【表面粗さパラメータの充足判断と公然実施による無効】

 

投稿日:2026年9月2日

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著者:弁護士 大野 浩之
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

パラメータ発明/公然実施

ポイント

※本件では、排水溝壁面の表面粗さ(Ra)が「2.0μm以下」であるというパラメータ要件の解釈が争われ、裁判所は「排水溝の全長にわたり2.0μm以下であること」を要求して非充足と判断した。
※パラメータ発明の明細書記載の重要性と、公然実施品の分析可能性が無効判断において重視されることを示した事例である。

判決概要

裁判所 大阪地方裁判所第21民事部
判決言渡日 令和5年1月31日
事件番号 平成29年(ワ)第4178号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
武宮 英子
杉浦 一輝
峯 健一郎
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 本件は、本件特許1(発明の名称:シュープレス用ベルト)及び本件特許2(発明の名称:製紙用弾性ベルト)を用いて、被告製品の差止等を請求した事案であって、充足論の他に、公然実施による無効も争点となった事案である。

1 対象特許
(1)本件発明2
2A 表面に排水溝を有する製紙用弾性ベルトにおいて、
2B 前記排水溝の壁面の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、2.0μm以下であることを特徴とする、
2C 製紙用弾性ベルト。

「【0012】
 排水溝の壁面の表面粗さを2.0μm以下にすると、水の流れに対する抵抗を小さくすることができるとともに、紙かすの付着が大幅に減少し、良好な搾水性能を発揮することができる。」

「【0016】
 図2は、この発明の一実施形態に係る製紙用弾性ベルトの排水溝の一例を示している。図示する排水溝10は、断面形状が矩形とされており、溝の壁面の表面粗さ(日本工業規格で規定する平均粗さRa)は2.0μm以下である。
【0017】
 図3は、この発明の他の実施形態に係る製紙用弾性ベルトの排水溝の他の例を示している。図示する排水溝11は、下方に向かって凸状に湾曲した底部形状を有しており、溝の壁面の表面粗さは2.0μm以下である。この実施形態のように湾曲した底部形状を持つ排水溝11であれば、溝底の特にコーナー部を起点とするクラックの発生を抑制できる。
【0018】
 溝の壁面の表面粗さを2.0μm以下にするための手法として、次のいずれかを用いることができるが、両方を併用することが特に有効である。」

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「【0025】
 表面粗さは、表面粗さ輪郭形状測定器(サーフコム733A:東京精密社製)にて測定した。表1の結果から明らかなように、冷却液の温度が10℃以下のときに、溝壁面の表面粗さが2μm以下となっていることが認められる。
【0026】
 本願発明者は、溝壁面の表面粗さが0.7μm、2μm、3μmおよび4μmの各弾性ベルトを新聞紙用のシュープレスに使用し、目視により溝壁面の汚れのレベルを確認した。その結果を以下の表2に示す。
【0027】
【表2】
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(2)本件発明1
1A 補強基材と熱硬化性ポリウレタンとが一体化してなり、前記補強基材が前記ポリウレタン中に埋設され、
1B 外周面および内周面が前記ポリウレタンで構成されたシュープレス用ベルトにおいて、
1C 外周面を構成するポリウレタンは、末端にイソシアネート基1を有するウレタンプレポリマーと、ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている、
1D シュープレス用ベルト。

