【アミティーザに係る特許権存続期間延長登録の無効審判不成立審決が維持された事例】
投稿日:2026年6月11日 |
著者:弁護士 多田 宏文
|
参照条文/キーワード/論点 |
特許法67条4項(旧67条2項)/特許法125条の3第1項1(旧125条の2)/特許延長登録の要件/医薬用途発明 |
ポイント
本件は、発明の名称を「15-ケト-プロスタグランジン類を含む薬物誘発性便秘処置用組成物」とする特許第4332353号に係る特許権の存続期間延長登録について、原告が延長登録無効審判を請求したものの、特許庁がいずれも「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をしたため、原告がその取消しを求めた事案である。知財高裁は、原告の請求を棄却した。
|
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第1部 |
| 判決言渡日 | 令和8年4月9日 |
| 事件番号 | 令和7年(行ケ)第10059号・同第10064号 |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
増田 稔
伊藤 清隆 天野 研司 |
事案の概要
本件は、発明の名称を「15-ケト-プロスタグランジン類を含む薬物誘発性便秘処置用組成物」とする特許第4332353号に係る特許権の存続期間延長登録について、原告が延長登録無効審判を請求したものの、特許庁がいずれも「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をしたため、原告がその取消しを求めた事案である。
特許の請求項1は下記のとおりであり、薬物誘発性便秘処置用という用途発明である。
一般式(II):
【化1】

[式中、Lはオキソ、Mはヒドロキシ;
Aは、-COOHまたはその塩、エステルもしくはアミド;
Bは、-CH2-CH2-;
X1およびX2は、水素、低級アルキルまたはハロゲンであって、X1およびX2の少なくとも一方はハロゲンである;
R1は、非置換の二価の飽和または不飽和の炭素数1~14の直鎖または分枝鎖を有する脂肪族炭化水素(ただし、側鎖は炭素数1~3のものである);
R2は、単結合または低級アルキレン;そして、
R3は、低級アルキル]
で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ—またはジ—ハロゲン-プロスタグランジンE化合物を有効成分として含む、オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘処置用組成物。
対象となった延長登録は2件ある。【A事件】は、販売名「アミティーザカプセル24μg」に係る薬機法14条1項の製造販売承認を理由とする延長登録であり、延長期間は3年2日であった。【B事件】は、販売名「アミティーザカプセル12μg」に係る製造販売承認を理由とする延長登録であり、延長期間は5年であった。いずれも、有効成分はルビプロストン、効能又は効果は「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」とされていた。
ここでは、取消事由1(特許法125条の2第1項1号該当性の判断の誤り)の理由1-1を取り上げる。
裁判所の判断
裁判所は理由1-1について以下のとおり判示し、これが成り立たないとした。
「1 取消事由1(特許法125条の2第1項1号該当性の判断の誤り)について
⑴ 理由1-1(本件発明の実施とはいえない用途)について
ア 原告は、本件各医薬品の当初の添付文書の「効能・効果」欄に「<効能・効果に関連する使用上の注意>薬剤性及び症候性の便秘に対する使用経験はなく、有効性及び安全性は確立されていない。」と記載されていたこと等を根拠に、本件各医薬品の効能又は効果から薬剤性便秘が除外されていたと主張し、また、用途発明の実施に関する「専ら論」や「ラベル論」の考えに従うと、本件各医薬品の製造販売行為は本件発明の実施行為には当たらないから、本件発明の実施のために本件各処分が必要であったとはいえない旨主張する。
イ そこで検討すると、特許法67条2項にいう「その特許発明の実施」に政令で定める処分を受けることが必要であったというには、当該政令で定める処分によって禁止が解除された行為と、当該特許発明の実施行為との間に、重複する部分があることを要するものと解される。このような場合には、当該特許発明の実施行為は、当該処分を受けるまでの間、禁止されていたといえるからである。
また、特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬機法の規定による医薬品の製造販売の承認に先行して、同一の特許発明につき同法の規定による医薬品の製造販売の承認がされている場合において、延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして、医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について両承認を比較した結果、先行する承認の対象となった医薬品の製造販売が、延長登録出願の理由となった承認の対象となった医薬品の製造販売を包含すると認められるときは、延長登録出願に係る特許発明の実施にその出願の理由となった承認を受けることが必要であったとは認められない(最高裁平成26年(行ヒ)第356号同27年11月17日第三小法廷判決・民集69巻7号1912頁)。
ウ これを本件についてみると、まず本件処分Aに関し、証拠(甲4、42、55)によると、慢性便秘は、医学上、原因や病態により、機能性便秘(慢性特発性便秘とも呼ばれる。)、症候性便秘、薬剤性便秘、器質性便秘などに分類されることが認められる。すなわち、本件医薬品Aの効能又は効果である「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」の中には、本件発明の発明特定事項に係る「薬物誘発性便秘」が含まれている。そうすると、本件医薬品Aの製造販売行為は、少なくともそれがオピオイド化合物又は抗コリン薬による薬物誘発性便秘の処置に用いられる場合には、本件発明の実施行為に当たるということができる。そして、証拠(甲41、43、乙7、8)によると、本件発明の有効成分であるルビプロストンが実際に臨床現場においてオピオイド化合物による薬物誘発性便秘の処置に用いられている事実も認められる。
したがって、本件処分Aによって禁止が解除された行為(本件医薬品Aの製造販売行為)は、本件発明の実施行為を含んでいるといえる。
そして、本件処分Aに先行して、本件発明につき医薬品の製造販売の承認がされていたことを認めるに足りる証拠はない。
