【新たに見出された作用機序に基づき相違点が認定され新規性が肯定された事例】
投稿日:2026年8月28日 |
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著者:弁理士 大木 信人
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参照条文/キーワード/論点 |
新規性/先願発明に内在していた効果/出願後の実験データの参酌 |
ポイント
※本件は、特許無効審判において特許を有効とした審決の取消訴訟である。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第2部 |
| 判決言渡日 | 令和2年12月14日 |
| 事件番号 | 令和元年(行ケ)第10076号 |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
森 義之
眞鍋 美穂子 熊谷 大輔 |
事案の概要
1.事実関係
(1)被告は,発明の名称を「炎症性疾患および自己免疫疾患の処置の組成物および方法」とする発明に係る特許権(特許第5766124号)の特許権者である。本件特許に係る出願(以下,「本件特許出願」という。)は,平成22年1月20日に,パリ条約による優先権主張(2009年〔平成21年〕1月21日米国。以下,同日を「本件優先日」といい,優先権主張の基礎とされた出願〔甲11〕を「本件基礎出願」という。)を伴って出願されたもので,本件特許権は,平成27年6月26日に設定登録された。
(2)被告は,平成28年7月26日付けで,訂正請求をし,特許庁は,本件特許の請求項1~19について訂正を認めた(甲14。以下,訂正後の請求項1~19に係る発明を,それぞれ「本件発明1」~「本件発明19」といい,併せて,「本件発明」という。また,本件特許の明細書及び図面を「本件明細書」という。)。
(3)原告は,平成29年12月20日,特許庁に対し,本件発明について,特許を無効とすることを求めて審判(以下,「本件審判」という。)の請求をした。
(4)特許庁は,上記請求を無効2017-800154号事件として審理した上,平成31年1月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下,「本件審決」という。)をし,その謄本は同月31日,原告に送達された。
2.訂正後の本件特許の特許請求の範囲等(請求項1のみ抜粋)
【請求項1】(本件発明1)
被験体において炎症性疾患,障害または状態を処置する方法において使用するための組成物であって,該組成物は,IL-2改変体を含み,該IL-2改変体は,
(a)配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸の配列を含み,
(b)FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激し,
(c)配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しており,および
(d)(ⅰ)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2Rβ親和性を有するか,(ⅱ)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い,IL-2Rα親和性を有し,かつ,配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2Rβ親和性を有するか,(ⅲ)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有するか,または,(ⅳ)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い,IL-2Rα親和性を有し,かつ,配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有し,
該炎症性疾患,障害または状態は,自己免疫疾患,器官移植片拒絶,または,移植片対宿主病である,組成物。
(本件発明について)
本件発明は,炎症誘発性となり得る非調節性T細胞(FOXP3-T細胞,T-eff細胞)の成長/生存よりも,自己免疫性炎症を抑制するのに不可欠である調節性T細胞(FOXP3+T細胞,T-reg細胞)の成長/生存を優先的に促進するように改変され,免疫抑制作用物質として作用するIL-2改変体に関するものであり,本件発明には,このような改変体を含む,自己免疫疾患,器官移植片拒絶,又は,移植片対宿主病を処置する方法で使用するための組成物の発明が記載されている。
本件発明のIL-2改変体(構成(a))は,①IL-2Rαに対する親和性が上昇する変異,②シグナル伝達サブユニットであるIL-2Rβおよび/またはIL-2Rγに対する親和性が低下する変異の組合せ(構成(d))を通して機能するものであり,
これらの変異によって,調節性T細胞(FOXP3+T細胞,T-reg細胞)では,STAT5リン酸化および/またはIL-2Rの下流のシグナル伝達分子のリン酸化を刺激する能力が保持されるものの(構成(b)),非調節性T細胞(FOXP3-T細胞,T-eff細胞)では,STAT5リン酸化および/またはIL-2Rの下流のシグナル伝達分子のリン酸化が低下または欠如し(構成(c)),調節性T細胞(FOXP3+T細胞,T-reg細胞)の生存,増殖,活性化が優先的に促進される。
争点
