【後発医薬品承認申請者による確認の利益を否定したニプロ対エーザイ事件(控訴審)】

 

投稿日:2026年6月29日

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著者:弁護士 多田 宏文
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

後発医薬品承認申請と確認の利益/パテントリンケージ/二課長通知

ポイント

 本件は、後発医薬品の承認申請を行ったニプロ(控訴人)が、先発医薬品を製造販売している特許権者エーザイ(被控訴人)に対して、特許権侵害に基づく差止請求権及び損害賠償請求権の不存在確認訴訟を提起した事案の控訴審である。知財高裁は、原審と同じく確認の利益を否定して控訴を棄却した。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 令和5年5月10日
事件番号 令和4年(ネ)第10093号
事件名 特許権侵害差止請求権及び損害賠償請求権不存在確認請求控訴事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
大鷹 一郎
遠山 敦士
小川 卓逸
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 本件の事案の概要は、以下のとおりである。

1 ニプロの請求内容
ニプロの請求内容は次のとおりである。
① 現在の差止請求権及び損害賠償請求権の不存在確認請求
② 将来の差止請求権及び損害賠償請求権の不存在確認請求
③ 特許発明の技術的範囲に属しないことの確認請求

(参考)
特許第6466339号 請求項1

(ⅰ)HER2陰性乳がん、(ⅱ)エストロゲン受容体(ER)陰性乳がんまたは(ⅲ)HER2陰性、ER陰性およびプロゲステロン受容体(PR)陰性(三種陰性)乳がんを有するとして選択された対象の乳がんの処置のためのエリブリンまたはその薬学的に許容される塩を含み、
対象が受けたことのある再発性または転移性乳がんの以前の乳がん処置レジメンが2種までである、医薬組成物。

2 原判決
 原判決は、以下のとおり判断して請求を却下した。

① 現在の差止請求権及び損害賠償請求権の不存在確認請求
 二課長通知や薬価収載の運用を前提とすれば、先発医薬品の物質・用途特許が存在する場合や特許係争のおそれがある場合には承認や薬価収載が認められないから、「近い将来において、原告が、製造販売についての承認の申請及びGMP適合性検査の申請のための原告医薬品の製造を除き、原告医薬品を製造販売する蓋然性が高いとは認められない。」
 また、治験のための医薬品の製造に対してエーザイは特許権を行使する意思がないとしている。
 したがって、「現に、当事者間に紛争が存在し、原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在しているとは認めるに足りない。」

② 将来の差止請求権及び損害賠償請求権の不存在確認請求
 承認や薬価収載の蓋然性が高いとはいえず、「現時点において、原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在しているとは認めるに足りない。」

③ 特許発明の技術的範囲に属しないことの確認請求
 「原告医薬品が本件各発明の技術的範囲に属しないか否かの判断は事実上の判断であって、権利又は法律関係の確認を目的としないものであり…(これを)確定することは、原告と被告らとの間に生じ得る法律上の紛争の解決のために適切有効とはいい難(い)。」

争点

承認前の後発医薬品承認申請者による債務不存在確認の訴えの利益

判旨

 知財高裁も、基本的に、地裁の判断を引用し、同じ内容の判断を行っている。

 ただし、①現在の差止請求権及び損害賠償請求権の不存在確認請求についての判断の末尾に、次の判示を追加している。

「なお、仮に二課長通知等に基づく運用によれば、本件各特許が存在するために原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされないことが控訴人にとって問題であるとしても、そのことは、厚生労働大臣が医薬品医療機器等法14条3項に基づく原告医薬品の製造販売についての控訴人の承認申請を認めるかどうかという控訴人と厚生労働大臣(国)との間の公法上の紛争であって、そもそも控訴人と被控訴人らとの私人間の法律上の紛争であるということはできないし、かかる公法上の紛争については承認申請に対して不作為の違法確認の訴えの提起や厚生労働大臣等に対する不服申立て等の法的手段によって救済を求めるべきであるから、控訴人の有する権利又は法律的地位の危険又は不安を除去するため控訴人と被控訴人らとの間で本件訴訟において確認判決を得ることが必要かつ適切であると解することもできない。」

