発明の課題として、従来技術の問題2を解決することを目的とすることを課題とした上で判断を行っていると認められるところ、この点の課題の認定に誤りがあるとはいえない。」
「本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明に係る永久磁石の樹脂封止方法における回転子積層鉄心を下型上に固定し、また下型から取り外す工程に関して、『(a)前工程から送られてきた、永久磁石14が磁石挿入孔13に挿入され搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を別途搬送手段等を用いて下型17上に搬送し、上型21(以下、キャビティブロック74も含む)に対して位置決めして固定する(回転子積層鉄心の供給作業)。』(【0039】以下『工程(a)』という。)及び『(d)…。その後、搬送トレイ16を回転子積層鉄心12と共に、下型17から取り外し、回転子積層鉄心12が搬送トレイ16から取り外され、搬送トレイ16は別途搬送手段により後工程に送られる。』(【0044】以下『工程(d)』という。)との記載が認められ、また、工程(a)及び(d)において必要不可欠な搬送トレイに関し、『搬送トレイ16は、回転子積層鉄心12の下面25が当接する矩形板状のトレイ部26と、トレイ部26の中心部に立設され、回転子積層鉄心12の軸孔11に嵌入する直径固定型で棒状のガイド部材27とを有している。』(【0017】)との記載が認められる。」
(本件特許明細書の抜粋)
「【0039】
次に、永久磁石の樹脂封止装置10を用いた本発明の一実施の形態に係る永久磁石の樹脂封止方法について、主として図10を参照しながら説明する。
(a)前工程から送られてきた、永久磁石14が磁石挿入孔13に挿入され搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を別途搬送手段等を用いて下型17上に搬送し、上型21(以下、キャビティブロック74も含む)に対して位置決めして固定する(回転子積層鉄心の供給作業)。」
【図10】

「【0040】
(b)下型昇降手段33により昇降プレート32を介して下型17を少し上昇し、回転子積層鉄心12とキャビティブロック74とを密着させる。次いで、熱硬化性樹脂15の原料18を固定架台22と上型21との隙間G(実施の形態では80mm)から上型21のポット19に供給し、原料18を第2の加熱手段により約170℃近傍に加熱する(タブレットの供給作業)。
【0041】
(c)原料18が加熱されて粘度が下がると、更に、下型昇降手段33により昇降プレート32を介して下型17を上昇して、搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を上型21に押し付ける(この際、対となるガイドブロック82、83により芯出しされ、隙間G=0となる)と共に、プランジャ駆動手段34によりプランジャーホルダー54を介して8本のプランジャー23を下降することによって、流動化した原料18、即ち熱硬化性樹脂15をポット19から押し出し、ポット19と磁石挿入孔13を連結する流路20を介して熱硬化性樹脂15を磁石挿入孔13に充填する。
【0042】
上型21の第2の加熱手段及び下型17の第1の加熱手段により、熱硬化性樹脂15を、約170℃近傍を保持して約3分間加熱し続けることにより、熱硬化性樹脂15を硬化させることができ、永久磁石14を磁石挿入孔13に固定することができる。この際、永久磁石14は下面基準で積層されるため、回転子積層鉄心12の上端面と永久磁石14の上端面との間には僅かな段差が生じるようになっている。また、磁石挿入孔13内の空気はキャビティブロック74の押圧面12a及び搬送トレイ16のトレイ部26の搭載面12bに形成されたベント溝を介して外部に逃がすことができる。(型締め及び樹脂注入作業)。
【0043】
このように、熱硬化性樹脂15の原料18を加熱して(約170℃近傍)、溶かして回転子積層鉄心12の上面から磁石挿入孔13内に充填するので、熱硬化性樹脂15が磁石挿入孔13内に容易に入る。
【0044】
(d)図6に示すように、4本のストッパー24を突出させて、上昇限位置にある上型21の左右方向の両端部の下面にストッパー24を当接させて、上型21の下方への移動を拘束した後、プランジャー駆動手段34によりプランジャーホルダー54を介して突き出しピン86を僅かのストローク(5mm程度)下降させると共に、下型昇降手段33により昇降プレート32を介して下型17を下降させる(型開き作業)。その後、搬送トレイ16を回転子積層鉄心12と共に、下型17から取り外し、回転子積層鉄心12が搬送トレイ16から取り外され、搬送トレイ16は別途搬送手段により後工程に送られる。
【0045】
(e)クリーナー96により、プランジャー23及びポット19のクリーニングを行う(プランジャーのクリーニング作業)。
(f)下型昇降手段33により昇降プレート32を介して下型17を上昇すると共に、エアシリンダー92を駆動し、進退ロッド91を上昇して、4本の進退ロッド91の上端により上型21を支持する(上型開き準備作業)。
【0046】
(g)4本のストッパー24を後退させた後、下型昇降手段33により昇降プレート32を介して下型17を下降させ、上型21を元の位置まで下降させ、更に、下型17を下降させる(上型開き作業)。
(h)4本の進退ロッド91を後退させ、固定架台22と上型21との隙間Gの原料18の挿入部を、クリーナー97によりクリーニングする(タブレット投入部のクリーニング作業)。
