【特許権管理会社であっても、グループ会社による事業実態を踏まえて特許法102条2項の適用を認めた事例】
投稿日:2026年6月29日 |
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著者:弁護士 盛田 真智子
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参照条文/キーワード/論点 |
特許法102条2項の適用の可否/損害額推定/逸失利益/グループ会社/特許権管理会社/特許権者による実施の要否 |
ポイント
※ 本件は、自らは特許発明の実施品を製造販売していない特許権管理会社について、特許法102条2項の適用が認められるかが争われた事案である。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第2部 |
| 判決言渡日 | 令和4年4月20日 |
| 事件番号 | 令和3年(ネ)第10091号 |
| 事件名 | 特許権侵害差止等請求控訴事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
本多 知成
浅井 憲 勝又 来未子 |
事案の概要
1 概要
本判決は、発明の名称を「軟骨下関節表面支持体を備えた骨折固定システム」とする本件特許権を有する一審原告が、一審被告に対し、一審被告各製品の製造販売の差止め及び廃棄、損害賠償金465万4478円等の支払を求めた事案である。
原判決は、一審原告は知的財産権を管理する法人であって、自らは製品の製造販売等をしていないから、本件特許権の侵害行為がなかったならば利益を得られたであろう事情が存在するということはできず、特許法102条2項の適用はないとして、同条3項により損害額を70万1010円と認定した。
本件判決は、一審原告は自らは製品の販売等をしていないものの、グループ会社(Zimmer Inc.)の管理・指示の下で別のグループ会社が製品を販売しており、グループ全体として本件特許権の侵害がなければ利益を得られたであろう事情があるといえることや、一審原告はグループの利益のために権利行使をしていること等から、特許法102条2項の適用を肯定した。
2 背景
一審原告であるバイオメット シー ブイは、本件特許権を保有・管理するオランダ法人であり、自らは製品の製造販売等を行っていない。一審原告は、米国法人Zimmer Inc.の子会社であり、「ジンマー・バイオメットグループ」に属している。
Zimmer Inc.は、本件特許権(一審原告製品)にかかる事業について管理・指示を行っており、グループ内の各企業がそれぞれ設計、製造、販売等を分担している。
グループ内の各企業のうち、ジンマー・バイオメット合同会社が、一審原告製品を輸入して日本で販売している。
特許法102条2項の適用の可否については、知財高判平成25年2月1日(平成24年(ネ)第10015号、紙おむつ処理容器事件判決)が、「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきであり・・・」と判示している。
本件においては、一審原告が製造販売等を行っていないため、「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情」が存在しないとも思われ、102条2項の適用の可否が問題となった。
争点
特許法102条2項の適用の可否及び同項に基づく損害額(争点5)
原審(原々審)の判断
東京地裁令和3年9月30日(令和元年(ワ)第14314号)
原告は、Zimmer Biomet Holdings、Inc.を最終的な親会社とするジンマー・バイオメットグループに属し、同グループの知的財産権の一部を管理する法人なのであって、本件特許権に関し、その管理を超えて、何らかの製品の販売等をしていることを認めるに足りず、被告製品1~3と競合する製品の販売等をしていない。本件においては、被告による本件特許権の侵害行為がなかったならば原告が利益を得られたであろうという事情を認めることはできないとするのが相当である。したがって、原告の損害額の算定に当たり、特許法102条2項を適用することはできない。
イ 原告は、原告と同一のグループの会社であるジンマー・バイオメット合同会社が日本国内で被告各製品と競合する原告製品を販売しており、被告による侵害行為がなかったなら利益が得られたなどと主張する。しかし、ジンマー・バイオメット合同会社は原告と別の法人であり、原告は、本件特許権等の知的財産権を管理する法人であって、原告製品の製造、販売等をしているわけではなく、原告製品の販売等に関する原告とジンマー・バイオメット合同会社との具体的な関係も明らかではない。これらによれば、原告の主張する事実をもって、原告について、被告による本件特許権の侵害行為がなかったならば利益を得られたであろう事情が存在するということはできず、特許法102条2項を適用する前提を欠くというべきである。原告の上記主張を採用することはできない。
判旨
争点(5)ア(特許法102条2項の適用の可否及び同項に基づく損害額)について
(1) 認定事実
訂正の上引用する原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1の前提事実に加え、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
ア 一審原告は、米国法人であり上場企業であるZimmer Biomet Holdings、Inc.を最終的な親会社とするジンマー・バイオメットグループに属する会社であり、同グループの知的財産権の一部を管理している。ジンマー・バイオメットグループは、平成27年6月に、Zimmer Biomet Holdings、Inc.(当時の名称はZimmer Holdings、Inc.)が、LVB Acquisition、Inc.の株式を取得したことにより形成された。
イ Zimmer Biomet Holdings、Inc.が発行済株式の100%を有する米国法人であるZimmer Inc.は、一審原告(オランダ王国法人。なお営業所は頭書住所に所在する。)、Biomet Orthopedics LLC(米国法人)、Biomet Trauma LLC(米国法人)及びジンマー・バイオメット合同会社(日本国法人)につき、発行済み株式の100%を間接的に保有している。
