【スマートICに関する特許について、実施料率は2%が相当であるとされた事例】
投稿日:2026年9月16日 |
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著者:弁理士 津田 理
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参照条文/キーワード/論点 |
実施料相当額/実施料率 |
ポイント
※裁判所は、①スマートICの導入によりIC間の平均距離が改善されること、②スマートICを設置することでコスト削減ができていること、③既存のサービスエリアにスマートICを設置することで、利用者増加につながる可能性があること、④もっとも、実際には高速道路の利用台数が顕著に増加したとはいえないこと、⑤代替技術があること、⑥スマートICの施設に占める特許発明の構成割合(価格の割合)、⑧警告後も実施を継続していること、を総合すると、実施料率は2%が相当である判示とした。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第2部 |
| 判決言渡日 | 令和4年7月6日 |
| 事件番号 | 令和2年(ネ)第10042号 |
| 事件名 | 損害賠償請求控訴事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
本多 知成
浅井 憲 勝又 来未子 |
事案の概要
1.事実関係
・訴外Aは、発明の名称を「車両誘導システム」とする一連の分割出願(第1世代~第9世代)のうち、本件特許1(特許第6159845号)に係る分割出願について、平成29年6月16日に設定登録を受けた。
また、訴外Aは、上記一連の分割出願のうち、本件特許2(特許第5769141号)に係る分割出願について、平成27年7月3日に設定登録を受けた。
そして、訴外Aは、本件特許1および本件特許2について、平成30年3月14日を受付日として、控訴人に対し、特定承継による特許権移転登録を行った。
・被控訴人は、平成23年4月28日以降、被控訴人システム1~4を佐野SAスマートICに設置し、同システムによって、通過する車両から通行料金等を徴収している。
争点
【争点】
・充足性(争点1)
・無効論(争点2~5)
・損害額(争点6)
裁判所の判断
(1) 本件において、控訴人は、特許法102条3項により実施料相当額の損害を請求しているが、一般に実施料は、売上額に実施料率を乗じて算定される。被控訴人各システムを利用して東北自動車道に出入りする車両が被控訴人に支払う金員(通行料金等)は、高速道路の利用1回に対して課する固定額150円(ターミナルチャージ)と、利用距離に対して課する可変額部分(通行料金)であり、通行料金は1km当たり24.6円(普通区間、普通車)である(乙48)。高速道路を一度利用すると、出入口を2回(佐野SAスマートICを利用する車両については、佐野SAスマートICと他のICとの2か所)通過することになるから、少なくとも上記ターミナルチャージの半額である75円は被控訴人各システムの使用と関係がある売上げに当たる。また、佐野SAスマートICから出入りする車両は、少なくとも隣接するICである佐野藤岡IC又は佐野田沼ICと佐野SAスマートICとの間、東北自動車道を走行するから、佐野SAスマートICから隣接するICまでの距離に対応する可変額部分(通行料金)は、被控訴人各システムの使用と関係がある売上げに当たるとみることができる。上記通行料金は、佐野藤岡ICから佐野SAスマートICまでの距離が2.7km(甲22の1)、佐野田沼ICから岩舟ジャンクションを経由して佐野SAスマートICまでの距離が11.2km(甲22)であることから、その平均距離6.95kmに1km当たりの額24.6円を乗じて、170円(1円未満切り捨て)と計算される。
そうすると、被控訴人各システムの使用による車両1台当たりの売上げは、少なくとも245円である。
(2) 証拠(甲23、甲34の1~72)によると、平成27年7月から令和3年7月までの各月について、佐野SAスマートICを通過した車両の台数(一日当たり平均)は、別紙2の「台数/日」欄記載のとおりと認められ、これに各月の日数を乗じて月当たりの通過台数を計算すると、同別紙の「台数/月」欄記載のとおりとなる(なお、平成27年7月3日~同月31日の通過台数は、7万4153台と計算されるが、控訴人の主張する7万4152台の限度で認めた。)。そして、佐野SAスマートICには4つの被控訴人各システムが設置されているから、それぞれの通過台数が各4分の1であるものとすると、本件特許権1が登録された平成29年6月16日から令和3月7月31日までの被控訴人システム1~3の通過台数は308万5926台、本件特許権2が登録された平成27年7月3日から令和3月7月31日までの被控訴人システム4の通過台数は149万8587台と推定され、合計台数は458万4513台である。
(3) 上記から、被控訴人各システムの使用による売上額は、11億2320万5685円(=245円×458万4513台)と計算される。
(4) 証拠(甲26、31、乙51、55)によると、
①被控訴人各システムはスマートICに設置されるものであるところ、被控訴人は、スマートICの導入により、従前10kmであったIC間の平均距離を欧米並みの5kmに改善し、地域生活の充実・地域経済の活性化を推進しようとしていること、
②設置コストは、通常のICが30~60億円であるのに対し、スマートICが3~8億円、管理コストは、通常のICが1.2憶円/年であるのに対し、スマートICが0.5憶円/年と、スマートICを設置することで、被控訴人はコスト削減ができていること、
③既存のサービスエリアに被控訴人各システムを設置することで、出入口を増やすことができ、高速道路の利便性が上がるので、利用者増加につながる可能性があること、
④もっとも、佐野SAスマートICの設置により東北自動車道の利用台数が顕著に増加したとはいえないこと、
⑤被控訴人は、本件特許に抵触しないスマートICも設置しており、代替技術があること(控訴人の主張によると、本件特許に抵触しないスマートICが半数弱存在する。)、
⑥控訴人は、自ら本件特許を実施しておらず、今後も実施する可能性がないこと、
⑦佐野SAスマートICの施設に占める被控訴人各システムの構成割合(価格の割合)は7.8%であること、
⑧被控訴人は、控訴人からの警告を受けた後も本件特許の実施を継続していること、がそれぞれ認められる。
上記各事情を総合すると、本件において、本件特許の実施料率は、2%と認めるのが相当である。
解説/検討
・知財高裁大合議判決(平成30年(ネ)第10063号、令和元年6月7日判決言渡)では、「実施に対し受けるべき料率は,
①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,
②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,
③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,
④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。」と判示されている。
・本事案では、上記8つの(事情①~⑧)を総合して、本件特許の実施料率を2%と定めているが、本事案の事情①~⑧と大合議判決の事情①~④の対応関係は、以下のように整理することができると考えられる。
本事案の事情①③④⑤⑦:大合議判決の事情②
本事案の事情② :大合議判決の事情③
本事案の事情⑥⑧ :大合議判決の事情④
上記の整理が正しいとすると、本事案では、実施料率を定めるに際して、大合議判決の事情①について考慮されていないのではないか。
・本事案では、実施料率について、控訴人は、「本件各発明の被控訴人システムに対する実施料率は10%を下らない。」と主張しており、一方、被控訴人は、「本件各発明の特徴とされる前記イの①~④については、従来技術にみられるありふれた構成であること、被控訴人各システムにおいてはこれらの特徴がもたらす逆走防止などの作用効果を奏していないことからすると、実施料率は限りなくゼロに近い。」と主張している。
また、「平成21年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書 ~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~」によれば、本件特許の技術分野(IPC:G07、G08)のロイヤルティ料率の平均値は3.5%とされている。
本事案においても、大合議判決の事情①に相当する事情も含めて総合考慮し、実施料率を定めるべきではないか。
