【発明者の認定が争われた事例】

 

投稿日:2026年6月26日

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著者:弁理士 津田 理
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

発明者の認定/冒認/共同出願違反

ポイント

※ 発明の名称を「オーディオコントローラ、超音波スピーカ、オーディオシステム、及びプログラム」とする本件特許(特許第6329679号)に係る発明(本件発明)の発明者の認定が争われた。
※ 裁判所は、本件試作機に搭載されたプログラムの作成者であるCらは、本件発明の特徴的部分を当業者が実施することができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成した者ということはできず、本件発明の発明者(共同発明者)ではないとしたうえで、本件発明の発明者は、本件実験機を製作したAらであると認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない、と判示した。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和7年4月24日
事件番号 令和5年(行ケ)第10078号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
清水 響
菊池 絵理
頼 晋一
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

1. 事実関係
(1) 当事者
・原告は、検査・計測機器及び装置の企画・開発・製造・販売等を目的とする株式会社であり、Cは、その代表取締役である。Eは、原告が製作した試作機(本件試作機)に搭載されたプログラムの作成者である。
・被告は、Pixie Dust Technologies, inc.(PDT社)を前身とした、音、光、電磁波等の波動制御に関するソフトウェア及びハードウェアの研究開発等を目的とする株式会社であり、AとDは、その代表取締役であり、Bは、取締役(技術担当役員)である。

(2) 本件実験機と本件試作機
・AとBは、平成27年4月以前に、本件実験機を製作した。
・原告は、本件試作機を製作し、平成27年11月にPDT社に納品した。

(3) 特許庁における手続きの経緯等
・被告は、平成29年10月3日に、本件発明について特許出願をし、本件特許に係る特許権の設定登録を受けた。本件特許の特許公報には、発明者として、AとDが記載されている。
・原告は、本件特許について、①本件発明の真の発明者はC及びEであり、被告は本件各発明について特許を受ける権利を有しないから、被告の出願は冒認出願に当たる、②原告は前記の発明者らから特許を受ける権利を承継しているから、被告の出願は共同出願違反(特許法38条)に当たるとの無効理由を主張して、無効審判を請求した。
・特許庁は、「本件審判の請求は、成り立たない」との審決(本件審決)をし、原告は、その取消しを求めて本件訴えを提起した。

(4) 本件発明の内容
[請求項1]
 少なくとも1つの超音波スピーカであって、且つ、複数の超音波トランスデューサを備える超音波スピーカ、及び、音源と接続可能なオーディオコントローラであって、
 前記音源からオーディオ信号を入力する手段を備え、
 前記オーディオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える、
 オーディオコントローラ。
 画像

(5) 原告が主張する本件発明の特徴部分
① 複数の超音波スピーカについて、任意の超音波の焦点位置と各超音波トランスデューサとの距離を算出し、当該距離に応じて、焦点位置で超音波が集束するように各超音波トランスデューサの駆動タイミング(位相差)を制御する信号を生成し、
② 各超音波トランデューサからオーディオ信号に基づいた所望の信号波形(信号値)を表した(オーディオ信号に基づいた強弱が表された)同じ波形の超音波を当該駆動タイミング(位相差)で放射すること。

