【パラメータ発明において測定方法の記載が不十分であったために取消決定が維持された事案】

 

投稿日:2026年8月30日

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著者:弁理士 梅田 慎介
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

第36条第4項第1号/実施可能要件/パラメータ発明/測定方法/食品

ポイント

※不溶性固形分の割合を「通過メッシュサイズ」を用いて規定した野菜/果物ピューレ(粗ごし感のある濃厚な食感)に関する発明について実施可能要件と明確性要件の充足性が争われた。
※特許庁は、不溶性固形分の割合を測定する際に、サンプルが粘性を有しているためにメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であってもメッシュ上に残存する場合があるが、このような場合にいかにして測定を行えばよいかのガイダンスが明細書に記載されていないとして取消決定をした。
※裁判所も、特許庁と同様の判断により取消決定を維持した。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 平成29年6月14日
事件番号 平成28年(行ケ)第10205号
事件名 特許取消決定取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
清水 節
中島 基至
岡田 慎吾
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

1. 経緯
 原告(キッコーマン、日本デルモンテ)らは,発明の名称を「加工飲食品及び容器詰飲料」とする発明について設定登録(特許第5694588号)を受けた。
 平成27年9月17日付で特許異議申立がされた。特許庁は、平成27年12月8日付けで取消理由を通知した。原告らは、平成28年2月9日付けで訂正請求をした。特許庁は、更に平成28年5月6日付けで取消理由を通知し、8月3日付で訂正を認めた上で取消決定をした。
 原告らは、取消決定の取消しを求める本件訴訟を提起した。

2. 本件発明
(1) 請求項1

「野菜または果実を破砕して得られた不溶性固形分を含む加工飲食品であって,
6.5メッシュの篩を通過し,かつ16メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が10重量%以上であり,
16メッシュの篩を通過し,かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下であることを特徴とする加工飲食品。」

(2) 不溶性固形分の測定方法に関する明細書記載
【0036】
 ・・・メッシュとは、1インチ(2.54cm)の間に目の数が幾つあるかを示す数字であり、針金の太さと目の間隔はJIS規格で規定されている。不溶性固形分は、日本農林規格のえのきたけ缶詰又はえのきたけ瓶詰の固形分の測定方法に準じて測定することができる。すなわち、測定したいサンプル100グラムを水200グラムで希釈し、16メッシュの篩等の各メッシュサイズの篩に均等に広げて、10分間放置後の各篩上の残分重量を重量パーセントで表した値を、本発明の粗ごし感を有する不溶性固形分と定義する。
【0038】
 篩上の残存物は、基本的には不溶性固形分であるが、サンプルを上述のように水で3倍希釈してもなお粘度を有している場合は、たとえメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても篩上に残存する場合があり、その場合は適宜水洗しメッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分を正しく測定する必要がある。

 

争点

3. 争点
(i) 実施可能要件の判断の誤り(取消事由1)

(ii) 明確性要件の判断の誤り(取消事由2)(略)

   

争点に関する当事者の主張

4. 原告の主な主張
(1) 本件明細書の段落【0036】には,サンプル100グラム(本件発明の加工飲食品)を水200グラムで希釈し,当該サンプルを篩にかけ,篩上に残存したものを重量パーセントで表した値が不溶性固形分とする旨が記載されている。一方,本件明細書(段落【0062】~【0065】)には,本件発明に係る加工飲食品として実施例A1~A3を作製したことが記載され,これらの実施例A1~A3について不溶性固形分の割合を測定した試験例1が記載されている(段落【0088】)。このような試験例1や段落【0036】の記載からすれば,不溶性固形分の測定は,本件発明に係る加工飲食品100グラムに水200グラムを混和して篩にかけ,篩上に残った不溶性固形分を計量すればよいということが明らかである。
(2) 本件明細書の段落【0038】の記載は,例外的に本来であれば通過しなければならないような大きさの不溶性固形分が篩に残る場合,例えば,不溶性固形分がメッシュよりも明らかに大きな塊となっている場合を想定し,段落【0036】の測定方法を実施する上での注意的な事項として付記的に記載したものである。そして,このようなものが例外的なものか否かは,どの程度の粘度を有しているかによって判断するのではなく,粘度が高くて本来は通過する大きさの不溶性固形分の塊が篩の目にべったり付着して篩上に残っている状態か否かで判断するのである。本来であれば通過しなければならないような大きさの不溶性固形分が篩に残るか否かについては,そのような大きさの不溶性固形分の塊が篩に残っているかなど目視で容易に判断できるものであり,塊がある場合は水を掛けて塊をくずすだけのことであるから,当業者であれば技術常識として判断できるといえる。
 ただし,これはあくまでも例外的なものであり,ほとんどの場合,当業者は,試験例1や実施例A1~A3の記載など,本件明細書全体から判断し,追加的に粘度の判定及び水洗を実施せずに,段落【0036】の測定方法によって不溶性固形分の測定を行えばよいと判断できる。
 また,このような例外的なものは,段落【0036】の測定方法では測定不能であるとしても,不溶性固形分が6.5メッシュの篩上に残り,16メッシュの篩や35メッシュの篩には不溶性固形分が残らない(以下「ケース1」という。)又は,不溶性固形分が16メッシュの篩上に残り,35メッシュの篩には不溶性固形分が残らない(以下「ケース2」という。),又は,不溶性固形分が35メッシュの篩上)に残り,6.5メッシュの篩や16メッシュの篩には不溶性固形分が残らない(以下「ケース3」という。)と想定され,いずれも本件発明の範囲外となり,段落【0038】の記載は本件発明の実施に無関係であり支障はない


