【明細書中に記載された発明の効果等に基づいて発明の課題を認定し、サポート要件違反が判断された事例】
投稿日:2026年6月22日 |
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著者:弁理士 大木 信人
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参照条文/キーワード/論点 |
特許法第104条の3/特許法第36条6項1号/サポート要件/発明の課題の認定 |
ポイント
※本件は、発明の名称を「角栓除去用液状クレンジング剤」とする特許第6271790号の特許権者である控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人の製品(以下「被告製品」という。)が本件特許の請求項1に係る発明の技術的範囲に属し、被控訴人による被告製品の製造・販売が本件特許権の侵害に該当すると主張して、本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償等の支払を求めた事案である。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第1部 |
| 判決言渡日 | 令和4年9月29日 |
| 事件番号 | 令和4年(ネ)第10029号 |
| 事件名 | 特許権に基づく損害賠償請求控訴事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
大鷹 一郎
小川 卓逸 遠山 敦士 |
事案の概要
(1)本件特許
本件は、特許出願(出願2014-237308号;登録5791216)の第1~第3世代の分割出願のうちの第2世代の分割出願である(第1世代を除いて全て登録)。
(2)本件発明
本件請求項1の記載は以下のとおりである。
【請求項1】
オクチルドデカノールと、
リモネン、スクアレン、及びスクアランからなる群から選ばれる1種類以上の炭化水素と、
界面活性剤(但し、界面活性剤が全量に対して0~10体積%であるものを除く。)と、
を含む角栓除去用液状クレンジング剤。
争点
以下では、「無効の抗弁の成否(争点2)」の「サポート要件違反(争点2-3)」および「訂正の再抗弁の成否(争点2-4)」に関する点について記載する。
争点に関する当事者の主張
(4)争点2-4(訂正の再抗弁の成否)
(控訴人の主張)
ア 訂正の内容
(ア)控訴人は、令和4年6月16日の当審第1回口頭弁論期日において、同年2月22日付け控訴理由書に基づいて、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書を次のとおり訂正する旨の訂正(以下「本件訂正」という。)の主張をした。
(訂正事項1)
本件明細書の【0060】を削除する。
(訂正事項2)
【請求項1】に、以下のとおり下線部を追加する。
「水と、
オクチルドデカノールと、
水への溶解度より多い量のリモネン、スクアレン、及びスクアランからなる群から選ばれる1種類以上の炭化水素と、
界面活性剤(但し、界面活性剤が全量に対して0~10体積%であるものを除く。)と、
を含む角栓除去用液状クレンジング剤。」
(訂正事項3)
本件明細書の【0005】を削除する。
(イ)なお、控訴人は、被控訴人が請求した本件特許の特許無効審判(無効2020-800119号事件)において、令和3年12月27日付けの審決の予告(甲29)を受けたため、令和4年1月9日付け訂正請求書(甲30の1)及び同年2月21日付け手続補正書(訂正事項を追加するもの。甲30の3)をもって、本件訂正と同内容の訂正請求をした。
イ 本件訂正の適法性
本件訂正は、以下のとおり、訂正要件を満たすものである。
(ア)訂正事項1
訂正事項1は、「明瞭でない記載の釈明」(特許法134条の2第1項ただし書3号)を目的とするものである。
本件明細書の【0061】の「第2タンパク質抽出剤を液状化粧品に使用した場合の各成分の含量としては、液状化粧品の製品形態とした場合に好適な量を示すものであり、実際の使用態様において、これより薄い濃度にて使用することを許容するものである。・水を含有する態様水を含有する態様の第2のタンパク質抽出剤(液状化粧品)において、炭化水素の配合量は、水への溶解度以上の量である。…」の下線部の記載は、【0060】の「第2のタンパク質抽出剤を液状化粧品として使用する場合、…炭化水素の濃度が低い場合には、タンパク質抽出剤(液状化粧品)をより多く使用することにより、タンパク質の抽出は可能である。しかし、炭化水素の含有量が全量に対して3体積%を下回ると、化粧品として実用的な範囲を上回る量を使用しなければならなくなるため、好適ではない。」の下線部の記載と矛盾するため、本件発明において、炭化水素の量が不明確となっている。
そして、本件発明においては、本件明細書の【0059】、図1(A)ないし図14(C)に記載のとおり、炭化水素の油層にタンパク質を一度抽出し、これをオクチルドデカノールによって水層に再抽出する。これは、試験管レベルのみならず、分子レベルでも起こる。
したがって、【0060】の記載は正確ではなく、【0061】の記載との矛盾によって発明の内容が不明瞭となっているから、訂正事項1は、この矛盾を解消して、明瞭でない記載を釈明するものである。
次に、訂正事項1は、本件特許の原出願から踏襲されていた明細書の【0060】を削除するものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項、6項に適合する。
(イ)訂正事項2
訂正事項2は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものである。
