【会計ソフトウェアにおける構成要件該当性】

 

投稿日:2026年8月24日

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著者:弁護士 山口 裕司
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

構成要件充足性/均等侵害

ポイント

※被告製品においては,「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定作成・記録手段」から「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1~C4)」を作成・記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段を備えておらず,また,「社会保障給付」が「財源措置(C2)」に含まれていないため,構成要件B3及びHを充足せず,当該年度の政策決定による資金変動を明確にし,財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一目で知ることができるようにして政策レベルの意思決定を支援するこができるようにするという本件発明の効果を奏するものと認めることはできないので,被告製品は,本件発明の本質的部分を備えているものと認めることはできず,被告製品の相違部分は,本件発明の本質的部分でないということはできないから,均等論の第1要件を充足しないと判断した。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第4部
判決言渡日 令和2年2月26日
事件番号 令和元年(ネ)第10042号
事件名 特許権侵害行為差止等請求控訴事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
大鷹 一郎
古河 謙一
岡山 忠広
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 本件は,発明の名称を「会計処理方法および会計処理プログラムを記録した記録媒体」とする特許(特許第4831955号。請求項の数4。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である控訴人が,別紙1物件目録記載1ないし3の各製品(以下,これらを一括して「被告製品」という。)は本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属し,被控訴人による被告製品の生産及び使用は本件特許権の侵害に該当する旨主張して,被控訴人に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の生産,使用の差止め及び廃棄を,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として2800万円及びこれに対する平成30年4月7日(不法行為の後である訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は,被告製品は本件発明の技術的範囲に属するものと認めることはできないから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は,いずれも理由がないとして,これを棄却した。
 控訴人は,原判決のうち,損害賠償請求を棄却した部分のみを不服として,本件控訴を提起した。

