【「略1/2」との数値限定について、発明の課題・効果等を考慮してその技術的範囲を画定した事例】
投稿日:2026年8月30日 |
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著者:弁護士 盛田 真智子
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参照条文/キーワード/論点 |
特許法第70条第1項・第2項/「略(ほぼ)」を含むクレーム文言の解釈/数値限定の技術的範囲/数値範囲外の要素が混在する場合の充足性 |
ポイント
※本判決は、特許請求の範囲における「略1/2」という数値に関する文言について、「略」の通常の意義に加え、発明の課題及び効果等を考慮し、第1の中間片の幅の2分の1との乖離が1割程度の範囲内にない場合には、「略1/2」に該当しないと判断した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 東京地方裁判所民事第40部 |
| 判決言渡日 | 令和2年1月17日 |
| 事件番号 | 平成29年(ワ)第28189号 |
| 事件名 | 特許権侵害差止等請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
佐藤 達文
三井 大有 今野 智紀 |
事案の概要
原告は、ウェットティッシュ等を製造、販売する株式会社である。被告は、ウェットティッシュ等を製造、販売する株式会社と、これらを販売する株式会社である。
原告は、被告らに対し、特許権侵害に基づく差止め等を請求した。「第1の中間片の略1/2の幅に形成された第2の中間片」という構成要件Cの充足性が問題となった。裁判所は、発明の課題及び効果等を考慮し、「1/2」との乖離の幅が1割程度の範囲内にない場合には「略1/2」に該当しないと解し、被告各製品について構成要件Cの充足を否定した。
1 対象特許 特許番号:第3877000号 (マーカー、下線付加)
(1)請求項1
A 折り畳まれた複数枚のシート状物が連続して取り出せるように積層されたシート状物の積層体において,
B 上記シート状物の各々は,所望とする積層体の幅寸法と略同じ長さに形成された第1の中間片と,
C 上記シート状物の一辺と平行な折れ線で積層方向下側に折られ,上記 第1の中間片の略1/2の幅に,上記第1の中間片に隣接して形成された第2の中間片と,
D 上記第2の中間片から積層方向下側に折り返され上記第2の中間片と略同じ幅に形成された第1の折片と,
E 上記第1の中間片から積層方向上側に折り返され上記第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整するとともに,上記第1の中間片の幅の1/2以下となる第2の折片とを有するように折り畳まれ,
F 積層される上記シート状物の偶数番目の上記シート状物と奇数番目の上 記シート状物とは,左右対称となるように折り畳まれた状態で積層され,
G 各偶数番目(奇数番目)の上記シート状物の上記第1の中間片及び上記第2の中間片によってできる谷部に,上記シート状物の次に積層される各奇数番目(偶数番目)の上記シート状物の上記第1の中間片及び上記第2の折片によってできる山部を重ね合わせることを特徴とするシート状物の積層体。

(2)背景技術と課題
「ウェットティッシュは、1枚のウェットティッシュの大きさが大きいものが望まれている。」【0004】
「しかしながら、大きさが従来より大きいサイズのウェットティッシュを使用し、従来からの折り畳み構造を有する積層体を製造すると、必然的に出来上がる積層体の幅は従来のものより大きくなり包装体の大きさを変更しなければならず、ウェットティッシュの積層体の製造装置の設計変更に加え、包装体の製造装置の設計変更もしなければならない。また、包装体の大きさを変更すると、製品出荷時に用いられる段ボール等の大きさも変更しなければならず、在庫スペースの変更も生じ、ウェットティッシュ1枚の大きさの変更で、規格変更をしなければならない箇所が多数でてくる。」【0005】
「また、特許文献1に示す取り出し構造では、出来上がった積層体は、・・・断面が略矩形状になっている。しかしながら、この積層体を内包した包装体を商品として陳列する場合に用いられる積み重ね陳列は、断面が略矩形状のため、一見して安定感があるようであるが、出来上がる商品は運搬時等の影響を受けて安定が悪いものとなることもあった。」【0007】
「そこで、本発明は、上述の問題点に鑑みて、包装体の大きさが従来と変わらない大きさでありながら、より大きなサイズのシート状物を積層できる構造を提供するとともに、包装体同士を積み重ねた際の安定感のあるシート状物の積層体を提供することを目的とする。」【0008】
(3)発明の効果
「従来の積層構造にはない第2の折片が設けられているので、その第2の折片の面積分だけ従来と比較して大きいサイズのシート状物であっても、従来と変わらないサイズの積層体を形成することができる。」【0011】
「第2の折片が設けられた大きさ分だけ、肉厚部分が形成され、積層体同士を重ね合わせた際の安定感を向上させることができる。」【0012】
