【用途発明における引用発明との一致点及び相違点の認定に当たり、引用発明を厳しく吟味し、用途発明としての一致点を抽出できないときは、これを相違点として明らかにすべきとした案件】
投稿日:2026年6月15日 |
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著者:弁理士 佐藤 眞紀
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参照条文/キーワード/論点 |
特許法29条2項/医薬用途発明/引用発明の認定方法/一致点及び相違点の認定/データの裏付け |
ポイント
本件は、協和キリンの製品「ノウリアスト(一般名:イストラデフィリン)」の用途特許に関する審決取消訴訟である。IPHCは、結果的には審決と同様に甲3から本件特許発明に容易想到できないとして特許権の進歩性を認めた。しかし、用途発明における引用発明の認定方法について、引用発明が用途発明と認められるためには、単に、引用発明に係る物質(薬剤)が、対象とする用途に使用できる可能性があるとか、有効性を期待できるとか、予備的な試験で参考程度のデータながら有望な結果が得られているといったレベルでは足りず、当該物質(薬剤)が対象用途に有用なものであることを信頼するに足るデータによる裏付けをもって開示されているなど、当業者において、対象用途における実施可能性を理解、認識できるものでなければならないと判示し、引用発明の内容を厳しく吟味すべきと指摘した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第4部 |
| 判決言渡日 | 令和7年2月13日 |
| 事件番号 | 令和5年(行ケ)第10093号(第1事件)、第10094号(第2事件) |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
宮坂昌利
本吉 弘行 岩井 直幸 |
事案の概要
1. 事件の概要
本件は、協和キリンの製品「ノウリアスト(一般名:イストラデフィリン)」の用途特許に関する審決取消訴訟である。IPHCは、JPOの審決と同様に甲3からは特許発明に容易想到できないとして特許権の進歩性を認め、原告の請求を棄却した。審決を肯定したものの、判決では、甲3に記載の用途発明の認定方法について、もっと厳しく判断すべきであるとの見解を示した。
2. 事件の背景
I. 本件特許
・特許番号:特許第4376630号
・特許権者:協和キリン株式会社
・請求項の記載(全1請求項):パーキンソン病治療剤の副作用を軽減するための医薬品。
訂正前【請求項1】
(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3–ジエチル-7-メチルキサンチンを含有するL-ドーパおよび/またはドーパミンアゴニスト療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させる薬剤。
訂正後【請求項1】
(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3–ジエチル-7-メチルキサンチンを含有する薬剤であって、
前記薬剤は、パーキンソン病のヒト患者であって、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者を対象とし、
前記薬剤は、前記L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために前記患者に投与され、
前記薬剤は、前記L-ドーパ療法においてL-ドーパと併用して前記対象に投与される、
ことを特徴とする薬剤。
II. 製品「ノウリアスト」について
・アデノシンA2A受容体拮抗薬(開発番号が「KW-6002」)

(添付文書より)
・ 効能又は効果:レボドパ1含有製剤で治療中のパーキンソン病におけるウェアリングオフ現象の改善
・ 2013年3月25日承認→2021年3月24日 再審査期間満了
本件用途特許 2026年8月3日満了(PTE 3Y6M6D 込み)
関連物質特許 2018年9月22日満了(PTE 5Y込み)
III. 無効審判について
・ 第1事件:請求人 東和薬品株式会社(第1事件原告)
2020/3/31 無効審判請求(無効2020-800034)
2020/8/31 参加申立(共和薬品、日医工)
2021/10/27 訂正容認、特許維持審決
2021/12/08 IPHC出訴
2023/1/12 判決(原告請求棄却=特許維持)
2023/1/26 最高裁に上告
2023/9/22 上告棄却、特許維持審決確定
・ 第2事件:請求人 共和薬品&日医工(第2事件原告)
2020/8/31 無効審判請求(無効2020-800076)
2022/1/13 参加申立(東和薬品)
2023/7/12 訂正容認、特許維持審決
2023/8/18 IPHC出訴
2025/2/13 判決(原告請求棄却=特許維持)
甲1に基づく新規性・進歩性欠如(KW6002を用いたラット実験)
甲2に基づく新規性・進歩性欠如(KW6002を用いたサル実験)
甲3に基づく進歩性欠如(テオフィリンを用いたパーキンソン病患者試験)
甲4に基づく進歩性欠如(KW6002を用いたラット実験)
IV. 無効2020-800076の審決理由の要旨(以下、判決文より抜粋)
・ 訂正を認める
・ 甲3発明について
「3 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由の要旨は以下のとおりである。・・・・
(2)甲3には、以下の甲3発明が記載されていると認める。
【甲3発明】
