【タイトル引用例に記載された文献中の記載に基づいて発明の進歩性が否定された事例】

 

投稿日:2026年8月28日

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著者:弁理士 大木 信人
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

特許法第29条2項/進歩性/引用例の記載事項

ポイント

※本件は、特許無効審判において特許を有効とした審決の取消訴訟である。
※審決は、訂正後の請求項7及び8に係る発明と引用発明との相違点につき、引用例には当該相違点に係る構成を採用する動機付けが認められないとして、これらの発明の進歩性を肯定した。
※これに対し、知財高裁は、進歩性の判断に当たり、引用例に従来技術として記載された事項を開示する公知文献の記載のうち、当該事項とは異なる部分の記載に着目し、これを引用例に記載された従来技術と位置付けた。その上で、当該相違点については動機付けが認められるとし、当該発明は引用例に基づいて容易に発明できたものであると判断して、審決を取り消した。


判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 令和2年5月28日
事件番号 令和元年(行ケ)第10075号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
髙部 眞規子
小林 康彦
関根 澄子
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

(事実関係)
(1)被告は、平成24年6月29日、発明の名称を「ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法および該方法により製造されたポリオレフィン系延伸フィルム」とする特許出願をし(特願2014-520113)、平成28年5月13日、設定登録を受けた(特許第5934355号。以下「本件特許」という。)。
(2)原告は、平成30年4月26日、請求項6ないし8についての無効審判を請求し、無効2018-800048号事件として係属した。被告は、平成30年8月14日付けの訂正請求書により、請求項7及び8からなる一群の請求項を訂正する旨の訂正請求(以下「本件訂正」という。)をした。
(3)特許庁は、平成31年4月15日、本件訂正を認めた上で、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同月25日、原告に送達された。
(4)原告は、令和元年5月24日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

(特許請求の範囲の記載)
 本件訂正後の請求項7及び8の記載は、以下のとおりである。以下、各請求項に係る発明を「本件発明7」などという。(下線は強調のため追加した)
【請求項7】
第1のスキン外層、コア層および第2のスキン内層からなるポリオレフィンフィルムの第1のスキン外層上に熱封着樹脂層がさらに形成されたポリオレフィン延伸フィルムであって、/第1のスキン外層、コア層および第2のスキン内層はともに縦延伸されたものであり、/第1のスキン外層、コア層、第2のスキン内層および熱封着樹脂層はともに横延伸されたものであり、前記熱封着樹脂層は縦延伸されていないことを特徴とする、熱ラミネート用ポリオレフィン延伸フィルム。
【請求項8】
前記第1のスキン外層は、ベース樹脂としてポリエチレン系樹脂を含み、/前記コア層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂を含み、/前記第2のスキン内層は、ベース樹脂としてポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂から選択された一種以上を含み、/前記熱封着樹脂層は、熱封着樹脂層の原料としてエチレンビニルアセテート、エチレンメチルアセテート、エチレンメタクリル酸、エチレングリコール、エチレン酸ターポリマー、及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された一種以上を含むことを特徴とする請求項7に記載の熱ラミネート用ポリオレフィン延伸フィルム。

原審(原々審)の判断

本件審決の理由の要旨

 以下、本件審決と本件訴訟とで判断が分かれた、引用例2(特開平3-260689号公報)に基づく本件発明7及び8の容易想到性について記載する。
 本件審決は、甲2(本件訴訟の引用例2に該当)には基材層として「第1のスキン層と、コア層、および第2のスキン層からなる」構造の3層の積層された構造を採用する動機付けはないとして、本件発明7及び8は引用発明(甲2発明)に基づいて容易に想到できたものではないと判断した。すなわち、以下のとおりである(下線は強調のため追加した)。

