【無効審判の認容審決に対する取消訴訟である。主引用発明と副引用発明とで技術分野が完全に一致しておらず、主引用発明に副引用発明を採用する相応の動機付けがないとして審決が取消された事例】

 

投稿日:2026年8月29日

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著者:弁理士 松野 知紘
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

29条2項/進歩性(動機付け)

ポイント

※争点は進歩性(特に組み合わせの動機付け)である。甲1発明はペンライトに係るものであるのに対し、甲2に記載された技術事項は照明装置に係るものである点で相違するから、近接した技術であるとしても、技術分野が完全に一致しているとまではいえず、両者の組み合わせにより容易であるというためには相応の動機付けが必要であるところ、共通の課題があるとは認められないから、動機付けは認められないとされた。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第3部
判決言渡日 令和3年10月6日
事件番号 令和2年(行ケ)第10103号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
東海林 保
上田 卓哉
中平 健
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 被告が、名称を「多色ペンライト」とする発明に係る特許(特許第5608827号)について無効審判請求をしたところ、特許庁は訂正を認めた上で特許を無効とするとの審決(本件審決)をした。これに対して、原告は本件審決の取消しを求めて本訴を提起した。

1 事実関係
(1)本件発明1(下線等付加、以下同じ)
「発光色を照らすカバーで覆われた発光部と,把持部とを有し,
 前記把持部は,
 赤色発光ダイオード,緑色発光ダイオード,青色発光ダイオード,黄色発光ダイオード及び白色発光ダイオードを備える光源部と,
 前記光源部の各発光ダイオードの発光を個別に制御する制御手段を有し,
 前記制御手段により前記各発光ダイオードを単独で又は複数発光させることで特定の発光色が得られるように構成し,
 前記特定の発光色は複数得られ,
 前記複数得られる特定の発光色には,少なくとも,前記白色発光ダイオードから単独で発せられる光により得られる発光色,前記白色発光ダイオードから発せられる光とそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる光とを混合して得られる発光色,前記黄色発光ダイオードから単独で発せられる光により得られる発光色,及び,前記黄色発光ダイオードから発せられる光とそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる光とを混合して得られる発光色,の全ての発光色が含まれ,
 前記白色発光ダイオードから得られる発光色は,前記白色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる白色の発光色,及び,前記白色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる光が混合することにより得られる発光色であり,
 前記黄色発光ダイオードから得られる発光色は,前記黄色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及び,前記黄色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる光が混合することにより得られる発光色であり,
 前記各発光ダイオードから発せられる光を集光,混色し,これにより得られた発光色で前記カバーの側面及び上部の全体を照らすための発光色補助手段が前記光源部の近くに該光源部を覆うように設けられ,
 乾電池又はボタン電池を電源とすることを特徴とする多色ペンライト。」
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(2)審決が認定した甲11 発明
 「発色を行う筒と持ち手を有し,筒を持ち手に装着するものであって,
 持ち手は,
 R(レッド),G(グリーン),B(ブルー)の三原色に加えてWhite(白色)が搭載されている4つのLEDを備える光源と,
 長押しすることにより,ライトON及びライトOFFすること,及び,押すたびに発色がレッドからエンジレッド,ブルー,ライトブルー,アクアブルー,イエロー,ライトイエロー,オレンジ,グリーン,ライトグリーン,エメラルドグリーン,ピンク,ピーチ,サクラピンク,バイオレット,ラベンダーパープル,ホワイト(白色)の順に変わりその次にレッドに戻ること,ができる持ち手の側面に配置されたプッシュスイッチを有し,白色はR(レッド),G(グリーン),B(ブルー),White(白色)全色点灯であり,他にWhite(白色)のLEDが点灯するのはライトブルー,アクアブルー,ライトイエロー,ライトグリーン,エメラルドグリーン,ピーチ,サクラピンクであり,
 発色をブレンドする際には,少なくともレッドの発色においてはR(レッド)のLED,グリーンの発色においてはG(グリーン)のLED,ブルーの発色においてはB(ブルー)のLEDを他のLEDに比して明るく点灯させるものであり,ホワイト(白色)の発色においては4つのLEDを点灯させるものであって,
 4つのLEDの光を集光,混色する,レンズ及び拡散シートで光源を覆うよう構成し,
 ボタン電池を電源として用いる,
 ボタン電池式ペンライト。」
 
