【無効審判請求不成立審決に対する審決取消訴訟である。新規性、進歩性を欠くとはいえないとして審決が維持された】

 

投稿日:2026年8月29日

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著者:弁理士 松野 知紘
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

29条1項/2項/新規性/進歩性

ポイント

※本件発明1は「情報提供装置」であるのに対し、甲1発明は「学習・生活支援システム」であるという点につき、前者は単独の装置を意味し後者は複数の要素(装置)から成るものであって両者は相違し、提供サービスの内容いかんにかかわらず単独の情報提供装置に変更することは設計的事項とはいえないと判断された。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 令和4年11月29日
事件番号 令和3年(行ケ)第10027号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
大鷹 一郎
遠山 敦士
小川 卓逸
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 原告が、発明の名称を「情報提供装置、システム及びプログラム」とする特許第6538097号について無効審判を請求したところ、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされたため、原告は本件審決の取消しを求めて本訴を提起した。

1 経緯

           侵害訴訟 審判
令和元年10月10日 訴状送達    
令和元年12月 3日       無効審判請求
令和3年 1月14日       棄却審決
甲1発明に対して進歩性あり)
令和3年 2月 9日       出訴
令和3年12月 9日 棄却判決
(乙81 発明に対して新規性なし)
令和3年12月 ?日 控訴       
令和4年 9月 5日 訂正の再抗弁      
令和4年 9月22日 口頭弁論期日
訂正の再抗弁を却下
令和4年11月29日 棄却判決
乙8発明12 に対して新規性なし)
棄却判決
甲1発明に対して進歩性あり)
令和4年12月20日      訂正審判
令和4年 4月 3日      審理終結通知

2 本件発明1

1A ユーザから取得したい個人情報のうち幾つかを予め受け付ける第1受付手段と、 1B 前記第1受付手段によって受け付けていない個人情報に対応する属性の質問を行う質問手段と、
1C 前記質問手段による質問に対する返答である個人情報を受け付ける第2受付手段と、
1D 前記第1及び第2受付手段によって受け付けられた個人情報と当該個人情報に対応する属性とが紐付けた状態で格納される格納媒体と、
1E 前記第1又は第2受付手段によって受け付けられた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行う提案手段と、を備え、
1F 前記提案手段は、
1G 前記個人情報に基づいてウェブサイトから前記ユーザに対して提案すべき情報を取得する手段と、
1H 前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段と、を有する情報提供装置
画像


1乙8=甲1
2甲1発明≒乙8発明≠乙8発明1

【0015】
 ユーザ端末100は、例えば、電話機能及び通信機能を有するスマートフォン100A~100D、腕時計型のリスト端末100Eなどの情報提供装置の総称である。
【0137】
 以上説明したように、本発明の各実施形態における情報提供装置によれば、タッチパネル114を構成する操作部107若しくは音声入力部109又はその双方は、ユーザから取得したい個人情報のうち幾つかを予め受け付ける第1受付手段を構成する。また、タッチパネル114を構成する表示部108若しくは音声出力部110又はその双方は、第1受付手段によって受け付けていない個人情報に対応する属性の質問を行う質問手段を構成する。そして、操作部107若しくは音声入力部109又はその双方は、質問手段による質問に対する返答である個人情報を受け付ける第2受付手段を構成する。さらに、記憶部102の不揮発性メモリは、第1及び第2受付手段によって受け付けられた個人情報と当該個人情報に対応する属性とが紐付けた状態で格納される格納媒体を構成する。