ウ 本件特許権の実施品である一審原告製品(DVRアナトミックプレート及びDVR ePAKシステム)の製造・販売に係る事業は、上記イの各法人が分担して遂行しており、具体的には、一審原告が本件特許権の管理及び権利行使、Biomet Orthopedics LLCが一審原告製品の主たる設計、Biomet Trauma LLCが一審原告製品の製造、ジンマー・バイオメット合同会社が一審原告製品を日本国内に輸入し、販売しているが、これらの事業の遂行は、全てZimmer Inc.による管理及び指示の下で行われている。なお、Zinmmer Biomet Holdings、Inc.は、一審原告製品の製造販売に係る事業を含むトラウマ事業についての収益を公開している。
(2) 特許法102条2項の適用の可否について
ア 特許法102条2項は、「特許権者…が故意又は過失により自己の特許権…を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者…が受けた損害の額と推定する。」と規定する。特許法102条2項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。
イ これを本件についてみると、一審原告製品は本件特許権の実施品であり、一審被告製品1~3と競合するものである。そして、一審原告製品を販売するのはジンマー・バイオメット合同会社であって特許権者である一審原告ではないものの、前記(1)のとおり、一審原告は、その株式の100%を間接的に保有するZimmer Inc.の管理及び指示の下で本件特許権の管理及び権利行使をしており、グループ会社が、Zimmer Inc.の管理及び指示の下で、本件特許権を利用して製造した一審原告製品を、同一グループに属する別会社が、Zimmer Inc.の管理及び指示の下で、本件特許権を利用して一審原告製品の販売をしているのであるから、ジンマー・バイオメットグループは、本件特許権の侵害が問題とされている平成28年7月から平成31年3月までの期間、Zimmer Inc.の管理及び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価することができる。そうすると、ジンマー・バイオメットグループにおいては、本件特許権の侵害行為である一審被告製品の販売がなかったならば、一審被告製品1~3を販売することによる利益が得られたであろう事情があるといえる。
そして、一審原告は、ジンマー・バイオメットグループにおいて、同グループのために、本件特許権の管理及び権利行使につき、独立して権利を行使することができる立場にあるものとされており、そのような立場から、同グループにおける利益を追求するために本件特許権について権利行使をしているということができ、上記のとおり、ジンマー・バイオメットグループにおいて一審原告の外に本件特許権に係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件について、特許法102条2項を適用することができるというべきである。」
解説/検討
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
特許法102条2項の適用の可否については、前述の知財高判平成25年2月1日(平成24年(ネ)第10015号、紙おむつ処理容器事件判決)が「特許法102条2項は、損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であって、その効果も推定にすぎないことからすれば、同項を適用するための要件を、殊更厳格なものとする合理的な理由はないというべきである。したがって、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきであり、」と判示しており、本判決も、特許法102条2項について「侵害行為がなかったならば利益が得られたであろう事情」の有無を基準とする紙おむつ処理容器事件判決の判断枠組みを踏襲している。
また、紙おむつ処理容器事件判決は、「特許法102条2項の適用に当たり、特許権者において、当該特許発明を実施していることを要件とするものではないというべきである。」 とも判示している。同判決と本件判決は、原告が日本国内で製品の製造販売をしていないという点では類似しているが、事実関係の点で違いがあった。
紙おむつ処理容器事件判決の原告は、日本国内では製品の製造販売をしていない英国企業であるが、日本企業(コンビ社)を日本国内における原告製品(原告製カセット)の販売店とし、コンビ社との間で本件販売店契約を締結し、英国で製造した原告製カセットをコンビ社に販売していた。そのため、同判決は「原告は、コンビ社を通じて原告製カセットを日本国内において販売しているといえること、被告は、イ号物件を日本国内に輸入し、販売することにより、コンビ社のみならず原告ともごみ貯蔵カセットに係る日本国内の市場において競業関係にあること、被告の侵害行為(イ号物件の販売)により、原告製カセットの日本国内での売上げが減少していることが認められる」ことから、「原告には、被告の侵害行為がなかったならば、利益が得られたであろうという事情が認められる」と判示していた。
一方、本件判決の一審原告は、海外においても製造販売を行っておらず、特許権を保有・管理する会社にすぎない。このような一審原告に関して「特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情」が存在すると認定するためには、一審原告と製造販売を行う他社とを一体として評価し得るだけの密接な関係が必要であったと考えられる。そのため、本件判決では、同一のグループに属する企業であり、Zimmer Inc.が関係各社の株式を100%間接保有していること、一審原告製品にかかる事業が同社の管理及び指示の下で遂行されていること、さらにグループ内において各法人が特許権の管理・権利行使や製造販売等を分担して遂行しており、一審原告以外に本件特許権について権利行使を行う主体が存在しないことなどの事情が重視されたものと考えられる。
