【間接侵害】

 

投稿日:2026年8月24日

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著者:弁護士 山口 裕司
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

間接侵害

ポイント

※本件発明において、特許法101条2号の「その物」は、本件発明に係る「分割起点形成装置」を意味するのであって、SDBGプロセス実行システムBが上記の「その物」に当たる余地はないと判断した。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和2年9月9日
事件番号 令和2年(ネ)第10002号
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
森 義之
佐野 信
中島 朋宏
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 控訴人は、発明の名称を「分割起点形成方法及び分割起点形成装置」とする特許権(本件特許)の特許権者であり、被控訴人は、原判決別紙被控訴人製品目録記載の各レーザエンジン(被控訴人各製品)を製造、販売する者である。
 被控訴人各製品の少なくとも一部は、株式会社ディスコ(訴外会社)に販売され、レーザダイシング装置であるステルスダイシング(Stealth Dicing)レーザソー(以下「SDレーザソー」という。)に搭載された上で、ウェーハにレーザ光を照射してステルスダイシングを行った後に研削をする(Stealth Dicing Before Grinding)工程(以下「SDBGプロセス」という。)を実行するための、SDレーザソー、研削装置その他SDBGプロセスの実行に必要な全ての装置(ただし、エキスパンド装置を除く。)から成るシステム(以下「SDBGプロセス実行システムB」という。)の構成要素として用いられている。
 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、SDBGプロセス実行システムBは本件発明の技術的範囲に属し、被控訴人各製品の製造、販売等は本件特許に係る特許権に対する特許法101条2号に定める間接侵害に当たると主張して、上記特許権に基づき、被控訴人各製品の製造、販売等の差止め(同法100条1項)を求めるとともに、当該侵害行為を組成する物としての被控訴人各製品の廃棄(同条2項)を求める事案である。
 原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したことから、控訴人は、控訴を提起し、当審において、特許法101条1号に定める間接侵害に係る主張を追加した。

争点

間接侵害の成否

原審の判断

 本件特許請求の範囲の記載をみると、本件発明に係る「物」である「分割起点形成装置」(構成要件A、D)は、「内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを分割するための」装置であるものであって、上記の「形成した」という記載文言からすれば、既にその内部にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを加工対象物として、その割断のための分割の起点を形成する装置であることが明らかである。
・・・これらによれば、本件発明は、その内部に既にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを対象として所定の加工等を行うに当たり、クラックの進展の程度を制御しようとする技術思想のものであることが認められる。
 そうすると・・・、本件発明に係る分割起点形成装置に対しては、その加工対象物を提供するという位置付けを有するものにとどまるというべきであるから、このような被告各製品をもって、同分割起点形成装置の生産に用いる物ということはできないというほかない。
 したがって、被告各製品は、本件発明に係る「物」の「生産に用いる物」に当たるということはできない。

判旨

(1) 特許法101条2号の「その物の生産に用いる物」該当性について ア 訂正の上で引用した原判決の第3の1(2)アで説示したとおり、本件発明において、特許法101条2号の「その物」は、本件発明に係る「分割起点形成装置」を意味するのであって、SDBGプロセス実行システムBが上記の「その物」に当たる余地はない。 イ 控訴人は、〈1〉本件明細書の段落【0162】~【0202】及び図15においては七つの工程が記載されているところ、レーザによる改質層の形成(2番目の工程)及び改質層の研削除去(3番目の工程)によって、分割するための起点である改質領域から延びる微小亀裂が形成されていること、〈2〉構成要件Aの「内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを分割するための分割起点形成装置」という表現からは、「分割起点形成装置」が分割に用いられる装置であること及び当該分割とは内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハの分割であることしか読み取れないこと、〈3〉本件発明は、クラックの進展の程度を制御しようとする技術思想のものであるところ、チップ断面の改質領域の部分からのチップの破断等を防ぐという課題からは、本件発明が、改質領域が形成されたウェーハを対象とするとは断定できないこと、〈4〉本件明細書には、既に改質領域が形成されたウェーハを入手すればよい、改質領域はどのように形成されても構わないといった表現はどこにも記載も示唆もされておらず、特に本件明細書の段落【0167】では、チップの厚さと改質領域を形成する位置について言及がされていることを理由に、本件発明においては、適切な位置、形状等で改質領域を形成することも、必須のものと考えられているのであり、本件発明における分割起点形成装置にはレーザ照射装置が含まれるなどと主張する。  しかし、本件明細書の記載が研削除去工程だけでなくレーザ改質工程についても触れたものとなっており、本件明細書の段落【0167】では、チップの厚さと改質領域を形成する位置について言及がされているとしても、本件特許請求の範囲の記載からすると、本件発明がレーザ改質工程を含むものといえないことは、訂正の上で引用した原判決の第3の1(3)アで説示したとおりである。また、構成要件Aの文言や本件発明の課題等からすると、本件発明が、既にその内部にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを加工対象物として、その割断のための分割の起点を形成する装置であることは、訂正の上で引用した原判決の第3の1(2)アで判示したとおりであり、このような解釈が日本語の通常の語法に反するということはできない。


解説/検討

 被告製品(SDレーザソー)が搭載された、ウェーハにレーザ光を照射してステルスダイシングを行った後に研削をする工程SDBG(Stealth Dicing Before Grinding)プロセスを実行するために必要な全ての装置からなるシステムが特許発明の技術的範囲に属し、被告製品の製造等は間接侵害に当たると原告は主張していた。
 本件の原告は被告を、関連事件で、特許第6276437号「抗折強度の高い薄型チップの形成方法及び形成システム」に基づいても差止請求訴訟を提起しているが、東京地裁(民事第29部)令和2年2月26日判決は、「SDレーザソーに搭載される被告各製品は、あくまでウェーハの内部にレーザ光で改質領域を形成するための装置であって、前記イの本件発明の特徴的技術手段の構成を直接実現する装置ではない。そうすると、被告各製品は、本件発明による課題の解決に不可欠なものに該当するとはいえない。」と述べて、間接侵害(特許法100条2号)の成立を否定している。
 本判決では、原告の主張に関して、「本件発明の特徴的技術手段を特徴付ける特有の構成に該当する」か否かが議論されているが、東京地判平成16年4月23日判決(プリント基板メッキ用治具)は、間接侵害の認定に当たり、以下のような判断枠組を示している。
 「同条2号及び4号における『発明による課題の解決に不可欠なもの』という客観的要件は、『~にのみ用いる』という専用品の要件を外したことにより、間接侵害規定が特許権の効力の不当な拡張とならないよう、間接侵害規定の対象物を『発明』という観点から見て重要な部品等に限定するために設けられたものと説明されている。したがって、この『発明による課題の解決に不可欠なもの』とは、特許請求の範囲に記載された発明の構成要素(発明特定事項)とは異なる概念であり、当該発明の構成要素以外の物であっても、物の生産や方法の使用に用いられる道具、原料なども含まれ得るが、他方、特許請求の範囲に記載された発明の構成要素であっても、その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものは、「発明による課題の解決に不可欠なもの」には当たらない。すなわち、それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決されるような部品、道具、原料等が「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するものというべきである。これを言い換えれば、従来技術の問題点を解決するための方法として、当該発明が新たに開示する、従来技術に見られない特徴的技術手段について、当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらす、特徴的な部材、原料、道具等が、これに該当するものと解するのが相当である。したがって、特許請求の範囲に記載された部材、成分等であっても、課題解決のために当該発明が新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たらないものは、「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するものではない。」

 

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