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1 http://monta.moe.in/wp/2013/06-22/02-02_1072
 
 (3)審決が認定した相違点1(相違点2は省略)
 本件発明1は,「赤色発光ダイオード,緑色発光ダイオード,青色発光ダイオード,黄色発光ダイオード及び白色発光ダイオード」を備え,複数得られる特定の発光色として,「少なくとも,前記白色発光ダイオードから単独で発せられる光により得られる発光色,前記白色発光ダイオードから発せられる光とそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる光とを混合して得られる発光色,前記黄色発光ダイオードから単独で発せられる光により得られる発光色,及び,前記黄色発光ダイオードから発せられる光とそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる光とを混合して得られる発光色,の全ての発光色が含まれ」るものであり,「前記白色発光ダイオードから得られる発光色は,前記白色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる白色の発光色,及び,前記白色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる光が混合することにより得られる発光色であり,前記黄色発光ダイオードから得られる発光色は,前記黄色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及び,前記黄色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる光が混合することにより得られる発光色であり」として構成されているのに対し,甲1発明は,「R(レッド),G(グリーン),B(ブルー)の三原色に加えてWhite(白色)が搭載されている4つのLEDを備え」,「発色がレッドからエンジレッド,ブルー,ライトブルー,アクアブルー,イエロー,ライトイエロー,オレンジ,グリーン,ライトグリーン,エメラルドグリーン,ピンク,ピーチ,サクラピンク,バイオレット,ラベンダーパープル,ホワイト(白色)の順に変わり」,「白色はR(レッド),G(グリーン),B(ブルー),White(白色)全色点灯であり,他にWhite(白色)のLEDが点灯するのはライトブルー,アクアブルー,ライトイエロー,ライトグリーン,エメラルドグリーン,ピーチ,サクラピンクであり,発色をブレンドする際には,少なくともレッドの発色においてはR(レッド)のLED,グリーンの発色においてはG(グリーン)のLED,ブルーの発色においてはB(ブルー)のLEDを他のLEDに比して明るく点灯させるものであり,ホワイト(白色)の発色においては4つのLEDを点灯させる」として構成されている点。

(4)審決の理由の要旨
「ア 無効理由1について
 本件発明1は,甲1発明,甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲10)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(本件審決第6,2,2-1⑶〔本件審決52頁〕)。」
(他の無効理由については省略)

※本件審決第6,2,2-1⑵(2-1)イ(ア)a〔本件審決49頁〕には,LED照明装置において,光の三原色をなす赤(Red),緑(Green),青(Blue)の発光ダイオードに加え,さらに白色及び黄色の発光ダイオードを含めてLED照明装置を構成するという公知の技術事項が「甲2に記載された技術事項」という略語の内容として記載されている。
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裁判所の判断

「⑴ 甲2に記載された技術事項
 相違点1については,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用することにより相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたか否かが問題になるので,甲2に記載された技術事項について検討する。

イ 甲2に記載された技術事項

 甲2の実施の形態1として,カード型LED照明光源10に実装されるLEDを,相関色温度が低い光色用又は相関色温度が高い光色用や青,赤,緑,黄など個別の光色を有するものとすることができること(段落【0080】),2種の光色を用いた2波長タイプのときには演色性は低いが高効率な光源が実現可能であり,相関色温度が低いときには赤と青緑(緑)発光の組合せ,相関色温度が高いときには青と黄(橙)発光の組合せを採用することが望ましいこと,3種の光色を用いた3波長タイプの場合は青と青緑(緑)と赤発光の組合せ,4種の光色を用いた4波長タイプの場合は青と青緑(緑)と黄(橙)と赤発光の組合せが望ましく,特に4波長タイプのときには平均演色評価数が90を超える高演色な光源を実現できること(段落【0081】)が記載されていると認められる。