争点

(1) 本件発明の特徴的部分
(2) 本件発明の発明者

判旨

(1) 本件発明の特徴的部分について
 発明者とは、当該発明における技術的思想の創作、とりわけ従前の技術的課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与した者、すなわち当該発明の特徴的部分を当業者が実施することができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者を指すものと解される。
 しかるところ、本件特許の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によれば、本件発明の課題は、複数のスピーカから構成され、各スピーカをリスナの周囲に配置する必要があるオーディオシステムにおいて、例えば、リスナの背後にスピーカを設置することができないときは、このようなオーディオシステムを利用することができなくなる等といった使用環境による制約を取り除くことである。
 可聴音の音波形に沿って変調した超音波(搬送波)が空気中を伝わると可聴音を発生させる(自己復調)という現象を利用した、複数の超音波トランスデューサを備える超音波スピーカ(パラメトリックスピーカ)自体は、本件特許の出願日(平成29年10月3日)、さらには原告が本件試作機の開発を受注した平成27年5月、被告がAらにおいて本件発明を完成させたと主張する平成25年1月ころにおいても、周知の技術であったと認められる。
 本件発明1は、このような周知の技術を前提に、特許請求の範囲に記載されたオーディオコントローラにより、任意に定めることができる焦点位置のリスナに音を届けることを可能にし、前記課題を解決するものである。すなわち、特許請求の範囲のうち、オーディオコントローラが「オーディオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える」という部分は、本件発明の課題を解決する発明の特徴的部分であると認められる。
 そして、本件発明2~14は、本件特許の請求項1の従属項に係る発明であって、本件発明1のオーディオコントローラをさらに特定するものであり、本件発明15~17は、それぞれ、本件発明1~13を実施するための超音波スピーカ、オーディオシステム、(コンピュータ)プログラムを特定するものであるから、本件発明1の特徴的部分は、本件発明2~17においても、発明の特徴的部分であると認められる。

・原告特徴的部分①について
 複数の各超音波トランスデューサが放射する超音波を1つの(特定の)焦点位置で集束させるためには、前提として、特定の焦点位置と各超音波トランスデューサの距離及びその差を計算する必要があることは、別紙「超音波から可聴音が聴こえるようにする仕組み」の2に記載されているとおりである。また、超音波トランスデューサの各振動子を個別に制御して振動のタイミングを遅延させることによって位相制御を実現し、位相制御によって集束超音波を放出する技術(本件位相制御技術)は、平成27年5月以前に公知となっていた技術であると認められる(甲105、125、129)。そうすると、焦点位置と各超音波トランスデューサの「距離及びその差」に基づいた計算を行うこと自体は、「少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段」が当然に備えることが通常想定されるものであり、本件発明1の特徴的部分であるということはできない。
 なお、原告の主張する「任意の超音波の焦点位置と各超音波トランスデューサとの距離を算出し」という点が、本件明細書の段落【0037】にあるように、実際のリスナLの位置をリスナ位置検出部25により検出して焦点座標を決定することを指すのであれば、本件審決が述べるとおり、任意の焦点位置に対応する位相差を取得するための一手法というべきであって、本件発明の技術的課題を解決するために必須のものとはいえない。

・原告特徴的部分②及び予備的特徴的部分について
 原告特徴的部分②は、各超音波トランスデューサの位相制御は、超音波(搬送波)の周期のみではなく、可聴音に自己復調するよう変調した後の波形(以下、便宜上「可聴音の波形」という。)が焦点位置で集束するような位相差で放射することをいうものであり、予備的特徴的部分は、実質的に同内容を主張するものである。
 (中略)
 以上を総合すると、超音波(搬送波)の周期の位相制御のみを行い、可聴音の波形が焦点位置で集束するような位相制御を行わないことによる影響の程度は、焦点との距離、超音波スピーカの大きさ、超音波トランスデューサの個数及び変調される可聴音の周波数によって異なるものであるが、可聴音の波形のずれは、被告が挙げた例において、焦点距離200㎜の場合に最大でも1万分の1秒(超音波の波長の4周期分)というわずかなものにすぎない上、多数の超音波トランスデューサから放射されて自己復調される可聴音の波形は、多くが揃ったものとなるか、ごくわずかなずれにとどまる場合が多いと考えられるから、一部の周波数成分が打ち消しあったり、可聴音の波形の位相制御を行った場合より音量が小さくなることはあっても、完全に打ち消しあうことはなく、可聴音を発生させること自体は可能であると認められる。

