【被告製品および被告方法が、訂正後の特許発明の構成要件「室に・・・微量金属元素収納容器が収納(されている)」を具備するか否かが争われた事例】
投稿日:2026年9月16日 |
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著者:弁理士 津田 理
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参照条文/キーワード/論点 |
構成要件の充足性 |
ポイント
※原審では、訂正後の特許発明では、連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有することを前提としているのに対し、被告製品および被告方法では、小室Tの外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間の空間は,使用時に中室及び小室Vと連通するものではないため、同空間が「室」に当たらないと判断した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第2部 |
| 判決言渡日 | 令和3年11月16日 |
| 事件番号 | 令和3年(ネ)第10007号 |
| 事件名 | 特許権侵害差止請求控訴事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
本多 知成
中島 朋宏 勝又 来未子 |
事案の概要
1.事実関係
控訴人(原審原告)は、本件特許(特許第4171261号)の特許権者である。本件特許については無効審判(無効2018-800128)が請求され、本件特許の各発明について訂正請求がなされている。訂正請求後の請求項1、10に記載の発明(本件訂正発明1、10)の内容は、以下のとおりである。
[本件訂正発明1]
1A 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,
1B その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され,
1C 他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており,
1D 微量金属元素収容5 容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
1E ことを特徴とする輸液製剤であって,
1F 前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり,
1G 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており,前記外袋内の酸素を取り除いた,輸液製剤。
[本件訂正発明10]
10A 複室輸液製剤の輸液容器において,
10B 含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と
10C 別室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し,
10D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
10E ことを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって,
10F 前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり,
10G 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており,前記外袋内の酸素を取り除いた,保存安定化方法。

被控訴人(原審被告)は、下図(別紙被告製品目録)記載の各製品(「被告製品」という。被告製品において使用されている輸液製剤の保存安定化方法を「被告方法」という。)を製造、販売している。


争点
・被控訴人製品の小室Tの部分は本件各訂正発明に係る構成要件1A及び2Aの「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室」の構成を備えるか(争点(1))
・被控訴人製品又は被控訴人方法は本件各訂正発明に係る構成要件1C及び2Cの「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成又は構成要件10C及び11Cの「室に・・・微量金属元素収納容器を収納」している構成を備えるか(争点(2))
・被控訴人方法は本件各訂正発明に係る構成要件10A及び11Aの「複室輸液製剤」の構成を備えるか(争点(4))
原審の判断
・本件各発明の技術分野は,経口・経腸管栄養補給が不能又は不十分な患者に対して,経静脈からの各種輸液(糖製剤,アミノ酸製剤,電解質製剤,混合ビタミン製剤,脂肪乳剤等)の投与を行うための輸液製剤に関するものである。この点,当該輸液製剤は,経時変化を受けることなく保存し,その使用時に細菌による汚染なく混合するため,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器に収容される。
しかして,輸液中には,通常,銅等の微量金属元素が含まれていないことから,患者は,輸液の投与が長期になるときにはいわゆる微量金属元素欠乏症を発症することとなる。しかるところ,これを予防するために必要な微量金属元素を輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によって品質劣化の原因になり,これを防ぐべく含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量金属元素とを隔離していても,微量金属元素を含む溶液が不安定となるという技術的課題が生じていた。
本件各発明は,このような技術的な課題に対して,連通可能な隔壁手段で区画されている複室の一室に含硫アミノ酸を含有する溶液を充填し,これとは他の室に,微量金属元素を収容した容器を収納するという構成を採用することにより,上記技術的な課題を解決し,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供するという効果を奏するようにしたものであるというべきである。
そうである以上,本件各発明の課題解決の点における特徴的な技術的構成は,微量金属元素収容容器を,含硫アミノ酸を含有する溶液と同じ室ではなく,同室と連通可能な他の室に収納するという構成を採用したところにあるものというべきである。そして,これは,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器であることを前提として,その複数の各「室」については,それぞれ異なる輸液を充填して保存するための構造となっており,上記の微量金属元素収容容器を収納する「室」は,含硫アミノ酸を含有する溶液とは異なる輸液の充填・保存のための構造となっている「室」であるという技術的構成が採用されたものということができる。
