【引用文献の記載を一般化して周知技術を認定することを否定した事例】
投稿日:2026年9月11日 |
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著者:弁理士 野本 裕史
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参照条文/キーワード/論点 |
特許法29条2項/進歩性(相違点の判断) |
ポイント※引用発明との相違点である「テストヘッドをスライドレールにより整備空間側に引き出す構成」について、特許庁は、メンテナンス対象物を引き出すことは周知技術であり、当該構成は容易想到であると判断した。これに対し、裁判所は、引用文献等にはプローブカードを引き出す構成やテストヘッドを水平移動させる構成は記載されているものの、テストヘッドを引き出す構成は記載されていないとした。また、テストヘッドとプローブカードとは重量・大きさが異なることから、プローブカードに関する記載を、テストヘッドを含むメンテナンス対象物一般に一般化することはできず、相違点に係る構成は容易想到とはいえないと判断した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第1部 |
| 判決言渡日 | 令和2年8月4日 |
| 事件番号 | 令和元年(行ケ)第10124号 |
| 事件名 | 特許取消決定取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
髙部 眞規子
小林 康彦 髙橋 彩 |
事案の概要
副引用例には相違点に係る構成の記載はないとして、進歩性欠如による特許取消の決定が取り消された。
1.手続の経緯
2017年3月14日 本件特許出願(第1世代の分割出願)+審査請求
(2013年10月29日 親出願)
2018年1月9日 特許査定
2018年8月29日 異議申立
2019年4月16日 訂正請求
2019年8月28日 異議の決定(訂正認容、特許取消)
2.本件発明
【請求項1】ローダと整備空間との間に配置された複数の検査室であって,半導体デバイスが形成されたウエハの検査の際に用いられる被整備テストヘッドと,前記被整備テストヘッドを前記整備空間側に引き出すスライドレールと,を備えた複数の検査室と,/ウエハを搬送先の検査室内に搬送する前記ローダと,を備え,/前記被整備テストヘッドを引き出す整備空間側と前記ウエハを搬送するローダ側とが前記複数の検査室が配置されたセルタワーの反対側であることを特徴とするウエハ検査装置。
【請求項2】ローダと整備空間との間に配置された複数の検査室であって,半導体デバイスが形成されたウエハの検査の際に用いられる被整備テストヘッドと,前記被整備テストヘッドを前記整備空間側に引き出すスライドレールと,を備えた複数の検査室と,/ウエハを搬送先の検査室内に搬送する前記ローダと,を備え,/前記被整備テストヘッドを引き出す整備空間と前記ウエハを搬送するローダが前記複数の検査室が配置されたセルタワーを挟んで対向することを特徴とするウエハ検査装置。
[図1] [図2]
3.引用発明(甲1)


[図2] [図6]
172:収容室、200:テストヘッド、190:背面扉、300:プローブカード、192:メンテナンスカバー、193:ガイドレール
4.本件発明と引用発明との相違点
本件発明1は,「複数の検査室」が,「前記被整備テストヘッドを前記整備空間側に引き出すスライドレール」を備え,「被整備テストヘッド」を引き出すものであるのに対し,引用発明は,「複数の収容室172のそれぞれには,」「メンテナンスカバー192が設けられ,当該メンテナンスカバー192の外側には,前記プローブカード300を引き出した場合に当該プローブカード300を支持するガイドレール193が設けられ」,「プローブカード300」を引き出しているものの,「テストヘッド200」を引き出すものではなく,「テストヘッド200」を「整備空間側に引き出すスライドレール」も備えていない点。
5.副引用例(周知技術)
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・甲2 プローブ装置筺体10内から外に向かってガイドレール74、75を設け,プローブカード(不図示)を交換する際に,プローブカードをガイドレール74、75に沿って引き出す。 (ただし、テストヘッド3のメンテナンスについては、テストヘッド保持手段4によりプローブ装置本体1から分離して上昇させて別の場所に移動して行う。) |