『(1)甲2発明
 甲2の記載を、実施例1に関して整理すると、甲2には次の発明…が記載されていると認める。
…(中略)…
 <甲2発明2>
 「メルトフローレート(MFR)0.8、融点164℃のホモポリプロピレン70重量%、融点134℃の高密度ポリエチレン12重量%及び平均粒径1.5μmの重質炭酸カルシウム18重量%を配合(A)し、270℃に設定した押出機にて混練した後、シート状に押し出し、冷却装置により冷却して、無延伸シートを得、
 次いで、このシートを145℃に加熱した後、縦方向に5倍延伸して(A層)の縦方向5倍延伸シートを得、
 一方、MFRが4.0のホモポリプロピレン58重量%と平均粒径1.5μmの炭酸カルシウム42重量%との混合物(B)と、融点が90℃のエチレン・メタクリル酸共重合体(C)を、それぞれ別の押出機を用いて270℃の温度で溶融混練した後、一台のダイに供給して、該ダイ内で積層(B層-C層)した後、この積層物(B層-C層)をダイよりフィルム状に押し出して、前記A層の縦方向5倍延伸シートの裏面側にC層が外側になるように押し出し、これを金属ロールとゴムロールよりなるエンボスロールに通して、該積層構造フィルムのC層側に、0.3mm間隔(80線)、谷部の深さ30μmのドットを有する逆グラビア型のパターンをエンボス加工し、他方、上記(B)の混合物を、前記A層のシートの表面側にラミネートし、紙状層(B層)を形成して、四層構造の積層フィルムを得、
 次いで、この積層フィルムを約155℃まで再加熱した後、横方向に7倍延伸し、次いで紙状層(B層)にコロナ放電処理を行なった後、これを55℃まで冷却した後、耳部をスリットして製造された、(B)/(A)/(B)/(C)の各層の厚さがそれぞれ30/70/30/10μmからなる四層構造の合成紙。」
…(中略)…

(3)本件特許発明7について
ア 対比
 本件特許発明7と甲2発明2を対比する。
 甲2発明2における「メルトフローレート(MFR)0.8、融点164℃のホモポリプロピレン70重量%、融点134℃の高密度ポリエチレン12重量%及び平均粒径1.5μmの重質炭酸カルシウム18重量%を配合(A)し、270℃に設定した押出機にて混練した後、シート状に押し出し、
 冷却装置により冷却して、無延伸シートを得、
 次いで、このシートを145℃に加熱した後、縦方向に5倍延伸して」「得」た「(A層)の縦方向5倍延伸シート」は、本件特許発明7における「第1のスキン外層、コア層および第2のスキン内層からなるポリオレフィンフィルムの第1のスキン外層上に熱封着樹脂層がさらに形成されたポリオレフィン延伸フィルムであって、
 第1のスキン外層、コア層および第2のスキン内層はともに縦延伸されたもの」と、「ポリオレフィンフィルム上に熱封着樹脂層がさらに形成されたポリオレフィン延伸フィルムであって、ポリオレフィンフィルムは縦延伸されたもの」という限りにおいて一致する。
 甲2発明2における「一方、MFRが4.0のホモポリプロピレン58重量%と平均粒径1.5μmの炭酸カルシウム42重量%との混合物(B)と、融点が90℃のエチレン・メタクリル酸共重合体(C)を、それぞれ別の押出機を用いて270℃の温度で溶融混練した後、一台のダイに供給して、
 該ダイ内で積層(B層-C層)した後、この積層物(B層-C層)をダイよりフィルム状に押し出して、前記A層の縦方向5倍延伸シートの裏面側にC層が外側になるように押し出し、これを金属ロールとゴムロールよりなるエンボスロールに通して、該積層構造フィルムのC層側に、0.3mm間隔(80線)、谷部の深さ30μmのドットを有する逆グラビア型のパターンをエンボス加工し、他方、上記(B)の混合物を、前記A層のシートの表面側にラミネートし、紙状層(B層)を形成して、四層構造の積層フィルムを得、
 次いで、この積層フィルムを約155℃まで再加熱した後、横方向に7倍延伸し」たものは、本件発明7における「第1のスキン外層、コア層、第2のスキン内層および熱封着樹脂層はともに横延伸されたものであり、前記熱封着樹脂層は縦延伸されていない」ものと、「ポリオレフィンフィルムおよび熱封着樹脂層はともに横延伸されたものであり、前記熱封着樹脂層は縦延伸されていない」ものという限りにおいて一致する。
 甲1発明2における「次いで紙状層(B層)にコロナ放電処理を行なった後、これを55℃まで冷却した後、耳部をスリットして、(B)/(A)/(B)/(C)の各層の厚さがそれぞれ30/70/30/10μmからなる四層構造の合成紙」は、本件発明7における「熱ラミネート用ポリオレフィン延伸フィルム」と、「ポリオレフィン延伸フィルム」という限りにおいて一致する。

 したがって、両者は、次の点で一致する。
 「ポリオレフィンフィルム上に熱封着樹脂層がさらに形成されたポリオレフィン延伸フィルムであって、
 ポリオレフィンフィルムは縦延伸されたものであり、
 ポリオレフィンフィルムおよび熱封着樹脂層はともに横延伸されたものであり、前記熱封着樹脂層は縦延伸されていないポリオレフィン延伸フィルム。」