ウ 演色性の意味
(ア) 甲2の段落【0081】には「演色性」という語が用いられている。演色性については,一般的に,次のように説明されている。…これらの記載に照らすと,甲2に記載された「演色性」とは,照明された 物体の色が自然光で見た場合に近いか否かという,演色性という用語の一般的な意味(前記(ア))で用いられていると認められる。

⑵ 技術分野相互の関係と採用の動機付け
 …甲1発明は,ライブ(コンサート)会場に持ち込むフルカラーペンライトに係るもので,光源として,赤,緑,青(RGB)の三原色に加えて白色の4LEDが搭載されたものであり,筒全体が様々な色で発光する技術に関するものであることが認められる。
 他方,甲2に記載された技術事項は,前記⑴のとおりであり,物に光を照射してその物が見えるようにするための照明にかかわるものであり,複数のLEDが実装されたカード型LED照明光源を用いるLED照明装置と,このLED照明装置に好適に用いられるカード型LED照明光源とに係るもので,白色光又は可変色光を提供する技術に関するものである。
 ところで,進歩性の判断においては,請求項に係る発明と主引用発明との間の相違点に対応する副引用発明又は周知の技術事項があり,かつ,主引用発明に副引用発明又は周知の技術事項を適用する動機付けないし示唆の存在が必要であり,そのためには,まず主引用発明と副引用発明又は周知の技術事項との間に技術分野の関連性があることを要するところ,主引用発明と副引用発明又は周知の技術事項の技術分野が完全に一致しておらず,近接しているにとどまる場合には,技術分野の関連性が薄いから,主引用発明に副引用発明又は周知の技術事項を採用することは直ちに容易であるとはいえず,それが容易であるというためには,主引用発明に副引用発明又は周知の技術事項を採用することについて,相応の動機付けが必要であるというべきである。この点,甲1発明と甲2に記載された技術事項は,いずれもLEDを光源として光を放つ器具に関するものである点で共通するものの,甲1発明は筒全体が様々な色で発光するペンライトに係るものであるのに対して,甲2に記載された技術事項は,白色光又は可変色光を提供する照明装置に係るものである点で相違するから,近接した技術であるとはいえるとしても,技術分野が完全に一致しているとまではいえない。そのため,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して新たな発明を想到することが容易であるというためには,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用することについて,相応の動機付けが必要である。

⑶ 本件審決の認定判断
ア 甲1発明の課題の認定
(ア) 本件審決は,甲1発明の課題として,黄色の発色について,「イエロー」と「ライトイエロー」の各発色の色の違いを明確に識別することができないとの問題があり,これは,「『イエロー』とされる黄色の発色自体に問題が内在している,ということもできる。」(本件審決第6,2,2-1⑵(2-1)ア(ア)〔本件審決47頁〕)と認定し,これを,演色性の向上を企図して黄色の発光ダイオードを設ける前提としての課題と位置付けた(本件審決第6,2,2-1⑵(2-1)イ(ア)a〔本件審決49頁の17~23行目〕)。
(イ) 本件審決は,甲1発明の課題に関して,「甲1発明は,電源(電池)の電圧が下がると発色のバランスが崩れ,全体が綺麗に光らないことが指摘されており,要するに,甲1発明は,演色性を向上させる,という課題も内在していることが明らかである。」(本件審決第6,2,2-1⑵(2-1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕)と述べており,この記述によれば,本件審決は,発色のバランスを崩れないようにすることや,全体が綺麗に光るようにすることを,「演色性」を向上させることと認定しているものと認められ,甲1発明の課題は,そのような意味での「演色性」を向上させることにあると認定しているものと認められる。
(ウ) 本件審決は,甲1発明の課題に関して,「甲10(上記『1(10)』)には,『(中略)即ち三色の場合でも七色の場合でも,非常に多くの色彩の選択肢を提供することができるのである。』(段落【0012】)と記載されているように,少なくとも,赤色,緑色,青色の三色のLEDを用いた照明装置において,演色性を向上させることは,かかる技術分野の周知の課題といえる。」(本件審決第6,2,2-1⑵(2-1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕)と述べており,ここでは,多くの色彩の選択肢を提供することをもって,演色性を向上させることと認定しているものと認められ,甲1発明の課題は,そのような意味での「演色性」を向上させることにあると認定しているものと認められる。