アデノシン受容体アンタゴニストであるテオフィリン(1週間の負荷相では、毎日増量、100mg 1日2回、6週間の一定状態相では、600mg/日、1週間のウォッシュアウト相では、毎日減量、100mg 1日2回)を含有する薬剤であって、
L-ドーパで治療され(764±170mg/日)、L-ドーパ誘導性運動副作用であるウェアリング-オフを有する進行期パーキンソン病(APD)の患者に投与され、
オン時間の持続を~30%増加させ、その結果、オフ時間の持続を減少させる作用を有する、薬剤。」

(ユニフィルLA錠 添付文書より)
・ 本件発明と甲3発明の比較
「(3)本件発明と甲3発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
【一致点】
アデノシンA2A受容体アンタゴニストを含有する薬剤であって、
前記薬剤は、パーキンソン病のヒト患者であって、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者を対象とし、
前記薬剤は、前記L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために前記患者に投与され、
前記薬剤は、前記L-ドーパ療法においてL-ドーパと併用して前記対象に投与される、薬剤。
【相違点】
本件訂正発明では、アデノシンA2A受容体アンタゴニストが、「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3–ジエチル-7-メチルキサンチン」であるのに対し、甲3発明では、「テオフィリン」である点。」
・ 結論:甲3から本件発明は容易に想到できない
「(4)相違点についての判断
ア ・・・・、当業者は、甲3発明のテオフィリンに代えて、より強力でより選択的なアデノシン受容体遮断作用を有する選択的アデノシA2Aアンタゴニストであって、テオフィリンより強力な抗パーキンソン病活性が臨床レベルで期待されているKW-6002を採用することは認識し得るといえる。
しかし、パーキンソン病においては、プラセボ効果の影響が大きく、甲3の臨床試験結果を受けて行われた二重盲検、クロスオーバー、プラセボ対照試験において、テオフィリンがレボドパの抗PD作用を一貫して増大させなかったことが乙17(本件訴訟における甲イ80)に示されている。甲3の試験自体、その詳細が不明であり、また、テオフィリンを使用した非盲検試験において一貫しない結果となっている。テオフィリンは非選択的アデノシン受容体アンタゴニストであってアデノシンA2A受容体以外のアデノシン受容体作用もあるし、アデノシン受容体以外の他の受容体にも親和性を持つことも知られていた。
さらに、甲3では、テオフィリンによるオフ時間の減少効果がアデノシンA2A受容体アンタゴニスト作用に基づく点の確認はされていないし、L-ドーパ療法を長期に行うことにより生じるウェアリング・オフ現象等の重要な発生原因は十分には解明されていないことが、本件特許の優先日当時の技術常識であり、本件特許の優先日当時、アデノシンA2A受容体アンタゴニストによってアデノシンA2A受容体を遮断することにより、ウェアリング・オフ現象等が改善できることが実証されていたとはいえない。
これらを踏まえれば、・・・、KW-6002が、本件訂正発明の「L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させる」ために使用できることを合理的に推認できたとはいえない。」
1脳内へ移行しドーパミンへ変化して脳内のドーパミン量を増やすことでパーキンソン病の症状を改善する、ドーパミンの前駆物質。L-3, 4-ジヒドロキシフェニルアラニン。
判旨
I.本件優先日当時の技術常識について
(1)パーキンソン病:ドーパミン作動性ニューロン細胞死に起因し、線条体でのドーパミン含量不足により症状を呈する。治療は、不足したドーパミンを補充するL-ドーパ療法。
(2)L-ドーパ療法の副作用:長期服用により薬効時間が短くなり(ウェアリング・オフ現象)、スイッチを切ったように突然効果が切れる(オン・オフ変動)。
(3)ウェアリング・オフ現象/オン・オフ変動の原因は十分に解明されていない。
(4)問題点:一定程度のプラセボ効果が確認されている。
(5)テオフィリンの特性:非選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニスト。
(6)KW-6002について:選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストである。動物実験で、進行期パーキンソン病患者のオフ時間短縮の可能性等があることは当業者により認識されていた。しかし、PII試験は進行中だったものの、オフ時間が減少することの確認など信頼できる臨床試験の裏付けはなく、効果・作用機序は十分に解明されていなかった。
II.取消自由(甲3を主因用例とする本件発明の進歩性の判断の誤り)について
(1)(甲3の記載を再度まとめ)
(2)甲3発明の認定
「・・・そうすると、甲イ3には、本件審決が認定する通りの甲3発明が記載されているものと認められる。」
(3)本件発明と甲3発明の一致点及び相違点
「ア 甲3発明の「テオフィリン」と本件発明の「KW-6002」とは、「アデノシンA2A受容体アンタゴニスト」である限りにおいて一致する。
また、甲3発明の「L-ドーパで治療され(764±170mg/日)、L-ドーパ誘導性運動副作用であるウェアリング-オフを有する進行期パーキンソン病(APD)患者」は、本件発明の「パーキンソン病のヒト患者であって、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者」に相当する。
以上の点については本件審決が認定するとおりであり、当事者間にも争いはない。