 そして、両者は次の点で相違する。
 <相違点2-3>
 「ポリオレフィンフィルム」に関して、本件発明7においては、「第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルム」であるのに対して、甲2発明2においては、「メルトフローレート(MFR)0.8、融点164℃のホモポリプロピレン70重量%、融点134℃の高密度ポリエチレン12重量%及び平均粒径1.5μmの重質炭酸カルシウム18重量%を配合(A)し、270℃に設定した押出機にて混練した後、シート状に押し出し」た一層のものである点
 <相違点2-4>
 用途に関して、本件発明7においては、「熱ラミネート用」であるのに対し、甲2発明2においては、特定されていない点。

イ 判断
 まず、相違点2-3について検討する。
『甲2の「実施例1インモールド用ラベルの製造」(第5ページ右下欄第8及び9行)という記載によると、甲2発明1における「合成紙」は、インモールドラベルであるといえるが、インモールドラベルの基材層として、「第1のスキン層と、コア層、及び第2のスキン層とを含む」構造の基材層を使用することは、甲2には記載されていないし、その動機付けとなる記載もない。
 また、提出された他の証拠にも、そのような記載はない。
…(中略)…
 請求人は、甲2に「二層以上の積層された構造であっても良い。」(第3ページ右下欄第15及び16行)と記載されていることから、動機付けが存在し、加えて、甲2、7及び8の記載から、「インモールドラベルに合成紙を用いること」が技術常識であり、甲3の記載から、「合成紙において基材を3層延伸フィルムとすること」が技術常識であるから、相違点に係る発明特定事項は、単なる技術常識の付加に過ぎない旨主張する。
 そこで、検討するに、甲2には、「二層以上」の内、三層の積層された構造を採用する動機付けとなる記載はない。
 また、甲3において、合成紙に関する記載は、「第7節 延伸フィルムの開発動向」における「1.二軸延伸フィルムの開発小史」という項目における記載であり、3層延伸フィルムに関する記載は、同じく「第7節 延伸フィルムの開発動向」における「5.製膜技術の開発動向」という項目の中の「5.6複合製膜(積層製膜)」における記載である。そして、「5.製膜技術の開発動向」という項目は、「1.二軸延伸フィルムの開発小史」という項目の一部にすぎない合成紙の記載に関するものではないから、これらの記載は直接関係がなく、これらの記載からは、「合成紙において基材を3層延伸フィルムとすること」が技術常識であるとまではいえないし、ましてや、「インモールドラベルに用いる合成紙において基材を3層延伸フィルムとすること」が技術常識とはいえない。
 さらに、他に合成紙において基材を3層延伸フィルムとしたものとすることを記載した証拠はない。』
 相違点2-4について検討するまでもなく、本件発明7は、甲2発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明8について
 『本件発明8は、請求項7を直接引用し、本件発明7の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明7と同様に、甲2発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。』

判旨

 本件訴訟では、本件審決と同様に引用発明、ならびに本件発明と引用発明との一致点及び相違点を認定した。

『ア 引用例2に記載された発明
…(中略)…
(イ)引用発明2B
 メルトフローレート(MFR)0.8,融点164℃のホモポリプロピレン70重量%,融点134℃の高密度ポリエチレン12重量%及び平均粒径1.5μmの重質炭酸カルシウム18重量%を配合(A)し,270℃に設定した押出機にて混練した後,シート状に押し出し,冷却装置により冷却して,無延伸シートを得,/次いで,このシートを145℃に加熱した後,縦方向に5倍延伸して(A層)の縦方向5倍延伸シートを得,/一方,MFRが4.0のホモポリプロピレン58重量%と平均粒径1.5μmの炭酸カルシウム42重量%との混合物(B)と,融点が90℃のエチレン・メタクリル酸共重合体(C)を,それぞれ別の押出機を用いて270℃の温度で溶融混練した後,一台のダイに供給して,該ダイ内で積層(B層-C層)した後,この積層物(B層-C層)をダイよりフィルム状に押し出して,前記A層の縦方向5倍延伸シートの裏面側にC層が外側になるように押し出し,これを金属ロールとゴムロールよりなるエンボスロールに通して,該積層構造フィルムのC層側に,0.3mm間隔(80線),谷部の深さ30μmのドットを有する逆グラビア型のパターンをエンボス加工し,/他方,上記(B)の混合物を,前記A層のシートの表面側にラミネートし,紙状層(B層)を形成して,四層構造の積層フィルムを得,/次いで,この積層フィルムを約155℃まで再加熱した後,横方向に7倍延伸し,次いで紙状層(B層)にコロナ放電処理を行なった後,これを55℃まで冷却した後,耳部をスリットして製造された,(B)/(A)/(B)/(C)の各層の厚さがそれぞれ30/70/30/10μmからなる四層構造の合成紙。
…(中略)…
ウ 本件発明7と引用発明2Bとの一致点および相違点
 (一致点)
 ポリオレフィンフィルム上に熱封着樹脂層がさらに形成されたポリオレフィン延伸フィルムであって,/ポリオレフィンフィルムは縦延伸されたものであり,/ポリオレフィンフィルムおよび熱封着樹脂層はともに横延伸されたものであり,前記熱封着樹脂層は縦延伸されていないポリオレフィン延伸フィルム。
 (相違点2-3)
 「ポリオレフィンフィルム」に関して,本件発明7においては,「第1のスキン層と,コア層,及び第2のスキン層とを含むポリオレフィンフィルム」であるのに対して,引用発明2Bにおいては,「メルトフローレート(MFR)0.8,融点164℃のホモポリプロピレン70重量%,融点134℃の高密度ポリエチレン12重量%及び平均粒径1.5μmの重質炭酸カルシウム18重量%を配合(A)し,270℃に設定した押出機にて混練した後,シート状に押し出し」た一層のものである点。
 (相違点2-4)
 用途に関して,本件発明7においては,「熱ラミネート用」であるのに対し,引用発明2Bにおいては,特定されていない点。』