ウ 相違点1に係る本件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」の容易想到性についての判断
 …本件審決は,甲1発明に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課題があり(前記ア(ア)),演色性を向上させるという課題も内在しており(前記ア(イ)),甲2に白色及び黄色の発光ダイオードを含めてLED照明装置を構成するという公知の技術事項が記載されており(前記イ(ア)),甲2には演色性を向上させるという技術事項が記載されていることから(前記イ(イ)),甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがあり,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到することができたと判断したものと認められる。

⑷ 本件審決の認定判断の誤りの有無
ア 甲1発明の課題の認定について

(イ) 演色性
 本件審決が甲1発明の課題に関して認定する「演色性」は,発色のバランスを崩れないようにすることや,全体が綺麗に光るようにすること(前記⑶ア(イ)),多くの色彩の選択肢を提供すること(前記⑶ア(ウ)。本件審決は,第6,2,2-1⑵(2-1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で,甲10に記載されているように周知の課題といえると認定する。)であり,甲2に記載された技術事項として認定された「演色性」,すなわち,照明された物体の色が自然光で見た場合に近いか否かという,一般的な意味での「演色性」(前記⑶イ(イ))とは異なる

ウ 相違点1に係る本件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」の容易想到性
 前記⑵のとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項は,技術分野が完全に一致しているとまではいえず,近接しているにとどまるから,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を想到することが容易であるというためには,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用するについて,相応の動機付けが必要であるというべきである。

 そうすると,本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機を基礎づける甲1発明の課題の認定を誤っているものであり,また,甲2に記載された技術事項の内容(前記⑴),甲1発明と甲2に記載された技術事項の技術分野相互の関係(前記⑵)を考慮すると,甲1発明には,甲2に記載された技術事項と共通する課題があるとは認められず,そのため,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがあるとは認められない
 したがって,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到することができたとは認められず,これを容易に想到することができたとする本件審決の判断(前記⑶ウ(ア))は誤りである。

エ 黄色発光ダイオードの単独発光色及び混合発光色の容易想到性
 …念のため,仮にそのような動機付けがあるとして,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用することにより,黄色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及び前記黄色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる光が混合することにより得られる発光色という,相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかについて検討する。
 …そうすると,仮に甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがあり,甲2に記載された技術事項を甲1発明において採用し,甲1発明において黄色発光ダイオードを備えたとしても,黄色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及び,前記黄色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる光が混合することにより得られる発光色という,相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたとは認められない。

