【成分Aが疾患Xの治療に有効であることが既知である場合において、成分Aについて新たに見出された生理活性aが最終的に疾患Xの治療に適用されるものであっても、既知の医薬用途(疾患A治療用途)の「作用機序の解明」ではなく、成分Aの「新規な用途」となり得るとされた事案】

 

投稿日:2026年8月29日

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著者:弁理士 梅田 慎介
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

特許法第29条第1項及び第2項/医薬用途発明/新規用途/作用機序の解明

ポイント

※医薬用途発明の新規性は、請求項に係る医薬発明の医薬用途が、引用発明の医薬用途を新たに発見した作用機序で表現したに過ぎないものであり、両医薬用途が実質的に区別できないときは、請求項に係る医薬発明の新規性は否定される(特許・実用新案審査ハンドブック第XII部、附属書B、第3章、(3-2)特定の属性に基づく医薬用途に関して)。
※本件では、IL-23アゴニストが乾癬等の炎症性疾患の治療に有効であることが既知である場合において、IL-23アゴニストについて新たに見出された生理活性(T細胞による炎症性サイトカインIL-17産生の抑制)が、IL-23アゴニストの「新規な用途」を提供するものであるか、既知の医薬用途(乾癬等の炎症性疾患の治療)の「作用機序の解明」に過ぎないものかが争われた。IL-17と乾癬との関連は優先日時点で公知であった。
※裁判所は新規用途たり得ると判断した。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 平成31年3月19日
事件番号 平成30年(行ケ)第10036号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
森 義之
森岡 礼子
古庄 研
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

1. 経緯
 被告(ジェネンテック)は,特許第5705483号(IL-17産生の阻害、出願日2003.10.29、優先日2002.10.30)の特許権者である。
 原告(サンファーマ)は,無効審判(無効2017-800007号)を請求した。特許庁は,維持審決をした。
 原告は,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

2. 本件発明
(1) 本件発明1

【請求項1】
 T細胞によるインターロイキン−17(IL−17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための、インターロイキン−23(IL−23)のアンタゴニストを含む組成物。

(2) 明細書の関連記載
 「本発明は、インターロイキン23(IL−23)のアンタゴニストを用いた、炎症誘発性サイトカインであるインターロイキン17(IL−17)のT細胞による産生の抑制に関係する。さらに本発明は、IL−17濃度の上昇がみられることを特徴とする炎症性疾患の治療において、IL−23アンタゴニストを使用することに関係する。」(段落0001)
 「本発明は活性化T細胞、特に記憶T細胞において、IL−23がIL−17を産生し、IL−23アンタゴニストがこの過程を抑制するこができるという認識に基づくものである。従って、IL−23アンタゴニストはIL−17濃度の上昇を特徴とする炎症状態を治療するための有望な候補薬である。」(段落0026)
 「この明細書で使用されている「炎症性疾患」あるいは「炎症性疾病」という用語は、炎症を引き起こす病理学的状態を指し、この状態は典型的には好中球の化学走性によって引き起こされる。当該疾患の例には、乾癬並びに皮膚炎を含む炎症性皮膚疾患、・・・」(段落0017)
 「IL-17は乾癬に関係していると記載されている。Homey et al.,J.Immunol.164(12):6621-6632(2000)。」(段落0058)

 

争点

3. 争点
(i) 甲5,
甲1,甲3に基づく新規性判断の誤り(取消事由1,3,5)
(ii) 甲5,甲1,甲3に基づく進歩性判断の誤り(取消事由2,4,6)
(iii) 明確性要件の判断の誤り(取消事由7)
(iv) サポート要件の判断の誤り(取消事由8)
(v) 実施可能要件の判断の誤り(取消事由9)
 以下、取消事由1,2のみを取り上げる。

4. 甲5発明(WO00/56772)
 IL-23アゴニストであるIL-12(p35/p40)中和抗体の投与によってIL-12が関与する障害(乾癬)の病巣が消失したことが記載されている(実施例9)。
 IL-12(p35/p40)中和抗体について、「T細胞によるIL−17産生を阻害するため」との用途は記載されていない。

争点に関する当事者の主張

5. 原告主張
(1) 新規な用途といえない

 甲5発明に係る抗体含有組成物の用途は,「T細胞の処理による乾癬治療」であるが,乾癬患者について格別の限定又は選別をすることなく,「T細胞の処理による乾癬治療」を実施すると,当然に,「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」も生じるから,甲5発明の「T細胞の処理による乾癬治療」と本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」とは,用途として同一であり,甲5発明と本件特許発明1との間に相違点はない。

 本件特許発明は,せいぜい,IL-23アンタゴニストに備わった「T細胞によるIL-17産生を阻害する」という性質又は機序を明らかにして,これを説明する構成要件を付加したにすぎないから,甲5発明と異なる新規な方法(用途)とはいえない。

