【「楕円形」の文言解釈を機能・技術的意義から広く認定した事例】

 

投稿日:2026年9月2日

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著者:弁護士 大野 浩之
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

文言侵害/クレーム解釈

ポイント

※被告製品の先端部は厳密な幾何学的楕円ではなかったが、裁判所は明細書の記載及び発明の技術的意義を踏まえ、「楕円形」の文言を充足すると判断した。
※無効理由については、引用発明から楕円形状へ変更する動機付けが認められず、進歩性を肯定した。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第46部
判決言渡日 令和3年5月18日
事件番号 平成31年(ワ)第2675号
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
柴田 義明
佐伯 良子
佐藤 雅浩
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 本件は、発明の名称を「吹矢の矢」とする特許権の特許権者である原告が、被告が製造、販売等する被告製品が本件特許の請求項2の技術的範囲に属するものであると主張して、被告に対し、特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の譲渡等の差止め及び被告製品並びにその製造に供する金型等の廃棄を求めるとともに、民法709条に基づき、損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。

1 本件発明(請求項2)
「A 吹矢に使用する矢であって、
 B 長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さいピンと、
 C 円錐形に巻かれたフィルムであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルムと、からなり、
 D 前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接続された
 E 矢。」

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判旨

【充足論】
「2 被告製品のピンが、長手方向断面が『楕円形』(構成要件B、D)である先端部を有しているか(争点1-1)について」

「(被告の主張)
 本件明細書において『楕円形』の意味は定義されていないし、ピンの先端部を楕円形にすることによる独自の作用効果についての記載もない。本件発明は本件特許の請求項1に係る発明(先端部が球形の発明)の変形例であるとされており、本件明細書の図3において、ピンの先端部につき、〈1〉両端が同じ形状の丸みを備えており、〈2〉長手方向中央部に重心の位置があり、〈3〉中央部で縦に分割した場合、両分割片同士が同一の形状(線対象)である形状のみが開示されている。
 また、楕円形の一般的な意味について、『円』は『まるいこと。丸いもの』と定義され、『楕円』は『円錐曲線(二次曲線)の一。幾何学的には一平面状で二定点(F、F’)からの距離の和(FP+F’P)が一定であるような点Pの軌跡』とされている。被告製品のピンの先端部のように角部を有する形状を楕円形とする使用例はない。
 これらによれば、本件発明の『楕円形』は、上記〈1〉ないし〈3〉の要件を満たす形状に限定されるべきである。
 被告製品のピンの先端部は、〈1〉長手方向前部が曲率の緩いドーム型であるのに対し、後部は略円錐形である涙滴形となる円弧を描いており、円柱部との接合面が上下に角を有するとともに、角と角とを直線で結んだ形状となっているから、先端部と後部とで形状が異なり、〈2〉長手方向中央部よりも前方に重心の位置があり、〈3〉中央部で縦に分割した場合、両分割片同士が同一の形状(線対象)ではない
 したがって、被告製品は、本件発明の構成要件B、Dの『楕円形」』の文言を充足しない。」