本件では、優先権主張の有効性、新規性欠如、29条の2違反、進歩性欠如、実施可能要件違反、サポート要件違反について争われているが、以下、29条の2違反について記載する。
争点に関する当事者の主張
(原告の主張する審決取消事由)
(2) 先願発明2に基づく新規性欠如
ア 本件審決は,本件発明1の本件発明特定事項(c)と先願発明2について,相違点4~6を認定し,①CD8陽性細胞においてFOXP3が低レベルで発現していることからすると,先願発明2における「CD8陽性細胞傷害性T細胞」が,本件発明1における「FOXP3陰性T細胞」に相当するとはいえないこと,②本件発明1は,「FOXP3陰性T細胞」に含まれるCD4+細胞とCD8+細胞の両方において,「STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」しているものであるが,甲1明細書には,CD4+細胞におけるSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることの記載がないことから,相違点5は実質的な相違点であるとした。
イ 上記①について
本件特許の請求項に記載された「FOXP3陰性T細胞」とは「FOXP3を発現していない細胞」という意味であり,「調節性T細胞以外の細胞」を意味する。甲1の「CD8陽性細胞傷害性T細胞」は,細胞傷害性T細胞(細菌等を攻撃する免疫応答を担う細胞)であり,免疫を抑制する役割を担う調節性T細胞ではない。甲1では,「CD8陽性」と,細胞マーカーを用いた特定も重ねてされているが,甲6の図1及び甲7の図1Bの説明や,本件明細書の段落【0013】の【図2A】によると,FOXP3+CD8+T細胞は典型的に極めてまれであり,CD8+T細胞の大半はFOXP3陰性である。そして,CD8陽性T細胞に,低レベルのFOXP3陽性T細胞の発現があるとしても,含まれているFOXP3陽性T細胞は無視できるほどごくわずか(甲6では0.15%,甲7では0.22%)である。このわずかな割合のFOX3陽性T細胞は,甲1で示されたCD8陽性T細胞における増殖の低下の文脈において,実質的な同一性を失わせるものではない。したがって,先願発明2の「CD8陽性傷害性T細胞」は本件発明1の「FOXP3陰性T細胞」と実質的に同一と評価できる。
また,甲1に記載されている「CD8陽性細胞傷害性T細胞」とは,非傷害性T細胞である「CD8陽性調節性T細胞」(CD8陽性FOXP3陽性T細胞)を含まない概念であるから,「CD8陽性細胞傷害性T細胞」はFOXP3陰性T細胞のみからなる概念と考えることもできる。
以上によると,先願発明2の「CD8陽性細胞傷害性T細胞」は本件発明1の「FOXP3陰性細胞」といえる。
ウ 上記②について
甲34(Andreas Weishaupt 他「The T cell-selective IL-2 mutant AIC284
mediates protection in a rat model of Multiple Sclerosis 」Journal of Neuroimmunology 282,p63-72,2015年)の図1C及び図2A(右端の血液における結果)では,野生型IL-2(Proleukin)よりもIL-2改変体「hIL-2-N88R」(AIC284)の方が,CD4陽性FOXP3陰性細胞(CD4+FOXP3-細胞)の増殖に対する活性が低下していることが示されており,この結果は,本件明細書の実施例の【図2C】の結果と同様である。このことは,IL-2改変体「hIL-2-N88R」が,本件明細書の実施例で用いられたIL-2改変体haD等と同様の活性を有することを示している。また,甲1のIL-2改変体「hIL-2-N88R」について,本件明細書の実施例3と同一の実験条件で実験を行ったところ,甲1発明に係るhIL-2-N88Rは,CD4+FOXP3陰性T細胞においても,本件発明と同様の効果を奏することが確認されている(甲39〔令和元年11月28日付け実験成績証明書〕)。
したがって,先願発明2は,CD8陽性細胞傷害性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力を低下させるのみならず,CD4陽性FOXP3陰性T細胞においてもSTAT5のリン酸化を誘発する能力を低下させるものである。
なお,甲34は本件特許出願後の文献であり,少なくとも本件基礎出願,本件特許出願時には,先願発明2のCD4+細胞での効果は確認されていなかったといえるが,CD4+細胞での効果は,あくまで先願発明2に内在していた効果にすぎないところ,それによって新たな用途が見出されたわけではないから,このようなCD4+細胞での効果を理由に,公知の用途発明である本件発明1に新規性を認めることはできない。被告は,甲34はラット細胞で活性を測定しており,甲1はヒト細胞で測定しているので,甲34の結果が甲1のヒト細胞でももたらされるか否か不明であると反論するが,そもそも本件発明は,特定の生物種に限定された発明ではないため,甲1の改変体がラット細胞で本件発明の活性を示すというだけで十分である。本件明細書も,生物種によって効果が異なるという説明はしていないから,甲34で確認された活性は,当然ながらヒト細胞でも奏されるものと考えられる。
このように,先願発明2(IL-2改変体「hIL-2-N88R」)は,CD4+細胞でもSTAT5のリン酸化誘発能力を低下させる効力があること,CD4+細胞でのこの効力は,先願発明2に新たな用途をもたらすものではないこと等からすると,前記②は実質的な相違点ではない。
エ 本件審決は,相違点6を実質的な相違点としているが,後記(3)アのとおり,相違点6も実質的な相違点ではない。