(2) Inventiveな用途たり得えない
 たとえ乾癬患者の全てがIL-17濃度の上昇を伴うわけではないとしても,多くの患者においてIL-17濃度の上昇が見られるのであるから,「p40サブユニットを中和することができる抗体」を乾癬患者に投与すれば,それらの患者の中に,T細胞によるIL-17の産生が阻害される者が存在することは明らかであるし,被告によると,本件特許発明は,「IL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるもの」ではないから,その治療対象となる乾癬患者の中にはIL-17濃度の上昇を伴っていない者も存在するところ,そのような患者ではIL-17産生が阻害されることはないから,本件特許発明において必ずしもIL-17濃度が上昇した乾癬患者のIL-17産生が阻害されるわけではない。

 甲5には,IL-17濃度の上昇が発現した者を格別排除することなく乾癬患者に抗体含有組成物を使用することが開示され,それによる病巣消失の効果までもが既に開示されており,その効果は,乾癬等の患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経るか否かによって,変わることはない


判旨

6. 裁判所の判断
(1) 新規な用途たり得える

 ・・・本件特許発明1は,IL-23によるT細胞の処理によってT細胞におけるIL-17の産生が増加するという知見に基づいて,「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」について「T細胞によるIL-17産生を阻害するための(インビボ処理方法において使用するための)」という用途の限定を付したものであると認められるところ,慢性関節リウマチの患者であってもIL-17濃度の上昇がみられなかった者がいるように,すべての炎症性疾患においてIL-17濃度が上昇するものではないし,特定の炎症性疾患においてもすべての患者のIL-17濃度が上昇するものではないと認められるから,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,特にIL-17を標的として,その濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができる
 他方,前記(1)のとおり,甲5には,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることは,記載も示唆もされていないから,甲5発明が,「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものではないことは,明らかである。このことは,甲5発明の「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」を乾癬治療のために使用することができるという甲5に記載されている用途を考慮しても,左右されるものではない。
 そうすると,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲5発明の「T細胞を処理するため」という用途とは,明確に異なるものということができる。そして,このことは,本件優先日当時,IL-17の発現レベルを測定することが可能であったことによって左右されるものではない。」

 この主張を,甲5発明について,甲5に記載されている用途も考慮して本件特許発明1の新規性について判断すべき旨の主張と解したとしても,前記ウのとおり,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲5発明の「T細胞を処理するため」という用途とは,明確に異なるのであるから,本件特許発明1の用途が,甲5発明の用途を新たに発見した作用機序で表現したにすぎないものとはいえないことは,明らかである。

(2) Inventiveな用途といえる
 ・・・本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができるのであって,被告の主張は採用できないから,本件特許発明1がIL-17濃度の上昇が見られるか否かを問わずに利用されることを前提とした原告の上記主張は,前提において失当である。

 ・・・甲5には,「J695」と称される「p40サブユニットを中和することができる抗体」を乾癬を罹患していた患者に投与した際に病巣が消失したことが記載されているが,甲5に接した当業者において,この「p40サブユニットを中和することができる抗体」を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用する動機付けがあったとは認められないことは,前記(1)のとおりであり,原告の上記主張は,この判断を左右するものではない。

解説/検討

7. 検討
 本件特許の優先日において乾癬等の炎症性疾患とIL-17との関連は公知であり(明細書段落0058)、IL-23アゴニストが乾癬等の炎症性疾患の治療に有効であることも知られていた(甲5)。本件特許はIL-23アゴニストに内在するIL-17産生抑制活性を新たに見出し、これを「T細胞によるインターロイキン−17(IL−17)産生を阻害するための」というIL-23アゴニストの新規医薬用途としてクレームしたものである。「T細胞によるインターロイキン−17(IL−17)産生を阻害するため」との規定は、乾癬等の炎症性疾患の治療という既知の医薬用途を新たに発見した作用機序で表現したに過ぎないと解する余地もあった。
 裁判所は、「T細胞によるインターロイキン−17(IL−17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための」との請求項1の用途規定を、「本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,特にIL-17を標的として,その濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができる。」と限定的に解釈し、IL-17の濃度上昇を考慮しないで乾癬への使用を記載した甲5の用途との相違を認定した。しかしながら、本件特許の親出願(特許第5477998号)の登録請求項1の「インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む、健康な被験体と比較して、インターロイキン17(IL-17)発現の上昇したレベルを有することが測定された哺乳動物被験体における炎症疾患の処置のための組成物であって、前記アンタゴニストが抗IL-23または抗IL-23レセプター抗体である、組成物。」とは異なり、本件特許の請求項1自体はそのような「選択的利用」を要件としていない。また、被告自身も本件特許発明は,「IL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるもの」ではないことを認めている。
 また、用途に相違を認めたとしても、出願時の技術水準から両者間の作用機序の関連性が導き出せる場合は、通常、請求項に係る医薬発明の進歩性は否定される。裁判所は、ここでも甲5には上記の「選択的利用」の動機付けがないとして進歩性充足とした。
 最終的な疾患治療用途が同一であっても治療効果に至る作用機序が異なれば採用機序ごとに医薬用途発明が成立することを許容しかねない結論となったと懸念される。

 

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