(2) 本件発明の発明者について
 本件発明の特徴的部分は、「オーディオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える」構成である。
 そして、A及びBが開発した本件実験機は、少なくとも「オーディオ信号に基づいて、」とある部分以外の本件発明の特徴的部分を備えるものであり、さらに、1023Hz以下の範囲(1Hz刻み)で変調された矩形波の可聴音(初期のテレビゲームの電子音のような音)という制約はあるものの、任意の焦点位置において可聴音を発生させることができるものであったと認められる。
 これに対し、原告は、1023Hz以下の範囲(1Hz刻み)で変調された矩形波の可聴音を発生させるだけでは、一般的なオーディオ音源の周波数帯の可聴音を発生させるものとはいえず、オーディオ環境の制約を取り除くという本件発明の課題を解決できない旨主張する。
 しかし、本件発明は、特許請求の範囲の記載や本件明細書の記載をみても、発生させる可聴音の音域や音質を特定するものではない。「オーディオ信号に基づいて、」との部分から、一般的なオーディオ音源の周波数帯に対応することができることを要すると解するとしても、可聴音の音波形に変調させた超音波の自己復調現象を利用したパラメトリックスピーカーは周知の技術であり、製品としても実用化されていたと認められるから、超音波を一般的なオーディオ音源の可聴音の音波形に変調すること自体は、当業者であれば実施することができるものであったと認められる(なお、AやBは、研究者としての知識は有していたが、実際の製品を開発・製造する当業者ではなく、だからこそ原告に本件試作機開発を依頼している(甲129、乙26、証人B))。
 さらに、一般的なパラメトリックスピーカーと異なり、焦点位置で集束する超音波から可聴音を発生させるという点を考慮するとしても、そのために必要な技術事項として原告が主張するのは、可聴音の波形が焦点位置で集束するような位相差で放射し、焦点位置で可聴音の波形を揃えること(原告特徴的部分②、予備的特徴的部分)である。そして、この構成がなくとも可聴音を発生させることは可能であり、当該構成自体は本件発明の特徴的部分に当たらないことは、既に述べたとおりである。
 したがって、本件実験機で発生することができる可聴音が1023Hz以下の範囲(1Hz刻み)で変調された矩形波の可聴音であったという点を考慮しても、本件発明の特徴的部分は当業者が実施することができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されており、本件発明は完成していたと認められる。
(中略)
 確かに、関係証拠及び弁論の全趣旨によれば、Cら原告関係者が、変調方式をAM変調とするかPWM変調とするかについての試験と検討、マイコンボードやFPGA基盤の評価と選定、発熱・共鳴音対策、基盤・回路の設計、必要なソフトウェアの作成(位相制御のプログラムを除く。)等を、独自に行ったことは認められ(甲21~39、原告代表者C本人)、本件試作機の音質や音域は、本件実験機よりも改良されていることが認められる(Bも、陳述書において、本件実験機は音質が高いとはいえないという課題を有していることを認め(乙26・8頁)、「本件実験機は、あくまでも本件位相制御技術を「音」の分野に適用した結果を実験的に確認することを目的とするものであることから、市販の機材・部品・回路を組み合わせ、また、実験に必要最小限のプログラムをA氏及び私が書き上げて、製作しました。大学に所属する若手研究者が低予算で実験機を製作するというのは、そういうものです。本件実験機は、それにより音楽を楽しんだりするものではありません。」(甲129・11頁)と述べている。)。
 しかし、本件試作機が備える各機能のうち、可聴音の波形が焦点位置で集束するような位相差で放射し、焦点位置で可聴音の波形を揃える機能は、可聴音の音質を向上させるものではあっても、本件発明の技術的課題は、使用環境の制約の除去であって、可聴音の音質の向上ではないから、本件試作機の当該機能は本件発明の特徴的部分に当たるものではないその余の点も、本件発明の特徴的部分を実施する場合における具体的・客観的な態様の一つにすぎず、その内容に応じ、本件発明とは別の課題を解決したものということができることがあるとしても、本件発明の課題を解決したということはできない。すなわち、本件試作機の各機能は、本件実験機の開発によって、本件発明の特徴的部分は当業者が実施することができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成され、本件発明が完成していたとの前記認定を左右するものではない。
 以上によれば、Cらは、本件発明の特徴的部分を当業者が実施することができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成した者ということはできず、本件発明の発明者(共同発明者)ではないと認められる。
 他方、本件発明に係る特許公報(甲1)には、Aらが発明者として記載されているところ、前記認定及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の発明者はAらであると認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