(i)クリーナー98により、上型21及び下型17をクリーニングする(金型のクリーニング作業)。」
「上記記載によると、回転子積層鉄心を下型上に固定する工程や下型から取り外す工程について、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている発明は、『回転子積層鉄心12の下面25が当接する矩形板状のトレイ部26と、トレイ部26の中心部に立設され、回転子積層鉄心12の軸孔11に嵌入する直径固定型で棒状のガイド部材27とを有している搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を下型17上に搬送し』、『搬送トレイ16を回転子積層鉄心12と共に、下型17から取り外し、回転子積層鉄心12が搬送トレイ16から取り外される』ものであると認められる。」
「従来技術の問題2を解決するための手段として、本件発明1は、前記2(2)アのとおり、回転子積層鉄心を押圧する際の上型及び下型に対する回転子積層鉄心の配置及び上型と下型との位置関係又は状態を特定する発明であるのに対し、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明は、前記2(3)ウのとおり『回転子積層鉄心12の下面25が当接する矩形板状のトレイ部26と、トレイ部26の中心部に立設され、回転子積層鉄心12の軸孔11に嵌入する直径固定型で棒状のガイド部材27とを有している搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を下型17上に搬送し』、『搬送トレイ16を回転子積層鉄心12と共に、下型17から取り外し、回転子積層鉄心12が搬送トレイ16から取り外される』ものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると、搬送トレイを不可欠の構成としているものと解される。そうすると、本件発明1には、回転子積層鉄心を搭載する搬送トレイを含む構成の発明だけでなく、この搬送トレイを含まない構成の発明も含まれており、搬送トレイを構成に含まない特許請求の範囲の記載を前提にした場合、上記発明の詳細な説明の記載から、当業者が、積層鉄心を下型の有底穴部に嵌挿し、加熱後、積層鉄心を下型の有底穴部から取り出す作業は、人手又は機械によっても、時間を要するもので、作業性が極めて悪いこと(従来技術の問題2)を解決して、生産性及び作業性に優れており、安価に作業ができる永久磁石の樹脂封止方法を提供するという本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。そして、この点は本件発明2及び本件発明3も搬送トレイを構成に含まない発明を含むため、同様であるといえる。」
「段落【0010】には、『本発明に係る永久磁石の樹脂封止方法において、前記回転子積層鉄心は中央に軸孔を有し、前記回転子積層鉄心を前記軸孔に嵌入するガイド部材を備えた搬送トレイに載せて、前記上型及び前記下型の間に配置してもよい。』との記載があり、搬送トレイを不可欠の構成とはしていないことを前提とした発明の詳細な説明の記載があるが、前記2(4)アのとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると、従来技術の問題2を解決するために搬送トレイを不可欠の構成としているから、搬送トレイを用いずに本件発明の課題を解決するためには搬送トレイに代わる構成が必要となるものと解されるところ、本件明細書の記載によっても搬送トレイの具体的構造に関する記載(【0047】【0048】)はあるものの搬送トレイに代わる構成を具体的に示唆する記載はなく、これに代わる構成が当業者にとって明らかであることを認めるに足りる証拠もないから、当業者が出願時の技術常識に照らしてみたとしても、発明の詳細な説明に具体的な記載がないまま、回転子積層鉄心を下型上に固定し、また下型から取り外す工程に係る課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。」
「本件審決は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された本件発明の実施の形態について、当業者が課題を解決できると認識できることをいうにとどまり、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断したものとはいえない。」
解説/検討
本件は、分割出願を繰り返した第7世代特許に関する事案であり、最終的な請求項では「搬送トレイ」の構成が削除されていた点に特徴がある。
裁判所は、明細書全体を通じて検討した結果、「積層鉄心を下型にセットし、加熱後に取り出す作業性の改善(従来技術の問題2)」という課題を解決するためには、搬送トレイが実質的に不可欠な構成として記載されていると認定した。
本件は「課題解決と結び付いた構成をクレームから外した場合のサポート要件」を論じた事例として参考になる。
なお、本件では、段落【0010】において、「搬送トレイに載せて配置してもよい」との任意的記載が存在していたが、上記判断をしており、明細書中に「~してもよい」と形式的に記載しても、実質的に課題解決手段として他構成が開示されていなければ不十分であることを示している。
明細書作成時において最低限の課題を記載するに留めることは、留意すべき事項になると思われる。