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(裁判所の判断)
「(1) 『楕円』とは、一般的に『円錐曲線(二次曲線)の一。幾何学的には一平面上で二定点(F、F’)からの距離の和(FP+F’P)が一定であるような点Pの軌跡。』を意味する(乙2)。また、『楕円形』について、『楕円状をなす形、あるいは、それに近い形。』(デジタル大辞泉)、『楕円のような形。また、そのような形のさま。小判がた。長円形。側円形。』(精選版日本国語大辞典)と説明されたりする(甲9)。
 また、長手方向の端の一方が他方よりも緩い曲率の形状のこたつの天板について、『楕円形こたつ』、『楕円形 たまご型 卵型天板』と記載されたり、長手方向の端の一方が他方よりも緩い曲率の形状の水色の画像について、『楕円形ブルー水滴』と記載されたりしたものがある(甲10の1、4)。
 これらによれば、『楕円形』は、一般的には、幾何学的意味での楕円の形のほか、水滴などともいわれるそれに近い形も含むものであり、また、長手方向の端が同じ曲率ではない形状も楕円形と呼ばれることがあるといえる。
(2) 本件明細書には、『楕円形』の意義につき特段の定義はない
 本件発明の実施例として、『楕円形ヘッド14』とそれと連続して後方に伸びる『円柱部10』を有する『楕円ピン12』が示され、その形状は【図3】のとおりである。この『楕円ピン12』は鉄製で一体成型されたことが記載されている(段落【0066】)。【図3】のとおり、『楕円ピン12』は、直線の上辺、下辺を有していて、幾何学的な楕円ではなく、楕円に近い形といえるものである。」
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「なお、本件発明のピンは、先端部と先端部から後方に延びる円柱部とからなるが(構成要件B)、一定の強度が必要な吹矢の矢のピンにおいて、先端部と円柱部は、一点のみで接するものではなく、一定の範囲で接する。円柱部と先端部が接している部分について、円柱部を基準とすると、円柱部のうちの最も先端部側と接している部分まで円柱部が伸びているとみることができる。本件明細書の【図3】においても、円柱部と楕円型ヘッドは一定の範囲で接しており、円柱部が楕円型ヘッドの最も先端部側と接している部分を基準として、円柱部がそこまで伸びているということもできる。また、本件発明で先端部と円柱部の素材が異なることは定められておらず、実施例でも先端部と円柱部は鉄を一体成型したとされており、先端部と円柱部が材質等で限定されるものではない。
 そして、前記1(2)に照らせば、本件発明の先端部を『楕円形』にした技術的意義は、『かえし』がないために矢が抜きやすいこと、上下方向の重心が均等であり、また、従来技術の釘形状の先端部と比べて錘として重くなり、矢全体の長手方向の重心を前寄りに寄せることにあるといえる
(3) 被告製品のピンの先端部は、『長手方向断面が、前部が曲率の緩い曲線形状、後部が略円錐形となるように円弧を描き、後部の円柱部との接合面が上下に角を有し、前記後部の角と角とを直線で結んだ形状』(構成b)である。
 このうち円柱部との接合面の『角』は、被告製品のピンの先端部の根元側の径(1.6mm)と円柱部の径(1.45mm)との差(0.15mm)によって生じている極めて僅かな段差部分である(甲7の2、乙1)。その段差の小ささからも、被告製品を的や前の矢から引き抜く際に上記段差部分が抵抗になることはないと認められる。したがって、被告製品には、『かえし』があるとはいえない。なお、実際の被告製品では、吹矢として使用するためにピンの円柱部にフィルム(ポリプロピレン製、厚さ:約0.04mm)が複数回巻きつけられており、それによってピンの先端部の根元側の径(1.6mm)よりもフィルムを巻きつけた部分の方が大径(2.1mm)になっていて、該段差部分はフィルムにより全面的に隠れている(甲11)。
 また、被告製品では、前記被告製品の先端部との円柱部との接合面が直線で結んだ形状とされている(構成b)のであるが、本件発明についても、前記(2)のとおり、円柱部が楕円型ヘッドの最も先端部側と接している部分まで伸びているとみると、その接合面は直線状であるということもできるのであり、本件発明で先端部と円柱部の材質等が異なることが定められているわけではないことにも照らし、この点において、本件発明の被告製品との間に差はないということが相当と解される。
 さらに、被告製品では、前部が曲率の緩い曲線形状、後部が略円錐形となるように円弧を描いている。しかし、楕円形については、幾何学的意味での楕円の形のほか、それに近い形も含むものであり、水滴と似た形状など、長手方向の端が同じ曲率ではない形状も楕円形と呼ばれることもある(前記ア)。そして、本件明細書によっても、本件発明の『楕円形』は幾何学的意味での楕円に近い形を含む。また、本件明細書によれば、本件発明の先端部は『楕円形』とすることで、『かえし』がなくなるほか、上下方向の重心が均等であり、従来技術の釘形状の先端部と比べて錘として重くなり、矢全体の長手方向の重心を前寄りに寄せるという技術的意義を有するところ、構成bを有する被告製品の先端部も同じ効果を奏するものであり、被告製品の先端部は、本件発明においては、楕円に近い形であるとして『楕円形』(構成要件B、D)の先端部であるということが相当と解される
(4) 被告は、本件発明の先端部の『楕円形』について、〈1〉両端が同じ形状の丸みを備えており、〈2〉長手方向中央部に重心の位置があり、〈3〉中央部で縦に分割した場合、両分割片同士が同一の形状(線対称)を満たすものというと主張する。
 しかし、本件発明では『楕円形』の先端部だけが独立して存在するわけではなく、その後方には円柱部が伸びていて、先端部と円柱部が一定の範囲で接していること、本件発明における先端部を『楕円形』としたことの技術的意義に照らすと、上記(3)のとおり解することができ、被告が主張するように限定することには理由がない。被告の上記主張は採用できない。
(5) 小括
 以上によれば、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属する。」