本件発明7の容易想到性について
 本件訴訟では、引用例2に従来の技術として記載された事項を開示する公知文献の、当該事項とは異なる箇所の記載事項を、引用例2に記載された従来技術とし、相違点について動機付けはあると判断した。すなわち、以下のとおりである(下線は強調のため追加した)。

『(3) 本件発明7の容易想到性について
ア 相違点2-3について
 『(ア)引用例2には,A層について,「本発明の好ましい態様のインモールド用ラベルは,通常,基材層と接着層とから構成され,該基材層として用いられる材料としては,ポリプロピレン,高密度ポリチレン,…などの融点が135~264℃の熱可塑性樹脂に,無機微細粉末を8~65重量%含有させた樹脂フィルム…などを挙げることができる。このような基材層は単層であっても,或いは,二層以上の積層された構造であっても良い」(3頁右下欄4~16行)との記載があり,基材層が2層以上の積層された構造であってもよいことが開示されている。
 また,引用例2には,従来技術として,ラベル付きの樹脂成形容器を一体成形するには,金型内に予めブランク又はラベルをインサートし,次いで射出成形,中空成形,差圧成形,発泡成形などにより容器を成形して,容器に絵付けを行っていること(特開昭58-69015号公報,甲33)の記載があるところ,この従来技術には,中空成形,射出成形,圧空成形若しくは真空成形時に型内でラベルを成形品に貼着する方法に関する発明につき(1頁右下欄2~4行),ラベルは,ポリプロピレンの延伸フィルムを紙状層とし,反対側の表面を構成するポリエチレンフィルムを裏面層とする少なくとも2層構造の複合フィルムよりなるラベルであり(2頁左下欄6~17行)中間層に2軸配向のポリプロピレンフィルム層を含む3層以上で,あることが好ましく(3頁左下欄4~8行),複合フィルムが3層以上の場合,例えば(A)ポリプロピレン,(B)ポリプロピレン,(C)ポリエチレンを,ダイ内で(B)よりなるフィルムが中間層となるように積層し,共押出で製造する(3頁左上欄10~20行)ことの開示がある。
 そうすると,引用発明2Aの基材層は1層のものであるものの,引用例2自体に2層以上の積層構造であってもよいことが記載されていること,引用例2には,複合フィルムが,少なくとも2層構造の層数は中間層に2軸配向のポリプロピレンフィルム層を含む3層以上であることが好ましく,例えば(A)ポリプロピレン,(B)ポリプロピレン,(C)ポリエチレンを,ダイ内で(B)よりなるフィルムが中間層となるように積層し,共押出で製造された構造が従来技術(甲33)として記載されていることからすれば,引用発明2Aの基材層として,中間層に2軸配向のポリプロピレンフィルム層を含む3層の共押出で製造された複合フィルムを使用する動機付けはあるといえる。
…(中略)…
(イ)被告の主張について
 被告は,引用例2には,基材層は2層以上の積層された構造であってもよいと記載されているにすぎないし,従来技術にも,単に3層以上とすることが記載されているにすぎないから,あえて3層とする動機付けはなく,「第1のスキン層と,コア層,及び第2のスキン層とを含む」構造の「三層」の積層された構造を採用する動機付けがない,また,引用例2には,第1の押出段階の中で3層をともに押し出して形成する積層構造であるとは記載されていない旨主張する。
 しかしながら,引用例2に従来技術として記載されている甲33には,3層以上とすることが記載されている以上,3層を採用することは当然あり得るから,動機付けがあることは明らかである。また,前記(ア)のとおり,甲33には,中間層に2軸配向のポリプロピレンフィルム層を含む3層以上のフィルムを共押出で製造することの開示があるから,引用例2に接した当業者は,従来技術である甲33を参照して3層を共押出してフィルムを製造することを容易に想到できるというべきである。よって,被告の主張は採用できない。』(相違点2-1より援用して記載)
『イ 相違点2-4について
 本件明細書には,「樹脂層40の原料は,低温接着性樹脂(低融点樹脂)であって,熱ラミネート(熱融着)が可能なものであれば制限されない」(【0043】)との記載があるところ,かかる記載によれば,本件発明7の「熱ラミネート」との用途は,「熱封着樹脂層」に基づくものである。
 一方,引用例2の「接着層となる…エチレン・メタクリル酸共重合体の金属塩などの,融点が85~135℃のヒートシール性樹脂よりなるフィルム層」との記載によれば,引用発明2Bの「融点が90℃のエチレン・メタクリル酸共重合体(C)からなるC層」は,「ヒートシール性樹脂よりなるフィルム層」であり,熱封着樹脂層である。
 そうすると,本件発明7の「熱封着樹脂層」と引用発明2Bの「融点が90℃のエチレン・メタクリル酸共重合体(C)からなるC層」とは,ともに熱封着樹脂層であるから,「熱ラミネート」用であるとの点において,相違はないものと認められる。
 したがって,相違点2-4は,実質的な相違点ではない。
ウ 小括
 以上によれば,本件発明7は,当業者が引用発明2Bに基づいて容易に発明をすることができたものである。』