次に、訂正事項2で、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に追加する記載は、本件明細書の【0061】の以下の記載に基づくものである。
「【0061】
第2のタンパク質抽出剤を液状化粧品として使用する場合、水を含有する態様及び水を含有しない態様という、2つの態様がある。
…
・水を含有する態様
水を含有する態様の第2のタンパク質抽出剤(液状化粧品)において、炭化水素の配合量は、水への溶解度以上の量である。…」
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項に適合する。
また、訂正事項2は、請求項1に係る発明を減縮するものであるため、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、同法134条の2第9項で準用する同法126条6項に適合する。
(ウ)訂正事項3
訂正事項3は、「明瞭でない記載の釈明」(特許法134条の2第1項ただし書3号)を目的とするものである。
本件発明の構成要件Cは、界面活性剤の量が全量に対して0~10体積%であるものを除く旨を規定しており、「界面活性剤を使用していないか、又は、界面活性剤の量がごく少量である」ものは除かれている。しかしながら、本件明細書の【0005】は、「界面活性剤を使用していないか、又は、界面活性剤の量がごく少量である」ものが求められていた旨が記載され、本件発明の内容と矛盾するものであり、特許請求の範囲及び明細書に記載された本件発明の内容を不明瞭なものにする記載である。
次に、訂正事項3は、本件特許の原出願から踏襲されていた明細書の段落【0005】を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項、6項に適合するものである。
ウ 本件訂正による無効理由の解消
(ア)サポート要件違反について
訂正事項3により、【0005】は削除され、本件発明が解決しようとする課題は「タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供すること」であること(【0006】)が明確になった。
また、訂正事項1により、【0060】は削除され、水を含有する第2のタンパク質抽出剤の液状化粧品は、炭化水素の配合量が水への溶解度以上、第2の高級アルコールの配合量が炭化水素の体積に対して1体積%以上から炭化水素の体積の2倍以下(200体積%以下)の範囲の量であることが明確となった。
そして、本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という場合がある。)は、本件明細書の【0061】に記載されている。
よって、本件訂正によって、サポート要件違反の無効理由は解消される。
原審(原々審)の判断
(2)本件発明の課題
ア 【0006】には,本件発明の目的が「タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供すること」と記載されているにとどまり,界面活性剤の含有の有無や含有量,界面活性剤がタンパク質の抽出に与える作用に関する記載はない。
しかし,本件明細書において,【0006】は,【0005】とともに「発明が解決しようとする課題」についての記載と位置付けられるところ,【0005】には,「界面活性剤は,皮膚に負担をかけ,荒れ等を生じさせ得るため,界面活性剤を使用していないか,又は,界面活性剤の使用量が極少量である方法が求められていた。」との記載が存在する。そうすると,【0006】に記載された本件発明の目的は,【0005】に記載された従来技術の課題の解決を踏まえたものと解釈するのが合理的である。
(中略)
以上によれば,本件発明の課題は,単にタンパク質を抽出できる液状化粧品を提供することと解することはできず,界面活性剤を使用していないか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出できる液状化粧品を提供することであると認めるのが相当である。
(中略)
(4)発明の詳細な説明の記載
(中略)
イ 【0060】には,前記(2)アのとおり,第2のタンパク質抽出剤を液状化粧品として使用する場合,炭化水素の含有量はタンパク質抽出剤の全量に対して3体積%以上含まれていることが好適であり,炭化水素の濃度が低い場合であってもタンパク質抽出剤をより多く使用することによりタンパク質の抽出は可能であるものの,炭化水素の含有量が全量に対して3体積%を下回ると,化粧品として実用的な範囲を上回る量を使用しなければならなくなるため,好適ではない旨,第2の高級アルコールの含有量は,炭化水素の体積に対して1体積%以上含まれていることが好適であり,第2の高級アルコールの濃度が低い場合であってもタンパク質抽出剤をより多く使用することによりタンパク質の抽出は可能であるものの,第2の高級アルコールの含有量が炭化水素に対して1体積%を下回ると,化粧品として実用的な範囲を上回る量を使用しなければならなくなるため,好適ではない旨が記載されている。
(中略)
エ 本件明細書には,炭化水素の含有量が全量に対して3体積%を下回る場合及び第2の高級アルコールの含有量が炭化水素に対して1体積%を下回る場合において,角栓除去の効果を奏することができるか否かに関する記載や示唆はない。
(中略)