オ したがって,先願発明2と本件発明は実質的に同一である。
原審(原々審)の判断
(本件審決の理由の要旨)
① 甲1発明の特定の改変体について
甲1明細書には,次の発明が記載されていると認められる。
「被験体において自己免疫疾患を治療する方法において使用するための組成物であって,該組成物はIL-2改変体を含み,
該IL-2改変体は,
hIL-2-N88Rであり,
CD4+CD25+FOXP3+及びCD4+CD25-FOXP3+などの制御性T細胞の形成を誘導し,
CD8陽性細胞傷害性T細胞の増殖に対してほとんど又は全く影響を及ぼさない,
組成物。」(以下,「先願発明2」という。)
② 対比
本件発明1と先願発明2は,「医薬組成物であって,該組成物は,IL-2改変体を含み,該IL-2改変体は,(a)配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸の配列を含むものである組成物。」である点で一致し,少なくとも以下の点で相違する。
<相違点4>
本件発明1は,IL-2改変体は,FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5のリン酸化を刺激するものであるのに対し,先願発明2は,CD4+CD25+FOXP3+およびCD4+CD25-FOXP3+などの制御性T細胞の形成を誘導するものである点。
<相違点5>
本件発明1は,IL-2改変体は,配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているものであるのに対し,先願発明2は,CD8陽性細胞傷害性T細胞の増殖に対してほとんど又は全く影響を及ぼさないものである点。
<相違点6>
本件発明1は,IL-2改変体におけるIL-2Rに対する親和性が(d)(ⅰ)~(ⅳ)として特定されているのに対し,先願発明2にはそのような特定はない点。
③ 判断
ⓐ 相違点4について
前記a(相違点1について)で述べたとおり,相違点4は実質的な相違点ではない。
ⓑ 相違点5について
『甲4に示された技術常識を考慮すると,「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」の増殖が促進されなかったことは,「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることを意味する。
そして,甲6及び7は,CD8+FOXP3+T細胞が存在することを開示するものであること,甲15(Jason D. Fontenot 他「Regulatory T Cell Lineage Specification by the Forkhead Transcription Factor Foxp3」ImmunityVol.22,p239-341,2005年。本件審判の乙2)には,CD8陽性細胞においてFOXP3は低レベルで発現していることが記載されていることを踏まえると,「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」は,必ずしも「FOXP3陰性T細胞」に相当するとはいえない。
したがって,甲1明細書には,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているIL-2改変体が記載されているとはいえない。
仮に,先願発明1における「CD8陽性細胞傷害性T細胞」が本件発明1の「FOXP3陰性T細胞」に相当するとしたとしても,本件明細書の段落【0003】の,FOXP3陰性T細胞には,CD4+細胞とCD8+細胞があり,これらの両方は,炎症誘発性となり得るものである旨の記載を考慮すると,本件発明1の組成物を規定する用途に使用するためには,「FOXP3陰性T細胞」に含まれるCD4+細胞とCD8+細胞の両方において,「STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」している必要があるものといえる。
一方,先願発明1において,「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」については,STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているとしても,それ以外の「FOXP3陰性T細胞」(例えば,CD4+細胞)におけるSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることは,甲1明細書には記載されていない。
そして,本件明細書の段落【0003】にも示されるように,CD4+細胞も炎症誘発性になり得るものであるから,「FOXP3陰性T細胞」全体のうち,一部である「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることをもって,本件発明1の「FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」していることに相当するとはいえない。』
(中略)この相違点は実質的な相違点である。
ⓒ 相違点6について
甲5の表1における「IL-2Rβ」の行における結合解離定数であるKd値をみると,hIL-2-N88Rは野生型よりもKd値が大きいことが読み取れる。Kd値は,大きいほど親和性が低下していることを意味するから,hIL-2-N88Rは野生型よりもβ親和性が低下しているものである。
そうすると,先願発明2のIL-2改変体は,本件発明1の本件発明特定事項(d)(ⅰ)の野生型,すなわち,配列番号1として記載されるポリペプチドよりも「低下したIL-2Rβ親和性を有する」ことに該当する。
