【国外サーバから国内ユーザへのプログラム配信について特許権侵害を認めた事例】
投稿日:2026年9月10日 |
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著者:弁理士 野本 裕史
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参照条文/キーワード/論点 |
特許法2条3項1号/ネットワーク関連発明 |
ポイント※被控訴人らが米国所在のサーバから日本国内のユーザに配信していたコメント表示用プログラム等について、本判決は、本件特許発明の技術的範囲に属すると判断した。また、本件プログラムの配信について、その一部が日本国外で行われているとしても、実質的かつ全体的に考察すれば日本国内で行われるものと評価するのが相当であると判示した。その上で、本判決は、被控訴人らの行為について、本件特許権の直接侵害および間接侵害の成立を認定した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第2部 |
| 判決言渡日 | 令和4年7月20日 |
| 事件番号 | 平成30年(ネ)第10077号 |
| 事件名 | 特許権侵害差止等請求控訴事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
本多 知成
浅井 憲 中島 朋宏 |
事案の概要
被控訴人らは、インターネット上でコメント付き動画共有サービス(被控訴人らサービス)を提供していた。被控訴人らサービスにおいて、動画を表示する端末に配信されるコメント表示用プログラム(被控訴人らプログラム)は、米国内に存在するサーバから日本国内に所在するユーザに向けて配信されるものであった。
原審では、被控訴人ら装置(被控訴人らプログラムがインストールされた端末)およびプログラムは本件特許発明の技術的範囲に属しないと判断されたが、本判決は、被控訴人ら装置およびプログラムは本件特許発明の技術的範囲に属すると判断した。
また、本判決は、「本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われるものと評価するのが相当である。」として、被告らの行為について、本件特許の直接侵害および間接侵害の成立を認定した。
1.本件特許1(特許4734471号)1
【請求項1】
動画を再生するとともに、前記動画上にコメントを表示する表示装置であって、
前記コメントと、当該コメントが付与された時点における、動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部と、
前記動画を表示する領域である第1の表示欄に当該動画を再生して表示する動画再生部と、
前記再生される動画の動画再生時間に基づいて、前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち、前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間に対応するコメントを前記コメント情報記憶部から読み出し、当該読み出されたコメントを、 前記コメントを表示する領域である第2の表示欄に表示するコメント表示部と、を有し、
前記第2の表示欄のうち、一部の領域が前記第1の表示欄の少なくとも一部と重なっており、他の領域が前記第1の表示欄の外側にあり、
前記コメント表示部は、 記読み出したコメントの少なくとも一部を、前記第2の表示欄のうち、前記第1の表示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表示する
ことを特徴とする表示装置。
【請求項9】
動画を再生するとともに、前記動画上にコメントを表示する表示装置のコンピュータを、
前記動画を表示する領域である第1の表示欄に当該動画を再生して表示する動画再生手段、
コメントと、当該コメントが付与された時点における、動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部に記憶された情報を参照し、前記再生される動画の動画再生時間に基づいて、前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち、前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間に対応するコメントをコメント情報記憶部から読み出し、 当該読み出されたコメントの一部を、前記コメントを表示する領域であって一部の領域が前記第1の表示欄の少なくとも一部と重なっており他の領域が前記第1の表示欄の外側にある第2の表示欄のうち、前記第1の表示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表示するコメント表示手段、
として機能させるプログラム。

2.被告ら装置
動画およびコメントを表示することを可能とする領域は同一サイズであり、そのアスペクト比が640×392に固定されている。
アスペクト比が640×392の動画を再生する場合には、動画表示画面とコメント表示画面のサイズが同一となり、コメントは動画表示画面の外側には表示され得ない。
他方、たとえばアスペクト比が4×3の動画を再生する場合には、動画の位置およびサイズが調整されて動画表示画面の左端と右端に映像が表示されない部分が生じ、コメントが動画表示画面の外側に表示され得る。
1本件特許2(特許4695583号)は地裁と高裁のどちらも非充足であったため、説明を省略します。
原審の判断
被告ら装置においては、動画表示可能領域とコメント表示可能領域は同一サイズであるから、被告ら装置は、「第1の表示欄」及び「第2の表示欄」に相当する構成を有するとは認められない。
判旨
(1)被告ら装置及びプログラムは「第1の表示欄」及び「第2の表示欄」を充足するかについて
そして、被控訴人らが主張する被控訴人ら各サービスの内容・・・によると、被控訴人ら各サービスは、それぞれ被控訴人ら各プログラムを利用することにより実行されるものと認められる。
また、・・・被控訴人ら各サービスにおいては、JavaScriptファイル、swfファイル等が配信され、これらのファイルがユーザの情報処理端末にダウンロードされること、これらのファイルは、いずれも動画及びコメントに関する情報の取得をリクエストするようにブラウザに要求する命令が格納されているなど、プログラムに関するファイル(被控訴人ら各プログラム)であること、これらのファイルは、情報処理端末へのダウンロードによりユーザによる改めての操作を要することなく実行可能なものとなることがそれぞれ認められるところ、このようにユーザによる改めての操作を要することなく実行可能なものとなるプログラムに関するファイルをダウンロードすることは、当該ファイルのインストールを行っていることに相当するといえるから、被控訴人ら各装置は、それぞれ被控訴人ら各プログラムをインストールした情報処理端末であると認められる・・・
(2)被控訴人らの不法行為
ア 被控訴人らプログラムの電気通信回線を通じた提供
しかしながら、本件発明1-9及び10のようにネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべきである。他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。
したがって、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である。
なお、これは、以下に検討する被控訴人らのその余の不法行為(形式的にはその一部が日本国の領域外で行われるもの)についても当てはまるものである。
イ 被控訴人ら各プログラムの提供の申出
ウ 被控訴人ら各装置の生産
そして、被控訴人ら各サービス、被控訴人ら各プログラム及び被控訴人ら各装置の内容並びに弁論の全趣旨に照らすと、被控訴人ら各プログラムは、被控訴人ら各装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当であり、また、被控訴人らが業として本件配信を行っていることは明らかであるから、被控訴人らによる本件配信は、特許法101条1号により、本件特許権1を侵害するものとみなされる。
エ 被控訴人ら各装置の使用
オ 被控訴人ら各プログラムの生産(端末装置における複製)
カ 被控訴人ら各プログラムの生産(開発)
もっとも、前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人ら装置1の生産又は使用をしている者ではなく、そのような行為に及ぶおそれがある者でもないと認められるから、この点については、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置1の生産又は使用の差止請求は理由がない。
そうすると、被控訴人らサービス1については、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人らプログラム1の抹消を命じるのが相当である。
解説/検討
・本判決では「特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。」と判断された。そのため、ネットワーク関連発明については、端末側でクレームを作成できれば、サーバが国外にあっても、当該サーバで提供されるサービス(JavaScriptファイル等の配信や配信の申出)を止めることができる可能性があると考えられる。
・本件では、被控訴人ら「装置の生産」については、直接侵害の成立が認定されていない。これは「被控訴人らは、被控訴人ら装置1の生産又は使用をしている者ではなく、」とされていることから、「装置の生産」の主体がユーザであると判断されたものと考えられる。
