【訂正後の従属項に基づく再度の特許権侵害訴訟について、前訴の既判力及び訴訟上の信義則により請求が許されないとされた事例】

 

投稿日:2026年8月28日

ohno&partners

著者:弁護士 盛田 真智子
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

民事訴訟法114条1項/同115条1項3号/同2条/同338条1項8号/特許法104条の4/既判力/訴訟上の信義則

ポイント

※訂正審判後に訂正後請求項に基づいて再度提起された特許権侵害訴訟につき、既判力及び訴訟上の信義則の適用が問題となった事案である。
※差止請求については、訂正後請求項が前訴請求項の従属項であったことなどから、前訴と訴訟物は同一であり、既判力により請求は許されないと判断された。
※損害賠償請求については、既判力は及ばないものの、前訴の蒸し返しに当たり訴訟上の信義則に反するとされ、専用実施権者についても「口頭弁論終結後の承継人」に当たると判断された。

 

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第40部
判決言渡日 令和2年11月25日
事件番号 令和元年(ワ)第29883号
事件名 特許権侵害行為差止等請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
佐藤 達文
三井 大有
齊藤 敦
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 原告会社(前訴原告)は、装飾品鎖状端部の留め具に関する本件特許(特許第4044598号)の特許権者で,貴金属等の小売業を営む特例有限会社である。原告X1は専用実施権者で,原告会社の取締役の長女であり,原告会社の代表者の姪である。被告らは,宝飾品等の製造,販売業を営む者及び株式会社である。
 原告会社は,被告らに対し,差止,損害賠償等を求める訴訟(前訴)を提起したが,非充足とされ棄却判決が確定した。その後,訂正審判で許可審決が出たことから,原告会社は,判決の基礎となる行政処分が変更されたとして前訴について再審請求をしたが,棄却された。さらにその後の訂正審判許可審決を経て,原告会社は,原告にX1を加え,同一被告に対し,同一製品について,差止,損害賠償等を求める訴訟(後訴,本件訴訟)を提起した。
 本件訴訟においては,訂正により,請求原因となる請求項が形式的には前訴と異なることとなったものの,この請求項は前訴で争われた請求項の従属項であったこと等から,差止請求については,前訴の既判力によって主張が遮断されると判示された。また,損害賠償請求については,訴訟上の信義則に反して許されないと判示された。
 原告X1にも,前訴の「口頭弁論終結後の承継人」に該当するため前訴の既判力が及ぶとされ,また,前訴原告との関係等の具体的事情から,訴訟上の信義則が適用されると判示された。
 その後、知財高裁も一審判決を是認し,原告らの控訴を棄却した。

【事実関係】
平成25年10月24日 原告会社が前訴提起訂正前の請求項1について)
平成27年2月23日  東京地裁が請求棄却(非充足)
平成27年3月5日   原告会社が控訴(前訴)
平成27年3月28日  第一次訂正審判請求
平成27年4月23日  本件訂正認容審決1(請求項1の従属項であった請求項2が独立項になった
平成27年8月6日   知財高裁が控訴棄却(前訴)
平成28年7月12日  最高裁が上告棄却及び上告受理申立て不受理決定をし,前訴確定
平成29年5月29日  第二次訂正審判請求
平成29年8月4日   本件訂正認容審決2
平成30年2月7日   第三次訂正審判請求
平成30年3月19日  本件訂正認容審決3
平成30年     原告会社が民訴法338条1項8号に基づき再審の訴えを提起
平成30年9月18日  知財高裁が前訴再審請求を棄却する決定
平成31年2月14日  第四次訂正審判請求
令和元年5月8日    本件訂正認容審決4
令和元年5月30日   原告会社が原告X1に専用実施権設定 令和元年11月7日   原告会社及び原告X1が本訴(後訴)提起
             (訂正後の請求項2について)
令和2年11月25日  東京地裁が損害賠償請求は却下,その余の請求は棄却
令和3年4月20日   知財高裁が控訴棄却(後訴)

