【「回転子積層鉄心」事件】

 

投稿日:2026年6月15日

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著者:弁理士 榊間 城作
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

特許法44条2項/特許法36条4項1号/特許法36条6項1号/分割要件/実施可能要件/サポート要件

ポイント

 裁判所は、出願時の技術常識として、回転子積層鉄心の固定方法は「かしめ」に限られず、溶接・接着も選択肢であったと認定した。その結果、本件発明は親出願等に記載された範囲を超えず、実施可能要件・サポート要件も満たすとして、原告の請求を棄却した。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和4年9月7日
事件番号 令和3年(行ケ)第10132号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
本多 知成
中島 朋宏
勝又 来未子
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 原告(トヨタ紡織)は、被告(三井ハイテック)が所有する特許(特許第5357217号。以下、「本件特許」という。)の「回転子積層鉄心の製造方法」に係る発明について特許無効審判を請求したが、特許庁は、分割要件、実施可能要件、サポート要件のいずれについても無効理由はないとして、請求不成立の審決をした。そこで原告が、同審決の取消しを求めて本訴を提起した。知財高裁は、審決の判断に誤りはないとして、原告の請求を棄却した。

争点

分割要件、実施可能要件及びサポート要件についての各判断の誤りの有無

判旨

 裁判所は、最初の親出願時において、回転子積層鉄心の積層板の固定手段は、かしめに限られず、溶接や接着も技術常識であったと認定した。
 その上で、最初の親出願及び原出願の明細書等には、上板部材及び下板部材により回転子積層鉄心を上下から押圧し、磁石挿入孔に樹脂を注入して永久磁石を樹脂封止する発明が記載されており、本件発明は、かしめ部や逃げ空間を備える構成に限定されるものではないと判断した。
 したがって、本件発明は分割要件を満たし、また、本件明細書の記載及び技術常識に照らせば、当業者は本件発明を実施でき、課題を解決できると認識できるから、実施可能要件及びサポート要件も満たすとして、原告の請求を棄却した。

解説/検討

 本判決の中心は、明細書中の「かしめ部」や「逃げ空間」に関する記載を、発明の必須構成として読むべきか、それとも実施形態・具体例として読むべきかという点にある。
 原告は、本件明細書の課題欄に「各鉄心片がかしめ部を介して積層されている回転子積層鉄心において」と記載されていることを重視し、本件発明の課題は、かしめ部の突出に起因する樹脂漏れや強度低下を防ぐ点にあると主張した。この読み方によれば、逃げ空間は課題解決に不可欠な構成となり、これを含まない本件発明は親出願等に記載された範囲を超えることになる。
 しかし裁判所は、明細書全体の記載と出願時の技術常識を踏まえ、発明をより広く捉えた。すなわち、回転子積層鉄心の固定方法は、かしめに限定されず、溶接や接着も技術常識上の選択肢であった以上、親出願等の記載は、かしめ部あり構成のみに限定されないとした。
 実務上重要なのは、課題欄に特定の実施態様を前提とするような記載があっても、それだけで直ちに請求項の発明が当該実施態様に限定されるわけではないという点である。裁判所は、請求項の記載、明細書全体の開示、実施形態の位置付け、出願時の技術常識を総合して、分割要件及びサポート要件を判断している。
 もっとも、本件は、明細書中に「上板部材及び下板部材で押圧して磁石挿入孔を閉塞し、樹脂漏れを防止する」という一般化可能な構成が記載されていたこと、さらに、かしめ以外の固定方法が技術常識として認定されたことが結論を左右している。したがって、常に課題欄の限定的記載を広く読み替えられるわけではなく、一般化を支える明細書の記載と技術常識の存在が重要である。
 分割出願・補正実務の観点からは、実施例に特有の構成、例えば本件の「逃げ空間」を削除又は上位概念化する場合には、明細書中に、より広い課題解決原理が読み取れる記載があるかが重要となる。本件は、実施例限定的な記載があっても、明細書全体から上位概念化を許容した事例として参考になる。  

 

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