【無効論】
ア 無効理由1(乙11発明 1に基づく進歩性欠如)(争点2-1)
イ 本件発明と乙11発明を対比すると、「吹矢に使用する矢であって、先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって、該円柱部の横断面の直径が前記先端部の横断面の直径よりも小さいピンと、円錐形に巻かれたフィルムであって、先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルムと、からなり、前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの先端部が錘として接続された矢」である点で一致し、本件発明では前記ピンの先端部の形状が「楕円形」であるのに対し、乙11発明ではピンの先端部は丸釘を用いているため、その形状が「半円形」となっている点で相違する(以下「相違点1」という。)。

キ 相違点1について、被告は、乙11吹矢の「半円形」に代えて、先端部の形状を乙6公報、乙7公報及び乙9公報に開示された「楕円形」を採用することにより、本件発明の構成に容易に想到できると主張する。
 本件発明は、従来技術として、乙11吹矢と同じ吹矢である、先端部に丸釘が差し込まれた形状になっている吹矢が知られていたところ、矢を的から外すときにピンとフィルムを一体で引き抜くことができるなどの課題を解決するため、ピンの先端部が楕円形であり、的から外すときに釘の頭部に「かえし」がないなどの本件発明の構成を有するものである。乙11吹矢において、本件発明の上記課題等についての示唆があったと認めることはできない。
 被告は、乙11吹矢は、従前の吹矢の矢は矢の先が尖ったものだったところ、矢の先を丸くして当たっても大丈夫なように開発したもの(乙14)であり、安全性を課題としていたことを挙げた上で、乙6公報、乙7公報及び乙9公報に開示された技術を適用することができると主張する。しかし、乙11吹矢の「半円形」の先端部(11b)は、矢の先が尖ったものではないから、安全性の課題は既に解決されている。したがって、乙11吹矢が安全性を課題としたものであったとしても、乙11吹矢に触れた当業者がその課題を更に解決するために乙6公報、乙7公報及び乙9公報の周知技術を組み合わせようとする動機付けはないといえる
 当業者が、乙11吹矢の「半円形」に代えて、先端部の形状を乙6公報、乙7公報及び乙9公報に開示された「楕円形」を採用することで、本件発明の構成に容易に想到できるとは認められない。