ⓓ 以上のとおり,本件発明1は先願発明2と少なくとも相違点5で相違するから,本件発明1は先願発明2と同一であるとはいえない。
判旨
(イ) 先願発明2と本件発明1に係る相違点5について
a 本件明細書の段落【0013】には,【図2A】の説明として,FOXP3+CD8+T細胞は,典型的に,非常にまれであると記載されており,甲6の図1及びその説明や甲7の図1及びその説明も同旨のものである。また,甲15には,CD8+T細胞において,FOXP3は低レベルで発現していることが記載されている。
b 本件明細書には,FOXP3-T細胞(T-eff)には,FOXP3-CD4+細胞とFOXP3-CD8+T細胞が含まれることが記載されている(段落【0003】)から,本件発明特定事項(b)の構成を満たすIL-2改変体というためには,野生型のIL-2と比べて,FOXP3陰性T細胞に含まれるCD4+細胞とCD8+細胞の両方において,「STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」していることが必要であると認められる。
前記1(4)のとおり,CD8とFOXP3は,異なる観点でT細胞を分類するマーカーであり,構造上も異なるものといえるから,CD8+T細胞の中でFOXP3+が出現することは典型的に非常にまれであるとしても,「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」が,必ずしも「FOXP3陰性T細胞」に相当するとはいえない。
また,甲1には,FOXP3-CD4+細胞の増殖に関する記載は存在しないから,甲1の記載に接した当業者が,CD8陽性の細胞傷害性T細胞の結果に基づいて,先願発明2の「hIL-2-N88R」が,FOXP3-CD4+細胞の増殖についても,野生型のIL-2と比べて,「STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」していること,すなわち,「T細胞の増殖が低下していること」(甲4)を認識するとは認められない。
c これについて,原告は,CD8陽性T細胞に,低レベルのFOXP3陽性T細胞の発現があるとしても,含まれているFOXP3陽性T細胞は無視できるほどごくわずか(甲6では0.15%,甲7では0.22%)であるため,わずかな割合のFOX3陽性T細胞は,甲1で示されたCD8陽性T細胞における増殖の低下の文脈において,実質的な同一性を失わせるものではないと主張するが,上記bの判示に照らし,原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,甲34及び39によると,「hIL-2-N88R」が,CD4陽性FOXP3陰性T細胞においても,STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していること(CD4陽性FOXP3陰性T細胞の増殖に対する活性が低下していること)を確認することができるため,CD4+細胞での効果は,先願発明2に内在していた効果にすぎず,それによって新たな用途が見いだされたわけではないから,
このようなCD4+細胞での効果を理由に,公知の用途発明である本件発明1に新規性を認めることはできないと主張する。
しかし,甲34及び39の上記の記載は,本件特許の出願日より後に行われた実験によるものであり,本件特許の出願日より前に,先願発明2の「hIL-2-N88R」が,CD4陽性FOXP3陰性T細胞についても,STAT5のリン酸化を誘発する能力を低下させる作用を有することが知られていたことについての証拠はないから,本件発明1の新規性が失われることはない。なお,原告は,本件発明は用途発明であると主張するが,本件発明は新規な組成物の発明であるから,公知の組成物について用途のみを発明したものではない。
したがって,先願発明2の「CD8陽性傷害性T細胞」は,実質的に見ても,本件発明1の「FOXP3陰性T細胞」と同一であると評価することはできないから,相違点5は,実質的な相違点であると認められる。また,先願発明1と本件発明1の相違点2は,先願発明2と本件発明1の相違点5と同じであるから,相違点2も実質的な相違点であると認められる。
(ウ) 以上によると,本件発明1は,甲1発明と同一のものとは認められない。
解説/検討
本件発明は、新たに見出されたIL-2改変体が有する作用機序に基づき相違点が認定され、新規性が肯定されている。しかしながら、当該作用機序は先願発明のIL-2改変体にも内在していた特性と解される。したがって、本件発明は構成及び用途のいずれの観点からも、先願発明と実質的に同一であると評価され得る。本判決によれば、出願時には未解明であった作用機序を特定することにより、公知物質であっても権利化が可能となる余地があり、特許権の存続期間の戦略的延伸を検討する上で示唆的である。
他方、このような判断が一般化すれば、同一の物質について複数の特許権が併存し得ることとなり、実務上の混乱は避けがたい。特に本判決は、『本件発明は新規な組成物の発明であるから、公知の組成物について用途のみを発明したものではない。』とされ、見出された作用機序に基づく用途限定も付されていないため、先願発明との実質的区別は必ずしも明確とはいえない。
さらに本判決は、原告提出の出願後実験データについて、出願日前に当該作用が公知であったことを示す証拠はないとして新規性喪失を否定し、当該データについて十分な検討はなされていない。「物」としての同一性判断において、この種の実験データは積極的に評価されるべきであると思料される。