すなわち,本件各発明において,構成要件1Aの「複数の室」及び構成要件10Aの「複室」は,各種輸液を充填して保存するための構造となっている各空間を意味すると解されることから,輸液容器に設けられた空間がその一室である構成要件1C及び10Cの「室」に当たるためには,当該空間が輸液を充填して保存し得る構造を備えていることを要すると解するのが相当であり,これに反する原告の前記主張は採用できない。
・被告製品ないし被告方法について見ると,前記前提条件及び弁論の全趣旨によれば,小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋を覆っている外側の樹脂フィルム2枚は,中室側及び小室V側の両端部において内側の樹脂フィルムと溶着されており,使用時にも当該溶着部分は剥離しないと認められる。
そうすると,小室Tの外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間の空間は,使用時に中室及び小室Vと連通するものではなく,これに照らすと,同空間が,輸液を充填して保存し得る構造を備えているものとは認められないといわざるを得ず,同空間が「室」に当たるということはできない。
したがって,被告製品及び被告方法は構成要件1C及び10Cの「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を具備するとは認められない。
以上によれば,被告製品及び被告方法は,本件各発明の技術的範囲に属するものとは認められないといわなければならない。
裁判所の判断
(1) 本件各訂正発明の課題について
・本件各訂正発明は,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器が病院で使用されているところ,輸液中には通常微量金属元素が含まれていないことから投与が長期になると微量金属元素欠乏症を発症するが,微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると品質劣化が問題となるため,依然として輸液の投与直前に混合されているという現状に鑑み,外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用い,用時に細菌汚染の可能性なく微量金属元素を混入することができ,かつ,保存安定性にも優れた輸液製剤の創製研究が開始されたものの,含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填して微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量金属元素が隔離してあっても微量金属元素を含む溶液が不安定であるという問題が生じることを知見し,その上で,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを目的とするものである。
本件訂正発明1及び2は,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを課題とするものであるが,より具体的には,外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用いて,あらかじめ微量金属元素を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤であって,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を提供することを課題とするものと解される。同様に,本件訂正発明10及び11の課題は,そのような輸液製剤の保存安定化方法を提供することを課題とするものである。
(2) 争点(1)について
・「室」について
本件訂正発明1及び2の構成要件1A及び2Aにいう「室」についても,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間をいうものと解するのが相当である。
被控訴人製品の小室Tについても,被控訴人製品に係る輸液容器の構成の中で基礎となる一連の部材である外側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件小室T)をもって,「室」に当たるとみるのが相当である。
・「連通可能」について
本件訂正発明1の構成要件1A及び本件訂正発明2の構成要件2Aにおいては,「複数の室を有する輸液容器」の前に,「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている」との特定が付加されている。
そうすると,上記特定により,「室」が「連通可能な」ものであることが明確にされているというべきであるから,構成要件1A及び2Aにおける「室」については,「外部からの押圧によって連通可能な」ものであることを要するものである。
被控訴人製品の小室Tに関しては,連通時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,「室」である外側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件小室T)に輸液が通じることはない。
そうすると,結局,被控訴人製品は,「室」が「連通可能」という要件を充足しないから,構成要件1A及び2Aを充足しないというべきである。
(3) 争点(4)について
構成要件10A及び11Aの「複室輸液製剤」にいう「室」についても,前記(2)アと同様に解するのが相当である。
そして,構成要件1A及び2Aと異なり,構成要件10A及び11Aについては,「室」が「連通可能」であることは要件とされていない。
したがって,先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)イ及び弁論の全趣旨により,被控訴人方法は,構成要件10A及び11Aを充足するというべきである。
解説/検討
・クレームの文言上は、確かに、構成要件10A及び11Aにおいて「室」が「連通可能」であることまで要件とされていない。
ただその一方で、裁判所は、本件訂正発明10及び11の課題は「そのような輸液製剤(外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用いて,あらかじめ微量金属元素を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤であって,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤)の保存安定化方法を提供すること」と認定している。
そうすると、本件訂正発明10及び11は、上記課題との関係でサポート要件を満たしていないという無効理由を有すると云われる可能性が残っているのではないか。