3 審決の概要
(1)甲1発明(改行付加)
 ネットワークNを介して接続された学習・生活支援サーバ2と、複数の受講生・生徒が使用するユーザ端末3とを備え、受講生・生徒同士がコミュニケーションをとることのできる学習・生活支援システム1であって、
 学習・生活支援サーバ2は、
 アバター4を管理し、ユーザ端末3へアバター4からのアバターコメントを出力するアバター管理部21と、
 ユーザ端末3から入力されたユーザ情報を管理するユーザ情報管理部22と、
 入力されたユーザ情報を分析し、ユーザ情報に応じたキーワードであって、ユーザに関心のあるキーワードを抽出するテキスト分析部23と、
 ネットワークNを介して上記キーワードに関連するウェブページのリンク情報を収集する情報収集部24と、
 記憶部とを備え、
 まず、学習・生活支援システム1をユーザ端末3において立ち上げると、学習・生活支援サーバ2のユーザ情報管理部22からユーザ端末3に対してユーザ情報の入力を求められるものであって、ユーザの生年月日、性別、職業(学年)、ニックネーム、住所、起床・就寝時間、趣味、行きたい場所、習慣などのユーザ情報の入力が求められ、ユーザ端末3により、ユーザ情報が入力されると、それぞれの内容に応じて、入力された内容が記憶部に記憶され、
 次に、ユーザ端末3からユーザの学習目標についての目標設定が入力されるとアバター管理部21は、ユーザに対して、スケジュールについて質問するアバターコメントをユーザ端末3に出力し、このアバターコメントに対して、ユーザ端末3からスケジュールが入力され、ユーザ管理部22により記憶部に記憶され、
 アバター管理部21は、スケジュールが実行されたか否かを確認し、スケジュールが未完了であることが確認されると、アバター4から「スケジュールが未完了だよ。代わりのスケジュールを入力してね」など、スケジュールの修正を依頼するアバターコメントが出力され、
 また、アバター管理部21 は、ユーザ端末3に、上記キーワードに関連する、リンク先のウェブページを閲覧可能にするウェブページ(ウェブサイト)のリンク情報を出力することもできる、学習・生活支援システム1
画像画像
(2)相違点3
(相違点3)
 情報提供システムが、本件発明1は「情報提供装置」であるのに対し、甲1発明は、ネットワークNを介して接続された学習・生活支援サーバ2とユーザ端末3とを備える「学習・生活支援システム1」である点。

(3)相違点についての判断
 甲1発明は,ネットワークNを介して接続されたユーザ端末3を使用してユーザと他のユーザがコミュニケーションを取るためのシステムであって,これにより,他のユーザと同じ目標を共有したり,ライバル意識により学習意欲の向上を図ることができるようにするものである。
 また,甲第1号証には,ネットワークNを介して接続された学習・生活支援サーバ2とユーザ端末3からなる学習・生活支援システム1が実行する処理を,本件発明1の「情報提供装置」のような装置により実行させることは,記載も示唆もされていない。
 そうすると,ネットワークNを介して接続された学習・生活支援サーバ2とユーザ端末3とを備える「学習・生活支援システム1」を,他の装置を含むシステムでなく 単独の「情報提供装置」に設計変更することには,ユーザと他のユーザとの間のコミュニケーションが取れなくなることから,阻害要因がある。
 さらに,甲3記載事項の,情報提供装置である「情報提供装置100A」は,甲1発明のようなネットワークを介して接続されたサーバ及び端末を備えるシステムを,単独の情報提供装置に設計変更することは記載されておらず,このような設計変更をしようとする動機付け等の記載もなく,示唆もされていないことから,これらの証拠に記載された技術的事項を適用しても,上記相違点3の構成を当業者が容易に想到することができたということはできない。


3相違点1及び2は省略      

   

争点に関する当事者の主張

(1)相違点3の認定の誤り
 原告の主張 4
 「構成要件Mの「情報提供装置」は、単独の装置によって各手段を有するものではなく、技術的にはユーザ端末、ネットワーク、ウェブサーバを備えた「情報提供システム」の意であるから、構成要件Mの「情報提供装置」と甲1発明の「学習・生活支援システム1」は同一である。よって、相違点3は、本件発明1と甲1発明の実質的な相違点であるとはいえない。」

(2)相違点3の容易想到性の判断の誤り
 原告の主張
 「仮に、本件発明1の構成要件Mの「情報提供装置」が単独のものを意味し、甲1発明がネットワークNを介して接続された学習・生活支援サーバ2とユーザ端末3とを備える「学習・生活支援システム1」である点で相違するとしても、「学習・生活支援システム1」を単独の情報提供装置(例えば、スマートフォン)に変更することは、広くスマートフォンが普及した本件出願時の状況に鑑みると、設計的事項の範疇である。
 すなわち、単独の情報提供装置とシステムとでは、種々のデータ処理を専らユーザ端末(スマートフォン)のみで行うのか、サーバを含むシステム全体で行うのかという点で相違するにすぎず、かかる相違点は、情報提供サービスを行う際に当業者が当然考慮する事項であり、設計的事項の範疇にすぎない。」