→従来は二つ折りのシートの一方を中央付近でさらに外側に折り曲げたようなものを組み合わせて積層していた(下図)が、これだとより大きなシートに変更した場合に積層体全体が大きくなってしまう。本件発明は二つ折りのシートの他方をさらに長くし、これを外側に折り曲げることで、積層体全体のサイズを変えずに従来よりも大きなシートを収納できるようにしたものである。
従来の積層構造
争点
構成要件C「第1の中間片の略1/2の幅に形成された第2の中間片」の充足性(「略1/2」の解釈及び数値範囲外のシートが混在する場合の充足性)
争点に関する当事者の主張
(1)原告の主張 (下線付加)
「本件発明等は,・・・容易に伸縮する素材を用いることを前提とし,第2の中間片及び第1の折片の幅について,上記理由により目標値(被告ら主張の理想値)から誤差が生じた場合にも,第2の折片によりその誤差を吸収して,積層体が所望とする幅寸法になるように調整し,従来どおりの包装容器に収容することができることを目指すものであるから,本件発明等の構成においては,第1の中間片を所望とする積層体の幅寸法となるように調整することに主眼があるのであって,第2の中間片及び第1の折片の幅寸法が第1の中間片の幅の1/2であることに主眼があるのではない。」
「例えば,シート状物の幅が約200mm,所望とする積層体の幅寸法(第1の中間片の幅)を約100mmとすると,・・・「第2の折片の幅は,第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,第1の折片の幅より短い幅」であるという条件を満たしながら,第2の折片が調整できる範囲は,第2の中間片50~34mm,第1の折片50~34mm,第2の折片0~32mmとなるから,本件発明等の課題,解決手段及び効果に鑑みれば,かかる範囲内であれば「略」の許容範囲に含まれると解すべきである。」
「本件発明等における「略1/2」の語は,1/2を超える場合は含まないが,1/2より短いものは,前記・・・範囲で広く許容する意味と解釈すべきである。」
(2)被告の主張
「本件発明は,第2の折片が設けられていることにより,その面積分だけ従来と比較して大きいサイズのシート状物であっても,従来と変わらないサイズの積層体を形成することができるという作用効果を奏するものである。そして,本件明細書において従来の積層構造とされている【図4】の積層構造では,積層体の幅寸法の約2倍の幅のシート状物を積層することが可能であったから,本件発明は,シート状物の幅寸法が積層体の幅寸法の約2倍を超えた場合に初めてその作用効果を奏したものと評価できる。
【図4】
そうすると,①第2の中間片の幅が,第1の中間片の幅に1/2を乗じた値の90%を下回る場合又は同値の110%を上回る場合,②被告各製品が本件発明の作用効果を奏しない場合のいずれかに該当する場合には,そのような第2の中間片の幅の「略1/2」とは認められず,被告各製品は構成要件Cを充足しないと解すべきである。」
判旨
(1)「略(ほぼ)」の意義について
「 『略』(ほぼ)とは、一般に、数値との関係で用いられる場合は『おおかた、おおよそ』といった意味を有し、正確又は完全にその数値と一致しないとしても、その数値と同様ということができる程度に近似することを表す語であり、本件発明等における寸法に関する発明特定事項としての『略』という語も同様の意味を有するものと解するのが自然である。」
(2)「略1/2」の解釈について
裁判所は、背景技術、発明の課題及び効果等を踏まえ、以下のとおり判示した。
「上記記載によれば,本件発明等の課題は,①包装体の大きさを従来同様 に維持しつつ,より大きなサイズのシート状物を積層できる構造を提供すること,②包装体同士を積み重ねた際の安定感のあるシート状物の積層体を提供することにあり,本件発明等の効果は,③従来と比較して第2の折片の面積分だけ大きいサイズのシート状物によって,従来と変わらないサイズの積層体を形成することができ,また,第2の折片が設けられた大きさ分だけ肉厚部分が形成され,積層体同士を重ね合わせた際の安定感を向上することができるという効果を得られることにあると認められ,本件発明等においては,上記①の課題を解決して上記③の効果を得るために第2の折片を設けているが,本件発明等に係るシート状物のサイズを従来のものより大きくするためには,その前提として,第2の折片以外の部分を可能な限り大きくすることが必要となるものと解される。
すなわち,本件発明等の第1の中間片の幅は積層体の幅と略同じ長さと規定されているところ,第2の中間片及びこれと略同じ幅の第1の折片の長さを第1の中間片の幅の2分の1より小さくすると,第2の折片を設けたとしても,シート状物全体のサイズがその分だけ従来のものよりも小さくなってしまい,上記①の課題を解決して上記③の効果を得ることができなくなる一方,第2の中間片の幅を第1の中間片の2分の1よりも長くすると,第2の中間片同士が中央部で重なり合い,全体の嵩高状態が不安定なものになってしまい,上記②の課題解決に支障が生じることとなる。そうすると,本件発明等の上記課題①及び②を解決し,所期の効果を奏するには,第2の中間片の幅を,第1の中間片の1/2を超えない範囲でこれに限りなく近づけることが望ましいものと認められる。」