解説/検討

・本事件では、本件発明(本件発明1~17)の発明者はAらである、と認めれた。
 ところで、本件特許には、以下のような請求項5(本件特許5)が含まれている。
[請求項4]
 前記制御手段は、
 各超音波トランスデューサが放射する超音波が前記位相差を有するように、各超音波トランスデューサの駆動タイミングを決定し、
 前記駆動タイミングに応じて、前記制御信号を各超音波トランスデューサに出力する、請求項1~3の何れかに記載のオーディオコントローラ。

 [請求項5]
 前記制御手段は、前記焦点位置の焦点座標と、各超音波トランスデューサの位置を示す座標と、に基づいて、各超音波トランスデューサの駆動時間差を決定する、請求項4に記載のオーディオコントローラ。


 この本件発明5は、段落0035~0040の記載に対応していると考えられる。

[0035]
 本実施形態の超音波スピーカの位相差の形成方法について説明する。図5は、図1の超音波スピーカの駆動タイミングの決定方法の説明図である。
[0036]
 記憶装置11には、フェーズドアレイFAの基準点(例えば、中心)に対する超音波トランスデューサ21c(n)のフェーズドアレイFA上の相対位置を示す超音波トランスデューサ21c(n)の座標(x(n),y(n),z(n))が記憶されている。nは、超音波トランスデューサ21cの識別子(正の整数)である。
[0037]
 例えば、リスナ位置検出部25がリスナLの位置を検出すると、プロセッサ12は、図5に示すように、基準点に対する焦点FPの相対位置を示す焦点座標(xfp,yfp,zfp)を決定する。
 プロセッサ12は、記憶装置11に記憶された超音波トランスデューサ21c(n)の座標(x(n),y(n),z(n))と、焦点座標(xfp,yfp,zfp)と、に基づいて、超音波トランスデューサ21c(n)と焦点FPとの距離r(n)を計算する。
[0038]
 プロセッサ12は、n+1番目に駆動する超音波トランスデューサ21c(n+1)の駆動タイミングと、n番目に駆動する超音波トランスデューサ21c(n)との駆動タイミングとの時間差(以下「駆動時間差」という)ΔT(n+1)を、式1を用いて、計算する。
 ΔT(n+1)=-r(n+1)/c…(式1)
 c:音速
[0039]
 上記のとおり、プロセッサ12は、焦点座標(xfp,yfp,zfp)と、記憶装置11に記憶された座標(x(n+1),y(n+1),z(n+1))と、を用いて、各超音波トランスデューサ21c(n+1)の駆動時間差ΔT(n+1)を計算する。プロセッサ12は、この駆動時間差ΔT(n+1)に従い、各超音波トランスデューサ21c(n+1)に駆動信号を供給する。
 各超音波トランスデューサ21cは、この駆動信号に応じて駆動する。各超音波トランスデューサ21cから放射された超音波は、駆動時間差ΔT(n+1)に応じた位相差を有するので、焦点FPで集束する。
[0040]
 焦点FPで集束した超音波は、音源を形成する。この音源から、可聴音が発生する。つまり、超音波スピーカ21は、任意の位置に可聴音を発生させることができる。

・原告は、原告特徴的部分①との関係で、本件明細書の記載(段落0035~0040)に、位相差の形成方法において超音波トランスデューサ21c(n)と焦点FPとの距離r(n)を計算することが記載されている旨を主張しているが、請求項との関係では、何も主張をしていない。
 むしろ、原告は、「本件発明2~17は、本件発明1の課題解決手段を実施するための具体的な事項を特定したものにすぎず、本件発明1を離れた独自の技術的意義を有しない。」などと主張している。
 仮に、原告が、「本件発明5は、本件発明1の特徴的部分(課題と解決手段)に加えて、さらに別の特徴部分(課題と解決手段)を備えており、Cらは、本件発明5の特徴部分を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成した者であるから、本件発明5の発明者である」という主張をしたら、結果が異なっていた可能性もあるように思われる。


 なお、本判決でも、「本件試作機が備える各機能のうち、可聴音の波形が焦点位置で集束するような位相差で放射し、焦点位置で可聴音の波形を揃える機能は、可聴音の音質を向上させる」ことが認められており、「その余の点についても、その内容に応じ、本件発明とは別の課題を解決したものということができることがある」とされている。
 

 

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