【背景】
1 確定判決の既判力の客観的範囲(一般論)
 前訴が確定すると既判力が生じ,前訴でその目的とした事項に関する判断につき,当事者は後訴で争うことができず,裁判所も前訴の判断内容に拘束される。既判力の趣旨は①紛争の蒸し返し防止と,②前訴で手続保障(争う機会)が与えられた以上,当事者はその結果に自己責任を負うことである。既判力の客観的範囲は「主文に包含するもの」に限定され,理由中の判断には既判力が及ばない。前訴の既判力に抵触する請求が後訴でされた場合には,裁判所は前訴と矛盾する判決をすることができないので,後訴の請求は棄却される。少なくとも,訴訟物が同一で1,当事者が同一であれば,前訴の既判力が後訴に作用するため,本件訴訟(後訴)でも前訴と後訴の訴訟物が同一であるかを判断している。

 既判力の基準時は,口頭弁論終結時であり,それ以降に生じた事実関係や権利関係の変動は前訴の判断の対象にならないため,前訴の既判力が及ばない。そのため,前訴の損害賠償請求訴訟の口頭弁論終結時後に特許権が侵害された場合,後訴の損害賠償請求訴訟の訴訟物は,前訴の訴訟物とは異なることになる。一方,差止請求訴訟は,侵害品の構成や侵害の主体が同一であれば,前訴と後訴の訴訟物は同一であるとされるのが原則である。(差止請求権と損害賠償請求権とは,法令上の根拠等が異なることから,別個の訴訟物と解される。)

2 確定判決の既判力の主観的範囲(一般論)
 既判力は,前訴の当事者のほか,前訴の「口頭弁論終結後の承継人」などにも及ぶ。手続保障は,前訴で前主に与えられており,前訴の口頭弁論終結後の承継人は,前主のした処分の結果を承継すべき地位にあるからである。本件訴訟では,前訴の当事者ではなかった原告X1(専用実施権者)が「口頭弁論終結後の承継人」に当たることが判示されている。

3 訴訟上の信義則(一般論)
 前訴の既判力によって制限されない場合でも,後訴においてそのような主張をすることが訴訟上の信義則に反する場合には,その主張は却下される。訴え自体が信義則に反する場合には,訴えが却下される。


1 訴訟物が同一である場合以外に,先決関係にある場合,矛盾関係にある場合にも,前訴の既判力が後訴に作用する。

   

争点

後訴の請求が前訴の既判力又は訴訟上の信義則により許されるかが争点となった。
具体的には、
・前訴と本訴の訴訟物の同一性(既判力の客観的範囲)
・専用実施権者は「口頭弁論終結後の承継人」に該当するか(既判力の主観的範囲)
・本訴に係る請求が訴訟上の信義則に反するか
が問題になった。

原審(原々審)の判断

1 前訴の判断と第一次訂正
   東京地裁は,前訴につき,①被告製品が留め具としての機能及び効果を発揮する状態において,部材ア及びイは部材エと接触していないことなどから,被告製品は「ホルダー」と「ホルダー受け」とを「噛合わせて係止」する方式を採用したといえず,これらを「正しい噛合い位置に誘導できる」部位に「互いに吸着する磁石」を「吸着部材」として設けたものとはいえないので,被告製品は訂正前の請求項1の構成要件1B及び1Cを充足しないなどとして,原告会社の請求をいずれも棄却した。
 知財高裁も,①部材ア及びイは部材エと接触していないため「噛合わせて係止」した状態ということはできず,第一次訂正後の請求項1の構成要件1Bを充足しない,②部材ウ及びエの磁石が吸着した「正しい噛合い位置」において,部材エは部材ア及びイと接触しておらず,「噛合わせて係止」した状態ということはできないため,被告製品は請求項1の構成要件1Cを充足しないとして,控訴を棄却した。
 最高裁判所は,上告を棄却,上告受理申立てを受理しない旨の決定をし,前訴は確定した。

 前訴控訴審の経過中に,第一次訂正によって,前訴一審時には請求項1の従属項であった請求項2が独立項になった。本訴(後訴)では,計4回の訂正後の請求項2の充足性が争われている。訂正後の請求項2は,「噛合わせて係止」(構成要件2A),「正しい噛合い位置」(同2C)などの構成も含め,前訴の審理対象であった請求項1の発明特定事項を全て含み,更に発明特定事項が限定されている。