「【0023】
 図2は、ベルト2の一例を示す部分断面図である。このベルトは、エンドレスであり、補強基材となる基布6と熱硬化性ポリウレタン7とが一体化してなる。基布6は、ポリアミド、ポリエステルなどの有機繊維で構成されている。基布6は、単一層からなるポリウレタン7によって含浸および被覆されている。ベルトの外周面および内周面は、ポリウレタン7で構成されている。」
【図2】
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「【0038】
外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21の硬化剤としては、一般的にはポリオール系、芳香族ジオール系、芳香族ジアミン系などの硬化剤が使用される。ポリオール系の硬化剤としては、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリプロピレングリコール(PPG)などを使用することが可能である。また、芳香族ジオール系の硬化剤としては、ヒドロキノンジ(ベーターヒドロキシエチル)エーテル(HQEE)などを使用することができる。また、芳香族ジアミン系の硬化剤としては、4,4’-メチレン-ビス-(2-クロロアニリン)(MOCA)、トリメチレン-ビス(4-アミノベンゾアート)(CUA-4)、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)、ジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)などを使用することができる。中でも、本発明の一つの特徴として、芳香族ジアミン系硬化剤の一種であるジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を使用するのが好ましい。ジメチルチオトルエンジアミンは、式1で表される3,5-ジメチルチオ-2,4-トルエンジアミンを使用することができる。
【0039】
【化1】
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2 被告製品
【被告製品1】
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【被告製品2及び3】
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判旨

(1)本件発明2の充足論
「 構成要件2Bは『前記排水溝の壁面の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、2.0μm以下であることを特徴とする、』と規定しており、その他の構成要件をみても、表面粗さが2.0μm以下であるべき範囲や割合等について何ら限定を加えていない
 また、本件明細書2をみるに、表面粗さが2.0μm以下であるべき範囲や割合等について限定を加える記載や表面粗さが2.0μmを超えた場合であっても表面粗さが2.0μm以下である場合と同様の作用効果を奏する条件等に関する記載は見当たらない。
 そうすると、構成要件2Bの『排水溝の壁面の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、2.0μm以下であること』とは、その字義どおり、排水溝の全長にわたって、その壁面の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、2.0μm以下であることを要すると解するのが相当である。」

「 前記条件を満たす全ての反番のベルトにおいてRa>2.0のみならずRa>2.2の箇所があり、これに該当する箇所が存在することは明らかである(甲第18号証の測定結果はRa>2.0となる箇所が示されていないが、溝底(走行方向)の1箇所を2回測定したのみであって、この結果から該当する箇所が存在しないと判断することは困難である。)から、これらの製品の他の箇所の排水溝壁面の表面粗さを測定した場合においても、同様にRa>2.2となる箇所が存在することが推認される。
 前記アのとおり、構成要件2Bの『排水溝の壁面の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、2.0μm以下であること』とは、排水溝の全長にわたって、その壁面の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、2.0μm以下であることをいうと解されるところ、被告製品1~3及び5は、いずれも排水溝の全長にわたって、その壁面の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、2.0μm以下であるとは認めるに足りず、構成要件2Bの構成を有するとは認められない。」

「 原告は、第15回弁論準備手続期日から損害論の審理が開始されたにもかかわらず、被告は、被告製品1~3及び5と同じシリーズの製品等における排水溝壁面の表面粗さの測定結果(乙152~159)を新たに証拠提出するとともに、非侵害の主張を行ったことが時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨を主張する。
 しかし、被告が前記証拠等を提出したのは、原告が、訴状においてはイ号製品が本件発明2の技術的範囲に属する旨を主張しつつも被告製品1~3及び5の排水溝壁面の表面粗さに限定して立証活動をしていたが、裁判所が本件発明2については損害論に入る旨の心証開示を行ったことを受けて、被告製品1~3及び5の各製品と同じシリーズの製品等についても本件発明2の技術的範囲に属する旨を改めて主張したことに対応するものであって、必ずしも時機に後れたものとは認められない。したがって、原告の前記主張は採用できない。」2