争点

被告製品の本件発明の構成要件充足性、均等論

原審の判断

(2)第1要件(非本質的部分)
ア 特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にあることに照らすと,特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。
イ これを本件についてみると,前記のとおり,本件発明は,従来の現金主義に基づく公会計では,政策レベルの意思決定に利用することは困難であったことに鑑みて,国民が将来負担するべき負債や将来利用可能な資源を明確にして,政策レベルの意思決定を支援することができる会計処理方法及び会計処理を行うためのプログラムを記録した記憶媒体を提供することを課題とし,その課題を解決するための手段として,純資産の変動計算書勘定を新たに設定し,当該年度の政策決定による資産変動を明確にするとともに,将来の国民の負担をシミュレーションすることができる会計処理方法を提案するものである。
 そして,前記のとおり,本件発明の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)は,国家の政策レベルの意思決定を記録,会計処理するために設定された勘定であるのに対し,資金収支計算書勘定は,従来の公会計において単式簿記システムで扱ってきた資金(現金及び現金同等物)の受入と払出を記録するものであり,閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定(行政コスト計算書勘定)も,企業会計における複式簿記・発生主義会計として用いられてきたものであるから,本件発明の課題解決手段である当該年度の政策決定による資産変動の明確化や将来の国民の負担のシミュレーションは,国家の政策レベルの意思決定を対象とする処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)によって行われるものと解するのが相当である。その上で,本件発明は,資金収支計算書勘定と閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定),損益勘定(行政コスト計算書勘定)と処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定),処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)と閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)の各勘定連絡を前提として,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)に,当該年度における純資産増加(C3,C4)及び純資産減少(C1,C2)並びにこれらの差額(収支尻)である純資産変動額(C5)が表示される構成を採用しており,将来の国民の負担をシミュレーションするためには資産変動の内訳も認識される必要があると認められることにも照らせば,本件発明の課題解決手段である当該年度の政策決定による資産変動の明確化や将来の国民の負担のシミュレーションは,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)に表示される純資産増加(C3,C4)及び純資産減少(C1,C2)並びにこれらの差額(収支尻)である純資産変動額(C5)によって行われるものと解するのが相当である。
 また,上記のような解釈は,本件発明によるシミュレーションに関する本件明細書の説明とも整合する。すなわち,本件明細書には,「次に,本発明の特徴であるシミュレーションについて説明する。損益外純資産変動計算書には,行政コストと,当期に費消する財源措置で国民の純資産として将来に残る資産の科目からなる財源措置とそれ以外の科目からなる財源措置と,当期に調達する財源で国民の純資産として将来に残る資産の科目からなる財源とそれ以外の科目からなる財源と,国民の純資産として将来に残る資産の原因別増減額と,再評価による差額と,国民の純資産として将来に残る資産の原因別増減額充当のために手当てされた財源と,会計処理により,それらから導き出された現役世代の負担額と,将来世代の負担額,赤字公債相当額,建設公債相当額などの金額が表の中に表示される。」(【0069】),「本発明によるシミュレーションは,現役世代の負担額と,将来世代の負担額,赤字公債相当額,建設公債相当額などの金額に,目標とするべき金額を設定して,行政コストや財源措置をどのように調整すれば目標とするべき金額が達成できるかを演算するための手順を予め複数のプログラムとして設定する。」(【0070】)などとして,本件発明によるシミュレーションについて,損益外純資産変動計算書に表示される行政コスト,財源措置,財源及び資産の原因別増減額等から導き出される現役世代の負担額,将来世代の負担額,赤字公債相当額及び建設公債相当額等によって行われることが説明されており,本件発明の課題解決手段である当該年度の政策決定による資産変動の明確化や将来の国民の負担のシミュレーションが処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)に表示される純資産増加(C3,C4)及び純資産減少(C1,C2)並びに純資産変動額(C5)によって行われるという上記の解釈と整合する。
 そうすると,本件発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,国家の政策レベルの意思決定に係る会計処理を対象とする処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)を採用した上で,同勘定に表示される純資産減少(C1,C2)を構成する勘定科目の内容を具体的に規定する構成要件Hは,本件発明の課題解決手段を具体化する特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると認めるのが相当である。
 したがって,本件発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,社会保障給付等の損益外で財源を費消する取引を「財源措置(C2)」に含める構成(構成要件H)は,本件発明の本質的部分であると認められる。
オ そこで,被告製品をみると,被告製品では,前記のとおり,社会保障給付が行政コスト計算書に計上されており,純資産変動計算書には,行政コスト計算書の収支を基礎付ける勘定科目(社会保障給付を含む)及びその金額が示されていないことが認められ,「純経常費用(C1)と並んで財源措置(C2)という項目もあるが,これは具体的に言えば社会保障給付や…を指しており」(構成要件H)を充足するとはいえないから,本件発明と本質的部分において相違する。したがって,被告製品は,均等の第1要件を満たすとはいえない。

(3)小括
 以上のとおり,被告製品は,均等の第1要件を満たさないから,被告製品が,本件発明と均等なものとして,その技術的範囲に属するとはいえない。

判旨

(ア) 前記イの認定事実よれば,被告製品においては,個々の取引の複式仕訳データが「仕訳帳」から「総勘定元帳」に転記され,「総勘定元帳」のデータに基づいて「合計残高試算表」を,合計残高試算表の残高について財務諸表ごとに表示した一覧表である「精算表」を順次作成した上で,「合計残高試算表」のデータに基づいて,「貸借対照表」,「行政コスト計算書」,「純資産変動計算書」及び「資金収支計算書」の財務書類4表を作成・記録しているものと認められる。
 そうすると,被告製品は,「損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段」が「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手段」から「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1~C4)」を作成・記録する構成を備えるものと認められないから,構成要件B3を充足するものと認められない。
 以上のとおり,被告製品においては,「社会保障給付」が「財源措置(C2)」に含まれているものと認められないから,構成要件Hを充足するものと認められない。
 以上によれば,被告製品は,少なくとも構成要件B3及びHを充足するものと認められないから,その余の点について判断するまでもなく,本件発明の技術的範囲に属するものと認めることはできない。