【裁判所の判断】
⑶ 相違点3の認定の誤りについて
「システム」とは、一般に、「複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体」(広辞苑第七版)、「複数の要素が体系的に構成され、相互に影響しながら、全体として一定の機能を果たすもの」(IT用語辞典バイナリ)等を意味するところ、請求項1には、本件発明1の「情報提供装置」が、端末やサーバなどの複数の要素で体系的に構成されることを規定した記載はない。一方で、本件特許の特許請求の範囲の請求項4には、「請求項1記載の情報提供装置を複数有しており、当該情報提供装置が相互にネットワークを介して接続された場合に、最新の個人情報が格納されている格納媒体の内容で、他方の格納媒体の内容を更新する、情報提供システム」との記載がある。上記記載においては、請求項1記載の「情報提供装置」は、「情報提供システム」を構成する複数の要素の一つとして記載されていることを理解できる。
 次に、本件明細書には、「本発明」の実施形態1として、「情報提供装置」の例示として、スマートフォン、腕時計型のリスト端末、パーソナルコンピュータ、タブレット、ロボットなどが記載されているところ(【0015】、【0016】)、これらはいずれも、単独の装置である。他方、「情報提供システム」は、スマートフォン等のユーザ端末100Aないし100E、ロボット200、ウェブサーバ300及びネットワーク400を備えるものと説明されており(【0014】)、複数の要素(装置)から構成されるものと説明されている。
 以上の本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び4の記載並びに本件明細書の記載によれば、本件発明1の「情報提供装置」とは、単独の装置を意味し、複数の要素(装置)から成る「情報提供システム」とは異なるものであると解される。
 しかるところ、甲1発明の「学習・生活支援システム1」は、「ネットワークNを介して接続された学習・生活支援サーバ2と、複数の受講生・生徒が使用するユーザ端末3とを備え」るものであり、複数の要素(装置)から成るものであって、前記のとおり単独の装置を意味する本件発明1の「情報提供装置」とは異なるものである。
 したがって、本件審決における相違点3の認定に誤りはない。


4クレームの「情報提供装置」は「単独」であることは特定されていないから、「システム」も包含している、といった主張もあり得るように思う。

⑴ 相違点3の容易想到性の判断の誤りについて
 原告は、単独の情報提供装置とシステムとでは、種々のデータ処理を専らユーザ端末(スマートフォン)のみで行うのか、サーバを含むシステム全体で行うのかという点で違うにすぎず、かかる相違点は、情報提供サービスを行う際に当業者が当然考慮する事項であり、甲1発明の「学習・生活支援システム1」を単独の情報提供装置に変更することは設計的事項の範疇であると主張し、その理由として、①データ処理をサーバで行うか、あるいは、スマートフォンで行うかは、「基本情報技術者試験」で問われるレベルのものであること(甲34)、②データ処理を手元の端末で行うか、又はサーバで行うかは、単なるデータ処理の作業場所の問題にすぎないこと(甲37)、③甲42には、コンテンツに関連する情報の表示が可能な情報提供システム、閲覧端末等が開示されており、その【0103】及び【0104】には、学習・生活支援サーバ2に相当するコンテンツサーバ2に実装された情報提供システムの各構成要素をユーザ端末3に相当する閲覧端末に搭載することが開示されていることを指摘する。
 そこで、原告の上記主張について、以下、検討する。

ア 刊行物の記載事項について
 …
イ 前記アの記載事項によれば、前記アの刊行物には、①スマートフォンを利用した店舗検索システムにおいて、その処理の一部をスマートフォンで行う場合と、Webサーバで行う場合があること(前記ア(ア))、②クラウドサービスでは、利用者は、最低限の環境、すなわち、携帯情報端末等のクライアント、その上で働くWebブラウザ等を用意すればサービスを利用できること(同(イ))、③場所に関する表現を含むコンテンツにおいて、表現された箇所を見つけ出すことを可能とする情報提供システムの発明において、そのシステムの構成要素が閲覧端末に搭載されるものが実施例の一つとして開示されていること(同(ウ))が認められる。
 しかしながら、上記①ないし③から、一般的に、情報提供サービスを行う場合において、当該サービスを提供するために必要となる処理をサーバを含むシステム全体で行うことと、当該処理をユーザ端末のみで行うことが、提供するサービスの内容いかんにかかわらず適宜選択可能な事項であるとはいえない。そして、当業者が、ネットワークNを介して接続された学習・生活支援サーバ2と、複数の受講生・生徒が使用するユーザ端末3とを備え、受講生・生徒同士がコミュニケーションをとることのできる甲1発明の「学習・生活支援システム1」において、当該システムで必要となる処理の全てを単独のユーザ端末3で行うようにすることについては、その必要性、合理性が認められない。
 よって、甲1発明の「学習・生活支援システム1」を単独の情報提供装置に変更することが設計的事項の範疇にあるということはできない。