「 原告は、IKベルト17~19に対する測定結果等として甲第99号証~第104号証を提出し、令和4年7月22日付け第38準備書面(『第2』の3)及び同日付け第39準備書面(『第2』(別紙を含む。))において、これらの証拠に基づく主張を行うが、当裁判所は、これらを時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下する。すなわち、同年5月17日の書面による準備手続中の協議において、当裁判所及び当事者双方は、ベルトの排水溝壁面の表面粗さに関する測定を全て完了したことを確認した上で、原告は、次回協議までの準備事項として、既に実施されていた原告の測定結果に基づく主張書面、被告の測定結果に対する反論書面、損害論の主張をまとめた書面等を提出することになった(当裁判所に顕著な事実)。そうであるにもかかわらず、原告は、その後、作製したベルトのサンプルの排水溝壁面の表面粗さを新たに測定して、その結果等を甲第99号証~第104号証として提出し、これに関し、従前には全く主張されていなかった分析手法を新規に提唱した上これに基づく分析結果によれば構成要件2Bの充足性が肯定されるとする主張書面(前記第38準備書面及び第39準備書面の部分)を提出した。したがって、原告によるこれらの攻撃防御方法の提出は、時機に後れたものであって、そのことについて、原告には少なくとも重過失があり、また、これを許せば、被告も反論を展開したり、新たにベルトの排水溝壁面の表面粗さを測定する必要が生じるなど、本件訴訟の完結が著しく遅れることは明らかである。」

「 原告は、被告製品1~3及び5が本件発明2に係る各構成を有することを前提として、同一シリーズに属する製品は同様の加工条件で加工することが通常であることやベルトエースⅠ及びⅡはその基布構造に相違があるのみであること等を指摘して、被告製品シリーズも本件発明2の各構成要件を充足する旨を主張する。
 しかし、前記(2)のとおり、被告製品1~3及び5は本件発明2の構成要件2Bに係る構成を有しているとは認められないから、原告の前記主張はその前提を欠く。また、別紙『測定結果一覧』記載のとおり、ベルトエースⅡIchiriki(甲73、乙155)やその他の製品についても、本件発明1~3及び5と同様に全ての反番においてRa>2.2となった箇所が存在することから、これらの製品の他の箇所の排水溝壁面の表面粗さを測定した場合においても、同様にRa>2.2となる箇所が存在することが推認される。
 したがって、被告製品シリーズは、いずれも排水溝の全長にわたって、その壁面の表面粗さが算術平均粗さ(Ra)で、2.0μm以下であるとは認めるに足りず、構成要件2Bの構成を有するとは認められない。」

(2)本件発明1の無効論(公然実施)
「 被告は、平成11年5月から平成12年4月までの間に、日本製紙八代工場にベルト4反(ベルトB)を納品し、ベルトBが同工場において平成11年6月11日から平成12年5月9日までの間に使用開始されており、ベルトBの構成は本件発明1の構成要件と一致し、納品によってその構成が日本製紙に知り得る状態となり、また、当業者はDMTDAの同定が可能であったとして、本件特許1の出願前にベルトBに係る発明が公然実施された旨主張するので、以下検討する。」