イ 他方、本件発明は、KW-6002を含有する薬剤という、「物」の発明ではあるものの、特定の患者に投与され、当該患者における特定の症状(疾病)に適用される、医薬についての発明(医薬発明)であって、化合物などの化学物質自体の発明や、使用目的(用法)についての特定がない組成物の発明とは異なる。
このような用途発明としての本件発明と引用発明との一致点及び相違点の認定に当たっては、引用発明が用途発明として認められるか否かを吟味し、用途発明としての一致点を抽出できないときは、これを相違点として明らかにすべきである。
そして、特に医薬の分野においては、機械等の技術分野と異なり、構成(化学式等をもって特定された化学物質)から作用・効果を予測することは困難なことが多く、対象疾患に対する有効性を明らかにするための動物実験や臨床試験を行ったり、あるいは、化学物質が有している特定の作用機序が対象疾患に対する有効性と密接に関連することを理解できる実験を行うなど、時間も費用も掛かるプロセスを経て、実施可能性を検証して、初めて用途発明として完成するのが通常である。このこととの平仄から考えても、引用発明が用途発明と認められるためには、単に、引用発明に係る物質(薬剤)が、対象とする用途に使用できる可能性があるとか、有効性を期待できるとか、予備的な試験で参考程度のデータながら有望な結果が得られているといったレベルでは足りず、 当該物質(薬剤)が対象用途に有用なものであることを信頼するに足るデータによる裏付けをもって開示されているなど、当業者において、対象用途における実施可能性を理解、認識できるものでなければならないというべきである。このように解さないと、上記のようなプロセスを経て完成された実施可能性のある医薬用途発明が、実施可能性を認め難い引用発明によって、簡単に新規性、進歩性を否定されることになりかねず、その結果は不当と考えざるを得ない。刊行物に医薬用途発明が記載されているというためには、当該医薬用途に用いることが実施可能であると当業者が理解できるように記載されている必要がある旨をいう被告の主張は、以上の趣旨をいうものとして首肯できる。」
「ウ このような観点から、甲3発明の薬剤につき、「進行期パーキンソン病患者においてオフ時間の持続を減少させるため」という用途における実施可能性を当業者が理解、認識できるものとして甲イ3に記載されているかどうか、以下に検討する。」
・精度が低いオープン試験である
・n=9の患者のみ
・高々1ページのレポートで、バイアス排除もなさそう、基本的情報もなく、信用できる臨床試験結果ではない。フルペーパーにもなっていない。
→「甲イ3の試験結果は、上記医薬用途を示すものとしては、不十分と言わざるを得ない。」
・ウエアリング・オフ現象/オン・オフ変動についての作用機序の存在は、本件優先日当時には具体的に明らかになっていなかった。
→「(ウ)そうすると、甲3発明の薬剤が、『進行期パーキンソン病患者におけるオフ時間の持続を減少させるため』に使用できる(実施可能である)と当業者が理解、認識するものであるとは認められないというべきである。」
「エ 以上を前提にすると、・・・甲3発明の医薬用途を肯定し、これを本件発明との一致点とした本件審決の認定には誤りがあると言わざるを得ない。」
「オ そこで、改めて本件発明と甲3発明の一致点及び相違点を検討すると、正しくは以下のようなものとして認定すべきである。
アデノシンA2A受容体アンタゴニストを含有する薬剤であって、前記薬剤は、パーキンソン病のヒト患者であって、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者を対象とし、
前記薬剤は、前記L-ドーパ療法においてL-ドーパと併用して前記対象に投与される、薬剤。
【相違点1】
本件発明は、「L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために患者に投与され」る用途発明としての「薬剤」であるのに対し、甲3発明は、そのような用途発明とは認められない点。
【相違点2】
本件発明は、アデノシンA2A受容体アンタゴニストが「(E) - 8 - (3, 4 - ジメトキシスチリル) - 1, 3 – ジエチル- 7 -メチルキサンチン(KW-6002)」であるのに対し、甲3発明は、アデノシンA2A受容体アンタゴニストが「テオフィリン」である点。」
「(4) 相違点の容易想到性について
ア 相違点1について
甲イ3における・・・記載から、テオフィリンが、「L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるため」の薬剤として使用できるか否か、すなわち治療上有効な化合物であるか否かを明らかにするために、「ランダム化・プラセボ対照・ダブルブラインド試験」のような、より厳密な試験を採用し、テオフィリンの効果の有無についてさらなる試験研究を行うことまでは、当業者に動機付けられるといえる。
しかしながら、甲イ3に示される試験結果は、テオフィリンについての、進行期パーキンソン病患者におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動に対する有効性の判断をするに足りるものではない。
また、テオフィリンはアデノシンA2A受容体アンタゴニストの一つであるが、非選択的なものであり、本件優先日当時、テオフィリンなどのアデノシンA2A受容体アンタゴニストが有しているアデノシンA2A受容体の阻害作用が、L-ドーパ療法を受ける進行期パーキンソン病患者においてオフ時間を減少させる効果をもたらすという作用機序が存在することについて具体的に明らかになっておらず、また、進行期パーキンソン病患者におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動に対して治療上有効なアデノシンA2A受容体アンタゴニストは知られていなかった。