検討

(1)侵害訴訟原審では、上記事件における甲1発明とほぼ同様の乙8発明(学習・生活支援システム)が認定され、「乙8発明のアバター管理部によるアバターコメントの出力は,情報の提供に当たるため,この点をもって既に,アバター管理部を有する乙8発明の学習・生活支援サーバは,情報を提供する装置(「情報提供装置」)であるということができる。」等として新規性が否定された。
 このように、「学習・生活支援システム」における「学習・生活支援サーバ」が本件発明の「情報提供装置」に該当するという判断の方が妥当のように思える。
 審決及びその取消訴訟では、クレームの「情報提供装置」を「端末」と限定的に解し、主引例の「サーバ」とは異なると判断したのかもしれないが、そのように限定的に解するのはやや違和感がある。

(2)侵害訴訟控訴審では、侵害訴訟原審、無効審判及びその取消訴訟とは異なり、「学習・生活支援サーバ」が乙8発明1として認定され、新規性が否定されている。被控訴人が、原審で認定された乙8発明に基づいて新規性なしと判断されたにもかかわらず、敢えて原審とは異なる乙8発明の認定を主張したことが奏功したようである。

(3)判決では、辞書を根拠として、「システム」とは「複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体」、「複数の要素が体系的に構成され、相互に影響しながら、全体として一定の機能を果たすもの」とされているが、「情報提供装置」の例であるスマートフォンも、入出力IF、メモリ、プロセッサといった複数の要素によって構成される(クレーム文言上も、受付手段は入力IF、質問手段は出力IF、格納媒体はメモリが前提となっている)のだから、その意味では「システム」とも言えるのであり、「装置」と「システム」の違いは曖昧であるように思う。

(4)そうすると、「装置」と「システム」は相違するのか疑問であり、相違するとしても、スタンドアローンとするか、サーバ-クライアントシステムとするかは設計事項にすぎず、容易想到であるように思う。

(5)「装置」と「システム」の関係に関し、上記判決では「『情報提供装置』とは、単独の装置を意味し、複数の要素(装置)から成る『情報提供システム』とは 異なるもの」とされた。
 一方、技術的範囲の文脈であるが、平成21年(ワ)第35184号では、「車載ナビゲーション装置」なるクレーム文言との対比において、以下のように判断されている。

 被告装置は,被告サーバーと本件携帯端末とから成り,それぞれが機能を分担し,両者の間でデータ通信を行うことによってナビゲーション機能を果たすものであって,一体の機器である「ナビゲーション装置」ではなく,むしろ,「ナビゲーション装置」を含み,かつ,「ナビゲーション装置」より広い概念である「ナビゲーションシステム」というべきものである。…以上のことからすれば,被告サーバーと本件携帯端末とから成る被告装置は,一体の機器としてのナビゲーションのための装置が車両に載せられているということはできない。よって,被告装置は,「車載ナビゲーション装置」であると認めることはできず…」とされている。
 
これによれば、「システム」は「装置」より広い概念(上位概念)と理解してよいのだろうか(上記審決取消訴訟との関係においては、甲1発明の「システム」が上位概念、本件発明の「装置」が下位概念であり、それゆえ本件発明の進歩性が認められた、と一応は整合的に理解できる)。その場合、被告製品(システム)が上位概念、クレーム(装置)が下位概念ということになり、少々理解が難しい。

(6)「システム」は「装置」より広い概念であるならば、クレームドラフトとしては、物の発明については、少なくも出願時は常に「システム」としておき、必要に応じて「装置」と補正/訂正できるような明細書にしておくのが一案ということであろう。


 

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