(2)ア 次に,被告製品の第1要件の充足性について,念のため判断する。
 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記1(2)認定の本件明細書の開示事項を総合すれば,本件発明は,国民が将来負担すべき負債や将来利用可能な資源を明確にして,政策レベルの意思決定を支援することができる「財務諸表を作成する会計処理のためのコンピュータシステム」を提供することを課題とし,この課題を解決するために「純資産の変動計算書」(「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1~C4)」)を新たに設定し,当該年度の政策決定による資産変動を明確にできるようにしたことに技術的意義があり,具体的には,構成要件B1ないしIの構成を採用し,純資産変動額や将来償還すべき負担の増減額を「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1~C4)」に表示し,当該年度の政策決定による資金変動を明確にすることができるようにしたことにより,国民の資産が当期の予算措置で増えるのか又は減るのか,また,その財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一目で知ることができ,政策決定者は純資産変動額を勘案して政策を遂行することができるという効果を奏するようにしたこと(【0002】,【0005】,【0007】ないし【0010】,【0021】,図1)に技術的意義があるものと認められる。
 そして,本件発明の上記技術的意義に鑑みると,本件発明の本質的部分は,「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定作成・記録手段」から,国家の政策レベルの意思決定を記録・会計処理するために,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1~C4)」を作成・記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段を備え(構成要件B3),損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段の記録は,その期における損益外の純資産増加(C3,C4)と純資産減少(C1,C2)の2つで構成され,損益勘定(行政コスト計算書勘定)の収支尻(貸借差額)である「純経常費用(B7)」が処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の「純経常費用(C1)」に振替えられ(構成要件F),「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」の貸方と借方の差額(収支尻)が,「当期純資産変動額(C5)」という形で,最終的には「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」の「純資産(国民持分)(B4)」の部に振り替えられて,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」の借方(左側)と貸方(右側)がバランスし(構成要件G),「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」の借方側(勘定の左側)の「財源措置(C2)」は,具体的には社会保障給付やインフラ資産を整備した際の資本的支出のような損益外で財源を費消する取引を指し(構成要件H),処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の貸方側(勘定の右側)の「資産形成充当財源(C4)」は,財源措置として支出がされた場合,財源は費消されるが,その一部分は,インフラ資産のように将来にわたって利用可能な資産形成に充当されるため,その支出の時点で政府の純資産(国民持分)が何らかの資源が現金以外の形で会計主体としての政府の内部に残っていると考えることができ,将来世代も利用可能な資産が当期どれだけ増加したかを示している(構成要件I)という構成を採用することにより,当該年度の政策決定による資金変動を明確にし,国民の資産が当期の予算措置で増えるのか又は減るのか,また,その財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一目で知ることができ,政策レベルの意思決定を支援することができるようにしたことにあるものと認めるのが相当である。
 しかるところ,被告製品においては,「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定作成・記録手段」から「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1~C4)」を作成・記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段を備えておらず,また,「社会保障給付」が「財源措置(C2)」に含まれていないため,構成要件B3及びHを充足せず,当該年度の政策決定による資金変動を明確にし,財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一目で知ることができるようにして政策レベルの意思決定を支援するこができるようにするという本件発明の効果を奏するものと認めることはできない。
 したがって,被告製品は,本件発明の本質的部分を備えているものと認めることはできず,被告製品の相違部分は,本件発明の本質的部分でないということはできないから,均等論の第1要件を充足しない。
 よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められない。


解説/検討

 会計法則が関係するので、発明に当たるのかどうかも問題となり得るが、東京地裁平成15年1月20日判決(判時1809号3頁)は、資金別貸借対照表に関する実用新案権に基づく侵害差止等請求事件において、本件考案は、専ら、一定の経済法則ないし会計法則を利用した人間の精神活動そのものを対象とする創作であり、自然法則を利用した創作ということはできないとして、無効理由の存することが明らかであると判断し、請求を棄却したのに対し、知財高裁平成21年5月25日判決(判時2105号105頁)は、「旅行業向け会計処理装置」という発明につき、コンピュータプログラムによって、上記会計上の具体的な情報処理を実現する発明であるから、自然法則を利用した技術的思想の創作に当たると認め、無効審判請求不成立審決を維持している。
 会計ソフトに関する事件としては、「会計処理装置,会計処理方法及び会計処理プログラム」の特許権に基づくフリー対マネーフォワードの事件があり、文言侵害のみならず、均等侵害も争われたが、東京地裁平成29年7月27日判決では、いずれも否定されている。

 

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