以上によれば,本件発明の特許請求の範囲の記載は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載により,当業者が,本件発明に係る角栓除去用液状クレンジング剤のうち炭化水素の配合量が全量の3体積%未満又はオクチルドデカノールの配合量が炭化水素の1体積%未満の範囲であっても,角栓除去作用があり,前記(2)の課題を解決できることについて,認識することはできないというべきであり,本件全証拠によっても,本件明細書の発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし上記の本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めることはできない。
(中略)
ウ 原告は,【0061】には,水を含有する態様の第2のタンパク質抽出剤(液状化粧品)において,炭化水素の配合量は水への溶解度以上の量であり,第2の高級アルコールの配合量は,炭化水素の体積に比し,1体積%以上から200体積%以下の範囲内の量であると記載されているところ,炭化水素であるスクアランは水に溶けないから,スクアランがわずかでも含まれていればよいことが本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている旨を主張する。
しかし,【0061】の直前の段落である【0060】には,第2のタンパク質抽出剤を液状化粧品として使用する場合に,水を含有する態様と含有しない態様とを区別することなく,炭化水素の配合量を定めることが記載されている。そして,これに続く【0061】も,【0060】と同様,第2のタンパク質抽出剤を液状化粧品として使用する場合について説明したものであり,かつ,【0060】の記載内容を排斥する記載はない。そうすると,【0061】は,【0060】の記載のとおり,炭化水素が全量の3体積%以上含まれていることを前提とした記載と解釈するのが相当である。」
判旨
1 本件明細書の記載事項等
「『本発明』は、『界面活性剤を使用していないか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出できる液状化粧品を提供する』ことを課題とするものであり、『本発明者』は、所定の高級アルコールと、脂肪酸又は炭化水素とを少なくとも含むタンパク質抽出剤によれば上記課題を解決できることを見出し、『本発明』を完成するに至った(【0005】ないし【0007】、【0009】、【0065】)。」
2 争点2-3(サポート要件違反)について
「【0061】の記載によれば、タンパク質抽出剤(液状化粧品)の『水を含有する態様』においては、上記各有効成分の『好適な量』(配合量)が、炭化水素については、水への溶解度以上の量とされており、炭化水素が水に溶けないこと(例えば、『スクアラン』の『安全データシート』(甲21)には、『溶媒に対する溶解性:水;不溶』との記載がある。)に照らすと、実質的にその量について限定はなく、第2の高級アルコールの配合量は、炭化水素の体積に対し、1体積%以上200体積%以下とされている。このように、上記『水を含有する態様』においては炭化水素の配合量について限定がないものの、【0060】で好適とされている炭化水素の配合量の下限値である、タンパク質抽出剤全体の3体積%(これは、【0061】に記載された『水を含有しない態様』における好適な配合量の下限値でもある。)とすると、その場合の第2の高級アルコールの好適な配合量は、0.03体積%から6体積%となる。
ここで、本件発明は、『角栓除去用』液状クレンジング剤の発明であり、その用途が限定されているところ、本件明細書には、角栓のある皮膚を対象とした実施例は、実施例13の一例しかなく、同実施例においても、実際に毛穴に詰まった角栓を除去できたことを明示した記載はなく、角栓の除去の有無及びその程度は明らかではない。また、実施例13に用いられた、角栓除去用液状クレンジング剤に相当する『第2のタンパク質抽出剤A』(【0141】)は、水性溶媒であるリン酸バッファ(0.5ml)を含有し、水を含むものであるところ、これに含まれる炭化水素であるスクアラン(6ml)及び第2の高級アルコールであるオクチルドデカノール(3ml)の含有量は、それぞれ約63体積%及び約32体積%であって(計算式スクアラン:6/(0.5+6+3)=0.631、オクチルドデカノール:3/(0.5+6+3)=0.315)、上記『水を含む態様』の『好適な量』(配合量)に含まれる、炭化水素が3体積%、第2の高級アルコールが0.03体積%から6体積%となる配合量を、それぞれ大きく上回るものである。そうすると、実施例13の記載のみから、当業者が、角栓除去用液状クレンジング剤に含まれる炭化水素の配合量が3体積%、第2の高級アルコールの配合量が0.03体積%から6体積%の場合であっても、当該角栓除去用液状クレンジング剤によって角栓除去の効果が得られると認識することは困難であるというべきである。
したがって、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、本件発明の範囲に含まれる上記の好適な配合量の数値範囲全体にわたって、角栓除去作用(すなわち、タンパク質除去作用)があり、「界面活性剤を使用していないか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出できる液状化粧品を提供する」という本件発明の課題(前記イ)を解決できることを認識することができるものと認めることはできない。
以上によれば、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているものと認めることはできないから、本件発明の特許請求の範囲の記載(請求項1)は、サポート要件に適合するものと認められない。」
3 争点2-4(訂正の再抗弁の成否)について