【損害額】
イ 被告は、令和元年12月1日以降、原告が原告の製造する吹矢用具を吹矢協会の公認用具として販売することができなくなり、また、原告が同日より前に販売した吹矢用具も令和3年10月1日以降の吹矢協会の公式行事において使用することができなくなったから、令和元年12月1日以降の売上げについては少なくとも90%の推定覆滅がされるべきであると主張する。
(ア) 上記(1)イのとおり、スポーツ吹矢は、スポーツ競技というだけでなく、心身の健康を目的としたものでもある。健康を目的とした需要者の場合、競技団体の公認があるか否かは商品選択の基準にはならないが、吹矢に関する団体の状況に照らすと、吹矢の矢の需要者には、吹矢に関する団体に属して、その団体の構成員同士で吹矢を楽しみ、また、その団体における段級位の認定を目指したり、団体等が主催する大会への出場やそこでの好成績を目指したりする者も多いと認められる。そして、吹矢に関する団体には公認用具を販売していることが多いところ、そのような者は、所属する団体が公認用具を販売している場合、通常はその団体の公認用具を購入するといえる
(イ) 吹矢協会では、上記(1)ウ、ク、スのとおり、遅くとも平成22年頃から平成30年11月30日までは、原告に吹矢協会の公認用具の独占販売権が認められ、吹矢協会の会員に対して原告が製造した吹矢の矢等の用具が販売され、また、大会や段位認定試験等でも、原告が製造した用具が使用されていた。同年12月1日以降は、被告が吹矢協会の公認企業となったが、原告も前記(1)カのとおり、その製造する用具を吹矢協会の公認用具として販売することが認められ、原告と被告の販売する用具の他に吹矢協会が公認している用具はなかった。
 吹矢協会の公認用具についてはこのような状況であったところ、令和元年9月の理事会を経て、吹矢協会は、同年12月1日以降に購入された原告の商品が吹矢協会の公認用具として認められなくなること、それより前に購入した原告の吹矢用具も令和3年10月1日以降は公式行事では使用できないことを決定し、令和2年12月1日までには、このことが吹矢協会の会員等に周知されたと認められる。他方、被告の製造販売する用具は吹矢協会の公認用具であった。
 吹矢協会に所属して吹矢を楽しむ者は、用具を購入する場合には所属する吹矢協会が公認用具としている用具を購入することが多いと考えられる。また、吹矢協会の年会費は大人1名につき3000円であり(甲25)、その年会費の支払に見合う活動として、協会主催の大会や競技会に出場したり段級位認定試験を受験したりすることを予定する者も多いと認められる。これらのことに、吹矢協会の前記の決定内容等を考慮すると、吹矢協会の会員が令和2年12月1日以降に被告製品を購入する場合には、吹矢協会が公認しているものであることを理由とすることが非常に多かったと認められる。被告製品を購入したのがこのような理由である場合には、原告の製品は吹矢協会の公認を受けていないのであるから、被告製品の需要の全てが原告の製品に向かうとはいえない。
 他方で、上記(1)ア、オのとおり、原告は吹矢協会を設立した創始者と関係が深く、原告と吹矢協会の会員との間には長年にわたる信頼関係があったと考えられる。吹矢協会の理事会においても、上記(1)シのとおり、公式行事で原告の吹矢の使用を認めない方針について、「すこしでも反感を緩やかにしたい。幹部会議できまった。使う側が問題ないよう猶予を持たせる。」、「買うのはだめとは言えない。公認用具として認めないという表現になる。公式行事では使えない。ある程度買う人はいる。徐々に本当の公認用具にしていく。」などとの発言がされていた。これらは、原告に対する信頼などから、吹矢協会の会員の中に原告の吹矢用具を引き続き使用したいという意見も存在していることをうかがわせる。そのような事情も考慮すると、令和元年11月末日までに購入した原告の吹矢用具は、令和3年9月30日まで吹矢協会の公式行事で使用することができるのであるから、吹矢協会に所属する需要者において、公式行事の練習用等として原告の吹矢の矢を引き続き購入する可能性があったと認められる。上記(1)シのとおり、吹矢協会の理事会においても、原告の吹矢用具について「練習で使ってください。大会・試験ではできないということ。」