判旨

5. 裁判所の判断
(1) 主な判断

 本件測定方法によって不溶性固形分を測定した際に,篩上に残存しているものについて,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が含まれているのか否かを判別する方法は,本件明細書には開示されておらず,また,当業者であっても,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に照らし,特定の方法によって判別することが理解できるともいえない(篩上に残存しているものが,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分を含むものであるのか否かについて,一般的な判別方法があるわけではなく,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,測定に使用される篩は,目開きが16メッシュ(1.00㎜)又は35メッシュ(0.425㎜)のものと認められるから,篩上に残った微小な不溶性固形分について,単に目視しただけでは明らかではないといわざるを得ない

(2) 原告主張(1)について
 仮に,原告らの主張するように,「なお粘度を有している場合」(段落【0038】)が例外的な場合であったとしても,本件発明の対象である加工飲食品には限定がなく,本件明細書上,上記のような粘度を有する場合が想定されるのであるから,水洗をすることによって各篩上の不溶性固形分の重量を正しく測定することが必要となるのであり,そうである以上,水洗の要否を判断するために,サンプルが「なお粘度を有している場合」であって,「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に残存する場合」に該当するか否かを判別することを要する。

(3) 原告主張(2)について
 本件測定方法によっても,サンプルが「なお粘度を有している場合」であって,「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に残存する場合」には,適宜,水洗を行い,更に不溶性固形分の重量を実際に測定することで,本件発明に係る加工飲食品が製造されたか否かを確認することになり,その結果,本件条件を満たし,本件発明の技術的範囲を充足することもあり得るのであるから,原告らの想定する事例について,直ちに,本件発明の技術的範囲外のものということはできない(なお,仮に,本件明細書の段落【0038】の記載が本件発明の実施に無関係のものと考えるのであれば,少なくとも訂正請求の手続において削除すべきものと解される。)。

解説/検討

6. 検討
 本件発明は「6.5メッシュの篩を通過し、かつ16メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が10重量%以上であり、16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下であること」を特定事項とし、第1不溶性固形分(6.5メッシュの篩を通過し16メッシュの篩を通過しない)と第2不溶性固形分(16メッシュの篩を通過し35メッシュの篩を通過しない)という大きさの異なる固形分を所定量ずつ含有することによって粗ごし感のある濃厚な食感を呈するものとされている。
 不溶性固形分の測定方法につき、明細書には「日本農林規格のえのきたけ缶詰又はえのきたけ瓶詰の固形分の測定方法に準じて測定することができる。すなわち、測定したいサンプル100グラムを水200グラムで希釈し、16メッシュの篩等の各メッシュサイズの篩に均等に広げて、10分間放置後の各篩上の残分重量を重量パーセントで表した値を、本発明の粗ごし感を有する不溶性固形分と定義する。」(段落0036)との記載に加えて、「篩上の残存物は、基本的には不溶性固形分であるが、サンプルを上述のように水で3倍希釈してもなお粘度を有している場合は、たとえメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても篩上に残存する場合があり、その場合は適宜水洗しメッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分を正しく測定する必要がある。」(段落0038)との追加的な記載があった。
 取消決定は、この追加的記載をもって、不溶性固形分の測定に当たり「なお粘度を有している」か否かの判断や「適宜水洗」する程度についての基準が開示されていないとして、実施可能要件等非充足と判断とした。裁判所もこれを追認した。パラメータ発明・数値限定発明における測定方法の記載の重要性を示した判例のひとつである。

 

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