 また、②将来の差止請求権及び損害賠償請求権の不存在確認請求についての判断の末尾に、次の判示を追加している。

「なお、控訴人は、現在の二課長通知に基づく承認審査の実務において、裁判所が判断すべき技術的範囲の属否について、厚生労働省が機械的な処理を行っているという状況は、法治主義に反する状況というべきであって、後発医薬品メーカの裁判を受ける権利や営業の自由といった憲法上の権利をも侵害するものである旨主張する。
 しかし、本件で控訴人が確認を求めている対象は、控訴人と被控訴人らとの間の法律関係であって、仮に上記承認審査の実務に控訴人が指摘するような問題があるとしても、そのことによって、上記法律関係について確認の利益が認められることにはならないというべきである。」

③特許発明の技術的範囲に属しないことの確認請求については、次の判示を追加している。

「そのことは、前述のとおり、控訴人と厚生労働大臣(国)との間の公法上の紛争であって、そもそも控訴人と被控訴人らとの私人間の法律上の紛争であるということはできないし、かかる公法上の紛争については承認申請に対して不作為の違法確認の訴えの提起や厚生労働大臣等に対する不服申立て等の法的手段によって救済を求めるべきであるから、控訴人の有する権利又は法律的地位の危険又は不安を除去するため控訴人と被控訴人らとの間で本件訴訟において確認判決を得ることが必要かつ適切であると解することもできない。」

解説/検討

 確認の利益を否定する地裁判決が追認されたことにより、現状、薬事承認前の後発医薬品メーカとしては、無効審判以外の途は閉ざされ、侵害を争うことは(特許庁での判定を除いて)困難となっている。特に、用途特許については、権利範囲が大きな問題となり、侵害論と無効論両方を同時に争うことが望ましいにもかかわらず、裁判所におけるこのような争い方ができない状況である。

 知財高裁は、一貫して、これは控訴人と厚生労働大臣との間の「公法上の紛争」であって、控訴人と被控訴人らとの「私人間の法律上の紛争」ではないとしている。理屈としてはそのとおりであるものの、紛争の実体としては特許権者と承認申請者の問題であり、両者間の紛争としての確認訴訟を認めた方が、紛争解決に資するものと思われる。

 地裁判決は、二課長通知や薬価収載の運用を前提とすれば、先発医薬品の物質・用途特許が存在する場合や特許係争のおそれがある場合には承認や薬価収載が認められないことを理由として、「近い将来において、原告が、製造販売についての承認の申請及びGMP適合性検査の申請のための原告医薬品の製造を除き、原告医薬品を製造販売する蓋然性が高いとは認められない。」としており、知財高裁もこれを引用している。しかし、これは、将来的に紛争のおそれがある場合には薬事承認されないことを理由として紛争性を否定するという理屈となっており、その妥当性については議論の余地があろう。

 判決が指摘するとおり、不作為の違法確認(行訴法37条)や義務付け訴訟(同37条の2)、不作為に対する不服審査請求(行政不服審査法3条)については、理屈としては可能と思われるが、厚労省を相手取って訴訟を行うことには実際上の不利益が非常に大きく、現実には難しい。二課長通知による運用の不透明性には批判が多く、改善が必要な状況である。

 なお、その後、令和7年に二課長通知が改正され(令和7年10月8日付医政産情企発1008第1号/医薬薬審発1008第5号「⁠医療用後発医薬品及びバイオ後続品に関する医薬品医療機器等法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて⁠」)、また、特許の充足性に関する専門委員制度の試行が開始されている。これらの対応の当否については、様々な意見が見られるが、少なくとも、厚労省において、状況改善の試みがなされている。

 

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