「前記のとおりの『略』という語の通常の意義及び構成要件Cにおいて 第2の中間片の幅寸法が規定されている技術的意義に照らすと,同構成要件にいう『略1/2』とは,正確に2分の1であることは要しないとしても,可能な限りこれに近似する数値とすることが想定されているものというべきであり,各種誤差,シート状物の伸縮性等を考慮しても,第1の中間片の2分の1との乖離の幅が1割程度の範囲内にない場合は『略1/2』に該当しないと解するのが相当である。」
「これに対し,原告は,本件発明等は,容易に伸縮する素材を用いることを前提とし,第2の中間片及び第1の折片の幅に誤差が生じた場合にも,第2の折片によりその誤差を吸収して,積層体が所望とする幅寸法になるように調整することに主眼があるのであって,本件発明等における『略1/2』の語は,1/2を超える場合は含まないが,1/2より短いものは広く許容する意味と解釈すべきであると主張する。
しかし,本件明細書等には,第2の中間片が第1の中間片の幅の1/2より小さい幅となったときに第2の折片がその誤差を吸収することにより積層体の幅寸法を維持することが本件発明等の課題である旨の記載は存在しない。むしろ,前記判示のとおり,本件明細書等には,積層体の幅を従来と同様とした上で,第2の折片を設けることにより「第2の折片の面積分だけ従来と比較して大きいサイズのシート状物」(段落【0011】)を形成することが本件発明等の課題である旨が記載されているのであって,その課題解決のためには,前記のとおり,第2の中間片の幅を,可能な限り第1の中間片の1/2を超えない範囲でこれに近づけることが望ましいものというべきである。
したがって,原告の主張は採用し得ない。」
(3)被告製品中に数値範囲に含まれない要素が混在する場合の充足性
被告製品1袋中に、上述の充足の基準である「2分の1との乖離の幅が1割程度の範囲内」にあるウェットティッシュと、範囲外であるウェットティッシュが混在していたため、被告製品全体が構成要件Cを充足するかが問題となった。
上述の充足基準である「第1の中間片の2分の1との乖離の幅が1割程度の範囲内」にある枚数は、以下の通りである。
被告製品②につき、3枚(原告測定)、30枚(被告測定)
被告製品③につき、6枚(原告測定)、1枚(被告測定)
被告製品①につき、2枚
判決は、各ウェットティッシュのシートの第1の中間片の幅の2分の1に対する第2の中間片の幅の比率の平均値にも着目した。平均値は以下の通りである。
被告製品②につき、83%(原告測定)、84%(被告測定)
被告製品③につき、82%(原告測定)、81%(被告測定)
被告製品①につき、80%
判決は、被告製品②につき、
「原告が被告製品②・・・について測定した結果・・・によれば,同製品の各シート状物の第1の中間片の幅の2分の1に対する第2の中間片の幅の比率(以下,単に『第2の中間片の比率』ということがある。)が90%~100%の範囲内にあるものは,全80枚のうち3枚にすぎず,その平均値も83%にとどまるものと認められる。
被告・・・が被告製品②・・・について測定した結果・・・によれば,第2の中間片の比率が90%~100%の範囲内にあるものは,全80枚のうち30枚であるものの,同比率がその範囲内にあるものは,いずれも偶数番目のシート状物であって,奇数番目のシート状物にはこれが存在しない上,全体の平均値も84%にとどまるものと認められる。
上記の 被告製品②全体における第1の中間片の幅の2分の1に対する第2の中間片の幅の平均比率, その比率が90%~100%の範囲内にあるものの割合及びその分布等に照らすと,被告製品②の第2の中間片が構成要件C『第1の中間片の略1/2の幅』との要件を充足するとは認められない。」と判示した。
被告製品③及び①についても、同様の考慮により、構成要件Cの充足が否定された。
解説/検討
判決では、原告が主張する「第2の折片がその誤差を吸収することにより積層体の幅寸法を維持する」という課題は明細書に記載されていないとして斥けられた。
本判決は、「略」の通常の意義に加え、明細書に記載された発明の課題、解決手段及び効果等を踏まえて、「略1/2」の具体的な範囲を画定している。「略」が付されていることから、正確に1/2である場合に限られず、一定の誤差を含む範囲まで技術的範囲が及ぶものと解されるが、その範囲は「略」という文言だけから定まるものではないことが示されている。なお、判決は「1割程度」という具体的な基準を示しているが、この数値がどのような根拠から導かれたものかについては、判決文上は必ずしも明確ではない。
被告製品②については、被告測定によれば、80枚中30枚が90~100%の範囲内にあったにもかかわらず、裁判所は、範囲内にあるシートの割合だけではなく、全体の平均比率が84%にとどまること、さらに、範囲内にあるシートが偶数番目に偏っており、奇数番目には存在しないことなど、その割合及び分布を総合考慮して、製品全体として構成要件Cを充足しないと判断した。
なお、本件特許については、本件判決に先立つ令和元年5月21日、特許庁が、訂正を認めた上で、進歩性欠如(特許法29条2項)を理由として請求項1に係る特許を無効とする審決をした。これに対して特許権者が審決取消訴訟を提起したが、知的財産高等裁判所は、令和2年3月18日、請求を棄却し、無効審決を維持した。