「(ア)被告は、昭和63年からベルトを製造していたところ、平成8年4月に新工場を新設して、ベルトの製造を集約することとなった。それに伴い、被告では、品質を一定の水準以上に維持するために、製造工程の一連の流れ、各ステップの管理項目、品質特性(品質保証項目)及び管理方法を明確にしたルールを作成することとなり、平成11年2月26日、QC工程図が作成された。(以上につき、乙32、83)
 QC工程図には、樹脂コーティング工程に関し、①ビス(メチルチオ)-2,4-トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)-2,6-トルエンジアミン及びメチルチオトルエンジアミンの混合物であるエタキュアー300(硬化剤)のほか、イソシアネート基を末端に有するプレポリマーである、タケネートL2390及びタケネートL2395を受け入れ、⑩①の樹脂を調合し、⑪基布(ベース)のシュー側(内周面側)にコートしてキュアし、その後、⑮反転して、⑱①で受け入れた樹脂を調合し、⑲基布(ベース)のフェルト側(外周面側)にもコートしてキュアする旨の記載がある(乙32~36、130~132。なお、数字は工程番号を指す。)。
(イ)被告は、QC工程図に従って、平成11年3月1日から同月4日の間に反番51+01349のベルト、同年8月5日から同月10日の間に反番51+04750のベルト、同年10月1日から同月5日の間に反番51+06801のベルト及び平成12年2月15日から同月22日の間に反番52+00481のベルトの各樹脂コーティング工程作業を行い、その頃、基布面を完全に被覆する両面樹脂構造であり、かつ、排水溝を有するベルトBの製造を完了させ、日本製紙に対し、平成11年5月14日、同年9月3日、同年10月21日及び平成12年4月27日、それぞれ納品した(乙25、27~31、83)。
イ 前記ア(ア)及び(イ)によれば、ベルトBは、ポリウレタンにより基布が完全に被覆されており、内周面及び外周面のポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーとDMTDAを含有する硬化剤とを含んでおり、熱硬化性であることが認められる。そうすると、公然実施発明Bは、基布を熱硬化性ポリウレタンが完全に被覆してなり、前記基布が前記ポリウレタン中に埋設され(構成B-a)、フェルト側およびシュー側が前記ポリウレタンで構成されたシュープレス用ベルトにおいて(構成B-b)、フェルト側を構成するポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ビス(メチルチオ)-2,4-トルエンジアミンおよびビス(メチルチオ)-2,6-トルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている(構成B-c)、シュープレス用ベルト(構成B-d)という構成を有していることが認められ、本件発明1の各構成要件を充足する。
(2) 特許法29条1項2号所定の『公然実施』とは、発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)ア(イ)のとおり、被告は、本件特許1出願前の平成11年5月14日から平成12年4月27日までの間、日本製紙に対し、ベルトBを納品し、その内容を不特定多数の者が知り得る状況で公然実施発明Bを実施したものと認められる。」

「 原告は、ベルトの現物自体からは当該ベルトが幾つの層によって構成されているか等を把握することは不可能であること、ベルトを構成するポリウレタンは様々な化学物質で構成されているから、外周面を構成するポリウレタンに含有される硬化剤に着目した分析が行われたとはいえないこと、当時、硬化剤として考え得る候補物質は極めて多数存在していた上に、エタキュアー300を用いることでクラックの発生を抑制できることは当業者においてすら知られていなかったから硬化剤としてDMTDAに着目し、これをわざわざ入手してサンプルとして分析機関に送付し、分析を依頼したとは到底いえないことを指摘して、ベルトBを日本製紙に納品したとしても、ベルトBの外周面に硬化剤としてDMTDAが含有されていたことが特定できたとはいえない旨を主張する。
 しかし、前記(1)アのとおり、ベルトBは、日本製紙に納品され、自由に解析等をなされ得る状態におかれたものであり、解析等によりベルトの構造等を特定することは可能であるほか(甲25等参照)、本件特許1の出願日前において、外周層、内周層等の複数の層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合してポリウレタンとし、ベルトの弾性材料とすることは、技術常識に属する事項であった(甲2、乙26、27)。これに加え、証拠(乙37、124、127~133)及び弁論の全趣旨によれば、①昭和62年に発行された書籍において、実用化されている硬化剤として、MOCAのほかにエタキュアー300が紹介されていたこと、②米国の会社が平成2年に発行したエタキュアー300のカタログにおいて、エタキュアー300は、新しいウレタン用硬化剤であり、TDI(トルエンジイソシアナート。主にポリウレタンの原料として使用される化学物質)系プレポリマーに使用した場合、MBCA(MOCAと同義。乙140、141)の代替品として、現在最も優れたものであると確信している旨が記載されていたこと、③米国の別の会社は、平成10年に日本向けのエタキュアー300のカタログを発行したこと、④平成11年に日本国内で発行された雑誌には、MOCAには発がん性があることが指摘されており、より安全性の高い材料が求められていたが、1980年代後半には、既にMOCAに代わる新しい硬化剤としてエタキュアー300が開発された旨の記事が掲載されて いたこと、⑤被告は、平成3年頃からエタキュアー300の研究を開始し、遅くとも平成9年7月時点では、製紙用ポリウレタンベルトの硬化剤としてエタキュアー300を使用していたこと、⑥本件特許1の出願前に、エタキュアー300 と同様にウレタン用に使用された主要な硬化剤は、10種類前後であったことが認められる。これらの事実関係に照らすと、本件特許1の出願前に、エタキュアー300は、ウレタン用の硬化剤として注目され、実用化されていたものと認められ、分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが登録されていなかったとしても(平成29年時点において、ライブラリにDMTDAのマススペクトルを登録している分析機関と登録していない分析機関がある(甲11、24)。)、エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼した蓋然性があったといえ、当業者は、公然実施発明Bの内容を知り得たものと認められる。
 証拠(甲39、40)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、平成30年6月、分析機関に対し、組成を明らかにすることなく被告製品3及び4のサンプルを送付し、ポリウレタンの定性分析を依頼したところ、硬化剤について特定することができなかったことが認められる。しかし、同分析機関が硬化剤を特定することができなかったのは、同分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが登録されていなかったこと(甲24の3)によるものと認められるところ、前記のとおり、エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼した蓋然性があったといえることに照らすと、前記結果(甲39、40)は、当業者が公然実施発明Bの内容を知り得たという結論に影響を与えるものではない。」