「ア 本件訂正によるサポート要件違反の無効理由の解消について
控訴人は、①訂正事項3により、本件明細書の【0005】は削除され、本件発明が解決しようとする課題は『タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供すること』であること(【0006】)が明確になった、②訂正事項1により、本件明細書の【0060】は削除され、水を含有する第2のタンパク質抽出剤の液状化粧品は、炭化水素の配合量が水への溶解度以上、第2の高級アルコールの配合量が炭化水素の体積に対して1体積%以上から炭化水素の体積の2倍以下(200体積%以下)の範囲の量であることが明確となり、訂正事項2に係る本件訂正後の請求項1に係る発明(本件訂正発明)は、本件明細書の【0061】に記載されているとして、本件訂正により、本件特許のサポート要件違反の無効理由は解消される旨主張する。
しかしながら、控訴人の主張は、以下のとおり理由がない。
(ア)本件訂正後の請求項1の記載
訂正事項2に係る本件訂正後の請求項1の記載は、次のとおりである
(下線部は、本件訂正による訂正箇所である。)。
【請求項1】
水と、
オクチルドデカノールと、
水への溶解度より多い量のリモネン、スクアレン、及びスクアランからなる群から選ばれる1種類以上の炭化水素と、
界面活性剤(但し、界面活性剤が全量に対して0~10体積%であるものを除く。)と、
を含む角栓除去用液状クレンジング剤。
(イ)控訴人の主張①について
本件訂正により、本件明細書の【0005】が削除されたとしても、【0065】に、本件発明の効果に関し、『本発明のタンパク質抽出剤は、界面活性剤等を含まなくとも、優れたタンパク質抽出効果を奏する。したがって、本発明のタンパク質抽出剤によれば、皮膚への負担を低減しつつ、所望の洗浄効果が得られる。』との記載があることに照らすと、本件発明の課題は、単に『タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供すること』にあると解することはできず、前記⑴イのとおり、『界面活性剤を使用していないか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出できる液状化粧品を提供すること』にあると認めるのが相当である。
(ウ)控訴人の主張②について
訂正事項2に係る本件訂正によって、特許請求の範囲の請求項1に『水と、』、『水への溶解度より多い量のリモネン、スクアレン、及びスクアランからなる群から選ばれる1種類以上の炭化水素』といった下線部の記載が加えられたとしても、本件訂正後の請求項1には、オクチルドデカノールの含有量について規定した記載はなく、また、炭化水素の含有量について『水への溶解度より多い量の』との記載はあるが、炭化水素が水に溶けないこと(前記⑴オ)に照らすと、実質的に炭化水素の含有量について限定はないものと解される。
そうすると、本件発明の『界面活性剤を使用していないか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出できる液状化粧品を提供する』という課題を解決するために必要となるオクチルドデカノール及び炭化水素の含有量については、本件訂正後の請求項1においては、限定がないものと理解される。
そして、本件訂正によって本件明細書の【0060】が削除されたとしても、前記⑴オのとおり、【0061】にはタンパク質抽出剤(液状化粧品)の『水を含有する態様』における、炭化水素及び第2の高級アルコールの好適な配合量についての記載があり、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、水を含有する本件訂正発明の範囲に含まれる上記好適な配合量の数値範囲全体にわたって、角栓除去作用(すなわち、タンパク質除去作用)があり、『界面活性剤を使用していないか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出できる液状化粧品を提供する』という本件発明の課題(前記⑴イ)を解決できることを認識することができるものと認めることはできない。
したがって、本件訂正によって、本件特許のサポート要件違反の無効理由が解消するものと認めることはできない。」
解説/検討
本件は分割出願であり、有効成分として「界面活性剤」を加えるべく、発明の課題を「界面活性剤を使用していないか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出できる液状化粧品を提供する」ことより、単に「タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供すること」に上位概念化/抽象化することが試みられた。
控訴人は、明細書中の「発明が解決しようとする課題」の欄の記載を上記のとおり変更したが、明細書中には、本件発明の効果に関し、「本発明のタンパク質抽出剤は、界面活性剤等を含まなくとも、優れたタンパク質抽出効果を奏する。」旨の記載をはじめとして、界面活性剤が必須の有効成分として認識されるようには、そもそも記載されていなかった。このため、明細書中の記載から読み取れる効果に、整合するように発明の課題が、具体的に認定された。
本件にみられるように、一般的に、認定された発明の課題が具体的になるほど、請求項に記載された発明は課題を解決できない発明を含む可能性が高まり、サポート要件を満たすことはより困難となる。審査/裁判の過程でサポート要件が判断される際に、予期せず発明の課題が過度に具体的に認定されてしまうことがないよう、有効成分、用量、作用機序、効果等の記載と整合性のある課題を設定することの重要性が、改めて確認された。