との発言があり、これは原告の吹矢が今後も練習用として使用される可能性を示唆するものといえる。さらに、吹矢協会が令和元年9月13日付けで送付した「契約不成立のお知らせ」と題する文書では、原告の吹矢用具の使用が禁止される「公式行事」の範囲も明らかではない。上記(1)シの吹矢協会の理事会での議論を見ても、使用が禁止される範囲については様々な意見があり、吹矢協会が後援する大会などで原告の吹矢用具を使用することが可能であるか否かは、解釈や今後の規約改正に委ねられる部分があることがうかがわれる。吹矢協会に所属する需要者において、公式行事に該当しない一部の大会では令和3年10月以降も原告の吹矢用具を使用することができることを期待して、原告の吹矢の矢を購入する可能性も否定できない
(ウ) 被告製品をどのような者が購入していたかについて検討すると、前記(1)イのとおり、スポーツ吹矢は、スポーツ競技というだけでなく、心身の健康をも目的としたものでもあり、健康を目的とした需要者の場合、競技団体の公認の有無は必ずしも商品選択の基準にはならないともいえる。
 もっとも、被告は、上記(1)キ、シのとおり、平成30年9月頃に吹矢協会の依頼に応じる形で、吹矢用具の製造、販売を受諾して、その製造販売を開始した。そして、平成31年1月に被告製品の販売を開始して同月から一定額の売上げがある一方(乙42)、令和元年9月頃に至っても吹矢協会の公認用具についてのカタログや商品ラインアップが不十分な状態であり、理事会においても商品供給が不安視されていた。また、吹矢の矢の製造等を長年行っていた原告においてすら、専ら健康を目的とした需要者に対する販売数量やその額は大きいとはいえない。これらを踏まえると、吹矢協会と関係のない需要者に対する被告製品の訴求力は相当に小さいというべきであり、被告製品は基本的には吹矢協会の関係者が購入しており、吹矢協会と関係がない需要者が多数ある競合品(吹矢の矢)の中からあえて被告製品を購入していた割合は極めて小さいと推認することができる。
(エ) 以上によれば、被告製品は、そのほとんどが吹矢協会と関係がある需要者により購入されたと認めることが相当である。そして、被告製品は、吹矢協会の関係者において吹矢協会の公認用具であることを理由として購入された割合が相当に高いと認められる。原告の製造販売する吹矢用具は令和2年12月1日以降は吹矢協会の公認用具でなかったから上記の理由で購入された被告製品の需要の全てが原告の製造販売する吹矢の矢に向かうとは認められない。他方、原告の製造する吹矢の矢については、吹矢協会の公認がなくとも購入するとする者もいたことがうかがわれ、被告製品の需要が全く原告の製造販売する吹矢用具に向かわないとはいえない
 被告は、原告の吹矢用具が吹矢協会の公認用具でないことを理由として令和2年12月1日以降の被告の売上げについての推定覆滅を主張するところ、上記事情に照らせば、同日以降の利益については、65%の割合で損害額の推定が覆滅すると認めるのが相当である。

オ 小括
 上記のとおり、被告が主張する推定覆滅事由は、上記イについて認められる。上記(3)の原告の損害額の推定は、これによって、令和元年12月分から令和2年6月分の利益につき、65%覆滅されると認めるのが相当である。
 


1「原告作成の吹矢のカタログ:2008.7スポーツ吹矢カタログ 社団法人日本スポーツ吹矢協会公認用具」


解説/検討

 被告製品では「楕円形」とはなっていないことから、「本件発明の先端部を『楕円形』にした技術的意義は、『かえし』がないために矢が抜きやすいこと、上下方向の重心が均等であり、また、従来技術の釘形状の先端部と比べて錘として重くなり、矢全体の長手方向の重心を前寄りに寄せることにあるといえる」というようなことを理由として、均等論の適用を行っているかのような認定で、「楕円形」という文言侵害を認めた点では、当時、注目に値する判断であったが、高裁では「楕円形」(構成要件B,D)について「被告製品は本件発明の構成要件B及びDを充足しないから,文言侵害は成立せず,第1要件及び第3要件を充足しないから均等侵害も成立しないと判断する」と判断され、原判決が覆されている。  

 

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