『(4)本件発明8の容易想到性について
 本件発明8は,本件発明7の「第1のスキン外層」をポリエチレン系樹脂,「コア層」をポリプロピレン系樹脂,「第2のスキン内層」をポリプロピレン樹脂及びポリエチレン系樹脂から選択された1種以上,「熱封着樹脂層」をエチレンビニルアセテート,エチレンメチルアセテート,エチレンメタクリル酸,エチレングリコール,エチレン酸ターポリマー,及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーよりなる群から選択された1種以上に,それぞれ限定したものである。
 引用発明2Bの「融点が90℃のエチレン・メタクリル酸共重合体(C)からなるC層」は,「ヒートシール性樹脂よりなるフィルム層」,すなわち,「熱封着樹脂層」であるから,「エチレンメタクリル酸」を原料とする「熱封着樹脂層」が開示されている。
 また,引用発明2の基材層として,従来技術(甲33)に開示された構成を採用する動機付けがあることは,前記…(中略)…アのとおりであるところ,甲33に開示された複合フィルムは,ポリプロピレン,ポリプロピレン,ポリエチレンからなるから,「第1のスキン外層」をポリエチレン系樹脂,「コア層」をポリプロピレン系樹脂,「第2のスキン内層」をポリプロピレン樹脂及びポリエチレン系樹脂から選択された1種以上にすることも容易に想到できる
…(中略)…
(5) まとめ
…(中略)…本件発明7,8は,いずれも,引用例2に記載された発明から容易に発明できたものであり,取消事由2は,本件発明7,8に係る部分に限り,理由がある。』

解説/検討

 本件訴訟においては、引用例2の<従来の技術>の欄に、「従来、ラベル付きの樹脂成形容器を一体成形するには、金型内に予めブランク又はラベルをインサートし、次いで射出成形、中空成形、差圧成形、発泡成形などにより容器を成形して、容器に絵付けを行なっている(特開昭58-69015号公報,ヨーロッパ公開特許第254923号明細書参照)。」と記載されるのみであるところ、特開昭58-69015号公報中の記載を引用して「引用例2には、複合フィルムが、少なくとも2層構造の層数は中間層に2軸配向のポリプロピレンフィルム層を含む3層以上であることが好ましく、例えば(A)ポリプロピレン、(B)ポリプロピレン、(C)ポリエチレンを、ダイ内で(B)よりなるフィルムが中間層となるように積層し、共押出で製造された構造が従来技術(甲33)として記載されている」とし、<従来の技術>の欄に直接記載されていない事項についても「記載されている」と判断されている点が興味深く、進歩性否定を主張する実務において参考になる。
 審決において特開昭58-69015号公報については一切検討されていないが、今回新たな証拠として採用されたのは、基材が3層構造をとることは本件発明における本質ではなく、単に出願時の当業者の技術常識を認定するための証拠であったためと思われる。(「食品包装容器事件」最判昭和55年1月24日)
 

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