そうすると、テオフィリンやアデノシンA2A受容体アンタゴニストについてのさらなる試験研究の結果を見るまでもなく当然に、甲イ3からは、甲3発明の薬剤の用途を、本件発明の薬剤の用途とすることについてまで、当業者に動機付けられるとはいえない。
イ 相違点2について
テオフィリンが、非選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであり、KW-6002が、テオフィリンよりも強力な選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであることは、本件優先日当時の技術常識である。
そして、・・・、甲イ3の試験やさらなる試験研究において使用するとの限度においては、甲3発明の薬剤において、非選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるテオフィリンに代えて、選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002を採用すること(KW-6002について優先的に確認すること)までは、当業者に動機付けられるといえる。他方、試験研究を超えて、本件発明の薬剤の用途とする上で、テオフィリンに代えてKW-6002を採用することまでは、技術常識を踏まえても、甲イ3の記載からは、当業者に動機付けられるとはいえない。」
「(5) 顕著な作用効果について
ア 本件明細書には、実施例1として、・・・KW-6002を含有する薬剤は、「L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるため」に使用できることを、把握することができる。
イ 他方、前記(3)ウのとおり、甲イ3の試験結果からは、非選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるテオフィリンが、L-ドーパ療法を受ける進行期パーキンソン病患者においてオフ時間の持続を減少させる作用を示したことは理解できるものの、テオフィリンを当該患者におけるオフ時間を減少させるために使用できることまでは理解し得ない。
また、前記1(5)のとおり、甲イ3の試験で用いる非選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるテオフィリンは、・・・甲イ3からはどの作用点が効果を奏したのかを特定することができない。
さらに、前記(3)のとおり、「ウェアリング・オフ現象」や「オン・オフ変動」について、・・・十分に解明されていたとはいえず、・・・当業者の理解は、アデノシンA2A受容体アンタゴニストを用いた「治療薬剤の開発の機会」を生み出すにとどまり、アデノシンA2A受容体を阻害することで、L-ドーパ療法を受ける進行期パーキンソン病患者においてオフ時間を減少させるために治療上有効な、すなわちオフ時間を減少させるための薬剤としての使用が可能になるような、化合物の存在を解明するには至っていなかった。
以上のとおり、甲イ3には、当業者においてテオフィリンを進行期パーキンソン病患者におけるオフ時間を減少させるために使用できると認識できるだけの十分な記載はなく、テオフィリンが効果を奏したとしても、アデノシンA2A受容体阻害作用によるものかも明らかでないのであって・・・、選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002が、進行期パーキンソン病患者において、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるという、本件明細書に示される効果は、甲イ3の記載及び本件優先日当時の技術常識から当業者が予測し得ない顕著な効果というべきである。」
解説/検討
・ 本件は、引例に記載される医薬用途のレベルを厳しく判断すべきであること、その基準を説示している。一般に臨床試験については、「その用途に効果がある=使用できることが確認できるはず」という期待を込めて、かつ相応の基礎データが存在する上で実施されるが、単なる「可能性」や「期待」のみで引例中の用途発明を認定できないことが示された。
・ 本件の病態(ウェアリング・オフ現象)は、モデル動物での再現が難しくメカニズムも不明であり、ヒトにおいても長期の試験を要する。そのような複雑な系では特に、引用文献において「その用途に使用できる」ことを示すことは困難であろう。
・ 甲1、2、4はKW-6002の非臨床データ(動物実験)であり、「臨床で効果がある」と主張できないと判断し、原告らはIPHCでは議論しなかったのではないか。一方甲3の患者でのデータも不十分で、「本当に臨床で効果がある」ことまでは示唆できなかった。
・ テオフィリンとKW-6002との特性の違い(非特異性vs.特異性アデノシンA2ARアンタゴニスト)も要因としては大きかったと思われる。
・ 「回路用接続部材事件」(平20(行ケ)10096号審決取消請求事件)の説示「先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要である」に共通するかもしれない(これは用途特許の件ではないが)。
・ (FYI)再審査期間、物質特許が満了しても、用途特許が存在すると、厚労省はPatent LinkageによりそのIndicationに対する後発品(Gx)を承認しない。東和、共和、日医工は、2022年8月にGx承認を受けることを目指して、2020年前半に無効審判請求し、2年半もあれば無効審決→IPHCでのAffirmが得られると思ったのではなかろうか。