⑸ 被告の主張について

(ウ) 前記(ア),(イ)のとおり,本件特許出願前において,テレビジョン等の製品における液晶のディスプレイを,赤,緑,青に加えて黄色の4つの原色から構成することや,赤,緑,青に加えて白の4つの原色から構成することは,周知であったものと認められる
 甲1発明のペンライトも,カラー液晶に係る周知技術(前記(ア),(イ))も,複数色で構成される光源からの光について同時加法混色を行う点では共通し,近接した分野であるとはいえるものの,加色を行う具体的な構造,発光装置の使用の態様などが相違しており,技術分野が同じとはいえないから,甲1発明に上記周知技術を採用するに当たっては,具体的な示唆等が必要であるというべきである。
 ところが,甲1発明には,前記⑷ア(ア)のとおり,黄色自体の発色の問題が課題として示されているとは認められないから,黄色の光源を追加する動機付けはない。また,甲1には,「電源電圧による色の変化」,「フルカラーペンライトはRGB LEDの合成によって色を表現しているため,電源(電池)の電圧が下がると発色のバランスが崩れます。(昇圧回路でも入っていない限り避けては通れない問題です)」(5頁の下から2番目の写真の上)という記載があることから,電源電圧の低下によって発色のバランスが崩れるという課題が示されていると認められるが,テレビジョン等の製品の電源は安定しており,電源電圧低下という課題自体が存在しないから,この観点からみても,甲1発明に,テレビジョン等の製品について周知技術である,黄色の原色を追加するという技術事項を採用する動機付けはない。
 したがって,相違点1に係る本件発明1は,甲1発明及び乙5の1ないし9,乙6の1ないし13記載の周知技術に基づいて容易に想到することができたという被告の前記主張は,採用することができない。

検討

(1)動機付けに関する規範として「進歩性の判断においては,請求項に係る発明と主引用発明との間の相違点に対応する副引用発明又は周知の技術事項があり,かつ,主引用発明に副引用発明又は周知の技術事項を適用する動機付けないし示唆の存在が必要であり,そのためには,まず主引用発明と副引用発明又は周知の技術事項との間に技術分野の関連性があることを要するところ,主引用発明と副引用発明又は周知の技術事項の技術分野が完全に一致しておらず,近接しているにとどまる場合には,技術分野の関連性が薄いから,主引用発明に副引用発明又は周知の技術事項を採用することは直ちに容易であるとはいえず,それが容易であるというためには,主引用発明に副引用発明又は周知の技術事項を採用することについて,相応の動機付けが必要であるというべきである。」と判示された。
 これによれば、
・いずれも「副引用発明又は周知の技術事項」とされているから、副引用発明と周知技術とで、動機付けの基準は変わらない。
・技術分野の関連性なし→動機付けなし
・技術分野が関連性が薄い(近接)→相応の動機付けが必要
・技術分野が完全に一致→動機付けあり
ということだと思われる。進歩性を否定するためには、周知技術があるとしても、主引例と「技術分野が完全に一致」あるいは「相応の動機付け」が認められる必要があり、結構なハードルがあるように思える。

(2)審決では、甲1における「イエローとライトイエローの違いが分かりづらい」「電源(電池)の電圧が下がると発色のバランスが崩れます」との記載から「演色性向上」との課題を認定でき、甲2も演色性向上のために黄色LEDを採用したものであるから、甲2を適用する動機付けもあると判断された。一方、本判決では、甲1の「演色性」は発光の問題(発色のバランスを崩れないようにする、全体が綺麗に光るようにする、多くの色彩の選択肢を提供する)であるのに対し、甲2は照明された物体の色の見え方の問題であるとして、課題が共通せず、動機付けがないと判断された。
 確かに、光ること自体が重要なペンライトと、物体を照らす照明装置とでは、目的が違うので課題が異なるという判断は妥当とも思う。
 しかし、光源として黄色を用いることは照明装置やテレビで用いられている技術であり、もはや慣用技術であって、要するに「ペンライトにおいて黄色の光源を採用した」というだけで進歩性を認めるのは少々無効審判請求人にとって酷ではなかろうか。

(3)仮に動機づけがあるとして甲2を採用しても「黄色単独」と「黄色+他の色との混色」という構成には至らないと判断された。しかし、甲1でも「青色単独」と「青色+他の色との混色」という制御がされているのであり、黄色に関しても「黄色単独」と「黄色+他の色の混色」という制御を行うのは当然であり、容易想到の範疇と思える。

(4)裁判所は、①.動機付けの有無、②.構成が埋まるか、という順で検討するようである。

 

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