よって、本件発明の実施には、本件処分Aを受けることが必要であったといえる。
エ 次に、本件処分Bに関しては、上記ウに述べたところによると、本件処分Bによって禁止が解除された行為(本件医薬品Bの製造販売行為)は、本件発明の実施行為を含んでいるといえる。
また、本件発明については、本件処分Bに先行して本件処分Aがされている。しかるところ、本件発明は、13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-又はジ-ハロゲン-プロスタグランジンE化合物を有効成分として含む、オピオイド化合物又は抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘を処置するための医薬品の成分を対象とする物の発明であり、医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる両承認の審査事項は、医薬品の成分、分量、用法、用量、効能及び効果である。そして、証拠(甲35、36、B事件甲49、50)によると、本件処分Aの対象となった医薬品(本件医薬品A)は、その分量を「0.024mg」とするものであるのに対し、本件処分Bの対象となった医薬品(本件医5 薬品B)は、その分量を「0.012mg」とするものである。そうすると、本件処分Aの対象となった医薬品の製造販売が、本件処分Bの対象となった医薬品の製造販売を包含するとは認められない。
よって、本件発明の実施には、本件処分Bを受けることが必要であったといえる。
オ 以上に対し、原告は、本件各医薬品の当初の添付文書に「<効能・効果に関連する使用上の注意>薬剤性及び症候性の便秘に対する使用経験はなく、有効性及び安全性は確立されていない。」と記載されていることを指摘する。
しかし、この記載は、裏を返せば、薬剤性及び症候性の便秘が本件各医薬品の効能又は効果に含まれているからこそ、有効性及び安全性が確立されていない旨を注記したものと認められるのであって、薬剤性便秘が本件各医薬品の効能又は効果から除外されていることを示すものとはいえない。
また、原告は、用途発明の実施に関する「専ら論」や「ラベル論」の考え方に従うと、本件各医薬品の製造販売行為は本件発明の実施行為に当たらないとも主張する。
しかし、特定の行為が特許発明の技術的範囲に含まれるかを判断する場面とは異なり、特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったというには、前記イのとおり、当該処分によって禁止が解除された行為と、当該特許発明の実施行為との間に重複する部分があることを要し、かつ、それで足りるというべきである。このような場合には、たとえ特許発明に規定された用途と処分に係る物の用途との間に重複しない部分があるとしても、特許発明の実施行為は、当該処分を受けるまでの間、なお禁止されていたといえるからである。
カ よって、原告の主張する理由1-1によっては、本件各延長登録が、その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められない場合の出願に対してされたものということはできない。」
解説/検討
第六十七条
4 第一項に規定する存続期間(第二項の規定により延長されたときは、その延長の期間を加えたもの。第六十七条の五第三項ただし書、第六十八条の二及び第百七条第一項において同じ。)は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。
第百二十五条の三
第六十七条の七第三項の延長登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その延長登録を無効にすることについて延長登録無効審判を請求することができる。
一 その延長登録がその特許発明の実施に第六十七条第四項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められない場合の出願に対してされたとき。
二 その延長登録が、その特許権者又はその特許権についての専用実施権若しくは通常実施権を有する者が第六十七条第四項の政令で定める処分を受けていない場合の出願に対してされたとき。
三 その延長登録により延長された期間がその特許発明の実施をすることができなかつた期間を超えているとき。
四 その延長登録が当該特許権者でない者の出願に対してされたとき。
五 その延長登録が第六十七条の五第四項において準用する第六十七条の二第四項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたとき。
原告は、承認対象の医薬品を製造販売しても、用途発明たる本件特許を実施することにならないとして、特許法特許法125条の3(旧125条の2)第1項1号該当性を争った。
特許法67条4項は、延長登録の要件として「政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたとき」と定め、125条の3第1項1号は、無効理由として「その特許発明の実施に第六十七条第四項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められない場合」と定める。
用途特許の実施行為が当該用途との関係で厳格に解され追加の要件が課されるとしても、その実施行為を行うには、より緩やかな製造販売行為に対する薬事承認が必要であるから、用途特許の実施行為が「専ら論」や「ラベル論」により狭くあるいは厳格に解されることは、延長登録の要件該当性を否定する理由にはならないように思われる。
本判決は、「本件医薬品Aの製造販売行為は、少なくともそれがオピオイド化合物又は抗コリン薬による薬物誘発性便秘の処置に用いられる場合には、本件発明の実施行為に当たるということができる。・・・したがって、本件処分Aによって禁止が解除された行為(本件医薬品Aの製造販売行為)は、本件発明の実施行為を含んでいるといえる。」と判示している。これは、「禁止が解除された行為と、当該特許発明の実施行為との間に、重複する部分があることを要する」という規範と対応した判示である。
しかし、承認対象の医薬品の製造販売行為と用途発明の実施行為との関係は、①水平方向での広い⇔狭いという包摂関係ではなく、②垂直方向での緩やか⇔厳格という関係での包摂関係にあるものと考えられる。したがって、①を前提として、ここで無理に用途発明の「実施行為」について判示する必要はなかったものと思われる。この部分の判示は、侵害の場面における実施行為と、特許法67条4項等の延長の場面における実施行為の関係などについて混乱を招くように思われる。