【「レーザ加工装置」事件】

 

投稿日:2026年6月15日

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著者:弁理士 榊間 城作
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

特許法29条2項/進歩性/動機付け

 

ポイント

 レーザ加工装置に係る特許(特許4509578号)の無効審判における請求不成立審決の取消訴訟において、知財高裁は、甲1発明(内部改質領域を形成するステルスダイシング技術)に表面加工に関する焦点調整技術を適用する動機付けを否定し、同審決を維持した。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和5年7月6日
事件番号 令和4年(行ケ)第10099号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
本多 知成
浅井 憲
勝又 来未子
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 本件は、特許無効審判の請求不成立審決に対する審決取消請求事件である。原告である株式会社東京精密は、レーザ光によりシリコンウェハを切断する技術の一種である「ステルスダイシング」に関する被告浜松ホトニクス株式会社の特許第4509578号のうち、レーザ加工装置に係る請求項8及び11について、進歩性欠如を理由に無効審判を請求した。これに対し、特許庁が「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をしたため、原告は、同審決における進歩性判断には誤りがあるとして、その取消しを求めて本件訴訟を提起した。知財高裁は、原告の主張を採用せず、請求を棄却した。

判旨

 裁判所は、甲1には「加工対象物の反りや、X、Y軸ステージの振動等により、レーザ光の焦点ずれが生じ得ることについての記載はなく」、また、改質領域の位置は「ある程度の幅をもった範囲に設定され得る」ことから、甲1発明において「AF制御をする動機付けがあると認めることはできない」と判断した。さらに、周知の技術的事項1は「半導体ウエハの表面の加工についてのAF制御」であり、「動機付けがないにもかかわらず、甲1発明のようなステルスダイシングに適用できるとはいえない」とした。
 また、裁判所は、当業者が甲1発明において加工中の集光点AF制御が当然に採用されると理解するためには、反りや振動による集光点のZ軸方向のずれにより割断精度が低下する等の問題が生じ、そのためにAF制御が必要であることまで認識する必要があるとした。しかし、そのような問題が生じることを認識できたと認めるに足りる証拠はなく、「そのような技術常識は認められない」とした。
 以上により、裁判所は、甲1発明において相違点に係る構成を採用することについて、「当業者が容易に想到できたと認めることはできない」とし、本件発明1は「甲1発明に周知の技術的事項を適用して当業者が容易に想到できたものとは認められない」として、取消事由1には理由がないと判断した。

解説/検討

 本件判決は、周知技術が存在するだけでは進歩性を否定できず、その周知技術を主引用発明に適用する具体的な動機付けが必要であることを示す事例である。
 特に本件では、甲1発明が「内部加工」を目的とするステルスダイシング技術であるのに対し、周知技術1が「表面加工」における焦点調整技術であった点が重視された。
 実務上は、主引用発明と周知技術の技術分野が一見近くても、動機付けがあるというためには、「技術分野の関連性」のみでは足りず他の動機付けとなり得る観点(課題、作用・機能、引用発明における示唆)も併せて考慮する必要がある(特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節3.1.1)。
 本件では、端部では初期位置に固定し、その後に保持を解除してAF追従制御に移行するという制御が、本件発明の進歩性を支える要素になっている。
 もっとも、レーザ加工において焦点位置を調整すること自体は一般的な技術であり、内部加工であっても主面を基準に集光点の深さを維持する必要があると考えれば、原告の主張にも一定の合理性はある。その意味では、本件判決は、周知技術の適用を比較的慎重に判断した事例といえる。  

 

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