【訂正後の請求項2の抜粋】
2A 装飾品の片方の鎖状部の端部に設けたホルダーと他方の鎖状部の端部に設けたホルダー受けとを噛合わせて係止する方式の留め具であって,
2C 前記ホルダーとホルダー受けには,これらを正しい噛合い位置に誘導できる部位に,かつ,前記ホルダーと前記ホルダー受けには,前記ホルダーを閉口動作する事で,前記ホルダー受けのネック部に対して,前記ホルダーの止め部が係止できる位置に誘導できる部位に,互いに吸着する磁石の各一方を,あるいは磁石とこれに吸着される金属材を,それぞれ吸着部材として設けた装飾品鎖状端部の留め具において,

2 前訴の再審の訴えが棄却された経緯
 原告会社は,第三次訂正の後,前訴に係る請求の認容を求める再審の訴えを提起した。原告会社は,同訴訟において,①本件訂正認容審決3により,ホルダー受けとホルダーの構造や形態が明確となり,噛み合い部分が接触しなくても「噛み合う」に該当することが明らかとなった,②この結果,被告製品は,構成要件1B及び1Cを充足することとなり,前訴控訴審判決の基礎となった行政処分である本件特許権に係る特許査定が後の行政処分である本件訂正認容審決3により変更されたとして,民訴法338条1項8号の再審事由があると主張した。

 しかし,知財高裁は,以下の通り再審請求を棄却した。
「① 特許法における特許請求の範囲等の訂正は,『実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならない』と規定し(同法126条6項),訂正前の特許発明の技術的範囲に属しない被疑侵害品が訂正後の特許発明の技術的範囲に属しないことを保障しているのであるから,被疑侵害品が特許発明の技術的範囲に属しないことを理由とする請求棄却判決が確定した後に,特許権者が訂正認容審決を得て,再審の訴えにおいて被疑侵害品が訂正後の特許発明の技術的範囲に属する旨主張することは,特許法がおよそ予定していない,②原告会社は,前訴において,前訴控訴審判決の基礎となる第一次訂正前の本件発明1及び本件訂正発明1-1の技術的範囲について,主張立証する機会と権能を有していた のであるから,前訴控訴審判決が確定した後に,本件訂正認容審決3が確定したという,特許法がおよそ予定していない理由によって,前訴控訴審判決を覆すことができるとすることは,紛争の蒸し返しであり,特許権侵害訴訟の紛争解決機能や法的安定性の観点から適切ではなく,同法104条の4の規定の趣旨にかなわない,③原告会社が前訴係属中に第一次訂正を行っていたことからして,その係属中に本件訂正認容審決3を得ることができなかったとも認められないとした上で,これらの事情を考慮すると,本件訂正認容審決3が確定したことを原告会社が再審事由として主張することは,同法104条の4並びに同法126条1項ただし書及び同条6項の各規定の趣旨に照らし許されない

判旨

1 前訴と本訴の訴訟物の同一性
(1)損害賠償請求について
「原告会社は,前訴において,・・・対象期間(終期については,・・・最も遅くとも,前訴控訴審判決の口頭弁論終結日である平成27年6月4日時点(以下「本件基準時」という。)までと考えられる。)とする損害賠償金及びこれに対する法定利息の支払を求め・・・た・・・。
 一方,原告らは,本訴において,①被告製品による本件特許権侵害の不法行為に基づき,被告Y1に対し,原告会社につき平成28年11月8日から令和元年7月7日までの間を,原告X1につき同月8日から同年11月8日までの間を,それぞれ損害賠償の対象期間2とする損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の各支払を求め・・・ている。そうすると,原告会社と被告ら各自との間の損害賠償等請求については,前訴と本訴とで訴訟物がいずれも異なっているということができる。したがって,被告X1が原告会社の口頭弁論終結後の承継人(民訴法115条1項3号)に当たるか否かにかかわらず,原告らの本訴における損害賠償等請求について,前訴の既判力は及ばない。