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・乙1~3 テストヘッド5を搬送手段7によって水平方向に搬送して装置本体1の上方から退避させる。 (ただし、テストヘッド5は装置本体1の上方に配置されており、検査室に収容されてはいない。) |
争点に関する当事者の主張
・特許庁の主張
甲2文献によれば,メンテナンスの対象物を引き出してメンテナンスをすること,その際に,スライドレールにより引き出す構成とすることは周知技術である。このことは,乙1にテストヘッドをレールにより水平移動(引出)する構成とすること,乙2及び3に,テストヘッドをレールにより水平移動(引出)してメンテナンスすることが記載されていることからも裏付けられる。
テストヘッドを引き出した方が作業性に優れることは自明であるから,メンテナンスの対象物をスライドレールにより引き出してメンテナンスを行う方が,作業が容易であることを動機付けとして,引用発明において,テストヘッド200を収容室172から引き出し,その際にスライドレールにより引き出す構成を採用することは容易に想到できたといえる。
判旨
甲2文献及び乙1~3には,相違点1に係る構成(検査室が整備空間側にテストヘッドを引き出すスライドレールを備え,テストヘッドを引き出す構成)の記載はなく,本件証拠上,他に上記構成が記載された文献はない。そうすると,引用発明に甲2文献及び乙1~3に記載された事項を組み合わせても,本件発明の構成には到らない。
したがって,当業者において,引用発明に甲2文献及び乙1~3に記載された事項を組み合わせて,相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたということはできない。
被告は,甲2文献や乙1~3の記載によれば,メンテナンスの対象物を引き出してメンテナンスをすること,また,その際に,スライドレールにより引き出す構成とすることは周知技術であると主張する。
・・・引用例及び甲2文献には,プローブ装置において,メンテナンスの際に検査室からプローブカードを引き出すこと及びその際ガイドレールに沿って引き出す構成とすることの記載がある。しかし,本件原出願の当時,テストヘッドの重量は25kgから300kgを超えるものが知られ(本件明細書【0022】,甲5【0003】・【0043】,甲6【0014】,甲7,乙3【0005】),テストヘッドとプローブカードとは重量や大きさにおいて相違することは明らかである。したがって,プローブカードに関する上記記載から,テストヘッドを含むメンテナンスの対象物一般について,メンテナンスの対象物を引き出してメンテナンスをすること,また,その際に,スライドレールにより引き出す構成とすることが周知技術であったということはできない。
また,乙1~3には,検査室に収容されたテストヘッドの構成は開示されておらず,テストヘッドを引き出すものではないから,被告の主張する周知技術を裏付けるものではない。
以上によれば,被告の主張する各文献の記載から,メンテナンスの対象物を引き出してメンテナンスをすること,また,その際に,スライドレールにより引き出す構成とすることが周知技術であったということはできず,ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。
解説/検討
特許庁は、甲2記載の「プローブカードを引き出す」ことを「メンテナンスの対象物を引き出す」のように一般化して認定し、また、乙1~3記載の「テストヘッドを水平移動する」ことを「テストヘッドを水平移動(引出)する」のように不正確に認定しており、不適切であり、裁判所の判断は妥当であると思われる。
なお、引用発明を一般化して認定することについては、知財高裁平成24年1月31日判決(平成23年(行ケ)10121号)において、「主引用発明及び副引用発明の技術内容は,引用文献の記載を基礎として,客観的かつ具体的に認定・確定されるべきであって,引用文献に記載された技術内容を抽象化したり,一般化したり,上位概念化したりすることは,恣意的な判断を容れるおそれが生じるため,許されないものといえる。」と判示されている。
プローブカードに関する記載から、テストヘッドを含むメンテナンスの対象物一般に一般化することを否定する理由付けとして、テストヘッドとプローブカードとが重量や大きさにおいて相違することを指摘していることは、引用発明を一般化して認定されたことに反論を行う際に、参考になると思われる。