2原告の主張「裁判所から、侵害論につき、令和元年10月17日第14回弁論準備手続期日において、被告製品1~3及び5が本件発明2の技術的範囲に属するとの心証開示がなされ、これにより侵害論の審理は終了し、第15回弁論準備手続期日から損害論の審理が開始されたにもかかわらず、被告は、被告製品1~3及び5と同じシリーズの製品等における排水溝壁面の表面粗さの測定に関する報告書や切削加工に関する報告書等(乙152~159)を新たに証拠提出し、令和2年2月10日付け準備書面(20)において、被告製品1~3及び5が「前記排水溝の壁面の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、2.0μm以下である」との構成要件を充足しないなどとして、非侵害の主張を行っている。」
 被告の主張「前記イのとおり、被告製品1~3及び5の排水溝壁面の算術平均粗さは、同じ製品の中でもその測定箇所によって異なるのであるから、個々の製品によって当然に異なり得る。したがって、仮に、被告製品1~3や5が本件発明2の技術的範囲に含まれるとしても、他の製品が技術的範囲に含まれることは当然には導かれない。被告は、被告製品1~3及び5並びにこれらと同じシリーズや、被告が 製造販売するその他のシリーズのベルトについて、排水溝壁面の算術平均粗さを 測定したところ、同じシリーズであっても、算術平均粗さの値が全く異なる結果となった(乙152~155)。」


解説/検討

(1)充足論について
 裁判所は、「Raが2.0μm以下」という文言について、明細書に範囲や割合に関する限定が存在しないことを重視し、「排水溝の全長にわたり2.0μm以下であること」を要求した。その結果、一部でも2.0μmを超える箇所が存在する被告製品は非充足と判断された。
 パラメータ発明では、どの範囲・割合で要件を満たせば発明の効果が得られるのかを明細書に具体的に記載しておかないと、本件のように厳格な解釈が採用されるリスクがあることを示している。
(2)公然実施について
 裁判所は、出願前に納品されたベルトについて、当業者が解析により構造や材料を把握し得る以上、「発明の内容を知り得る状態」にあったとして公然実施を認定した。
 特に、硬化剤であるDMTDAについても、当時既にウレタン用硬化剤として知られており、候補物質も限定されていたことから、分析による特定が可能であったと判断された。
 公然実施の成否は「現物から直ちに分かるか」ではなく、「当業者が適切な分析を行えば把握できるか」という観点で判断されることを再確認できる事例である。

 

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