(2)差止請求について
「前訴請求は,被告製品が請求項1に係る本件訂正発明1-1の技術的範囲に属することを前提とする請求であったのに対し,本訴請求は,被告製品が独立項である請求項2後段に係る本件訂正発明2の技術的範囲に属することを前提とする請求であるが,民事訴訟において,原告は訴訟物を特定する責任があり,それが被告に対し防御の目標を提示する手続保障の役割を果たすとともに,裁判所に対し審判の対象を提示する機能を有するところ,本件においては,①原告会社と被告Y1との間の前訴と本訴の差止等請求は,原告会社に関しては当事者が同一であり,いずれも本件特許権に基づく請求であって,差止めの対象となる製品も同一であること,②2以上の発明については,経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは,一の願書で特許出願をすることができるものとされ(特許法37条),これを受けた特許法施行規則25条の8第1項は,上記技術的関係とは,2以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより,これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう旨を定めていることによれば,本件特許の特許請求の範囲の各請求項も相互に技術的関係を有する単一の発明であるということができること,③本訴の前提とされている本件訂正発明2に係る請求項2は,もともとは請求項1の従属項であり,その後第一次訂正により独立項とされたものの,「噛合わせて係止」,「正しい噛合い位置」などの構成も含め,前訴控訴審時の審理対象であった本件訂正発明1-1の発明特定事項を全て含み,その権利範囲を限定するものであることなどの事情が認められ,これによれば,前訴と本訴の差止等請求に係る訴訟物は同一であり,根拠となる請求項が異なることは攻撃方法の差異にとどまるものと解するのが相当である(知財高裁平成28年(ネ)第10103号同29年4月27日判決参照3 )。
 なお,前訴では被告製品の製造及び販売の差止めが請求されていたのに対し,本訴ではこれらに加えて販売の申出の差止請求が追加されているが,製造及び販売と販売の申出とでは,侵害の態様が異なるにすぎないから,この点の異同(追加)は訴訟物の同一性に影響を及ぼさない。」


2前訴の口頭弁論終結時以降である。
3充足項の侵害の主張の追加について「本件発明2の技術的範囲に属する旨の主張の追加は,新たな訴訟物を追加するものではなく,訴えの追加的変更には該当せず,請求原因として,新たな攻撃方法を追加するものと解される。」と判示した。


解説/検討

民事訴訟法 114条1項 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
第115条1項 確定判決は,次に掲げる者に対してその効力を有する。
3号 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人

338条 次に掲げる事由がある場合には,確定した終局判決に対し,再審の訴えをもって,不服を申し立てることができる。ただし,当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき,又はこれを知りながら主張しなかったときは,この限りでない。
8号 判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。

特許法 第104条の4 特許権若しくは専用実施権の侵害・・・に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる決定又は審決が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え・・・において、当該決定又は審決が確定したことを主張することができない。

特許法 第126条1項ただし書 ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
 差止請求については,訂正によって,後訴の請求原因となる請求項が形式的には前訴と異なることになったものの,この請求項が前訴で争われた請求項の従属項であったこと等から,本判決は,前訴と後訴の訴訟物は同一であると判断し,前訴の既判力によって主張が遮断されると判示された。そして,専用実施権を設定すると特許権者はその範囲内で特許発明の実施をする権利を喪失することから,専用実施権者は「口頭弁論終結後の承継人」に該当し,前訴の当事者ではない原告X1にも前訴の既判力が及ぶとされた。
 また,損害賠償請求については,既判力には抵触しないものの,訴訟上の信義則に反して許されないと判示された。信義則に照らして許されないか否かの判断において考慮すべき事項が挙げられ,原告会社及び原告X1それぞれについて具体的な当てはめがされており、注目される。特に,前訴の当事者ではない原告X1について,原告会社との近い関係性や,設定された専用実施権の対象が本件訴訟に関連する請求項のみであり,設定期間が短く,実施をしているとも認められないこと等から,「前訴と同様の争点につき,改めて判断を求めるべく,原告会社のために本訴の共同原告となったものと推認することができる」と判断され,信義則により請求が許されないとされた点は、実務上参考となる。
 知財高裁も、一審判決の判断を是認し、控訴を棄却した。

 

PAGE TOP